「この世の中にうんざりで嫌気が差し
ている」田中哲司、安達祐実、でんで
ん、赤堀雅秋が語る『ボイラーマン』
取材会

赤堀雅秋プロデュース『ボイラーマン』が2024年3月7日(木)、東京・本多劇場にて開幕する。
劇作家、演出家、俳優、さらに近年は映画監督としても評価を得ている赤堀雅秋の書き下ろしとなる本作は、これまでもその存在感と演技力で赤堀作品を支えてきた田中哲司が主演を務め、赤堀作品は初参加、田中との本格的な共演も初となる安達祐実、赤堀とは舞台2度目のタッグとなるでんでん、村岡希美、水澤紳吾、樋口日奈、薬丸翔、井上向日葵が出演する。
稽古初日を終えたばかりの取材会に、赤堀、田中、安達、でんでんが登壇した。
赤堀くんの現場はご褒美だと思っていたけど、今回は挑戦(田中)
田中哲司
――本日稽古初日を迎えました。赤堀さんは創作の旅を始めたところだと思いますが、今どのように感じていらっしゃいますか?
赤堀 この作品は「赤堀雅秋プロデュース」という冠がついているので、だからこそちゃんとチャレンジをしたいと思っています。当初は狭いコミュニティの中でどろどろとした人間関係を描くつもりでいたのですが、なんだかおもしろくないように感じて。というのも自分の中で既視感があるというか、なんとなく、自分が今までやってきたことを踏襲してしまいそうな予感があったので。なので今は正直言うと怖くて仕方がないです。これどうなっちゃうの?という感じ。でもそれがなんかすごく……今日実際に動く役者さんたちを見て、今のところはすごくおもしろいと思っています。どうなるかわからないですけど(笑)。
――田中さん、安達さん、でんでんさんと稽古してみていかがでしたか?
赤堀 今回は、明確な背景や自分の思いの丈をカミングアウトするようなわかりやすいドラマではなく、その役者の佇まいで、行間の中で、お客さんになんとなく共感していただけるような舞台にしたいなとは思っていますが、ここにいるお三方は、語弊がある言い方ですけど、立っているだけでおもしろいというか、すごく魅力的に感じる方々なので、そこへの信頼はあります。
赤堀雅秋
――田中さん、安達さん、でんでんさんにも、今日始まったお稽古の手応えや、今どんなお気持ちで『ボイラーマン』に臨み始めたかというところをうかがいたいです。
田中 今日、朝5時に起きてメールを見たら台本が届いていて、読み進めるうちにちょっとドキドキしてきました。これは今までないテイストだぞ、勝負だな、と思いました。今まで赤堀くんの現場はご褒美だと思っていたのですが、今回は挑戦ですね。そのくらい難しい台本です。赤堀くん自身も「やばいところに手を突っ込んでしまった」と思っているはずなので(笑)、「一緒にがんばろう!」という気持ちになりましたし、少しでも期待に応えたいと。素晴らしい景色が見えると信じて、稽古を進めていこうと思っています。
安達 今日の稽古はすごく楽しかったです。私は舞台経験はそんなに多くないほうだと思いますし、こんな素敵な方々と一緒に舞台に立つということに緊張もするのですが、みなさんの様子を間近で見られることや、一緒にお芝居できること、赤堀さんはどんな演出をつけるんだろうということにすごくワクワクして。なので今日は、ドキドキもあるけど、楽しみが膨らんでいくような気持ちになりました。自分にできることをこれから一生懸命やっていこうという気持ちです。
でんでん 今はただただ楽しみです。演者として、台本はすごくおもしろいなと思います。いろんな(作品世界への)入り方があるから。それにはまず真面目にやることですよね。台詞が入らないことにはいろんなことができないので。だから今は、その「試す時間」があるのかがちょっと不安ですね。なんてったって一日にやるとスタミナがね。くたくたになっちゃうので。だからちょっとがんばります。みなさんと一緒にやれるのが楽しみです。舞台に立つのは2年ぶりなんですけれども、なんか夢心地みたいな感じ。ワクワク感と不安材料と一緒になってます。早くワクワク(だけ)になりたい。
>(NEXT)マイナス部分も平気で出していく。それが人間臭さであり魅力(でんでん)
マイナス部分も平気で出していく。それが人間臭さであり魅力(でんでん)
でんでん
――今回の台本についてうかがいたいのですが、赤堀作品常連の田中さんが「やばいところに手を突っ込んだ」とおっしゃっていました。それはどういうところに感じられたのでしょうか?
田中 ワンシチュエーションで場面が変わらないのと、時間的には一夜ですよね?
赤堀 一夜の予定です。今の想定だと、一場が22時すぎから、二場が午前0時すぎから、三場が午前4時すぎから、というような三場構成です。
田中 設定が夜のみとは初めてです。屋外ですし、赤堀くん得意のカラオケも出てこないし、飲み屋のママも出てこない。演劇的にハードルが高いところにいったなと思いましたし、赤堀くんの作品を観慣れた人には新鮮なはずです。今のところ赤堀くん節は出ているので、最後まで行き詰まらないでほしいですね(笑)。
赤堀 既に2回くらい行き詰まってますけど、がんばります(笑)。
――安達さんは赤堀さんのホンのどんなところに人間的な魅力を感じましたか?
安達 一人の人間の中にいろんなものを持っている。表面で見せていることと違うことを内包していたりするような。そのいびつさだったりに人間の素敵さがあるんだろうなと思うので。そこが出てくるのが素敵な部分なんだろうなと思っています。
――でんでんさんは赤堀舞台作品は2回目ですが、赤堀さんの描く人間の魅力ってどういうところにあると思われますか?
でんでん 人間臭いんじゃないですかね。マイナス部分も平気で出していく。それが人間臭さであり、それがまた人間としての魅力でもあるんだろうと。良いところを少ししか出さないんだけど、ダメな部分をいっぱい出しておいて出すから、そのちょっとしたことがすごく効いてくるようなホンだとは思います。「人間らしくやる」とか「○○らしくやろう」とかじゃなく、そのままのものをぶつけていかないことには成立が甘くなってきますし。
――そういう役を演じる時はどう臨んでいかれるのですか?
でんでん 余分なことをやることですね。そこから削っていく。はじめから押さえていって調子を上げていくようじゃ、そう簡単には上がるもんじゃないから。最初に余分なことをバーッと。空回り気味でも最近はそういうふうにしています。悔いのないようにやりたいから、とにかく思い切ってやる。この歳になってくると、いろんな奴の力をちょっと借りながらやるんです。仲間とかね。仲間の代わりに演じている(感覚)とか。そういうふうにして役をつくって。この歳になってそういうふうになってきました。そういうのもけっこう楽しみなんですよ。
――赤堀さん、お三方の役どころや作品の中で担う部分をお聞かせいただけますでしょうか。
赤堀 それは俺が一番知りたいですね(笑)。でも今までの自分の作品と違うのは、普段はちゃんと役名があって年齢も明記して、役の関係性も明らかでっていうところから描いていくんですけど、今回は敢えて、別役実さんじゃないけど、「男1」「女2」というような書き方をしています。ただ感覚の話ですけど、(劇作家として)「男1」「女2」っていうほど人物との距離が離れているわけではないので、「中年男」とか「喪服の女」とか。「老人」とか書いて申し訳ないですけど。
でんでん ほんとだよ。しかもそれでみんな納得してるからさ(笑)。せめて「老人の中の老人」とかさ。
一同 (笑)
赤堀 だから今回は劇作家として、人物との距離の取り方は今までとちょっと違いますね。あとはなんとなく、これはあくまで僕の勝手な思いですが、昨今流れている雰囲気というか風潮には、なんかすごく閉塞感があって。いろんな想いが飽和状態で、これはコロナが拍車をかけた部分もあるんでしょうけど、もう破裂寸前、暴発してしまいそうな気がしていて。「清廉潔白じゃなきゃいけない」とか「こういうことが正義なんじゃないか」とかの応酬で、僕自身はこの世の中にうんざりで、嫌気が差している。そういう今の世の中の空気感というものを今回の舞台で描きたいというのが一番あります。哲さん(田中)演じる主人公の「中年男」も、特に明確な理由、それは家庭がどうだとか仕事でどうだとかっていうことではなく、突然なにか「もうええわ」みたいな感じで糸が切れてしまうような。そういう感覚って多分、長く生きていたらきっと誰でもあると思うんですけど。安達さん演じる「喪服の女」も、いろいろ内包しているものがあって、でも大人なのでちゃんと社会性を持って生きようとはしてはいる。そういうものが、暴発はしなくてもなにかしら漏れ出すことはきっとあるんだろうなって。それが観ているお客さんたちにも共感できるというか、なんかひとつのカタルシスになればなという思いがあります。
――名前がないからこそ、見ている私たちの側に近しい。私たちの分身でもあるというように見られるような人物たちになりそうということですね。
赤堀 横尾忠則さんの「Y字路」シリーズが昔から好きで。これは僕の感覚なんですけど、ああいう怪しげなのか、寂しげなのかちょっとわからないですけど、こういうものをやれたらなって。そこからインスピレーションを受けてやっている感じです。それと三好十郎の『夜の道づれ』っていう、ただ甲州街道を歩いているだけの話があるんですけど、それにインスピレーションをいただいたりもして。この世の中の風潮に唾を吐きたいなという感じです。
>(NEXT)自由を求めながらも踏み外さない、その気持ちを思いながら(安達)
自由を求めながらも踏み外さない、その気持ちを思いながら(安達)
安達祐実
――赤堀さん、お三方それぞれの俳優としての魅力を改めてうかがえますか?
赤堀 みなさん否定されるかもしれませんが、演技もうまくて、だけどそれを壊そうとしたりとか、多分いろんな逡巡がありながら(芝居に)取り組んでくれているんでしょうけど。でも結局は、これは語弊を招く言い方ですが、その人たちが生きてこられた何か、年輪じゃないですけど、そういうものがどうやったって滲み出てくる。僕はそれが役者なんじゃないかなと思います。僕自身、そういうものを見るのが好きなので。だから各々の魅力というのは、各々のパーソナリティの魅力。もちろん安達さんとは今回初めてなので、知ったようなことは言えないですけど、でも清濁併せたうえで素敵だなと思いますし。それはおふたりともそうだと思います。
――赤堀作品経験者の田中さんとでんでんさんに、赤堀さんの稽古場にしかないもの、味わえないものがあればうかがいたいです。
田中 僕は赤堀くんの作品では、稽古初日に台本があると思っていません。最初は赤堀くんが台本の遅れをすごく謝って、俺らがいいよいいよって言ってるのですが、それが台本があがるごとに立場が逆転していくんです(笑)。そして気づくと赤堀くんからプレッシャーを感じるようになるんです。だから届いた台本はすぐに覚えます。こういう「追いつ追われつ」が、赤堀くんの現場の特徴です(笑)。これはこれで楽しんでいます。
でんでん 赤堀くんは、作と演出と演者もやるでしょう。だから演じている時にね、俺はホンも書いて演出もしてお芝居もできるんだぞっていうことが時たまポンと出る。
赤堀 (笑)
でんでん でもよく見てくれます。これは誰の現場でもそうなんだけど、役者の楽しみは別個のもの(芝居)をこさえていくことだから。そこを赤堀くんがよく見てくれる。ありがとうございます。
――安達さんは事前のコメントに「特別な修行」と書かれていました。どういったところにその特別さを感じられたのでしょうか。
安達 まず舞台に立つこと自体が私の中では、ポジティブに「自分の伸びしろをのばしていく」みたいなことだなと思っているので。あまりネガティブな意味じゃなく、自分にはできないことが多すぎて「まだできることがあるんだな」と感じられる場だと思っているので、そういう意味で「修行」です。でもはい、きたものはすぐ覚えるというのは今、教えていただきましたので、今後そうしていきます(笑)。
――楽しみにされているお客様にメッセージをお願いします。
赤堀 これは今作に限らずですが、人間って、人生って、こんなに愚かでも無様でもいいんだっていう。立川談志さんがかつて「(落語とは人間の)業の肯定」とおっしゃっていましたけれども。もちろんそこに僕は及ばないですが、でも僕なりに同じ思いでつくっているつもりです。こういう世の中だからこそ、現代だからこそ、舞台上に生きている人たちのみっともない姿、社会人としては出せないような感情のうねりみたいなものをお客さんが感じて、どこか、自分も同じように生きていていいんだっていうような、そういう思いになってくれたら、作者としてはうれしいです。
安達 普段の、日々鬱々とするというか、「なんでもっと自由じゃいけないんだ、わー!」みたいな気持ち、でも踏み外さない、「絶対はずれないでおこう」みたいな自分で自分を抑圧する気持ち、みたいな。そういうものを思いながらやったらすごくおもしろくなりそう、という気がしています。まだどこに辿り着くかわからないですけど、観てくださる方には、どこに辿り着いたのか……きっとそれぞれ感じ方は違うと思いますが、それを目撃しに来ていただけたらいいなと思います。
田中 陰鬱とした世界を描きつつ、最後は「人間っていいな」とか「よし、しょうがないからがんばるか」という気持ちになれるものをお届けできるんじゃないかと思います。あと赤堀芝居好きには、ちょっと今までとは違うぞ、というところを楽しみにしていただければ。
でんでん 観に来てくださる方が劇場を出るときに、喜んで帰れるような作品になるように、僕は一生懸命がんばるしかないです。
取材・文=中川實穂 撮影=池上夢貢

アーティスト

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着