和田アキ子、“最後のホールツアー”
を決断した理由と現在の想い 「こん
なに真摯にコンサートのことを話すな
んて、デビューして初めて」

誰もが知る大御所歌手、和田アキ子。ジャパニーズR&Bの女王と称され、近年は若手アーティストとのコラボでバイラルヒットを飛ばすなど精力的な音楽活動を続けている彼女が、10月18日のNHKホールから始まるデビュー55周年スペシャルライブ『AKIKO WADA LAST HALL TOUR』をラストホールツアーにすることを表明した。「こんなに真摯にコンサートのことを話すなんて、デビューして初めて」というツアーに対する想いをきいた。
――なぜ今回のホールツアーをラストホールツアーにするという決断をされたのでしょうか。
ずっと、周年ごとにライブをしているんです。30周年は国際フォーラム、40周年はニューヨークのアポロシアター、50周年は武道館でしてきました。でも去年、左の股関節が変形性股関節症と診断されて、右膝にも水が溜まってしまって、立つのも辛いし、発声しても力が入らない状態になって。55周年のタイミングだったのですが、手術しないと治らないし、手術しても完全に復帰するには半年かかると医師に言われました。でも、どうしても周年の区切りはつけたかったんです。
――音楽活動を辞めるわけではなく、「ホールツアー」が最後ということなんですよね。
そうです。昨年末にブルーノートでライブをやった時は、痛み止めに加えて座薬まで入れて、ヒールも履かずに、ステージに椅子を置いて臨んだんですけど、いざライブが始まったら踊りまくっていたらしいんですよ。全然覚えてないんだけれど(笑)。アドレナリンが出まくって、痛みを感じなくなっていたみたいです。だから、やってみないとわからないけれど、ホールでしか歌えない歌というのがあるんですよ。「今あなたにうたいたい」(※1998年「第49回NHK紅白歌合戦」での大トリ曲)のように、オフマイクで客席の後ろの方にまで届けるような歌い方は、ブルーノートではできない。ホールの広さでないとその曲の素晴らしさを届けることができない曲というのがあるんです。だから今、ホールツアーをやっておかないと体力的にもうできないかもしれない……と思ったんです。
たとえ、もっと状態が悪くなってしまったとしても全部出し切ろう……、カッコいい和田アキ子で締めたいという気持ちですよね。それは、「今あなたにうたいたい」という曲名のように、そして「あの鐘を鳴らすのはあなた」の出だしの歌詞の《あなたに逢えてよかった》という歌詞のように、心を込めて歌って届けばいいなという想いからですね。でもこれがうまくいったら、60周年もやるかもわからないですけどね(笑)。
――ファンの方たちに対しては、《あなたに逢えてよかった》という想いがあるということですが、55年歌ってきたご自身の歌に対する想いというのは、どんなものなのでしょう。
55年歌うなんて、全然思ってなかったですからね。それはデビューしてからずっとそうです。周年を迎えるたびに思います。“よくやってこれたな”と。でも、「和田アキ子」という名前で歌ってこれたということは、支えてくれた人がいたということ。1人ではできないですからね。
嫌いか好きかは別にして、私、知名度は高いんですよ。いつもベスト5に入ってるんです(笑)。人は、誰かのおかげで生かされているもの。私は歌手を生業としているから、歌だけはちゃんと歌わなきゃいけないと思って生きています。だから何をしても緊張しないタイプなんですけれど、歌だけはすごく緊張しますね。
――和田さんでも、緊張するんですか!
アポロシアターで歌った時なんか、手が震えすぎて、ペットボトルを口元に持っていけなくて、水でドレスを濡らしました(笑)。よく客席のお客様を“野菜だと思え”とか言うけれど、それも全然ダメで。よく見えるんですよ、メガネかけている人がいるとか。“背中を強く叩けばいい”と言われて、叩かれすぎて痛くなったり(笑)。いろいろ試したけれど、何をやっても無理ですね。
“もう、しょうがない!”と思えるようになったのは、今年からですね。“ライブ=生なんだからしょうがない”って。ピッチがズレること以外は、ライブなんだからお客様もわかってらっしゃると思って、“そんなに気にすることではない”と都合のいい解釈をすることにしました(笑)。
私、意外に見かけ倒しですからね(笑)。でも、歌うのはやっぱりファンのためなんですよね。
――近年はフレデリックとの「YONA YONA DANCE」、meiyoとの「KANPAI FUNK」など、若手とのコラボレーションで再注目されていますが、これは和田さんご自身の戦略から?
私は、マネージャーとディレクターが選んでくれたものを歌うだけです。そういう仕事が来るのも楽しくて、毎回勉強させてもらっています。音楽って、音を楽しむって書くじゃないですか。ステージに立っちゃえば、年齢もキャリアも関係ないですからね。どれだけ聴いている人に楽しんでもらえるか。だから今そういう意味でも、いい意味で遊んでもらっているって思うし、嬉しいんですよ。マネージャーたちもよく頑張ってるなと思ってます。
――未知のものに対する怖さはないですか?
和田アキ子にオファーしてくれるって、それだけでスゴイじゃないですか。7月12日に、『FNS歌謡祭』で新しい学校のリーダーズと「オトナブルー」と「古い日記」をマッシュアップした曲を歌ったんですけど、あの子たちなんて、孫ですよ、孫(笑)。彼女たちの曲を作っているyonkeyさんが私の大ファンらしくて、レコーディングの時に私の写真を置いてくれていたそうです。そういう話を聞くとやっぱり“頑張ろう!”ってなるじゃないですか。
――“来るものすべて受け止めてやる”という心づもりで?
いや~、それは、そうでもないですね。私、意外に見かけ倒しですからね(笑)。でも、歌うのはやっぱりファンのためなんですよね。
――ファンは、和田さんにとってどんな存在なのでしょう。
私にとっては友達でもあり、彼女たちにとって私は、師匠であり、姉でありっていう感じなんですよね。だから、子供が生まれたとか、彼氏と別れたとかって報告してくれるんです。“そんなもん、テレビかラジオの相談室で言え!”と言うんですけれど、あの子たちがいるから私がいるんですよ。
55年もやっていると、ファンもババアばっかりなんです(笑)。でも、“ファンになった時は14歳でした”とか、“私は15歳からです”とかで。あの子たちは、ニューヨークのアポロシアターにも来てくれたし、北海道だったり、九州だったり、どこへでも来てくれる。働いている時は、有給休暇を取ったりしてね。だから、彼女たちは私の全てを知っているわけですよ。私は、あの子たちが元気なうちは、共に生きてきて、私が元気の源だって言ってくれているのあの子たちのためにも、ちゃんと歌って聞かせてあげたいですね。
もちろん、歌手・和田アキ子を認めてくれてる人がいる以上、歌手としては何があっても応えなきゃいけないですよね。バラエティに出ている私は、テレビをつければ見ることができるけれど、コンサートで歌う私を見にきてくださる人は、わざわざ時間を割いて会場まで足を運んでくれるわけですから。その人たちに“やっぱり来て良かった”と思ってもらわないと、プロとしてダメだなと思っています。
老若男女が楽しんでくれたらいいですね。みんなに、《あなたに逢えてよかった》ということが伝わるといいなって思います。
――冒頭で「今あなたにうたいたい」は、ホールでないと歌えない曲だとおっしゃっていましたが、今回のホールツアーの選曲は、どんな感じなのでしょう。
今、選曲しているところなんですけど、これが結構面白くて(笑)。私ってそんなに記録に残るような大ヒットは少ないですけど、記憶に残っている歌っていっぱいあるんですよ。“じゃあ、まとめてメドレーにしちゃう?”みたいな話をマネージャーに言ってみたりしてます。
選曲以外にも、考えることは多いですね。「YONA YONA DANCE」や「KANPAI FUNK」で若いファンが増えたけれど、ずっとファンでいてくれている人たちのことを考えると、途中に休憩を入れて、2部構成にしたほうがいいのかなと思ったり。でも2部構成にすると、衣装のことも考えなあかんしね。そうなると衣装を作ってくれるホリプロが、なかなか“うん”と言わないのよ(笑)。でも、そういうことも含めて楽しいんです。
とにかく、老若男女が楽しんでくれたらいいですね。みんなに、《あなたに逢えてよかった》ということが伝わるといいなって思います。
――でも“記憶に残っている歌”がずっと歌い継がれてきたからこそ、若いアーティストからオファーが来るのでしょうね。
私の代表作でもある、「あの鐘を鳴らすのはあなた」は、どんな時代でも共感できる曲だと思うんです。震災の時もそうですし、コロナの時もそう。歌詞を聞いて涙ぐむ人がいるかと思うと、リズムが入ってくるとそれに併せて手拍手して楽しんでくださる。
この前原宿で、“あの頃は~♪”って歌われたから“ハッ!”って言ったら、“本物だ!”って驚かれました(笑)。そうやって皆さんの記憶に残っている曲があるというのはありがたいことだと思っています。
――最後に、ラストホールツアーへの意気込みをお願いします。
こんなに真摯にコンサートのことを話すなんて、デビューして初めてだと思います。とりあえず、悪口は書かんといてね!(笑)。ファンの皆さんは、待っていてください。やりまっせ! 頑張ります!

取材・文=坂本ゆかり 撮影=大橋祐希

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