-真天地開闢集団-ジグザグ、初のホー
ルツアーファイナルでみせた”最高”
の新しいロックの形

-真天地開闢集団-ジグザグ・ホールツアー2023『全国開闢禊 -最高-』

2023.11.21(tue)東京ガーデンシアター
11月21日、-真天地開闢集団-ジグザグがホールツアー2023『全国開闢禊 -最高-』の最終公演を東京ガーデンシアターにて行った。
先に書いておくと、自分は彼らのライブ(禊、と呼ぶらしい)を観るのはこれが初めて。コロナ禍以降あちこちでその名前を見かけるようになり、すごい勢いで人気を拡大させていることは知っていたが、実際に禊を目撃したことでその理由がよくわかった。濃厚な世界観が高いエンタメ性と掛け合わされ(たとえば、ボーカル命のステージドリンクがひょうたん型のボトルに入っていたり)、それを高い演奏技術とボーカルが支える。さらに、シリアスからコミカルまで多彩な楽曲群によってめくるめくステージを見せていくので、2時間半という長尺ながらもダレる瞬間がまったくない。MCも含めて予定調和な流れはないし、次に何が飛び出すかわからない緊張感があった。演奏だけでなく照明も素晴らしく、非常にホール映えするパフォーマンスだった。つまり、完璧だったのだ。
彼らにとってこれが初のホールツアーだというが、ジグザグ初体験の自分には少々信じがたい。いい意味でライブハウスでの禊が想像つかなかった。それぐらい東京ガーデンシアターという大会場の空気を掌握しきっていたのだ。
あと、終盤のMCで命が自身のボーカルに納得がいってないという趣旨の発言をしていたのには大層驚いた。あれで、不調……? マジで……? 記憶をたどれば確かに高音がキツそうな場面はあったけれど、別に気になるレベルではなかったし、それよりも彼の表現力の高さには2時間半の間驚かされっぱなしだった。
命(唄)
では、この日の禊を振り返っていきたい。自分の中で未だに疑問として残っているのは、あれだけ様々な楽曲を次々と放り込んでおいて、なぜ全体の流れが破綻しないのかということ。冒頭から「Drip」「Mr. Idiot」とヘビーでストレートなロックチューンをソリッドな演奏で畳み掛ける。これはわかる。ロックバンドのライブの定石と言えよう。しかし、彼らは3曲目に「ニイハオ・ワンタンメン」という中国テイストの、ポップかつキャッチーな曲を入れてきたのだ。これ以降も似た方向性の楽曲が3曲以上続くことはなかったと思う。前述のとおり、ジグザグの楽曲はシリアスからコミカルまで幅が広いので、2時間半の間にあっちへ行ったりこっちへ行ったりするのだけど、不思議とそれがしっくりくる。おそらく、楽曲の表面的な方向性以上に深い部分で彼らなりの筋があるのだろう。そう結論づけないと理解ができない。
最初のMCで命は「大きくなったもんよのお」と感慨深げに広大なホール内を見渡した。今回のホールツアーは全公演ソールドアウト。破竹の勢いで駆け上がっていく自分たちに対する素直なひと言だった。そのあとに付け加えられた「これが最後の思い出かも知れへんからな、しっかり目に焼き付けておこう」という冗談っぽい言葉には客席から不満の声が上がる。
とある先輩ミュージシャンから、ライブハウスから始まったバンドがホールを回るようになると観客が冷静になって盛り上がらない可能性がある、と事前にアドバイスを受けていた命は、「盛り上がらなくてもバンドのせいじゃない」と笑ったが、最後は「ジグザグの禊が盛り上がらんちゅうことがあるかっちゅうの!」と一蹴。最新作「慈愚挫愚 四 -最高-」から「Dazzling Secret」「生きて」「Cry Out -victims-」とアルバムの曲順どおりに披露する。本作の発売からまだ2か月も経っていないのに、観客(参拝者、と呼ぶらしい)のノリが素晴らしかった。一糸乱れぬ盛り上がりながら、どことなく自由を感じさせるところもあり、このバンドにしてこのファンあり、といったところだろうか。
龍矢(低音弦)
ここまでで十分に-真天地開闢集団-ジグザグのなんたるかを把握したつもりだったが、甘かった。「スマイル★かわいいねん」である。なんと、メンバーの命、龍矢(Ba.)、影丸(Dr.)だけでなく、サポートギタリストの菅野尋までもが楽器を置き、四つ打ちのトラックをバックに踊りまくるのである。まさかここまでやるとは。そして、「最高だZ」を挟んで「Stay with me」へと移る。コミックソングとこのアメリカンロック然とした雄大なミディアムバラードを共存させる雰囲気作りがすごい。冒頭でも書いたように、卓越したテクニックがあってこそだろう。
ここまでは命の凄さが目立っていたが、禊のちょうど中盤には影丸のドラムソロのコーナーが用意されていた。ドラムセット2台を駆使したパフォーマンスはとにかく圧巻。しかも、高度なテクニックだけでなく、合間にタムで「鳩ぽっぽ」のフレーズを叩くというエンタメも忘れない。
影丸(太鼓)
ソロコーナーはなかったものの、龍矢のベースプレイも素晴らしかった。この鉄壁のリズム隊がいるからこそ、ジグザグの楽曲の説得力が増している。それは禊を見ていてよくわかった。それと同時に、この2人が命のことをとても信頼し、尊敬している様子がMCなどを通じて伝わってきた。こういう言い方が正しいかどうかはわからないが、親分と子分のような関係性というか。チームというよりも、ファミリーのような温かさがあるのだ。3人のやり取りを見ていてほっこりするのはそのせいだと思う。
サングラスをかけたメンバーが猫の忍者の格好で踊りながら歌う「拙者忍者、猫忍者。~木天蓼三毛蔵と町娘おりん~」もそうだ。わちゃわちゃと遊んでいるようにしか見えず、なんならアイドル的な要素まで感じられた。
個人的に一番印象に残ったのは猫忍者の次に演奏した「ラスデイラバー」。禊が進むに連れて、意表を突いた流れだからこそ各楽曲の存在感が際立つと感じるようになっていた。そんな曲順の効果もあり、「ラスデイ ラバー」の歌メロの良さがまっすぐに響いた。「結局、いい曲ってこういうことよね」と思わせる強さがある曲だ。
参拝者との一体感が目に見えて高まったのはそのあとにプレイしたバラード「傷と嘘」だ。これはコロナ禍前につくった曲で、いつかたくさんのお客さんを集めて広いところで一緒に合唱できたらいいなと命は考えていたそう。当時のリハでも「めっちゃええやろ?」とメンバーに話していたほどの曲だったのだが、コロナ禍で禊すらできない日々が続いた。昨年11月に行われた日本武道館公演でようやく初めて披露できたものの、参拝者との合唱はわず悔しい想いをしたという。そんな曲を本ツアーで遂に彼らとともに歌うことができた。その喜びは想像に難くない。現に、命は感極まっているように見えた。
そう、ジグザグの禊はエンタメ度が高く、自分のような初見の人間でも楽しめるぐらい間口が広い。実際、ステージ横に設置されたスクリーンに各曲の歌詞が映し出されていたのも、より多くの人に楽しんでもらおうという配慮だろう。しかし、だからといって最大公約数を狙った薄い内容になっているわけではない。「傷と嘘」は参拝者とバンドの繋がりの強さを証明する1曲になっていた。
上記のMCのあと、命はさらに心の内を吐露した。己の「ボーカリストとしての不甲斐なさ」を嘆き、「バシッとキメたかったんだよなあ」とボヤいた。しかし、龍矢が言った。「僕ら3人は常に最高だと思ってますから!」と。あまりにまっすぐに言うもんだから少しグッときてしまった。そこから「命さま最高!」のコール・アンド・レスポンスを各メンバー主導で繰り広げ、最後は命が自ら「命さま最高!」と煽った。
最後は参拝者全員が踊り狂った「きちゅねのよめいり」、そして最新作から「Nighty night!」をプレイし、終了。ラストは「最高!」の連呼。いや、たしかに最高だった。令和における新しいロックの形を見た気がした。この快進撃は当分止まらないだろうし、止まらなくていい。もっとやっちまえ。

取材・文=阿刀"DA"大志
-真天地開闢集団-ジグザグ

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