【けいちゃん インタビュー】
作品を作るということが
自分の生きる意味だと改めて感じた
秀でたピアニストであると同時にコンポーザー、アレンジャー、シンガーとしても高いスキルを備えているけいちゃん。最新作となる3rdアルバム『円人』は実力派シンガーのmajikoをゲストに招いた楽曲あり、自身の歌唱曲あり、インストゥルメンタルありという幅広さを見せ、その全てが上質という佳作に仕上がっている。音楽家としてのけいちゃんの魅力が詰め込まれた同作について語ってもらった。
死後の世界を舞台にしつつ、
現世を彷徨う魂たちの世界を描いている
『円人』はシンガーのmajikoさんを迎えた3曲と、けいちゃんご自身が歌唱している2曲、そしてインストゥルメンタル6曲というハイブリッドな構成になっています。制作に入る前から、こういうアルバムにしようと考えていたのでしょうか?
当初から考えていました。僕は本当にやりたいことだらけの人間なので、今の自分のやりたいことを全部出しきりたいという想いがあったんです。
多面性を見せることで散漫な印象になってしまうかもしれないという迷いなどはありませんでしたか?
しっかりとコンセプトを立てて、自分の中で映像を作って、一枚を通してひとつの作品になるように作れば、そこは大丈夫だろうと思っていました。なので、迷ったりすることはなかったです。
実際、『円人』は多彩さが密度の濃さを生んだアルバムに仕上がっています。では、それぞれのパターンについてうかがいたいと思います。まずは、majikoさんをゲストに招いた経緯を教えてください。
僕はもともと曲を作っていく上で、“この曲はちょっと女性の声じゃないと成り立たないな”みたいな曲が出来上がることが結構ありまして。今回も女性の声が欲しい曲が3曲あって、それを芯があって、人の心を震わせるような声と歌い方を持っている人に歌ってほしいと思ったんですね。それで、以前から楽曲を聴かせていただいていて、すごくいいなと思っていたmajikoさんにオファーしたら快く受けてくださり、歌っていただけることになったんです。
けいちゃんさんとmajikoさんの才能やセンスなどが重なることで、いい化学反応が起きたことを感じます。
majikoさんは、ちょっと自分と似たものを感じたというか。人間性もそうだし、音楽性も好みが似ていたりするんです。なので、マッチしましたね。
分かります。「馬の耳ドロップ feat. majiko」や「夜行 feat. majiko」などはトリッキーな曲ですが、非常に魅力的なものに仕上がっていますよね。それはmajikoさんが、けいちゃんさんが表現したいものを的確に理解されたからこそだと思いました。
それはありましたね。あと、彼女は勘の良さみたいなものがすごいんですよ。僕が“こうしてほしい、ああしてほしい”と言ったことを、もう希望どおりに、あるいは想像を超えた表現の仕方で歌ってくれたんです。
おふたりがコラボレートされたことに、少し運命めいたものを感じます。「夜行 feat. majiko」は和が香るイントロからラップをフィーチャーしたクールなAメロに入り、サビで一気にアッパーな世界に変わるという予測不可能な展開になっています。この曲はどんなふうにかたちにしていかれたのでしょう?
これはmajikoさんと一緒に作っていった曲なんですけど、ある程度コード進行とメロディーを決めて、majikoさんにアレンジしてもらうということになって。そうなった時に、曲の途中でテンポが変わると面白いという話になって、それを取り入れることになったんです。それに、僕の中に以前から使いたいと思っていたコード進行があったので、それをサビに当て込むことにしたりとか。あとは、音楽仲間だからいろんなマニアックな話をすごくできて、そこからの弾みで生まれたメロディーとかもありました。例えば、“ドミナントコードの3番目の音を先頭に持ってくると、ちょっと引っかかるんだよね。なんで、引っかかるんだろうね”みたいな話をして、“じゃあ、それをサビに入れてみよう!”とか。
マニアックですねぇ(笑)。そのお話からは理論などを熟知した上で、理論に縛られずに感性を大事にされていることが分かります。
そうですね。ちゃんと土台に理論があって、その上で自由に遊ぶというのが楽しかった。本当にmajikoさんと深い話をしながら…なんて言うんだろう? 居酒屋で生まれた作品みたいなイメージ(笑)。実際にそうではないけど、雰囲気としてそういう感じです。
お互いに刺戟を受けながら制作を進めていかれたんですね。「夜行 feat. majiko」の歌詞についてもうかがいたいです。
世界観的には魑魅魍魎の世界というか、妖怪みたいなものが出てきたりする死後の世界を舞台にしつつ、現世を彷徨う魂たちの世界を描いています。とある男性が死んでしまって、その男性が愛していた恋人を目の前にして訴えかけるような曲で、男性は相手の女性のことが見えているけど、女性には自分の姿が見えていないという。そういう曲で和っぽさに関しては妖怪たちのお祭りというか、百鬼夜行のお祭りみたいな雰囲気を、サウンドとコード進行とメロディーラインで出しました。サビの疾走感みたいなものは丸サ進行(椎名林檎の「丸の内サディスティック」で使用されたことで有名なコード進行)を前半で使って、後半は僕が使いたかったコード進行になっているんですけど、僕の中では丸サ進行は恋とか恋愛モノのイメージがあって。それに疾走感を加えることで浮遊する感じというか、霊界にいる男性の渦巻いている様子を表現しました。
表現したいものが明確であると同時に、それを的確にかたちにする作曲力やアレンジ力を持たれていることが分かります。さらにびっくりしたことがありまして、「馬の耳ドロップ feat. majiko」や「夜行 feat. majiko」というトリッキーな楽曲がある一方で、「愛葬 feat. majiko」は王道的かつ良質なバラードという。
普通にロックバラードという(笑)。「夜行 feat. majiko」で男性と女性が対峙しているじゃないですか。「夜行 feat. majiko」は男性の目線だけど、「愛葬 feat. majiko」は女性側からの目線を歌っていて。女性からすると男性の姿は見えていないので、実は目の前にいるんだけど姿は見えていなくて、“どうして私の前に現れてくれないの?”と訴えかける情景を描いています。
2曲はリンクしているんですね!?
その2曲だけではなくて、今回のアルバムはひとつの物語として進んでいるんです。「夜行 feat. majiko」で男女が対峙して“自分はここにいるよ”ということを表現したあとにまた物語が進んでいって、「愛葬 feat. majiko」で「夜行 feat. majiko」のシーンに戻ることによって伏線を回収していくという。映画とか小説、アニメでもよくあるじゃないですか。過去のシーンに戻って、“実はこういう伏線があった!”みたいな。今回のアルバムはそういうものをラストに持ってきて、ドラマチックな構成にしたかったんです。