「2つで1つの作品に」高羽彩×有澤樟
太郎、池田亮×東啓介が新作バックス
テージもの2作同時上演に意気込む〜
『TOHO MUSICAL LAB.』第2弾座談会〜

劇場の扉が閉ざされてしまった、2020年。劇場で演劇を観る楽しさを思い出してもらおうという想いから生まれたプロジェクト「TOHO MUSICAL LAB.」が、2023年11月、3年ぶりに日比谷シアタークリエで再始動する。
新作オリジナルミュージカルの短編2作品を2日間3公演で同時上演するという実験的なプロジェクトに挑むクリエイターは、高羽彩(タカハ劇団)と池田良(ゆうめい)。上演されるのは奇しくもバックステージものになったという2作品、『わたしを、褒めて』(作・演出:高羽彩)と『DESK』(作・演出:池田亮)だ。主演はそれぞれ、有澤樟太郎と東啓介が務める。
開幕まで1ヶ月を切った頃、シアタークリエにて高羽、有澤、池田、東ら4名による座談会が行われた。ミュージカル愛が詰まった新しい作品が生まれるに違いない、そんな期待が膨らむ言葉たちが次々と語られていった。
“実験”に向けてのそれぞれの想い
ーーまずはお一人ずつ作品への意気込みをお願いします。
高羽:大きな野望として「ミュージカルを作りたい」とずっと思っていたんです。自分が書いた作品でも「これをミュージカルにしたらめちゃめちゃ面白いぞ」という想いを抱えていました。ただ、今の日本の演劇界で新作オリジナルミュージカルにチャレンジすることはなかなか難しい。タカハ劇団のような小劇場をメインに活動しているユニットだとなおさら。そんなときにいただいたお話なので、これはチャンスだぞと。ミュージカルを作る上で大きな勉強の場になりますし、新作オリジナル作品がかかる場所があること自体が、これからの日本のミュージカル界にとってものすごく意義があることだなと。「みんなオリジナルミュージル作ろうぜ!」という気持ちです。
今回の作品は、舞台の初日を迎える直前の舞台裏という設定。一番ドタバタしている様子を面白おかしく描くバックステージものです。普段、裏方のスタッフさんがどういうことをしているのかまではお客様になかなか伝わらないけれど、スタッフさんのプロフェッショナルなお仕事があって初めて作品はお客様の元に届きます。とにかくそれをお客様に知ってほしかったんです。わかっていただけたらきっとお芝居を観るのがもっと好きになっていただけるんじゃないかなって。客席に座っている方々も、悔しい気持ちを飲み込んだり悲しい気持ちを乗り越えたりしながら日々お仕事に向かわれていると思うんですね。そんな方々へのエールも届けるつもりで、生々しいけれども楽しいバックステージものをやりたいなと思います。
有澤:『TOHO MUSICAL LAB.』というすごく素敵な企画に参加できるのが楽しみです。高羽さんとご一緒するのは今回で2度目になるのですが、(台本を読んだときに)「あ、高羽さんが書く本だなあ」って(笑)。既にご一緒しているからこそ「高羽さんがやりたかったことなんだろうな」とちょっとわかったような感覚があったんです。高羽さんをはじめ、大好きな方たちと一緒に作品作りができるのがすごく楽しみ。しかも今回は「ラボ」ということで、僕は「実験」というワードも大好きなんです。短い期間ですがいろんなことにチャレンジして、高羽さんが作ってくださった作品を舞台に乗せてみなさんに届けたいなと思います。
高羽彩、有澤樟太郎
池田:企画名に「ラボ」とついているので、とにかく実験、開発、研究をするところだと捉えています。初めて新作オリジナルミュージカルの短編を短期間で作るとなったとき、「今までにないミュージカルを作りたい」と思いました。それと同時に、自分の周りで働くいろいろな方に話を聞いていく中で「現代で働く人の声を歌にしてみたい」と思ったんですね。それこそ新しいミュージカルにすることができるんじゃないかと。短い期間ですが素晴らしいキャスト・スタッフの方々に揃っていただけたので、自分としては本当に贅沢な時間ですし滅多にない機会。実験しながら新しいものをみなさんと一緒に見つけられたらいいなと思っております。
東:『TOHO MUSICAL LAB.』の企画に出演できることを本当に光栄に思います。「実験」というのが面白いですよね。ミュージカルを作るにはたくさんのスタッフさんが必要ですし、権利関係など制約も多い中、実験をしようという試みがすごく素敵だなと。しかも日本の新しいオリジナルミュージカルということも僕は誇りに思います。実験をたくさんやることによってミュージカルを好きになってくださる方が増えたり、他の作品にも興味を持ってもらって活気が出てきたらいいなと思うんです。観に来てくださった方には「ミュージカルって全然重苦しくないんだよ、こんなに素敵な楽曲がたくさんあるんだよ」と伝えたり、演劇を観ることによって人生がほんの少し豊かになる体験をしてもらえたら。ぜひ、気軽に観に来ていただけたらいいなと思います。
東啓介、池田亮
ーー作品を共に作るカンパニーのみなさんの印象は?
高羽:以前ご一緒したときも有澤さんはビッグだったけれど、この数年間でさらにビッグになっていて!「有澤さんは歌もすごいんですよ」と各方面から聞いていますし、この座組のメインをバンと張っていただける俳優さんだろうなとすごく期待しています。他のキャストの方々に関してはみなさん初めまして。非常に達者な方たちであるということは身に沁みておりますので、安心して作品を委ね「好きにやってください!」という感じです(笑)。ストレートプレイの演出に慣れている私との共同作業も楽しんでいただけたらいいなと思っています。今から稽古が楽しみです!
ーー池田さんはいかがですか?
東:(隣の池田さんの方を向いて座り直し、膝に手を置き真剣な眼差しで池田さんを見つめる東さん)
池田:僕が初めて東さんを観たのは2.5次元の舞台『弱虫ペダル』。東さんはめちゃくちゃ熱い役を演じていたのですが、役よりも俳優本人に目がいってしまったんです。これって2.5次元の舞台ではなかなかないこと。俳優さんとしての東さんの印象が強くあったので、今回出演してくださって本当に感謝しています。当時客席にいた自分としてはめちゃくちゃ嬉しいです。
東:『弱虫ペダル』はミュージカルではなかったですし、今回はまた違った関わり方ができるということで僕も楽しみにしています!
ーー出演者のお二人にとっての共演者の方々の印象は?
東:豊原(江理佳)さんは事務所の後輩で、彼女が初めてヒロインを務めた舞台『5DAYS 辺境のロミオとジュリエット』と、今年のミュージカル『ザ・ビューティフル・ゲーム』で共演していたので親交があります。壮一帆さんとは劇作家の末満健一さんの「TRUMPシリーズ」でご一緒していて、今回はそれ以来なのでまたこうしてお仕事ができるのが楽しみです。
有澤:僕はエリアンナさんとは初めましてですが、もちろん舞台で拝見しています。また舞台上で屋比久(知奈)ちゃんの歌を聴けるのも楽しみですし、美弥(るりか)さんからは「有澤くんと真剣な芝居なんてできるかなあ」と言われています(笑)。美弥さんとはプライベートでも親交があるので相手役だったらどうしようかと思いましたが、そういう役柄ではなかったのでちょっと安心しています(笑)。

「ミュージカルは非日常かつリアリティがあるもの(池田)」

ーーミュージカルならではの楽しさを、みなさんはそれぞれどう感じていらっしゃいますか?
有澤:ミュージカルはみんな好きですし、ミュージカルというだけでハッピーになれる作品が多いですし、僕自身も観に行くのが大好きです。しかも今回は短編2作の同時上演という、普段とは違っためちゃくちゃ贅沢な公演。観てくださる方に一つひとつの歌詞がダイレクトに刺さって前向きになれるような作品だと思うので、ミュージカルの魅力をたっぷり詰め込めるんじゃないかなと思います。
高羽:私は普段ストレートプレイを書くことがメインですが、ミュージカルって強制的にお客様の心の扉をバコッと開いちゃう力があると思うんです。ストレートプレイでこんこんとメッセージを伝えるよりも、もっとダイレクトに「オリャー!」って。
東:文面で伝わるかなあ(笑)。
一同:(笑)。
高羽:お客様の心に直接触れて「グイッ」とするような(笑)、そういうことがミュージカルだからこそできると思ったんです。非日常的なミュージカル空間とお仕事ものという日常のテーマが重なったときに、お客様の日常の中に非日常を届けることができるんじゃないかって。例えば電車に乗るときに頭の中でテーマソングが流れているような、歌に溢れた日々を作ることができるんじゃないかなと。なので、あえてバックステージものをミュージカルで作ろうと思いました。
池田:ミュージカルというと、つい擬音表現に手を出しそうになるくらい感覚的な話になっちゃいますよね(笑)。僕が初めて観たミュージカルは市民ミュージカルだったのですが、なぜかわからないけれど歌った瞬間にものすごく感動したんです。心の奥底からグツグツと湧き上がる言葉にできないものを感じて「これは一体なんだろう」とずっと考えていました。そこで思ったのが、ミュージカルって実はすごくリアリティがあるんじゃないかということ。確かに登場人物は突然歌うかもしれないけれど、その歌は自分の心のどこかに引っかかるリアリティを持っていて、それによって感情が持っていかれる。ミュージカルは非日常かつリアリティがあるものだと感じたので、今回のバックステージものという作品のテーマに繋がったんだなと今改めて思いました。
東:池田さんがおっしゃったようにミュージカルは音楽というツールであって、根本は思っていることを歌にして打ち明けているだけ。それがすごく素敵だなと思うんです。学校に行く前に音楽を聴いて元気が出たり、自分も歌ってみたらすっきりしたり、あるアーティストさんの歌詞を歌うだけで気持ちが晴れたり、そういう感覚とミュージカルは共通するものがあると思います。今回のバックステージものの作品はみなさんへのエールになると思いますし、みなさんにもたくさん歌ってほしい。恥ずかしいかもしれないけれど、思っていることを出せないのってストレスになりますよね。歌にすることによっていろんな色が見えてくるので、そこがミュージカルのすごいところ。力をもらえるし、かっこいいし、とても素敵だなと思います。
「ミニマムだけれど王道のミュージカルを感じられるような楽曲に(高羽)」
ーーミュージカルといえば音楽ということで、現時点でどのような音楽をイメージされていらっしゃいますか?
池田:僕の脚本を読んだ感じだと、一見暗いのかなと思いきや演出上では意外と明るかったりします(笑)。
東:えーーー! 超楽しみなんですけど! 僕、まさにそのタイプでした。(最初に台本に目を通したとき)ちょっと暗い感じなのかなという印象があって。
池田:脚本を読むだけだとそうなりますよね(笑)。でも自分の中では、暗い言葉をあえて明るく元気に叫んだ方が開放感が出るんじゃないかなと考えていて。めちゃくちゃ疲れ切ったときって変なテンションになるじゃないですか。そんなイメージです。
高羽:私は自分がミュージカルを観るならなるべく長い時間音楽が流れていてほしい、歌を歌っていてほしいと思うので、基本的には常に何か音楽が聞こえていたらなと。バックステージものなので、バンドメンバーさんもバックステージにいる設定で登場してもらおうかなと考えています。あと、起承転結を感じられる音楽の流れを作りたいとも思っていて。テーマソングがあって、激しめの曲があったらバラードもあり、最後はフィナーレで大団円でテーマソングに戻ってくるという。ミニマムだけれど王道のミュージカルを感じられるような楽曲にしていきたいなと考えているところです。
ーーしかも生演奏なんですね。
高羽:はい! シンプルな編成ですが、だからこそポップでパワフルな楽曲にピッタリな編成だと思うので、その辺りもぜひお楽しみに。
池田:『DESK』も生演奏なのですが、僕、生演奏めちゃくちゃ好きなんですよ。生演奏なだけで「良いもの見た〜!」という気持ちになっちゃうくらい、生演奏に対してガバガバ(笑)。なのでめちゃくちゃ楽しみですし、本当にありがとうございますという気持ちです。
シアタークリエという空間ならではの構想
ーー前回の『TOHO MUSICAL LAB.』は無観客配信ということもあり、シアタークリエの客席を使った演出もありました。今回もシアタークリエで創作をされるということで、何か意識されていることはありますか?
池田:・・・・・・やっぱり盆ですよね。ネタバレになっちゃうけど(笑)。
東:盆を使うんですか!?
池田:使います。シアタークリエにはシアタークリエにしかない空間があると思うんです。他の劇場とは違う、例えばちょうどいい高さとか、なぜか盆がしっかりあるところとか。いいところがすごく詰まった劇場なので、それを短編だからといって縮こまらせずに大きく使いたいなとめちゃくちゃ意識しています。今、僕が答える前に高羽さんが「絶対盆だ」みたいな目で見てきたので、言うしかなかったです(笑)。
高羽:ネタバレになっちゃうなら今から違うことを言っても・・・・・・(笑)。
池田:いや、もう遅いです(笑)。
東:回るものは回った方がいいですからね!
高羽:私も図面を見て「盆があるなあ〜」とは思いました(笑)。でも回さないです。誰かが回しそうだなと思ったので。
池田:“誰か”って僕しかいないじゃないですか(笑)。
高羽:はい(笑)。私の場合は感覚的なお話になるのですが、シアタークリエは名だたるミュージカル作品が年がら年中かかっていて、この空間にいる人はみんなミュージカルが好きなんだろうな、と決めつけているところがあって(笑)。この空間自体がミュージカル愛に溢れた空間だろうなと。その思い込み、いやでもきっと多分そう。お客様もスタッフも、ミュージカルを好きな人がこの場所に集まってくると思うので、その愛を信じて「ミュージカルお好きですよね? 私たちもです!」という感じの空間づくりというか。お客様と舞台上のキャストと裏で支えるスタッフたちのお互いの愛情を交換するような場所にするのが、シアタークリエでミュージカルをやるときに何より大事なことかなと思います。
ーーいろいろとお話をうかがってきましたが、最後に何か言い残したことがあれば・・・・・・。
東:僕、ちょっと気になっていることがあるので質問してもいいですか?
ーーぜひお願いします!
東:オムニバス形式の作品はあまりやったことがないのですが、違う作品を同時上演することでお互いに意識することってあるのでしょうか?
池田:自分の意識では、バトルではなく対バン形式のような感じです。オムニバスのときに他の作品より面白くしたいと思うことはありますが、今回に関してはそうじゃなくて。高羽さんも僕も絶対に新しい発見があるから、盛りだくさんというイメージがあるんですよね。例えば『有吉の壁』や『千鳥のクセがスゴいネタGP』のようなバラエティ番組を観る感覚が強いので(笑)、とにかくバラエティ豊かなものとして観ていただけたら。
高羽:私と池田さんの作品のどちらが先に上演するかはまだ決まっていないんです。ただ、私は初日直前のバックステージを舞台にしているので、池田さんの作品にバトンを渡すようなものになるといいなと今は思っています。いろんな人が関わって舞台を作っているという作品を観たあとに池田さんの作品を観ることで、さっきの私の作品に出ていたようなスタッフさんの姿が浮かび上がってくるような構造になったらいいなあって。2本で1つの作品のような、同じテーマ性を持った作品になったらすごく素敵だなと思います。
取材・文 = 松村 蘭(らんねえ) 撮影=池上夢貢

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