ミュージカル『春のめざめ』観劇レポ
ート~浅草ブロードウェイ・ミュージ
カルに現代日本の縮図を垣間見た

株式会社レプロエンタテインメント主催によるミュージカル『春のめざめ』(台本・歌詞:スティーヴン・セイター、音楽:ダンカン・シーク、原作:フランク・ヴェデキント/翻訳・訳詞:金子絢子、演出:奥山寛)の本公演が12月5日(火)より12月23日(土)まで、東京・浅草九劇で上演中だ。
【動画】ミュージカル「春のめざめ」2023 WESTチーム 公演プロモーション映像

【動画】ミュージカル「春のめざめ」2023 EASTチーム 公演プロモーション映像

本プロダクションは、昨年(2022年)7月に同劇場でおこなわれた初演が高評価を得たことを受けての再演である。出演者はWEST/EASTの2チームに分かれ、各役をダブルキャストで演じる。主人公メルヒオール役は、有馬爽人/東島京。ヒロインのヴェントラ役が、北村沙羅/内田未来。そして、モーリッツ役を坂口湧久/江副貴紀、ヘンスヒェン役を田川颯眞/池田航汰、エルンスト役を天丸翼/平川聖大、ゲオルク役を脇卓史/山下真人、オットー役を熊野義貴/加賀谷奏音、イルゼ役を吉澤まゆう/井上花菜、マルタ役を小多桜子/バリオスアリアナ、アンナ役を那須愛理佳/菊田万琴、テア役を大原よしの/神山彬子、大人の男性役を松井工/森田浩平、大人の女性役を魏涼子/尹嬉淑が、それぞれ演じる。初演時と同様、オーディションを経て選ばれた面々だ(ヴェントラ役の北村と、大人役4名は初演からの続投)。
ミュージカル『春のめざめ』WESTチーム
昨夏も観劇している筆者は今回、プレビュー公演(12月3日)の前日におこなわれたゲネプロ(最終通し稽古)を、WEST/EASTの両ヴァージョンとも見学した。初演と比べて些かも引けを取らない上演クォリティの高さに大きな満足感を得た。
ミュージカル『春のめざめ』EASTチーム
このミュージカルの原作は、ドイツの劇作家フランク・ヴェデキントによる同名戯曲(1891年出版)だ。その舞台は19世紀末のドイツ。厳格なキリスト教社会のもと、(題名が示すとおり)“性のめざめ”を迎える思春期の少年少女たちが、無理解な大人たちから受ける抑圧により、悲劇へと向かう顛末が描かれる。だがそれは、自慰、暴行、虐待、性交、SM、BL、自死といった要素の含まれる問題作だったために、出版から初演までに15年もの歳月を要し、さらにその後、上演禁止の憂き目にもあった。ただし「これらこの戯曲で取り上げられている出来事については、ほとんどすべて子ども時代のヴェデキントの周辺で実際に起こったことばかりだった」と、岩波文庫版『春のめざめ』で、訳者・酒寄進一氏が解説している。
ミュージカル『春のめざめ』WESTチーム
そんな約100年前の古典を、ロック・ミュージカルとして生まれ変わらせようと思いついた(1999年)のが劇作家で詩人のスティーヴン・セイターだった。原作をわかりやすく再整理し、細部を膨らませ、物語に明快さと深みを与えた。そして、各場面に登場人物たちの内面を反映させた楽曲をはめこんでいく。作曲を手掛けたのは、友人のシンガー・ソング・ライター、ダンカン・シーク。やがて鬼才演出家マイケル・メイヤーがプロジェクトに参加し、幾多ものワークショップを重ね、オフブロードウェイ上演を経て、2006年12月ブロードウェイ開幕へと漕ぎつけた。公演は好評を博し、翌2007年の第61回トニー賞でミュージカル最優秀賞を含む8部門を“制覇”、2008年にはグラミー賞の最優秀ミュージカル・アルバム賞を受賞した。
ミュージカル『春のめざめ』EASTチーム
筆者もブロードウェイ公演を観て衝撃を受けた。19世紀ドイツのギムナジウムの男子生徒が突如ハンドマイクを握りしめ激しいロックを歌い、「Bitch」「Fuck」といった放送禁止用語で客席を沸かせたり、眼前で性行為が繰り広げられるなど……。そこには無数の不意打ちに満ちた、劇的「異化効果」ーーすなわち“違和を以て尊しと為す”の集大成があった。さりとて芸術的品位が損なわれることはまるでなく、ミュージカル・ナンバーは畏るべき名曲揃いで、作品全体が完成度の極みに達していた。また、ビル・T・ジョーンズによる振付や、ケヴィン・アダムズによる多数のネオン管が組み合わされた照明も、ユニークかつ冴え渡るセンスを感じさせ(いずれもトニー賞を受賞)、後者は我が国の演劇シーンにもエピゴーネン(追随者)を産んだほどだ。そして、なにより魅力的な演者らの活躍が若い観客層を熱狂させた。無名のオリジナルキャストだったジョナサン・グロフ、リア・ミシェル、ジョン・ギャラガーJR.、スカイラー・アスティンらは、本作をきっかけに、その後スターダムへと伸し上がっていく。
こうして最も効果的な姿で原作戯曲のスピリッツを現代に蘇生させることに成功したミュージカル版『春のめざめ』だったが、全米を襲ったリーマン・ショックの影響を受け、2009年初頭にブロードウェイ公演はクローズとなる。そして、日本では同年暮れから翌年にかけて劇団四季による日本語版のレプリカ公演が上演された。一方、アメリカでは“ろう劇団”のデフ・ウェスト・シアターが、手話も交えたリヴァイヴァル版を製作し、2015年~16年にブロードウェイで期間限定の上演をおこなった。その他にも、ネットで調べると、欧米アジアなど世界の諸国で様々な言語での上演がなされている。2021年11月には伝説のオリジナル・メンバーたちが再結集し15周年記念チャリティコンサートを開催、その模様は「春のめざめ -名作ブロードウェイ 再集結の舞台裏-」というドキュメンタリー映像に収められた(日本ではU-NEXTで独占配信中)。同メンバーは第75回トニー賞授賞式でも15周年記念パフォーマンスを披露した。
ときに、2017年3月、芸能の聖地・浅草に<人を育む劇場>というコンセプトのもと「浅草九劇」が開業した。この劇場は自主事業にも力を注ぎ、本格的なミュージカルを小劇場の距離感で楽しめる企画を2021年から開始。第一弾はオフ・ブロードウェイ・ミュージカルの『キッド・ヴィクトリー』、そして2022年夏の第二弾で一気にブロードウェイ・ミュージカルの上演に挑戦、それが『春のめざめ』だった。そして今回、2023年師走に待望の再演である。以下、その模様をお伝えする。
ミュージカル『春のめざめ』EASTチーム
浅草の六区ブロードウェイ商店街を演芸場やストリップ小屋を超えて北に抜け、ひさご通り商店街に入って少し歩けば、明治以来百年の歴史を持つ老舗の牛鍋店「米久 本店」が見える。その向かい側が「COFFEE BAR桟敷」、外階段を二階に昇れば「浅草九劇」である。いかに六区“ブロードウェイ”商店街からほど近いとはいえ、まだまだ昭和情緒(というか江戸情緒さえ)漂うこの街で、まさか本格的なブロードウェイ・ミュージカルが上演されていようとは誰が思うものか。しかも劇場に入れば、客席数が100にも満たないであろう小さく狭い空間。ニューヨークならばオフオフ・ブロードウェイの規模。そんなところで、まさかオン・ブロードウェイ作品を味わえるとは、或る意味、贅沢が過ぎる。それこそ、昔日の“浅草オペラ”ならぬ、“浅草ブロードウェイ・ミュージカル”として気炎を上げていいだろう。そして、この意表の突き方こそ、先述した「異化効果」の集大成のようなミュージカル作品にはもってこいの趣向といえそうだ。
劇場の中に入れば、舞台の前景が屋内にも屋外にも見える、白色を基調とした二層構造のシンプルな装置が奥に建っている。それはまた、校舎にも邸宅にも見える。両端の柱の下部にツタのような草が慎ましやかに絡まっているのがオツだ。場内に流れる、小川のせせらぎ、鳥のさえずりのSEが耳に心地よい。
装置の上層部の空間は、演奏者たちのオケピである。開演が近づくと、下手(しもて)から、音楽監督・演出補佐も務める濱田竜司(指揮・キーボード)、浅井智佳子(チェロ)、板本恵太(ベース)、金戸俊悟(ギター)、テオクソン(パーカッション・第二キーボード)が現れ、各々定位置に着席する。ベースはエレキとコントラバスの2本。ギターは、ガットギター、アコースティックギター2本、12弦アコースティックギター、エレキギター2本の計6本。上手(かみて)のテオクソン氏は正面からだと顔も楽器も殆ど見えないのが残念だ。それにしても、この人たちがひとたび演奏を始めれば、驚くほど美しい音色やシャープなリズムが繰り出されるので、本作のブロードウェイ・オリジナル・キャスト・サウンドトラックのCDを愛聴してやまない筆者は、CDの音を見事に超えてくる楽団の生演奏に耳が釘付けとなってしまう。
暗転板付きで開演。クラシックギターの哀しげなアルペジオに乗せて、ひとりヴェントラ(北村沙羅/内田未来)が姿見の前に立ち、大人へと変化しつつある自身の身体を確認するかのような身振りで最初のナンバー“Mama Who Bore Me”を歌う。彼女は母親(魏涼子/尹嬉淑)に子どもはどのようにして作られるのかを尋ねるが、はぐらかされてしまう。
次いで、友だちのイルゼ(吉澤まゆう/井上花菜)、マルタ(小多桜子/バリオスアリアナ)、アンナ(那須愛理佳/菊田万琴)、テア(大原よしの/神山彬子)が現れ、ヴェントラを含む5人で“Mama Who Bore Me(Reprise)”が烈しいビートで歌われる。冒頭の楽曲と同じ歌詞・同じ旋律でありながら、別の曲にしか聴こえない。彼女たちがガニ股で左右にカクカクと動く激しい振付も最高だ。
ミュージカル『春のめざめ』WESTチーム
入れ替わるように、ギムナジウムの男子生徒6人(メルヒオール=有馬爽人/東島京、モーリッツ=坂口湧久/江副貴紀、ヘンスヒェン=田川颯眞/池田航汰、エルンスト=天丸翼/平川聖大、ゲオルク=脇卓史/山下真人、オットー=熊野義貴/加賀谷奏音)が各自椅子を抱えて登場すると、舞台は忽ちラテン語の授業が行なわれている教室に早変わり。
厳格な男性教師(松井工/森田浩平)は、居眠りをしていたために質問に回答できないモーリッツ(坂口湧久/江副貴紀)を激しく叱責するが、成績最優秀のメルヒオール(有馬爽人/東島京)が級友を庇って教師に反論すると、それが仇となりクラス全員でラテン語の暗唱をするハメとなる。その暗唱のリズムに載せてメルヒオールが“All That's Known”を歌う。曲の合間にさりげなく髪を手でとくヘンスヒェンの仕草が妙に面白い。
教師が退出したことで油断し、お喋りを始めるモーリッツだが、すぐに戻ってきた教師に(サザエがカツオにするように)耳を引っ張られて咎められる。そんな彼が、日常の不満を爆発させるように歌い出す“The B*tch of Living”は、オットー、ゲオルク、エルンスト、ヘンスヒェンも追随してリレー形式でソロをとり、アンカーはメルヒオールが務める。パンク調の楽曲に激しいダンスと美しいハーモニーが共存し、想像の中で暴れまわる彼らが最後の一瞬に現実の厳格な教室に戻る様は圧巻だ。
ミュージカル『春のめざめ』WESTチーム
ミュージカル『春のめざめ』EASTチーム
最近エロティックな夢を見るようになった、と悩むモーリッツから相談を受けたメルヒオールは、読書の知識を披瀝し、自分が無神論者になったとも告げる。
その頃、学校では、エライネン校長とコトナカーレ先生が、次の学年試験でモーリッツを落第させる謀議を進めている。なお、本作に登場する大人たちは、他にもフルクサス牧師、ダマットレー男爵など、ふざけた名前ばかりであるが、これはヴェデキントの原作からして既にそのような諷刺の利いた命名がなされていることを踏襲している。一方、聖書に登場する“東方の三博士”の一人に由来するメルヒオールはヘブライ語で「光の君」を意味し、モーリッツは古代ローマ時代のアフリカ系黒人の聖マウリティウスやギリシャ語で「黒」を意味するマウロスに由来するという。つまりメルヒオールとモーリッツは、光と闇として象徴づけられていると、前述の岩波文庫版「春のめざめ」訳注で明かされている。このミュージカルの中でも、光と闇の主題は、セリフや歌詞、ストーリーに大きく関係していくので、ここは押さえておく必要がある。
さて、女子たちが男子たちの噂話や品定めで盛り上がっている頃、ゲオルクはピアノの家庭教師(の衣服越しの乳房)に夢中になり、ヘンスヒェンはシェイクスピアのテキストをネタに自慰に耽る(“My Junk”)。
ミュージカル『春のめざめ』WESTチーム
ミュージカル『春のめざめ』EASTチーム
メルヒオールの家に遊びにきたモーリッツは、女性の陰部や性の真実を記した紙切れを友から渡され、却って心が揺らいでしまう。ここで他の少年少女たちも揺らぐように一人ひとり紙切れを手に持って、“Touch Me”を官能的に歌唱する。物憂げな旋律と美しいハーモニーが波のように、聴く者の心にひたひたと沁み入ってくる。漂流船の帆先に立つかのように周囲の者たちに担がれたオットーがサビのソロを歌う時には、皆の持つ紙切れを波飛沫(なみしぶき)よろしく紙吹雪にして舞わせる演出に唸らされる。なお、紙切れは、少年少女たちが「紙切れよりも軽い」(※Totally F*ckedの日本語歌詞より)存在であることの象徴なのか、他のシーンでも片付けられることなく使用される。
ミュージカル『春のめざめ』EASTチーム
ミュージカル『春のめざめ』WESTチーム
場面は変わり、メルヒオールと幼なじみのヴェントラがたまたま森で出会う。異性として意識し合い始める2人(“The Word of Your Body”)。
ミュージカル『春のめざめ』EASTチーム
ミュージカル『春のめざめ』WESTチーム
その後ヴェントラは、友人のマルタやイルゼが父親から虐待を受けていることを知ってしまう。しかしマルタやイルゼには、実はそれ以上に人に言えない秘密があった……(“The Dark I Know Well”)。
ミュージカル『春のめざめ』WESTチーム
ミュージカル『春のめざめ』EAST
再びメルヒオールのところに現れたヴェントラは、友人の痛みを我が身をもって知りたいから、自分を叩いて欲しいとメルヒオールに懇願する。最初拒んでいたメルヒオールも、いつしか加虐性にめざめ、ヴェントラに暴力をふるってしまう。ちなみに、ドイツ/オーストリアの精神科医クラフト=エビングがサディズム/マゾヒズムという概念を創案した「性の精神病理」の出版は1886年、ヴェデキントの戯曲が出版される5年前であった。
そうこうするうちモーリッツは教師から落第を告げられ、父に激しく叱責され、メルヒオールの母親に救いの手を求めるもやんわり断られてしまい、絶望の淵へと追い詰められる(“And Then There Were None”)。
ミュージカル『春のめざめ』WEST
同じ頃、メルヒオールはヴェントラに加えた暴力を後悔し、自分自身に当惑している(“The Mirror - Blue Night”)。そこに再びヴェントラが現れ、メルヒオールは彼女の胸に耳をあてて鼓動を聴くうちに、もはや衝動を抑えきれなくなり……(“I Believe”)。やがてヴェントラの叫びと、雷鳴の轟と共に、第一幕が終わる。
第一幕のクライマックスというべき最後のナンバーにおいて、原詞では「I Believe/I Believe/I Believe/Oh,I Believe/All will be forgiven」(私は信じる、すべては赦される)が何度も繰り返されるが、浅草九劇版では「闇に/闇に/闇に/光を/与えたまえ」と歌われる(ここにも“闇と光”の主題が見られる)。大胆な意訳といえるが、翻訳・訳詞の金子絢子はこの曲に限らず、作品全体に渡り、日本語歌詞をつけるにあたり、原曲の歌詞の“音”に寄り添うような言葉を選んでいるように思える。ここで詳しく触れる余裕はないが、今回の訳詞を、家に帰ってからCDの歌詞カードや戯曲の原書などと比較すると、金子の思いっきりのよさがよりいっそう興味深く浮かび上がってくると思う。このプロダクションの大きな特徴のひとつといえるだろう。
ミュージカル『春のめざめ』WEST
休憩時間中は、この先に待ち受ける第二幕の怒涛の展開を予告するかのように、雷鳴混じりの雨音がSEで流れている。だが、このレポートで物語を追うのはここまでとしよう。ただし、ミュージカルの作者スティーヴン・セイタ―&ダンカン・シークは、観客をけっして暗澹たる気持ちのまま終わらせることはしないだろう、とだけ伝える。具体的なことは本番を観てのお楽しみである。
ミュージカル『春のめざめ』WEST
この物語は19世紀の話だが、21世紀の現代に通用する問題が随所にちりばめられている。それに加えて、現代日本の縮図を鏡に映したような要素さえも多々見受けられる。たとえば観劇をしながら「つい最近も不祥事対応で大人の都合を最優先させようとして問題になった大学があったっけ」などと思い浮かべてしまう人だっているだろう。当然、当舞台の演出家(奥山寛)もそれらを見越しての、独自の面白い仕掛けを最後に加味してくる。なんというか、奥山の演出は、ブロードウェイ・オリジナル版に一定の敬意を払いつつも比較的抑制を利かせたスタイルに見えるかもしれないが、実はしたたかに独自の「異化効果」を仕込ませていることが読み取れるのだ。が、それが何であるか、これもやはり本番を観てのお楽しみとする。
ミュージカル『春のめざめ』EASTチーム
最後に今回の俳優陣について少しだけ。まず、WESTとEAST、両チームとも全体的に演技・歌唱・ダンスのクォリティが一定レヴェルに達している。ただ、もちろん個々の印象は当然異なる(それだからこそ良いのだが)。
WESTのメルヒオール・有馬爽人は聡明であるがゆえの(いい意味での)生意気そうな表情が垣間見え、繊細な歌い方も巧みだった。EASTの同役・東島京は少女漫画に出てきそうな造型の顔立ちながら純朴そうで、良く響く声で真っ直ぐに歌うのが素敵だった。WESTのヴェントラ・北村沙羅は思春期の悩ましさを滲ませたような歌唱が魅力的で、EASTの同役・内田未来のほうは少女らしい清涼感のある真っ直ぐな歌声が耳心地よかった。第二幕の“Totally F*cked”では、左右の足をシリーウォークさながら曲げずに交互に上げて踊る北村、ぴょんぴょん飛び跳ねる内田、どちらも楽しく見ていられた。
WESTのモーリッツ・坂口湧久は哀愁を帯びた演技が板についているように見えたし、EASTの同役・江副貴紀はアニメ的な可愛い顔立ちなのに悲劇の道へと滑り落ちていく様が気の毒で仕方なかった。イルゼのWEST・吉澤まゆうとEAST・井上花菜は、絶望に打ちひしがれたモーリッツへの心配ぶりをそれぞれ深く表現できていて感動させられたし、“Blue Wind”や“The Song of Purple Summer”もしっかり聴かせてくれた。
ミュージカル『春のめざめ』EAST
WESTの大人の男性・松井工は第二幕での身体を微細に震わせて悲しみをこらえる演技に、EASTの同役・森田浩平は同場面で突然の悲しみに呆然と立ち尽くす演技に、それぞれぐっと来るものがあった。大人の女性役のWEST・魏涼子とEAST・尹嬉淑は、冷徹な演技と、(限界のある)優しさの演技をそれぞれのテクニックで見事にスウィッチングに成功していた。大人役はひとりで何役もこなさねばならないから演じ分けの苦労がしのばれる。……キリがないのでここで打ち止めとするが、本作では出演者全員に注目すべき点があるので、できればWESTとEASTの両チームの舞台を観て、表情の違いを確かめていただきたい。
ミュージカル『春のめざめ』EASTチーム
取材・文=安藤光夫(SPICE編集部)

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