朝夏まなと、中川晃教らがドラマに満
ちた社員たちのカラオケ大会を届ける
 『SHINE SHOW!』ゲネプロレポート

シアタークリエの8月・9月公演『SHINE SHOW!』(シャイン・ショウ!)​。物語の舞台は、とある複合オフィスビルで行われる夏のカラオケ大会。様々な想いを抱える“サラリーマン出場者”と、その舞台裏で数々のトラブルに見舞われながらもショーマストゴーオンの精神で乗り切ろうとする運営スタッフのドラマが描かれる。
脚本を手がけるのは、2020年のコロナ禍において東京サンシャインボーイズの傑作『12人の優しい日本人』を、Zoomを通して読み合わせる『12人の優しい日本人を読む会』で演出を手掛けた冨坂友(アガリスクエンターテイメント)。演出は、東京サンシャインボーイズにて数々の作品を演出してきた山田和也が務める。カラオケ大会を主催するビル管理会社の社員でありイベントの運営・鈴本役を演じるのは、元宝塚歌劇団宙組トップスター朝夏まなと。さらに、朝夏と初共演となる中川晃教をはじめ、小越勇輝、花乃まりあ、木内健人、石坂勇、増本尚、柳美稀、栗原沙也加、西村直人、久ヶ沢徹らが出演する。初日を前にゲネプロが行われた。

※以下、ゲネプロレポート。ネタバレが気になる方はご注意ください。
【ストーリー】
真夏の夕暮れ時。オフィス街の一角にある複合オフィスビルの中庭に豪華な野外ステージが建てられ、派手な照明と爆音の中、音楽ライブが行われている。ただし、ただのライブではない。このビルにオフィスを構える様々なジャンルの会社の社員が参加し、歌唱力を競う夏のカラオケ大会なのだ。86組による予選を勝ち抜いた23組の出場者の中から、本日チャンピオンが決まる——。一方その裏では様々なトラブルが発生していて……。

物語は、朝夏まなと演じるカラオケ大会運営スタッフの鈴本と、同じく運営スタッフの加瀬(小越勇輝)を中心に進んでいく。何年も大会運営をしてきたからこそマニュアルやルールを重視し、何事にも冷静に対処する鈴本と、出場者一人ひとりの話に耳を傾けて振り回されてしまう、新人らしさあふれる加瀬。だが、鈴本にもキュートな一面があったり、加瀬が意外な熱さを発揮したりと、バランスの良い凸凹コンビが可愛らしい。
出場者は個性豊かな曲者揃い。カラオケ大会で彼女(柳美稀)に公開プロポーズしようと考えている和歌山(中川晃教)は選曲が彼女の元彼(斉藤コータ)と被っていることを知ってパニックに。一生懸命だが空回りしてしまう姿が愛嬌たっぷりで応援したくなる。鐘巻(木内健人)はカラオケ大会に出ることで業務が疎かになって同僚から恨まれていると思い込み、辞退したいと大騒ぎ。本人にとっては深刻な問題だとわかっていても、ネガティブすぎる言動に笑ってしまう。さらに、音尾(増本尚)がラップの替え歌である人間をディスろうとしていることが発覚したり、名物出場者である弦田(久ヶ沢徹)のパフォーマンスが波紋を呼んだりと、次々にトラブルが勃発する。
元アイドルだが会社で全くアイドル扱いされない現状に不満を抱えて大会に出場している琴浦(花乃まりあ)、上司の命令で出場させられたが有名VTuberの中の人だとバレたくなくて辞退したい笛木(栗原沙也加)も強烈な個性を放っている。一見真逆に見える二人だが、意外と似ているかも……? と感じる部分もあるのが面白い。いずれもクセの強い出場者たちだが、カラオケ大会や歌にかける熱い思いは本物。カラオケ大会を見にきた取材クルー(榎並夕起・三原一太)があっという間に魅了されるのも頷ける。
また、作中では誰もが知るカラオケの定番ソングが多数登場。花乃がキュートな衣装に身を包み、元アイドルという役にぴったりな可憐さで松浦亜弥の「♡桃色片想い♡」を歌ったり、中川が切ない思いを乗せてスピッツの「楓」を歌い上げたりするのも大きな見どころだ。歌うことの楽しさが伝わる栗原の「ロマンスの神様」、木内がしっとり聞かせる「粉雪」、ラップに乗せて思いの丈をぶつける増本の「Street Dreams」など、各キャラクターの個性あふれるパフォーマンスが物語を彩っている。もちろん真面目に歌っているが、これはあくまで会社員たちによるカラオケ大会。紙吹雪の代わりにシュレッダーにかけた書類が使われていたり、普段は真面目な支社長がこの時ばかりはハジけたりと、クスッと笑えるユーモアも盛り込まれている。通常のミュージカルにおける歌唱やキャスト陣のコンサートとは一味違うパフォーマンスに、拍手に加えて笑いも幾度となく巻き起こっていた。
お調子者のMC(西村直人)と彼に対して少し辛辣なMC(鹿島ゆきこ)の漫才のような掛け合い、ゲスト歌手(山下雷舞)と代理店社員(伊藤圭太)のやり取りもユーモラス。時には客席も巻き込み、明るく熱気あるカラオケ大会の会場を作り上げていく。イベントを長年支援してきた老舗レコード会社の取締役(石坂勇)、運営アシスタント(前田友里子)、ビルの警備員(淺越岳人)など、大会を支える人々の事情や思いも見逃せない。
出場者一人ひとりの思い、年に一度のイベントを無事に成功させようと奮闘する裏方の努力に加えて、登場人物たちの家族や恋人、同僚との関係性、出場者たちの本来の姿である会社員としての矜恃なども描かれる。そこから生まれるドラマは第三者から見ると滑稽なものもあるが、格好いいだけではない等身大の姿に胸が熱くなった。カラオケ大会がたくさんの人に影響を与え、仕事への向き合い方や人生、考え方に少しの変化をもたらす、ささやかだが美しく魅力的なストーリーが繰り広げられる。
様々な事情を抱える会社員たちが、それぞれの思いを持って挑むカラオケ大会。個性的なキャラクターたちの言動に加え、カラオケ大会に向ける熱量や立場の差、認識のズレから生まれるすれ違いなど、コミカルで笑えるシーンも多く、ゲネプロでも大きな笑い声が上がっていた。ドタバタした舞台裏やそれぞれの奮闘、華やかなステージを見ているうちに、一癖も二癖もある会社員たちが愛おしくなってくる。「このオフィスビルで、この人たちと一緒に働いたら楽しいだろうな」と感じ、「自分も仕事を頑張ろう!」という活力をもらうことができた。
本作は、8月18日(金)から9月4日(月)まで、日比谷・シアタークリエにて上演。その後、9月15日(金)~9月17日(日)兵庫県立芸術文化センター阪急 中ホールにて上演される。
取材・文・撮影=吉田沙奈

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