東山紀之「こんな家族の愛の形もある
んだと感じていただけたら嬉しい」ー
ー岡本圭人と共演する舞台『チョコレ
ートドーナツ』で伝えたい家族の愛の

2012年に全米で公開された映画『チョコレートドーナツ(原題:ANY DAY NOW)』。偏見や差別意識がまだまだ残る1979年のカリフォルニアを舞台に、シンガーを夢見るショーパブダンサーのルディ、ゲイを隠して生きる検察官のポール、母の愛情を受けずに育ったダウン症の少年マルコが紡ぐ愛の物語で感動の渦を巻き起こし、各地で観客賞を総なめにした。日本では2年後の2014年に上映され広く支持を得たこの映画を、2020年に世界で初めて、宮本亞門演出で舞台化。主演を務めた東山紀之の美しいドラァグクイーン姿でも話題を呼んだ。そして今年、東山演じるルディに恋するポールとして、新たに岡本圭人を迎えて10月8日(日)のPARCO劇場公演を皮切りに再演が決定。年内で表舞台からの引退を発表した東山紀之が伝えた、同作のテーマとはーー。

世界初の舞台化となった初演を「僕自身も本当に大好きな映画でありましたし、亞門さんと初めてご一緒させていただけるということで、プレッシャーというよりも喜びの方が大きかった」と振り返る東山。しかし新型コロナウイルスの影響で、一部公演の中止や規制もあったことから「制限がある中でもエンターテインメントの力を出さなければと思っていました。今回は開放的に思いっきりできるということで楽しみにしております」と再演へかける思いもひとしおのようだ。
東山が演じるのは実在した人物をモデルに描かれた、ショーパブダンサーのルディ。東山は彼のキャラクターを「愛の人」と言い切り「現代の方が(LGBTQに対しての)理解は深まってきてはいますが、舞台となった差別と偏見が残る70年代のアメリカと今の社会も通ずるものがあります。(同作は)年齢差や性差、育った環境の違いなどを乗り越えていくストーリーです。愛の形、そして偏見や差別と戦う姿勢をエンターテインメントを通して表現したい」と続ける。「亞門さんもセリフの言い回しというより、感情の揺れ動きを非常に求められていらっしゃいました。結構泣き叫んでいます」と、感情を爆発させる演技を引き出してもらったことも明かす。
東山紀之
ルディがショーパブダンサーという役柄のこともあり、煌びやかなダンスショーも見どころのひとつ。70年代アメリカのヒットナンバーで日本でも馴染みのある楽曲が勢揃いする。映画では口パクだったが、東山は歌も日本語でカバーして披露する。YouTubeで公開中の舞台使用曲プレイリストの中から、思い入れのある曲を聞くと「やはりオープニング(のフランス・ジョリ「Come To Me」)です」と即答。「あのステージングは僕にとっても皆様にとっても衝撃的。ハイヒールで登場するところから舞台の雰囲気は一気に変わっていくので、オープニングナンバーは非常に重要だなと。そこから物語が進み、ボブ・ディランの曲で終わるまでお客様の揺れ動きを感じました」とし、映画の原題『Any Day Now』がボブ・ディランの「I Shall Be Released」の歌詞が由来であることにも触れた。
登場シーンが衝撃的というのも、舞台上で「ドラァグクイーンの扮装をした東山紀之」ではなく、ルディとして存在しているからこそ。「(上演する)場所によって「うわー!」と驚いてくれるところと、引かれるところと様々ですが、表現の違いだけで皆さん思ってることは同じなのかな。ハロウィンの化け物だなんて自分でも言ってるように、僕とは思えないんじゃないでしょうか。ただ、僕を観に来たのに居なかったと言われたら困るんですけど(笑)」と冗談を挟みつつ「僕を見失ってくれたら成功です」と笑みを浮かべる。
ルディとともに物語を動かしていくのは、日頃ゲイということを隠して生きてきたが、客として訪れたショーパブで東山が務めるルディに魅了され、恋に落ちる検察官のポール。正義感が強いポールは、『Le Fils息子』(21)や『4000マイルズ〜旅立ちの時~』(22-23)での名演が記憶に新しい、岡本圭人が演じる。初演の谷原章介からバトンを受け取った岡本が、どのようなポールを舞台上で表現するのか気になるところだ。赤ちゃんの頃から見守ってきた岡本について東山は「Hey!Say!JUMPに入る時も、お父さんと同じく演者で生きていくと聞いた時も驚きました。その都度、話をしてきたので、まさかこういう縁が生まれるとは思わず。何度か圭人の舞台を観に行きましたが、きちんと役に向き合っているなという印象があります。ひとりの俳優として敬意を持ちながら接していきたいです」と襟を正した。
東山紀之
ルディとポールが育む愛も気になるところだが、ふたりが保護し共に暮らしていくダウン症の少年、マルコも物語で重要な人物のひとり。マルコを演じるのは、ダウン症をもつ丹下開登、鎗田雄大、鈴木魁人の三人。「ダウン症の方を舞台でキャスティングするということにも意味を感じています。チラシにも載っている開登は初演の時も出演してくれたのですが、その時に開登のお母様が末期の癌だったのです。この間、開登と会ったらもう亡くなられていたのですが、3年前にお母様と話した時に「舞台が決まって生き生きとしてる息子を見ることが本当に幸せだ」と。そんな思いも聞いているので、障がいを持った子たちにも、この舞台で可能性を引き出してあげられたら嬉しいです」と、この日一番の熱意を込めて語る。
それぞれに世間との障壁を抱える三人。「脚本にも少しアレンジが加わりました。なぜマルコは施設にいたのか、なぜポールは酔っ払ったのかなど、初演より登場人物のバックグランドが深く描かれています」と変更点も説明した上で、変わらないものはやはり「愛」だという。「チョコレートドーナツは、愛や希望の象徴になっていきます。歴史的な背景も併せて、こんな家族の愛の形もあるんだと感じていただけたら嬉しいです」と誘った。
東山も熱を込めて語ったように、ダウン症の役を実際にその障がいを抱える役者たちが演じるというリアリティを追い求める同作。11月23日(木・祝)まで巡演する東京、大阪、熊本、宮城、名古屋で、差別が生む罪の重みや愛の尊さをエンターテインメントに昇華して伝えていくことだろう。
取材・文=川井美波(SPICE編集部) 撮影=オフィシャル提供(藤田晃史)

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