フル回転で突っ走る望海風斗が、春に
開催するコンサートで「来てくださる
方と五感を解放して楽しみたい!」

2021年4月に宝塚を退団して以来、その豊かな歌唱力と表現力をフルに発揮、日本のミュージカル界を代表する女優として走り続ける望海風斗。彼女が2022年10月に行った20周年記念コンサート『Look at Me』に続き、この3月から4月にかけて、ドラマティックコンサートの第2弾『Hello,』を開催する。宝塚在団中に行った『SPERO』を含め、望海のコンサートといえばとことん趣向を凝らし、バラエティに富んだ贅沢な構成がデフォルト。女優としてますますの充実ぶりを見せる望海が、今度はどんな趣向で客席を楽しませてくれるのか。多忙を極める中、単独インタビューにたっぷりと答えてもらった。
ーードラマティックコンサートの第2弾ということで期待が高まりますが、今回はどんな思いを込めたコンサートなのでしょうか?
今回は、春にやるということで。コロナ禍で長い間いろいろな制限がありましたが、やっと今、少しずつ日常が戻ってきて、劇場も前ほどの制限がなくなってきました。それなら今度は来てくださる皆さんが心のマスクを取って、五感をフルに使ってもらえるような、そういうコンサートにできたらいいなと思ったんです。それと私は宝塚を卒業して3年間、もうずっと前だけを見て走って来たんですが、ちょうど去年、雪組プレ100周年コンサートに出演して。男役の歌を久しぶりに歌う機会がありました。コンサートでも歌ってはいましたけど、あんな風に男役に戻って歌うのは退団以来。それをやってみた時に、「あ、別に戻ったといっても元に戻るわけではないんだな」と。「前には進んでいるけれど、自分がやってきた道のりというのは確実にあって、戻れる場所なんだ。それをやるからこそ先にも進める、すごく大切な故郷(ふるさと)が自分にはあるんだな」ということを、改めて感じることができたんです。今までは封印というわけじゃないんですけど、男役に戻るっていうことをあまりしてこなかったので、今回のコンサートではちょっとやってみようかなと。宝塚時代に振付でお世話になった桜木涼介さんに演出をお願いしていますので、どこか懐かしい匂いというか、そういう面もこのコンサートで出せたらいいな。男役と女性の私、おいしいとこ取りで、どっちも出せたら面白いんじゃないかな、と思っています。
ーー雪組プレ100周年の宝塚歌劇 雪組 pre100th Anniversary『Greatest Dream』で歌われた時は、気持ちよかったんでしょうか?
気持ちよかったですね。この時は私が雪組でご一緒した先輩がいらっしゃらなかったので、自分がファン時代に見ていたような方々ばかりで。そんな偉大な方たちの中で歌っても「戻れないんじゃないかな……?」と思ったんですけど、実際舞台に立ったら、やっぱりスイッチが入る(笑)。すごく楽しくて。「このスイッチってやっぱりあるんだ。皆さんよくスイッチが入るっておっしゃるけど、このスイッチ私も持ってたんだ」という感じでした。
ーー望海さんは退団されてから驚くほどスムーズに高音が出ていらっしゃいますが、やはり宝塚時代に出していた低音を封印するのはあまりにもったいないですから。
それはファンの方にもよく言われていました。でも、最初はまだいろいろな可能性があるし、宝塚をやめたのに、そこに自分が固執していては先に進めないかなと思っていて。退団した時にもう若くはない、20代ではないので、年齢によってできなくなってくることもいっぱいあると思ったから「今できることをとにかくやっていかなきゃ、広げていかなきゃ」と必死で頑張ってきたんですね。宝塚時代を懐かしむ反面、「私は前に進みたいんだ」という思いも強かったんですけれど、ここまで頑張ってきたからこそ「どっちも自分として持っていることはできるんじゃないかな」と思えたんです。ひとりでやっているのに「本当に同じ人なの!?」っていう、そういう両面の面白さが出たらいいなと思っています。
ーー『Hello,』というタイトルにしたのは?
いろいろな案があった中で、一番しっくり来たのがハローだったんです。春だし、出会いの季節でもあるし、「この響きがいい」と思って決めました。私もそうだし、来てくださった方も新たな自分とハローするような。そういう時間になったらいいなと思って。コンマがついているのは、こんにちはだけで終わらない、続いていく未来とか、その後にメッセージが来ますよみたいな、そういう意味です。
ーー望海さんはコンサートの度に、新しいハローを提供してくださってきました。ここまでやって、さらに期待を膨らませてしまって大丈夫なのかなと、心配になるほどです。
だから私も、お稽古ではすごく後悔しますね。「なんて無謀なことをしたんだろう」みたいな(笑)。『Look at Me』もかなり後悔したのですが、でもやっぱり実際に公演すると、「頑張ってきてよかったな」という達成感がある。特にコンサートは、自分で選べるわけですよね、上限を。だからこそ無理やり詰め込んじゃうんですけれど。今回も「なるべく詰め込ないようにしよう」と言いながらも、やっぱり構成を考えていくと、だんだん「やっぱりもっとこうした方がお客さんに楽しんでもらえるんじゃないか」とか、より面白いものにしたくて。気づいたら「え、曲数多くない?」みたいな後悔がもう始まっている(笑)。でもこれを乗り越えた先にやっぱり「挑戦してよかった!」と思える時間がくるのを知っているので、「やめられないな」と思っちゃっています。
ーー「絶対に期待に応えなきゃ」というようなサービス精神が発動されちゃうんでしょうか?
そうですね、特にファンの方々の中にはずっと長いこと見てくださってる方もいて。宝塚を卒業してからもずっとついてきてくださっている方たちには、作品ごとに新たな世界を見てほしい。私も一緒にファンの方たちと新たな世界を知っていっている、みたいな感覚があって。だからこそ、「私も楽しめる、皆さんももっと楽しめる、いろいろな面白いことがあるんじゃないか」と。それをファンの皆さんと一緒に探していくような感覚ですね。だから、「皆さんの期待に応えなきゃ!」という強迫観念ではなくて。「せっかく皆さんがついてきてくれているんだったら、じゃあもっといろいろなことをやってみよう」という気持ちにさせてもらっているんだと思います。
ーー前回の『Look at Me』では望海さんがTVプロデューサーのひかり役を演じるという大枠のお芝居があって。1本のコンサートで何本も見たような気分にさせてくれましたが、今回は“ドラマティック”な部分はどんな感じになりそうですか?
今回はそういうふうにストーリーが1本立って全部繋がってるわけではないんですけれど、でもちょっとしたショー形式で、歌で世界を作っているというか。全然違う作品の歌を歌いながらも、ひとつのストーリーになっている、みたいな部分があります。やっぱりそれは、ショーで振付をしてくださっていた桜木さんだからこそ、「こういうのがやりたい」と言ったらいろいろ理解して作ってくださっていますね。前回はお芝居の中にショーが入っていた感じですが、今回はショーの中にちょっとストーリーが入っているような感覚かな。でも桜木さんは、宝塚退団後の私を知らないので(笑)。だからまた面白いんです。桜木さんはお芝居でもショーでも振りを付ける時、ストーリーだとかその人の魅力を、すごく引き出してくださる。ただの振付じゃない、魅力的に見せる何かをプラスしてくださる印象があって、そこが好きだったので。ダンスの部分もストーリー性のある踊りにしたいとリクエストしましたし、そういう意味でも曲1曲の中にもドラマを、一緒に深く作っていけるんじゃないかなと思っています。
ーー五感に訴え、五感を解放してもらうというところで考えていることは?
今回は来てくださった皆さんが普段の日常で感じている感情だったり、自分でも無意識にためていた感情だったり、そういうものをこのコンサートで解放して、自分自身を楽しんでもらいたいんです。ショーを見て「この役がよかった」とか、「この歌がよかったね」という楽しみ方は普段もしてくださっていると思いますが、皆さんがそれぞれの人生を、その場で思い思いに楽しんでもらいたい。どうやったらそういうコンサートができるんだろうというのは、きっと一生のテーマかもしれないですが、そういうきっかけのコンサートになったらいいなと思っています。今ここでコンサートをやる意味、みたいなものが、やっぱりないと頑張れないので。目標はとにかく、来てくださる方が心を解放することで、その時に貯めているものを放り出して。同じ曲なのに笑ってる人も泣いてる人も、怒ってる人もいれば喜んでいる人もいる、みたいな。そういうものになったら、すごく素敵な空間になるだろうなぁ。
ーー望海さん自身、ずっと突っ走っていらして。井上芳雄さんに「ずっとテンパってる」なんて言われたりもしていましたが、それが今ちょっと力が抜けて、そういう意味で違う局面にいらっしゃるのでしょうか?
いまだにテンパる時はテンパりますけど(笑)、でもだいぶ落ち着いてきた部分もあるので。来てくださる皆さんが日頃、どういう感情を持って生きているのかとか、それが知りたいんですよね。劇場で皆さんが感情を解放しているのを見て、それを私も歌うエネルギーにしたいんです。
ーー聞くところによると、憧れの方にテーマ曲を作っていただいたとか?
そうなんです、アンジェラ・アキさんに楽曲提供いただきました。かなり五感にも繋がる楽曲になると思いますので楽しみにしていただきたいし、早く聞いてほしい! 私自身、ちょっと歌ってみただけでものすごく心の換気ができたというか。心が浄化する感覚で、本当に新鮮な空気が入って、いらないものが抜けて。本当に「換気されたな」みたいな気になるんです。ほかにも、きっと聞きたいと思ってくださっていた歌もあるだろうし、「これ歌うんだ!」みたいな驚きもあるだろうなと。ミュージカルの曲も、演じたことがないけどやってみたかったもの、歌いたかった曲も入れています。
ーー前回のコンサートから今までに、『DREAMGIRLS』、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』、『イザボー』と3本の大きなミュージカルに主演してこられましたね。特に『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』のサティーンは大きな挑戦だったと思いますが、その経験はどんなものでしたか?
『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』は退団後の私の中で、もちろんすべての作品に全力で挑みながらも、これがあるから頑張らなきゃ、と目標にもしていた作品でもあったので、公演が始まった時は「ついに来たんだな、その時が」という感じでした。スタッフもオーストラリアから来た方ばかり、共演者もオーディションで受かった、誇りを持った人たちばかりの中で、「本当にうまくやっていけるのかな」という不安が最初はすごくありました。でも、あれだけ素敵な方たちと出会って、皆さんと日本の『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』を作る一員になれたというのは、すごく自分にとって大きかったなと思いますね。どちらかというと、私はサティーンよりもイザボーの方が合っていると思うんです。自分でもイザボーの方が演じやすかったですから。サティーンは知らない扉をいっぱい開けないといけない役だったので、本当にいろいろ学び、成長ができたと思っています。周りの人たちにもたくさん助けてもらいましたけどまだまだ足りない部分もあったので、本当に再演があってよかったなと思っています。
ーーサティーンで演じにくい、自分で努力しなくてはいけなかった部分というのはどういうところでしたか?
人に頼ること。自分ひとりで生きていくとか、自分の力でその舞台を埋めるとかっていうのは、多分ずっとやってきているから大丈夫。けれども、サティーンのように人に委ねるとか、人が手を貸したくなる何かを持っている、でも強さも持っているというのは難しかったですね。ただ強いだけじゃない、脆さや、ちょっとした甘さ。そこの塩梅がすごく難しかった。「あまりコケティッシュにはならないでほしい」とオーストラリアチームから言われて。でも、「普段の自分でいていいよ」と言われて普段の自分の反応をすると、コメディチックになってしまって「そこじゃないんだ」とすごく言われて。「あーどうしたらいいんだろう」と悩みました。特にクリスチャンやジドラー、仲間たちに対して、身を委ねる部分ですね。まだ正解はわからないんですけれど、もっと力を抜いちゃった方がいいのかな? と今は思っています。 せっかく再演をさせてもらうので、去年とは違う、さらに深まったものがお届けできたらいいなと思っています。
ーー逆に『イザボー』は、よくぞ望海さんにこの役を持ってきてくださったという当たり役でしたね。望海さんのちょっとダークな、影のある個性がよく生きていて。この役を魅力的に見せるというのは、普通なら尻込みするような難しさがあると思いました。
イザボーはどんな困難にも立ち向かっていくというか、困難が生きていくエネルギーになっていくような人でした。そういうのって説明するのは簡単だけれど、実際それを演じるには毎回毎回、すごく自分自身のエネルギーも使うし、疲労困憊。やっていても「まだ行くんだ」という驚きがありました。心身ともに、ズタボロになりながら終わっていくみたいな感覚があったんです。でも、そういう経験ってなかなかできない。人の半生を、10代から亡くなるまでの年月を生き抜くって、やっぱり簡単なことではないですし。でも毎日、イザボーを生き抜くことで、得るエネルギーみたいなものもすごく感じて。やっぱり舞台に立っている醍醐味というか、楽しさというのをすごく実感していました。
ーーそうした経験も、今回のコンサートに活かされていくんでしょうね。
そうですね。まだその経験がどう反映されるかわかりませんが、きっと「ここは変わったな」とか「この経験をして良かったな」とか思えることがいっぱいあると思います。それにコンサートは、皆さんに乗せてもらって出てくるものもあると思うんです。私も『Hello,』をやることで、五感を解放した皆さんからどういう反応が返ってくるのか、それをまた私も五感で受け止めて、どうお返ししていけるか。「もっとこうしてみたいな」というように生まれていくものがきっとあると思うので、そこに身を委ねたいと考えています。それが本当に楽しみです。

取材・文=若林ゆり

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