地元・高松で『はにフェス』開催、古
墳シスターズが「平成最後の青春パン
ク」たる所以をみせつけた猪突猛進な
2日間を振り返る

『はにフェス』2024.1.13(SAT)、14(SUN)香川・高松オリーブホール
香川県高松を拠点に活動する古墳シスターズ。2023年に結成10周年を迎えるにあたり、2022年12月に高松festhalleで『はにフェス』を初開催。2024年1月13日(土)・14日(日)には、高松オリーブホールで2回目、それも初の2日間で開催された。
今や全国各地で音楽フェスが開催される中、結成10年とはいえ、まだまだ若手の古墳シスターズ。地元のライブハウスで、どのような音楽フェスを開催しているか、2022年の第1回開催を知った時から気になっていた。今回ライブレポート担当で初めて訪れたことで、ひとつのライブハウスで昼から夜まで開催するという意義が感じられた。古墳シスターズの両日ライブ含み、2日間の14組によるライブを私ひとりで書くので、ダイジェストに近い形にはなるが、文章に残していきたい。
初日開演時間14時の5分前に、古墳シスターズメンバーの松山航(Vo.G)、松本陸弥(G)、小幡隆志(B)、ラース(Dr)が本当に普通の状態で歩いてステージ上に現れる。松山いわく「覇気がない……」と自虐で笑っていたが、フェスとはいえ、あくまでライブハウスでのフェスなので、そのライブハウスの日常感が伝わってきて個人的には好きだった。祭ではあるのだが、ライブハウスの日常を覗き見することが第一であるように思えた。2022年開催時にはコロナ禍による注意事項がたくさんあったことを説明した上で、今年は注意事項が無いということを松山が嬉々として話す。ライブハウスの日常が本当に帰ってきたのだ。ずっと同じ場所で7組を約7時間観るわけだが、1組ごとに転換30分もあるし、何しろ商店街内にあるライブハウスのため、少し出歩けば飲食など休憩場所に関しては特に心配無い。高松オリーブホールの施設横にはキッチンカーも隣接されており、特製古墳チュロスも売られている。
「CHU CHU CHURROS」古墳チュロス
古墳シスターズも2022年に初出場した中四国最大級の野外音楽フェスティバル『MONSTER baSH』こと『モンバス』が毎年夏に香川県の国営讃岐まんのう公園にて開催されるが、毎年開催宣言的に特効テープが盛大に観客エリアに向けて発射される。このフェス儀式への憧れがあるという彼らは、100円均一ショップで買った音だけが出る小さなクラッカーを鳴らす。いつか『はにフェス』でも本物の特効テープを盛大に発射させて欲しい。
PRAY FOR ME
PRAY FOR ME
そして、2日間におけるトップバッターであるPRAY FOR MEが「愛媛のライバル!」と松山から紹介される。PRAY FOR MEは昨年『モンバス』にも初出場しており、この『はにフェス』にも同じ四国で鎬を削る同世代ライブバンドとしてトップバッターで出場してもらうのは、四国のライブハウスで開催するフェスとしての意思を感じる。メンバー3人からもとにかく気合いが伝わってくるし、ボーカルのタクマも「四国のバンドなのにちゃんと対バンしたことが無かったので、しっかりと決めます!」とより気合いを入れている。
英語詞で歌われるメロディックバンドであり、タクマが「英語で歌うし、こういうジャンルやし、なかなか呼んでもらえるバンドじゃないけど、ミスマッチじゃなくて、ライバルという立ち位置で呼んでもらえて嬉しい!!」と話す。四国のライブハウスで若手世代のバンドが開催するフェスとして確固たる意義を示したトップバッターだった。
PRAY FOR ME
PRAY FOR ME
PRAY FOR ME
ユタ州
2番手は東京都府中市発のユタ州。リハから「助っ人集団★石井ジャイアンツ」というライブハウス好きライブバンド好きならば、思わずクスっと笑ってしまうライブハウスジョーク=ライブバンドジョークを発するボーカルのターキーのぶと! あぁ~ライブハウスにいるな~、ライブバンドを観ているな~と強く思うし、この世界を少しでも多くの人に知って欲しいと改めて思うし、だからこそ古墳シスターズもライブハウスからライブバンドと共にフェス開催という活動を発信しているのだろう。ライブハウスでライブをやり続けている強者だからこそ、リハから先程のジョーク小ネタ的なものを細かく発しながら観客を楽しませる。
ユタ州
いわゆる「NEXT ARTIST!」みたいなかっこいいフェスのかっこいいフェス呼び込みジングルが無いと気付いたのぶとは、そこから自分たちでアナウンスして、より楽しませてくれる。リハから気付いてはいたが、ポップでキャッチ―なロックであり、何よりも場数を踏んでいるだけあって爆発力がある。会場後方では、この日トリの古墳シスターズ直前に出場する四星球の康雄もじっとステージを見つめている。これぞライブハウスの風景……。終盤、のぶとが何気に「愛していまーす!」と観客に語り掛けたが、この言葉が似合うロックボーカルは最近中々いないなと感慨に耽ってしまった。
ユタ州
ユタ州
ユタ州
TENDOUJI
三番手はTENDOUJI。『モンバス』と共に香川と言えば思い浮かべるのが、高松の商店街を舞台に繰り広げる街ごとライブサーキット『SANUKI ROCK COLOSSEUM』こと『サヌキロック』。古墳シスターズにとって普段の全国ライブハウスツアーだけでなく、『モンバス』や『サヌキロック』という地元の大きな祭での出逢いも大きいはず。TENDOUJIはまさしくそういうバンドであり、ライブハウスキッズだけでなくフェスキッズにとっても馴染み深いバンド。「今日が初対バンです。ちょこちょこ逢ったことはあるけど、好きというだけで呼んでくれている。俺ら別にパワー持ってないし、純粋なフェスになったらなと!」という言葉もあったが、ミュージックラバーとして古墳シスターズが彼らを呼んだというのが凄くわかる。
TENDOUJI
TENDOUJI
TENDOUJIは謙遜してパワーを持ってないと言ったが、最初にラインナップを観た時に、古墳シスターズの普段から付き合いがあるライブバンドでは無く、どのような関係性があるのだろうかという新鮮さも感じたため、TENDOUJIの存在には充分すぎるほどのパワーを感じた。リズミカルに鳴らされるロックンロールは一瞬で場に華やぎを与えてくれたし、一番驚いたのは持ち時間30分を7分巻いて終えたこと。東京から遠路はるばる来た場所であるのに、持ち時間にこだわりすぎず、ただただシンプルに自分らのロックンロールで盛り上げることに重点を置いていたのは、潔すぎるし清々しすぎるし、とてもクールで粋だった。
TENDOUJI
TENDOUJI
THE イナズマ戦隊
四番手はTHE イナズマ戦隊。リハで「サウンドチェック」というフレーズを歌いながら、音を鳴らしていくなど、型にはまらないユーモアさを感じる。それに用意していたセットリストを変えたのもTHE イナズマ戦隊であった。上中丈弥の「10時間かけてセオリー通りのロックンロールするな!」というMCもあったが、ユタ州やTENDOUJIもそうだった様に、高松は東京からだと車で10時間かかる場所であり、だからこそ、ここでしか観れないライブをぶちかましたいと東京から来るバンドマンたちは想っているのだなと嬉しかった。その心意気がセットリストにも表れていたと想える。
THE イナズマ戦隊
丈弥は45歳だが、「45歳やけど、むちゃくちゃ青春の曲が出来た!」と新曲をおろす。自分たちのファン以外の観客が来るフェスやイベントでは、いわゆる代表曲や有名曲をやるのが一番わかりやすい中、そこで新曲をおろす姿勢にはライブバンドの気概を感じるしかない。今が一番最高ということをライブで更新し続けるライブバンドならではのセットリスト。日本武道館に観客たちを必ず連れて行くと、それも後輩ライブバンドの晴れの舞台で、先輩ライブバンドとして強き背中を見せる男道な生き方にも痺れた。いよいよ本日トリの古墳シスターズへバトンが渡ろうとしていることを感じ始める。
THE イナズマ戦隊
THE イナズマ戦隊
THE イナズマ戦隊
ガガガSP
五番手は神戸のガガガSP。日本最古の青春パンクバンドであり、平成最後の青春パンクバンドと名乗る古墳シスターズにとっては、自分たちの大ルーツ。コザック前田は「ちょっとだけよ! 先っぽだけ!」と言いながら、リハから人気曲「つなひき帝国」をぶちかまして、あっという間に観客を掴み、その馬力を魅せつける。それでも、この後に控えた弟分の四星球の名前を出して、「四星球目当てのお客さん覚悟しといてください!!」と茶目っ気たっぷりに言って、本番に向けて一度袖へと去る。勿論、敢えてのライブジョークであることはわかりきっているが、どう考えてもリハから観客の心を鷲摑みしているのに、それでも自分たちはまだまだだという向上心を持ち続けていて、自分自身を鼓舞し続ける姿勢には恐れ入る。いつもぶちかましてくれているが、この日はいつも以上にぶちかましてくれる予感がとてつもなくあった。
ガガガSP
ガガガSP
ガガガSP
本番初っ端から前田は、「27年間、あの子にふられたとか歌っていて、青春パンクというよりストーカーパンク! だから今日は新曲をやりません! 残念やったな!」と言い放って、一発目にぶちかましたのは「卒業」。22年前の代表曲であり大人気曲! 全く色褪せること無く新曲が持つ凄みすら感じるし、22年間研ぎ澄まされ続けてきたことが証明されまくる。大先輩は偉大過ぎる……。この後の四星球、明日出場のセックスマシーン!!の名前を出して、観客が両手を左右に振る独特のノリ方を、「何やアレ!?」と言いながらも「羨ましくなって!」とそのノリ方ができる新曲を持ってきた話して新曲へ。その名も「ガガガ音頭」! 日本人は音頭のリズムが好きに決まっているし、その上に性急なパンクのリズムも乗っかるわけで、ガガガSPしか鳴らせないナンバー。もはや天晴れである。
ガガガSP
「青春パンクという言葉を作ったウチが辞める時は、全てを古墳シスターズに渡します! でも、目が黒い内はやり続けます!」
このコザック前田の言葉は、古墳シスターズをある意味継承者として認めた言葉であり、だからこそガガガSPを越えてみろという強い気持ち強い愛が込められていた。その後も「線香花火」、「晩秋」と20年以上前の代表曲であり大人気曲をぶちかます。ぺんぺん草一本も生えないくらいに暴れ散らかした偉大な大先輩は、四星球と古墳シスターズという可愛い後輩2組に強烈なバトンを渡した。
ガガガSP
四星球
四星球
六番手は四星球。康雄は「ガガガ音頭」の威力を始めとして、これまでに出場したバンドたちの凄みを振り返りながら、古墳シスターズが自分たちのフェスやイベントを手伝ってくれていることを明かす。中でもドラムのラースが特に手伝ってくれていることを話した上で、「四星球、2024年一発目ライブはラースのドラムソロから始まります!」と呼び込む。本当にラースがドラムソロを鳴らす中、長髪に目の周りを黒く塗ったラースの特徴を生かしたコスプレで、U太とまさやんが、それぞれローソンラース&落ち武者ラースという謎のオリジナルキャラクターで登場! そこにモリスが逆ラースという目以外が全て真っ黒という黒の全身タイツ姿で登場! 『名探偵コナン』でお馴染みの黒い犯人を彷彿とさせるが、説明し出したら文字数が足りないくらいの手の込みよう……。
四星球
四星球
ガガガがぶちかました後も、そこに敬意と緊張感を持ちながら、いつもどおりの四星球でぶちかます。その上、1曲目は古墳シスターズの人気曲「ベイビーベイビーベイビー」! ガガガにも想っていたことだが、四星球も本当に容赦ない……。素晴らしき後輩可愛がりであるし、これはなによりの古墳シスターズへのお祝いでもある。少々手荒だが、こんなに素晴らしい先輩からのお祝いはないだろう。
四星球
とんでもない渦を巻き起こすかのように、康雄を始めとして四星球は暴れ続ける。古墳シスターズの出世を願って歌ったようにも感じた「出世作」など、とにかく愛しかなかった……。もちろん大きな顔パネルなどお馴染みの小ネタもあるし、なぜか来場していた外国人観客に絡んだりとユーモアも忘れていなかったが、今日はいつも以上に音楽で真っ向から真正面からぶつかっている。
四星球
「僕たちのことを先輩バンドと言ってくれるけど、先輩らしいことはしていないんです。今回、初めて企画に呼んでもらって。本当は来週から今年はライブを始めるつもりだったけど、早めにライブをさせてもらっている。先輩らしいことはできていないけど……古墳シスターズを宜しくお願いします。親御さんも来られていると聞いています。親御さん、もう少しだけバンドを続けさせてください」
康雄は正座した状態から頭を下げて、観客に、そして親御さんに懇願した。先輩らしいことが何もできていないと言っていたが、これが何よりも先輩らしい行ないであった……。青春パンクの伝承儀式を目撃できた…とてつもない終盤の流れ。

四星球

古墳シスターズ
古墳シスターズ
いよいよ大トリは古墳シスターズ。
「自分らで順番を決めたけど、四星球やりすぎよね……。後、僕らは1曲以外は2日間被り曲ありません。リハーサルでやる曲も2日間で変えています」
リハから松山は覚悟を決めたかのように決意表明をした。全組が古墳シスターズを格好良いと認めて盛り上げたからこそ、それが嘘ではないと魅せるためにと、まだリハであるにも関わらず、とにかく松山を始めとしてメンバー全員の気持ちが前面に出まくっている。そりゃ、あれだけのライブを6組分ぶちかまされ続けたら、サウンドチェックでも「どうでもいいので、全部大きくして下さい!」なんてPAスタッフにお願いするだろう。小細工無しで、よしんば恥であろうと何であろうと全てを曝け出そうという腹の括りっぷりは、観ていても気持ちが良かった。本番も当たり前だが、マグマが爆発した様な火を吹くような激しいライブ。とにかく全身全霊で爆発させるギタープレイから、松本のライブ姿を「火を吹く」と私は何度か表現しているのだが、この日はメンバー全員が火を吹いていた。人間ここまで追い込まれたら、火事場のクソ力というか……、もうグッチャグッチャでグッシャグッシャなライブなのだが、その荒々しさはもはや美しい。10年目の初期衝動を感じた。
古墳シスターズ
「バンドを始めた頃は、自分らをクソみたいなバンドだと笑っていました。でも、もうこんなに人が来てくれたら、自分のバンドをバカにできない……。愛してくれてありがとうございます」
松山のこの言葉が全てだろう。明日のことなんて考えていないし、大きな区切りとなる祭だからこそ普段やらないマイナー曲もぶちかましていく。良い曲というのは大前提だが、全てを曝け出して全てを投げ出してぶちかますからこそ、初めて聴く曲でも鬼気迫って来るし、異様に楽しく興奮させられる。
古墳シスターズ
「もうちょっと前の時代ならば売れるかもと言われたこともあるけど、青春パンクが昔の音楽なんて思ったことがないし、そんなんはライブハウスに来たことがない奴が言っている!」
こっからの「ベイビーベイビーベイビー」の炸裂感は凄まじかった。青春パンクの若き継承者としての意地を感じまくった。曲間、演奏を止めて、松山は今年の『モンバス』からオファーをもらっていないが、龍神空海というふたつ並ぶ大ステージに、四星球と古墳シスターズで並んで出場したいという熱い想いをぶちまけた。地方フェスの良いところは地元の若者たちが絶対に出場したいという憧れの気持ちを持ち続けること。フェスだからこそ全国各地の猛者バンドたちが有名無名問わず集まるが、そこでも地元の雄である四星球と古墳シスターズが並んで待ち構えることに大きな意味があると思う。勝手な個人的想いではあるが、夏が楽しみでならない。
古墳シスターズ
古墳シスターズ
後半はバラードなどを緩急つけて組み込んだ王道のAパターンなセットリストと、10年間をないがしろにするような猪突猛進なBパターンというセットリストを観客に提示する。猪突猛進な観客はBを選ぶに決まっている! こっからはよりドンガラガッシャンな猪突猛進大行進が繰り広げられた。特に「焼き芋フローズン」の強烈な威力は素晴らしかった。その流れがあったからこそ、アンコール「窓辺の歌」での哀愁を感じさせるギターリフは叙情的であり、情景も思い浮かぶし、緩やかながらもキラキラしていた。こんな火を吹くギターリフを弾く松本がキラキラを鳴らしているのも素敵すぎる。だからって、湿り気たっぷりしっとり落ち着くバラード模様にならないのが古墳シスターズ! しっかりと破壊力が備え合わさっている。初日らしい全てを出し切った宴は夜20時55分に幕を閉じた。
古墳シスターズ
終演後、誘っていただき、少しだけ打ち上げに顔を出させてもらう。古墳シスターズのメンバーは私みたいなライターが参加しただけでも喜んでくれる。それくらいに大切で大事な自分たちの祭なんだろう。『モンバス』『サヌキロック』など古墳シスターズのライブレポートを担当したことがあるだけに、松山は「ライブレポートを読むと、自分で自分のライブを観ることができないだけに、ライブレポートを通して古墳シスターズって良いバンドなんやなって客観的に思えるんです!」とライター冥利に尽きる言葉を言ってくれる。松本だけは「僕のギターは火なんて吹いてないですよ!」と以前にも言われたことをまた言ってきたので、「火を吹いてるの!」とこちらもしつこく言い返す。こんなバカみたいな会話ができるのは、初日が良い祭だったからだ。
「昨日より今日! 今日より明日! それがライブハウスの唯一のルールです!」
2日目。昼12時55分。松山が昨日同様、前回と比べて注意事項が無くなったという流れから、こう話す。良い注意事項だなと思いながら、その後は2日目のことを考えずにライブをやったばっかりに声が出なくなったが、りんごをたくさん食べたことで声が出るようになったというほっこりエピソードも聞く。そして、昨日も聞いてはいたが、今日が松山の32歳の誕生日だということも。そんなめでたい日に自分たちのフェスが開催できるなんて、ただただおめでたい。昨日同様、クラッカーのくだりもあり、2日目が開幕する。
炙りなタウン
炙りなタウン
「岡山のライバル!」と紹介されたのは、2日目トップバッターの炙りなタウン。昨日と同じく地元四国で鎬を削る同世代ライブバンドをトップバッターに選んでいるのは、やはり素敵だ。登場SEでフラワーカンパニーズの楽曲を選んでいるあたりで、泥臭くて素晴らしいことが伝わってくるが、ステージ上には小柄な女子3人。岡山のガラガラのライブハウスから飛び出してきたことも伝わってくるし、ドラムプレイ含めパンクロックの豪快さも感じるし、良い意味で教室の真ん中では無くて隅っこから飛び出してきたのも真っ直ぐに伝わってくる。
炙りなタウン
以前、松山に「君たちは普通に幸せになれる可愛らしい女の子たちなのに、何故バンドをやっているんだ?」と言われたエピソードも打ち明ける。松山も激しく同意してくれるだろうが、だからこそ彼女たちは信用できるのだ。悶々と鬱屈した想いをパンクバンドでぶちまけるからこそ信用できるのだ。自分たちの出番が終わってからも、会場後方でずっと他のバンドを観ている姿も本当に誠実で可愛らしかった。
炙りなタウン
炙りなタウン
ビレッジマンズストア
二番手はビレッジマンズストア。こちらもライブハウスで歴戦を重ねてきているだけあって、リハの段取りが早い。リハからライブ同様の音合わせをして、すでに観客を盛り上げている。2日間、2024年初ライブというバンドが多かったし、なので、より気合いが入っていたが、そんな中でもボーカルの水野による「いつでも(観客が)帰れるように、一番最高得点を二番手ですが出していきたい!」という言葉は良かった。
ビレッジマンズストア
仲間である古墳シスターズのお祝いで来ているが、いざ舞台に上がったら、やるかやられるかの対戦である。それが対バンだ。まだまだ昼になったばかりなのに、観客も全力でサークルモッシュもヘッドバンキングもやりまくる。後、忘れていたが、2022年『サヌキロック』に彼らは出場するはずだったが、急遽出場できなくなり、その時に代打で出場したのが古墳シスターズだった。借りがあったからこそ今日の出場への打診に即答したらしい。ライブバンドマンシップならではの話だし、その繋がりがあるからこそ熱いライブをぶちあえるのだ。
ビレッジマンズストア
ビレッジマンズストア
ビレッジマンズストア
MAYSON’ s PARTY
三番手はMAYSON’ s PARTY。トロンボーン・トランペット・サックスというホーン隊3人を含む7人の大所帯。いわゆるスカパンクバンド。90年代から2000年代初頭において特にスカパンクバンドが数多く活躍した時代を知っている身としては、懐かしくもあるが、とにかく嬉しい。やはり大所帯というのもあるし、ホーン隊に女子ふたりがいるのもあるが、音も見た目も華やかさがとてつもない。場の雰囲気が今までとはまた違った意味で明るく楽しく盛り上がる。そして、7人の姿が絵になる。
MAYSON's PARTY
MAYSON's PARTY
「ツアーで仲良くなった友達に地元のイベントに呼んでもらえた!」と喜びを表して、ツアーして打ち上げでお酒を呑んだら仲良くなるというライブバンドツアーのあるあるも教えてくれる。昨日の出場面子が、古墳シスターズがライブハウスで憧れてきたバンドが軸になっていたと考えるならば、(基本は二日間共にではあるが)2日目は特にライブハウスで繋がってきたバンドが軸になっているなと思えた。振り付けも交えながら、踊って騒げたライブであり、本当に何度も言うが華やかで最高にハッピーなライブであった。ライブハウスに行くだけで、色々なジャンルの音楽を体感できるのは、本当に堪らなく幸せなことである。
MAYSON's PARTY
MAYSON's PARTY
MAYSON's PARTY
セックスマシーン‼️
セックスマシーン!!
四番手はセックスマシーン‼️ことセクマシ。昨日で言えば、古墳シスターズ出番直前に立ちはだかってもおかしくない古墳シスターズ直系の大先輩バンド。松山のライブでの立ち振る舞いを観ていて、よくボーカルの森田ことモーリーを彷彿させることが多かっただけに、この日の彼らの登場はかなり楽しみにしていた。例えば、ガガガSP、四星球とは違うセクマシ直系と感じる古墳シスターズのチャームポイント、つまりはモーリー直系の松山のチャームポイントでもあるのだが、それが何なのかを考えてみた。それは愛おしき後先を考えない空回りな立ち振る舞いである。生舞台の芸事なんて、いざ始まったら進行通りにいかないものであるし、だからこそ魅力を感じるのだが、モーリーには見切り発車感がむちゃくちゃあり、それは松山にも引き継がれている。
セックスマシーン!!
セックスマシーン!!
セックスマシーン!!
この日も5分前にはリハを終えたモーリーは、5分早くやったら1曲多くできると見切り発車でライブをスタート。その時間に合わせて、外へ休憩に行っている観客もいるかもだし、スタッフの予定もあるし、いくら時間が早かろうと決められた時間を守るのがプロだ。だが、そんなことはモーリーには関係ないし、モーリーの判断が正しい。なのだが、残り2曲の時点で、まだ8分しか経ってないという珍現象が当たり前の如く起きる! 最高である。思わず観客からは「大丈夫?」と声かかるが、モーリーも「何年やっていると思うんだ!」と返していた通り、伊達に25年もやっていない。メンバーに特に耳元で何も言わなくても、モーリーが動けば、「モーリーと何年やっていると思っているんだ!」と心から思っているメンバーも自然についていく。
セックスマシーン!!
約80mというマイクコードの長さがあるスペシャルすぎるマイクを持つモーリーは、3階のライブハウスから1階の受付、そして隣接するキッチンカーまで行き、古墳チュロスを買って、3階のステージに戻って来る大技飛び技をぶちかます。古墳チュロスをマイクに見立てて叫んでいるし、もう圧倒的な存在感としか言いようが無い。結果、5分巻いて始まったのに、持ち時間ギリギリまで使い切っていた。古墳シスターズ出番の直前では無いとはいえ、古墳シスターズにとって、松山にとって、とびきり刺激になるライブだったはず。
セックスマシーン!!
THE MAYTH
THE MAYTH
五番手はTHE MAYTH。リハから、この2日間でも異色の爆音轟音を聴かせていたハードコアバンド。ボーカルのHassieは松山と大学の同期であり、古墳シスターズが服を着ずにライブをしていた時代から知っているという。親友であったり、特別に仲が良いわけではないみたいだが、大学時代から10年以上もバンドをやり続けているのはふたりきりだという。これはここでいくら説明しても、ふたりにしかわからない関係性であるし、誰もが築ける関係性では絶対に無い。「アウェイと思われているからこそ、古墳シスターズが嫉妬するくらいに盛り上がりましょう!」という心がけが尊かった。
THE MAYTH
何度でも言うが、同じライブハウスイベントに出ていても、多くのジャンルが存在するし、だが、ライブハウスというステージでは、みんな同じライブバンドだということを徹底的に教えてくれたフェスである。松山と同期であるので同じ結成10年バンドであるし、古墳シスターズ10周年を祝いに来ているが、自分たちが一番良いライブをしているということを魅せにも来ていた。
THE MAYTH
THE MAYTH
THE MAYTH
バックドロップシンデレラ
六番手はバックドロップシンデレラ。観客をフロアで二分してぶつかり合わせたり、ボーカルのでんでけあゆみは客の上にステージから前転しながら乗っかったり、客の上を歩いたり、これまた客の上をバックジャンプしてステージに戻って行ったりと、とにかく観客の上を自由自在に動き回っている。これ、別にあゆみが特別なことをしているわけではなくて、この2日間バンドマンたちは当たり前のように観客の上でダイブしたりと自由に動き回っていた。ライブハウスという空間で、ライブハウスに慣れている観客が多いからこそ成り立つ伝統芸であるし、場所によっては禁じられる場合もあったりするが、やはりここはライブハウス。ライブハウスでしか観れない光景をたくさん観れて、むちゃくちゃ大満足であった。
バックドロップシンデレラ
バックドロップシンデレラ
バックドロップシンデレラ
終盤、そういう意味ではライブハウスでしか観れないワンダフルな異様な光景が観れた。ギターの豊島”ペリー来航”渉いわく、松山は、その昔ベロベロに酔って泣きながら、「古墳シスターズはいつ死んでも、そこが墓になるようにやっているんです」と言ったらしい。なので、松山は今日死ぬのかも知れないし、それで松山は悔い無く死ねるだろうという、長い長い「松山が死ぬ」という説明を繰り返しながら、観客たちにフロアで前方後円墳をかたどったサークルを作らせて、その真ん中に松山を寝そべらせ、そしてその周りで観客たちが踊り狂うという謎の儀式を行った。
バックドロップシンデレラ
バックドロップシンデレラ
これ今自分で書いていても意味がわからないし、まぁ、ある程度はライブハウスでライブを長年観ている方だが、こんな盛り上がり方は観たことが無い。そして、松山は棺から持ち上げられて崇め奉られているように、観客たちに持ち上げられてステージに上げられる。そして、松山がステージで踊り狂う。なにを見せられているんだと思いながら、私も今文章を書いているので、読んでいる方々も何を読ませられているんだと思うかもしれないが、事実を書いているのみなのだ。そして、一言だけ言いたい、謎の熱狂が起きるのがライブハウスなのだ! THEライブハウスなライブ。
バックドロップシンデレラ
古墳シスターズ
古墳シスターズ
七番手は、2日間の大トリ中の大トリである古墳シスターズ。色々なバンドのTシャツを観れて2日間壮観だったこと。そして、昨日の続きを今日やりにきたことを松山はリハで話した上で、今日SNSで2日間被り曲が「ベイビーベイビーベイビー」しか無いからこそ、「焼き芋フローズン」を聴けないと悲しんでいた観客がいたと話す。なので、リハで「焼き芋フローズン」をぶちかますが、10年もやっていながら歌詞を覚えていなかったりして、それもまたそれで最高である。ライブ中に最新情報を解禁すると予告して、それがメジャーデビュー発表ではないとも笑う。
古墳シスターズ
古墳シスターズ
古墳シスターズ
別にメジャーデビューが全てではないが、こんな向こう見ずで見切り発車して火を吹くようなライブをぶちかます高松のバンドが、メジャーデビューしたら痛快だなって勝手に思ってしまった。あくまで個人の感想だが、いつかそんな最狂の日があったって、世の中おかしくないと思う。肝心のライブは気持ちが前面に出まくってドンガラガッシャンな向こう見ず見切り発車な初日と比べると、冷静客観性を物凄く感じられたが、だからって、それが悪いわけじゃなくて、古墳シスターズがストレートに青春してパンクロックしている生き様がぶちまけられていた。
古墳シスターズ
「お客さんはバンドを映す鏡だと言うけど、キラキラしているみんなを観て、古墳シスターズは良いバンドなんだなと思いました!」
松山は疑い深いが、あんな向こう見ずで見切り発車な最狂のライブをぶちかまし続けているくせに、古墳シスターズが良いバンドかということに懐疑的だが、はっきりと言っておく。古墳シスターズは良いバンドです。だから、メジャーデビューなんていう例えも敢えて先程したし、良い意味で言うが、いつライブハウスを飛び立ってもおかしくないバンドだ。今更わざわざ言うことでは無いが、ライブハウスを飛び立ったところで、いつでもライブハウスには戻って来るし、ライブハウスが古墳シスターズのホームなのだが、ライブハウスを飛び立って、多くの人に多くの色々な大きくて広い場所で観てもらって、もっともっとメジャーな存在になっても、何らおかしくないバンドなのだ。そんなことに薄々気付いてはいたが、この2日間で、その気付きは確信に変わった。
古墳シスターズ
「良い歌でしょ?」
こうも松山は言っていたが、良い歌を歌っているからこそ、古墳シスターズは良いバンドなのだ。この日も「ベイビーベイビーベイビー」を鳴らしたが、昨日よりも感情をコンパクトにコントロール出来ていることで、よりインパクトある歌に進化を遂げていた。昨日よりも今日が良いんだ。ってことは、今日よりも明日が良いんだ。そんなことを注意事項でも言っていたな、確か。
「ジャンルむちゃくちゃだったでしょ? 最後に出てきたの青春パンクだよ!」
もう笑うしかなかった! 最高のフェスじゃないか。そうそう松山は60歳になっても古墳シスターズを続けていて、その時にアルバムを出したいらしい。それも『初恋』というアルバムタイトル。これこそ青春してパンクしているじゃないか。30年後の音楽業界なんて、どうなっているか全く見当もつかないが、一番多くの人に聴かれる形態で、その時代のメジャーシーンとして、メインストリームとしてアルバム『初恋』はリリースされるべきだ。終盤どんどん感情が爆発してきて、松山は口を開く度に名言しか言わないし、それで名言集一冊できちゃうくらいのレベルであったが、ひとつだけ最後に彼らの音楽の核心を突くようなことを言わせてほしい。毎日、不安で悶々として生きている人々が日常生活の音楽として聴ける音楽を、古墳シスターズは鳴らして続けている。それは本編ラストナンバー「世界中で迷子になっても」から感じまくった。
古墳シスターズ
そうそう、ライブ中に解禁される新情報は、3月31日(日)に高松中央公園でワンマンフリーライブを開催するということ。タイトルは『もう少しだけ夢の中』。最高に青春して、最高にパンクしている。2日間ずっと興奮状態の極みだったから、本来の日常生活ならば一番のトップニュースであることを完全にすっかり忘れていたので、最後に松山がアンコールで言い放った言葉をしっかりと記して、このライブレポートを終えたい。
「バックドロップシンデレラに、今日死ぬ、死ぬと言われたけど、今日生まれたんだよ!」
松山32歳お誕生日おめでとう。そして、何よりも古墳シスターズ10周年おめでとう。おあとがよろしいようで。
古墳シスターズ
取材・文=鈴木淳史 写真=古墳シスターズ提供(撮影:アミノン)

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