再会を祝し、続いていくバンドの旅を
予見させたGalileo Galilei“冬の収
穫祭”

Galileo Galilei Tour 2023 "WINTER HARVEST" -冬の収穫祭-

2023.11.15 豊洲PIT
Galileo Galileiにとってもファンにとっても2023年は忘れ難い年になった。昨年10月、warbearのライブにてリユニオンが発表され、今年5月31日に7年ぶりのアルバム『Bee and The Whales』をリリース。同日からツアーをスタートし、同ツアー中に今回の『WINTER HARVEST』が急遽決定。しかも、前回のツアーとの間に尾崎雄貴(Vo/Gt)と岩井郁人(Gt/Key)が軸になって制作を進めたバンドのドキュメンタリー映画『劇場版 僕らのGalileo Galilei〜会えたね〜』の公開という、およそ以前の彼らからは想像できない驚きの展開が待っていたのだから。
今回のツアーの発端でもある、彼らの不在時期にもいつかまた音楽を共有することをどこかで待望していた長年のファン、そして不在時期に出会った新しいファン。前回のツアーでの再会はバンド、ファン両者にとって空白の時間すら丸ごと肯定されたような空気に満ちていた。そこから約半年。始動後の豊穣を収穫しようというのが今回の『WINTER HARVEST』のテーマである。
Galileo Galilei
札幌からスタートし、大阪を経て東京にたどり着いたこのツアー。会場の豊洲PITは前回以上に多彩な若いオーディエンスが増えているように見える。誰もが静かにステージを見つめ開演を待っている中、雪を踏み締める足音、扉を開けて閉めるSEに続いて、岩井の弾くエレピが空間を満たす。「Blue River Side Alone」だ。一気にどこかの寒い国にワープする感覚。すかさず透明なギターフレーズが響き、歓声が上がった「管制塔」。大人になった彼らがこの曲で予想していた通りの未来がまさに今ここにある。そんな感慨に満たされ、演奏が終わるとまるでオペラハウスで聴くような拍手が起きた。そこから新作より「ギターバッグ」に連なるバンドの誕生、もしくは変わることのない衝動に、時間を飛び越えて常に彼らの心の中で燃え続ける何かを見た。この曲から雄貴のアイコンでもある後ろ姿のイラストが背景のスクリーンに映し出され、その先にさまざまな景色が映し出される。さらに、今の年齢だからこそメンバー間で共有される父親というものに対する思いを表現した「ファーザー」への流れもしっくりくる。サポートメンバーは前回のツアーやBBHFでもお馴染みの大久保淳也(Sax/Fl)、BBHFのDAIKI(Gt)。二人を含めほぼ横一列に6人が並ぶ。
尾崎雄貴
岩井郁人
最初のMCで雄貴が今回のツアーは前回のツアーで蒔いた種の実りを収穫するためだと話し、ファンに謝辞を述べた。グッとリズム隊の音域が出たイントロに大久保のサックスが乗ると意外なチョイスだったアルバム『ALARMS』から「愛を」を披露。クラップと“Hey!”のコールの見事な揃いっぷりにファンの過去曲への愛を感じた。続くAimerとのコラボでも知られる「バナナフィッシュの浜辺と黒い虹」の曲中でメンバー紹介を行い、「あそぼ」と雄貴の個性であるちょっとシニカルで潔癖でいて、しかも毒を含んだ歌が続いた。サウンドやジャンル感だけじゃなく、歌詞面の深度も突出していることを再認識するばかりだ。
岡崎真輝
尾崎和樹
背景が線路を進む視点に変わると「品川を出ると次は終点、東京です」というアナウンスと共に「くるりへのオマージュ」でもある「愛なき世界」へ。画面は9分割されどこまでも行けるという歌詞にリンクし、ネオソウルっぽいビート感が緩やかな前進を体感させる。お馴染みギターリフが交差するイントロに多くの手が上がった「青い栞」での尾崎和樹(Dr)と岡崎真輝(Ba)による8ビートのタフなこと。そして雄貴、岩井、DAIKIの3本のギターは洋楽のベテランバンドのごとく安定感だ。しかも全てがクリアで6人の意思がそのまま伝わるような音響にも心臓を掴まれる。一転、「Bee and The Whales」では音のコラージュが軸のミニマムなサウンドの上を、雄貴のオルタナティヴソウルっぽい歌唱が冴えていた。
Galileo Galilei
ジャンルの振り幅を意識させない自然な流れに感銘を受けていると、部屋で話すようなテンションで雄貴が話し始める。映画について、そして各地で出会うファンが自分たちと同じように歳を重ねてきたこと。今回のツアーはバンドは続いていくし、再始動ビジネスみたいに思われたくなかったからだ、とも。そんな心配は杞憂だとばかりに笑いが起きていたが。
Galileo Galilei
そして、以前は恒例になっていた洋楽のカバーも復活。The1975やテイラー・スィフトで知られるプロデューサー、ジャック・アントノフのバンド、ブリーチャーズの「Modern Girl」の日本語訳詞バージョンを披露。ポップロックという意外とGalileo Galileiにありそうでないスタイルが新鮮で、大久保のサックスがまたしても大活躍していた。雄貴と岩井がシンセと鍵盤で向き合った「Imaginary Friends」の更新された音像、エレクトロなR&Bのニュアンスが澄んだ音で届く「ピーターへ愛を込めて」。どんどん深みを増したアンサンブルの凄みに引き込まれていく。“はじまりはこんな冬の くそ寒い一日で”という歌い出しの温度感、試練に満ちた冒険を鋭く見据えるように歌う尾崎雄貴という人のスケールに射抜かれた「燃える森と氷河」。その孤独や不変の魂が今、演奏として鳴っていることに揺さぶられる。すごいバンドだなとシンプルに思うのだ。
尾崎雄貴
さらに、音源はこんな曲だったっけ?と思い返すこともわないほどのギター、シンセ、リズムの全てが壁のように押し寄せる「ヘイヘイ」。岩井とDAIKIのギターがシューゲイザーの様相を呈したアウトロからそのまま「星を落とす」への接続にも鳥肌が立つ。音楽を作り奏でることの理由が詰まったこの曲。初々しい決意の歌は、その軌跡の始まりからバンドとファンを見えない何かで繋いできたのだと理解する。一際大きな拍手が起き、雄貴の「最後の曲です」という言葉にも誰も異論を挟む余地はない。なんというか、こんなに納得のセットリストを前に何が言えるというのだろう。ラストは前回の『Bee and The Whales』ツアー同様、「Sea and The Darkness II」。遠くに届けるような歌が蒼い闇の中から発される演出は、聴き手がGalileo Galileiと向き合う時間となって、本編の記憶を各自のページに記せたんじゃないだろうか。素晴らしい90分だった。
Galileo Galilei
感銘というか、いい意味で打ちひしがれたようなオーディエンスは淡々と拍手でアンコールを求め、暗くなったステージにメンバーが再登場。何も足さないシンプルなバンドサウンドで「夢に唄えば」を披露した後、久しぶりのTsunagari Daisuki ClubのイベントをGalileo GalileiとBBHFの2マンツアーという形で実施することを発表。これまでThe Novembers、恋する円盤POP ETCと行ってきたが、今回誰を呼ぼう?と考えた時、BBHFが浮かんだのだという。そしてGalileo Galileiの次回作は2枚組アルバムではなく、個別に2作アルバムをリリースすると宣言。「心からやりたいことをやっていくので、来年も楽しみにしてください」という雄貴の言葉にこちらも奮い立たされる。この日の最終曲は今年のGalileo Galileiとの再会を象徴する新曲「あえたね」だった。歌詞にあるように、この瞬間、誰もが小さな赤い車に乗ってGalileo Galileiと旅をしていたと思う。この続きをまた見たい。
Galileo Galilei

文=石角友香
撮影=Hideyuki Seta

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