lyrical schoolがリキッドワンマンで
見せた努力の累積 アイドルラップの
開拓者は次のステージへ

(参考:lyrical schoolが新作で示した「アイドルラップ」の可能性 再録曲に表れたグループの成長を読む)

 lyrical schoolは6人組の「アイドルラップ」グループ。結成当初は「tengal6」を名乗り、2012年8月1日にタワーレコード傘下のT-Palette Recordsに所属してからは「lyrical school」と改名したグループだ。そして結成以来最大キャパシティのワンマンライヴが今夜のLIQUIDROOMだった。

 会場にはヘッズ(lyrical schoolのファンの総称)や関係者から贈られた花がズラリと並び、その中にはKEMURIやTHE REDEMPTIONで活動する津田紀昭からの花も。会場に入ると、LinQの深瀬智聖がときおり九州訛りで話しながら、オープニングDJとして日本語ラップを流していた。会場内は、後ろまで人が詰まった満員状態。深瀬智聖のDJが終わると、ステージ上の準備が完了するまで、lyrical schoolに楽曲を提供してきたtofubeatsの「20140803」と「BIG SHOUT IT OUT」が流されていた。彼への感謝のように。

 そして、ステージのスクリーンにlyrical schoolの映像が映し出される。オープニングムービーかと思いきや、バックステージで円陣を組む姿は生中継だったのかもしれない。マネージャーにしてステージではDJも務める岩渕竜也がDJブースに入り、アカペラで始まった「brand new day」とともにlyrical schoolが登場してライヴはスタートした。この時点で、ファンの大合唱がLIQUIDROOMに響く状態だ。

 2曲目は「tengal6」。lyrical schoolは過去2度のメンバーチェンジを経験している。それゆえにメンバーの自己紹介を織り込んで初期から歌われてきた「tengal6」は、歌詞を変更して2度レコーディングし直され、すでに「take3」だ。そして、lyrical schoolの「プチャヘンザ!」という声に呼応して約1000本もの手が上がる光景は、2011年5月21日から彼女たちを見てきた私も目にしたことがないものだった。

 7曲目の「ルービックキューブ~fragmentremix~」では、当初どういうグループなのか今ひとつつかめなかったtengal6が、2011年2月に公開された「ルービックキューブ」のヴィデオ・クリップによって初めて具体的にスタイルを示したことも思い出した。プロデューサーであるキムヤスヒロによって監督された「ルービックキューブ」は、武蔵野美術大学(キムヤスヒロもメンバーのyumiも結成当時在学していた)を拠点としたチームが、圧倒的にソリッドなセンスを映像で見せつけたものだった。

 そして「ルービックキューブ」をはじめ、ファースト・アルバム『まちがう』の全曲(「ルービックキューブ」はリミックス版のみ)が今夜披露されたことも、VJを担当したホンマカズキと終演後に話しているときに気づいた。秀逸にして愛のこもった映像を流し続けたホンマカズキとは、2011年8月27日に自由ヶ丘ACID PANDA CAFE(現在は渋谷に移転)で開催された「SEX CITY」にtengal6が出演したときのことも話した。あの日、狭い店内は満員で、6人のメンバーをすぐ間近で見たものだ。どのぐらい近かったかというと、iPhoneでまともに撮影できなかったほどだ。あの日、ほんの数十人の前にいたtengal6は、約3年後の今夜、lyrical schoolとして約1000人の前にいた。

 実は冒頭の「brand new day」が始まった時点で涙腺が緩みそうになっていたのだが、懐かしい楽曲が次々と歌われるために、かつてヘッズだった友人たちのことを思い出して、すっかり感傷的になってしまった。ある者は東京での仕事を辞めて地元に帰り、ある者は婚約者を幸せにするためにアイドル現場を去り、ある者は当人がアイドルになった。しかしそんな感傷も、lyrical schoolは最終的に見事に吹き飛ばしていくことになる。

 最初のセクションは8曲連続という長さだったが、MCは最小限のみで、休む間もなく7曲続く次のセクションへと流れ込んだ。そこは「fallin'night」から始まるメロウな楽曲のゾーンだった。

 冒頭に記した結成日についての発言は、2度目のMCでのものだ。すぐに「FRESH!!!」が始まり、そのパーティーチューンに会場は火がついたような盛りあがりに。「PARADE」ではDJブースの岩渕竜也のプレイも冴えわたり、爆殺音を挿入したり、一瞬バックトラックの音を下げたりしていた。

 そして、tofubeatsが提供した最高傑作のひとつ「プチャヘンザ!」へ。2011年12月22日に、tofubeatsが所属するネットレーベル・Maltine Recordsが主催して「プチャヘンザ!」と題されたイベントを六本木SuperDeluxeで開催したことがあった。そこでtengal6が「プチャヘンザ!」を歌ったとき、フロアが暴発したかのような熱気に包まれたことを思い出す。ステージも低く、演者もヘッズも汗まみれになったあの日の熱気が、約3年後のLIQUIDROOMで1000人規模で再現されていることに胸を揺さぶられずにはいられなかった。今夜の「プチャヘンザ!」後半ではヘッズのリフトも次々と起こっていた。

 「プチャヘンザ!」にはさまざまなヒップホップのアンセムからの引用が見られるが、lyrical schoolの楽曲を今夜33曲(!)もまとめて聴いたとき、これまでの音楽性の試行錯誤も実感した。たとえば「決戦はフライデー」のリズムセクションだけ聴くと80年代シティポップスのようだし、「perfect☆キラリ」にはアイドル歌謡感もある。初期のtengal6は、70年代と80年代の歌謡曲を大胆にサンプリングした2曲をレパートリーとしていたのだが、そうした時期を抜けてオリジナリティの獲得にこの4年を費やした結果、最新シングルにして本編ラストで披露された「PRIDE」の「lyrical school 胸を張っていたい」という歌詞へとたどり着いたのだろう。

 lyrical schoolが「アイドルラップ」と形容されるとき、「ヒップホップ」という言葉はラップという形式だけではなく、バックグラウンドの文化自体をも指すので、なかなかアイドルには使いづらいのだろうかと感じることもある(私の思い込みに過ぎないかもしれないが)。しかし、今夜のライヴを見たとき、lyrical schoolもなかなかのワイルドサイドを歩んできたグループであることも再確認した。そもそも結成当初、彼女たちのようにラップに特化したアイドルグループは他に存在しなかったのだ(ライムベリーの登場は約1年後だ)。しかも過去2度のメンバー脱退は、低い声質のメンバーがいなくなることで大きな声質の変化をもたらしたが、結成当初からのメンバーであるami、ayaka、mei、yumiは、スキルを磨きながらそれを乗り越えてきた。途中から加入したhinaとminanは、スキルの向上はもちろんのこと、それ以上にこのグループに加わった度胸をまず讃えたい。メンバーの努力の累積こそが今夜のLIQUIDROOMへと結実したのだ。

 アンコールでは「そりゃ夏だ!」で再びヘッズのリフトが発生し、「S.T.A.G.E」には深瀬智聖も参加した。そして、アンコールのMCでやっと長く話すlyrical schoolは、やはり何も肩肘を張るところがない女の子たちだ。それは私が初めてtengal6を見た日から、『PRIDE』がオリコンデイリーシングルランキング3位を獲得した現在まで、何も変わらない。lyrical schoolがなかったらヒップホップとは何の縁もなかったかもしれない、と思わせるところも彼女たちの魅力である。

 「6本のマイク」で、ホンマカズキは歌詞をスクリーンに映した。「ちょっと振り返ってる/でもねdon't stop次が待ってる/扉開け向かう新たなステージへ/まだまだこれから」。LIQUIDROOMが終着点ではなく通過点であることを明示した選曲だ。泣き出したminanの頭をmeiが撫でた。アコースティック・ギターを中心にした「tengal6」のアコースティック・ヴァージョンでライヴが終わった後は、来春のニュー・アルバムのリリースが発表されてヘッズを沸かせた。全員がマイクを置き、生の声で「ありがとうございました!」と挨拶したlyrical school。「photograph」でヘッズが一斉に点灯させたメンバーカラーの6色のサイリウムの輝きとともに、彼女たちは次のステージに向かうはずだ。(宗像明将)

リアルサウンド

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