GRAPEVINE、アルバムのリリースツア
ー前哨戦と言うにはあまりにも見応え
のあるライブだった『SUMMER SHOW』
を振り返る

GRAPEVINE SUMMER SHOW

2023.9.14 Zepp Shinjuku
『新しい果実』から2年4か月ぶりにリリースする最新アルバム『Almost there』にGRAPEVINEのメンバーたちは、かなりの手応えを感じているに違いない。
『Almost there』のリリースを目前に控えた絶妙のタイミングで東京、静岡、大阪で開催したワンマンライブ『SUMMER SHOW』が印象づけたのは、まさにそれだった。
『SUMMER SHOW』の初日となった9月14日のZepp Shinjuku公演で、のりにのっているバンドの姿をまざまざと見せつけられ、筆者は、あぁ、きっとGRAPEVINEのメンバーたちは新しいアルバムの出来が良すぎるあまり、10月に開催するリリースツアーまで待っていられなかったに違いないと思わずにいられなかった。
だったら、リリース前にライブをやって、新曲を披露したらいいじゃないか!
メンバーたちがそう考えたかどうかはさておき、『Almost there』を完成させた、その勢いのまま彼らが今回のライブに臨んでいることは、2週間前にシングルとして配信リリースしているとは言え、1曲目にいきなり新曲「Ub (You bet on it)」を、持ってきたところからも窺える。
しかも、その「Ub (You bet on it)」がちょっとクセのあるバンドアンサンブルの妙を聴かせるミッドテンポのロックナンバーというところが心憎いではないか。楽曲の軸となっている田中和将(Vo,Gt)が奏でるコードリフと歌に西川弘剛(Gt)、亀井亨(Dr)、金戸覚(Ba)が思い思いに加えるフリーキーとも言えるフレーズが螺旋状に絡み合う演奏を聴きながら、今現在のGRAPEVINEが持つケミストリーを伝える演奏にたちまち釘付けに!
《新しい果実には当然 熟す時が訪れる》なんて、前のアルバムからの連続性も感じられる歌詞も飛び出す田中の歌も含め、バンドの演奏にじっと耳を傾けていた観客たちがじわじわと熱を上げるバンドの演奏に合わせ、体を揺らし始めると、曲の終盤では高野勲(Key)が奏でるキーボードがファンファーレのように鳴る。
そこから金戸の図太いベースラインがバンドサウンドをリードする「冥王星」、西川がリフに加えるチョーキングがサックスっぽい音色で鳴る「スレドニ・ヴァシュター」と懐かしい曲を繋げ、バンドの演奏は一気に白熱。拍手とともに歓喜の声も上がったフロアは、すでに大きくうねり始めている。「スレドニ・ヴァシュター」では、どんどん熱を帯びていく田中の歌声に加え、ギターソロに西川がさりげなく交えた力強いベンドも聴きどころだった。
「改めまして、こんばんは! GRAPEVINEです。Zepp Shinjuku、はじめまして! それ以外に言うことはないです。あのー、27日にアルバムが出ます。アルバム前でございます。だからどうしたって話ですが、最後までよろしく!」
田中による、実にらしい挨拶を挟んでから、バンドは早速、『Almost there』から「Ready to get started?」を初披露。イントロから田中と西川がハモらせるツインリードギターに少々面食らいながら、GRAPEVINEらしからぬ(?)爽やかなパワーポップサウンドが心地いい。間奏で、嬉々としてギターソロをハモらせる田中と西川に観客は大歓び。踊り始める観客も少なくない。
田中がソリッドギターをセミアコに持ち替えた「目覚ましはいつも鳴りやまない」は、ファルセットを交えた田中の歌に亀井がハーモニーを加えるアーバンなソウルナンバーだ。西川がワウを踏みながら加えるオブリもムーディーで曲調にぴったり……なんだけれど、西川が艶っぽい音色でソロを弾き始めとたん、金戸と亀井がそれぞれダイナミックなグリッサンドとフィルを割り込ませ、さらには高野がアナログシンセでドローンサウンドを加えるという、誰一人、一歩も退かずに曲の印象をがらっと変えるアンサブルがあまりにもスリリングで、これこそがバンドサウンドだろ!と筆者はメモを取るノートに書き殴らずにいられなかった。
続く「NOS」はサイケデリックブギなんて言葉も思い浮かぶロックンロールサウンドの中に、たとえばエフェクターペダルを巧みに使い、フィードバックを操りながら西川が奏でるモーダルなフレーズやアコースティックギターに持ち替えた田中がスライド奏法で奏でるソロなど、演奏面における聴きどころがいくつも散りばめられている。もちろん、リズム隊のグルーヴィーな演奏も聴き逃せなかった。
そして、「想うということ」「ねずみ浄土」「雀の子」「here」とバラードを立て続けに演奏した中盤の聴きどころは、やはり「ねずみ浄土」と『Almost there』からの「雀の子」ということになるだろう。アブストラクトなR&Bのバンドによる再現に加え、メンバー全員で声を重ねるハーモニーワークが素晴らしかったことは言うまでもないが、そんなサウンド面のみならず、「ねずみ浄土」の昔話(「おむすびころりん」)、「雀の子」の小林一茶の俳句という歌詞のモチーフの選び方という意味でも、この2曲に連続性があることは明らかだ。だからこその、この曲の並びなのだと思うが、「ねずみ浄土」と「雀の子」の関係については、ぜひメンバー自身に尋ねてみたい。
「アルバムが9月27日にリリースされます。今日は小出しと言うか、あんまりやっていませんが、10月のツアーではみっちりやりたいと思っています」
田中はそんなふうに語ったが、どうだろう? 再び田中と西川がツインリードをハモらせた「This town」からの後半戦で、『Almost there』からさらに「The Long Bright Dark」「Goodbye, Annie」を披露して、結局、『Almost there』の全11曲中5曲をやったのだから、むしろ大盤振る舞いだったと思うのだが、それはやはり冒頭に書いたとおり新しいアルバムの出来によほど手応えを感じているからなのだろう。ひょっとしたら、アルバムの全曲をやってもいいぐらいの気持ちだったんじゃないかと、ふと思ったりも。
「The Long Bright Dark」と「Goodbye, Annie」の印象も書いておこう。ともにロックンロールと言ってもいいと思うのだが、田中がアコースティックギターを弾いた前者はラテンっぽいのりもある。一方、高野がシンセで電子音を鳴らした後者はニューウェーブ調なんて言えそうだ。その「Goodbye, Annie」は田中がエレキギターでかき鳴らすコードに西川、亀井、高野が絡みつくようにフレーズを加え、ドライブする金戸のベースが演奏を支えるアンサンブルの妙が、やはり今現在のGRAPEVINEらしさを伝えていたと思う。
そこから「Good bye my world」「Glare」とグランジィなバラードを2曲立て続けに繋げると、「南部の男になってくれ!」と田中が声を上げ、おおらかなロックンロールナンバー「B.D.S.」で再び観客を踊らせ、本編を締めくくると、アンコールは「SPF」「スロウ」「放浪フリーク」の3曲を披露。懐かしい曲がこれまでとどこか違って聴こえたようにも思えたのは、やはりバンドがのりにのっているからなのだろう。
アルバムのリリースツアーの前哨戦と言うには、あまりにも見応えのあるライブだったが、きっとリリースツアーには、この夜、見せつけたケミストリーにさらに磨きを掛け、臨むに違いない。『Almost there』の全曲をライブで聴ける日が今から楽しみでしかたない。

取材・文=山口智男 撮影=藤井拓

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