井上ひさしの名作『きらめく星座』で
、初共演にして兄妹を演じる村井良大
と瀬戸さおりを独占インタビュー!

作家・劇作家の井上ひさしの代表作であり“私戯曲”的な作品でもあり『きらめく星座』。1985年の初演以来、数年ごとにたびたび上演を重ね10回目の再演となる今回、演出は2009年以来の栗山民也が引き続き手がける。出演は松岡依都美、久保酎吉、粟野史浩、瀬戸さおりといった前回2020年上演時のキャストがほぼ再登板する中、村井良大がこまつ座初参加として加わることになった。
舞台となるのは昭和15年の浅草の小さなレコード店。父・信吉、母・ふじ、長男・正一、長女・みさをという4人家族に、間借り人の竹田と森本が暮らす、この小笠原家にある日、事件が起こる。陸軍に入隊していた正一が、脱走したというのだ。追手として憲兵が現れ、さらにみさをの夫となる愛国主義者・源次郎も加わり、昭和初期のメロディーにのせて軽妙な笑いも混ぜつつ、現代日本にも通ずる深い問題も彷彿とさせながら、あたたかな人間ドラマが描かれていく。
本番さながらの舞台装置が既に建て込まれている稽古場を訪ね、これが初共演ながらも仲の良い兄妹を演じることになった村井良大と瀬戸さおりに、作品への想いを大いに語ってもらった。
――現在の稽古場の様子は、お二人の目からどういう風に映っていますか?
瀬戸 稽古の進み具合が早すぎると思いませんか? 再演でもこんなに早いの?というくらいで、あっという間に稽古が終わっちゃう!という印象です。前回は私の記憶ではすごく時間がかかっていたんですよ。キャストのみなさんの身体に、既に言葉や動きが入っている分、どんどん進んでいっている感覚です。
――村井さんは今回からの参加なのに、そのスピードについていかなきゃいけないわけですね。
瀬戸 それが、村井さんは本当にすごいんですよ。
村井 いやいや、まったくそんなことはなくて。全然、追いつけてないです。
瀬戸 元から小笠原家にいたんじゃない?っていう雰囲気で、いらっしゃるのがとても素敵なんです。本当に初参加?って思ってしまいます。
村井 いやいや初です、初参加ですよ!
瀬戸 栗山さんに言われたこともすぐにできちゃうし。
村井 できてない、全然できてないから。
瀬戸 兄さんを見ていると「ヤバイ、私ヤバイ!」って思っちゃいます。
村井 いや、僕のほうこそ「本当にヤバイ!」と思ってます。それこそ再演組のみなさんは稽古だけでなく何度も本番を重ねた時間があるんですから。その事実は圧倒的で、どんなことがあっても絶対に追いつけるわけがない。それほど本番の空気は大事で。お客さんの前でやってこそ、わかることってあるじゃないですか。
瀬戸 それは、ありますね。
村井 本番を経験してるかしてないかで、かなりニュアンスが違ってくる。例えば、僕は料理のレシピ本をもらって、そこに全部調味料は書いてあるけど、どういうニュアンスで、どのタイミングで何を入れるかは全くわからない。でも、みなさんはだいたいわかっていらっしゃる。とにかくもう、空気感がまとまっているんです。僕としては、本当にヒヤヒヤしながら稽古しているんです。
瀬戸 でもその家族の中に、正一兄さんがポンって帰ってくることで違う空気を入って、切り替えが必要な場面で一気に空気が変わるんです。栗山さんはそこで、すごく難しくて高いレベルのものを求めている気がするんですが、初めての参加にも関わらずポン!って空気を変えられるのは本当にすごいです。しかも確実に空気が変わるんだけど、それでいて家族のみんなとの輪にはすんなり入れてるんですよね。稽古場の居方みたいな点でもすごく、正一さんらしいなって思いました。
村井 稽古場の居方?
瀬戸 初めてだけど緊張しているわけでもなさそうで、ほわーんって雰囲気でその場にいらっしゃる。だから「あれ? 村井さんってもうずっと前から一緒にいましたっけ?」という気がしてくるんです。
村井 しっかり緊張してますから! ん? でもそれって一歩間違えたら図々しいってことですか?
瀬戸 違います! そういうことじゃないです!
村井 それならいいですけど(笑)。いや、初めてとはいえ僕は一応、前回の舞台映像も稽古前に見てきたから、それで流れがなんとなく把握できていただけですよ。
瀬戸 それにしても正一さんの役って、上演中はずーっと走り回っているようなものですよね。裏でもバタバタ走ってずっと汗かいているイメージがあります。でもめっちゃ汗かいてるのに、それを表には出さずに「やあ!」って感じでいつも入ってくるんです。そこがすごく面白くて(笑)。しかも、舞台上であっちから出てきたり、こっちから突然出てきたりもするから。
村井 はい。そのたび毎回衣装を変えてきたりするので、早替えもありますし。
瀬戸 そう、帰ってくるたびに全然違う人間みたいになって現れるので。だけど途中からみんなの輪の中に入るというのも大変ですよね。雰囲気をひとりでガラッと変える、なんて。
村井 突然、みんなの輪に入って行くのは、もちろんすごく怖いです。
瀬戸 シリアスなシーンでも、ポン!って全然空気の違う人が入ってくるんですものね。
――正一は、空気を変える係みたいな存在なんですね。
村井 そうですね、そういう意味では、”空気を変える”担当です。
――しかも家族でもあるから空気を変えつつも、自然とその場ですぐに馴染めてもいる。
瀬戸 そうなんですよ。そしてみんなで歌うことで自然に繋がっていっているようにも思えて。兄さんが帰ってきた!とわかった瞬間の家族の嬉しい気持ち。「ああ、兄さんが帰ってきたよ、良かった!」みたいな。
村井 「生きてたか!」って安心できた気持ちもあるだろうし。でも、みさをとは兄妹だけど、劇中では絡みといえる絡みって、あまりないんですよね。
瀬戸 だけど絡みは少なくても、お互いのことはすごく思いやっている兄妹で。兄さんは「みさをは幸せそうですか」ってすごい聞くし、私だって第一声が正一兄さんに関することですし。このことは今回の再演の稽古で「あ、こんなにお互いを思いやっていたんだな」と気づけたところもあって。改めて兄さんの正一さんと、夫の源次郎さんという立場が全然違う二人のことをどちらも思いやることで、みさをはものすごく葛藤していたんだろうなって思ったんです。それは今回の稽古で、周囲のみんなの姿がより見えてきたからこそ「この時、源さんはこんな顔をしてたんだ」とか「兄さんの図々しさに源さんが惑わされてるな」とか、その対立関係もすごく面白く感じられるようになりました。
村井 うんうん(笑)。僕、それこそ前回の2020年版の『きらめく星座』は劇場で観ているんですよ。
瀬戸 そうだったんですね。
村井 その時は確かに源次郎がとにかく堅物で、周りの家族たちを抑えつけていくみたいな印象があったんですけど。今回はどちらかというと家族たちのほうが一枚上手(うわて)に見えるというか。
――源次郎さんのキャラクターの印象が、今回から変わったということですか。
村井 ちょっとマイルドになったというか、簡単に言うと大人になったんですかね。栗山さんが今回はそういう風に演出したいということなのかもしれないですけど。
瀬戸 確かに、変わったかもしれないですね、源さん。だけど、本来は源さんのほうがあの時代では正しいから。そう栗山さんに言われて、ああそうだよねって思い出しました。あの時代は源さんの言っていることが正しくて、こっちの小笠原家は非国民だと言われても仕方がないなって。
村井 そうですね。
――正一さんは脱走兵だし。
村井 それを全員でかくまおうとしている家族ですから(笑)。
瀬戸 その中にいて、源さんの心はものすごく揺れていたんでしょうね、今の時代の人間にはわからないくらいに。この家族に馴染もうとする努力もされているし。そして、その途中で源さんの中で何かが壊れる瞬間みたいなものがあるんですが、今回はなんだか前よりも源さん自身の葛藤が大きいようにも思います。
村井 その源次郎が、少しずつ本当の小笠原家の一員になっていく感じもいいですよね。特に後半は本当に、その葛藤する姿が面白い。それまでは、この家族をなんとか正しい方向へ持っていこうみたいな態度だったのに。
――厳しく言ってたはずが、だんだん変わってくるんですね。
村井 僕は前回の舞台を拝見した時、一番好きなキャラクターが源次郎だったんです。
瀬戸 源さんって、とっても愛おしい存在ですよね。
村井 うん、愛おしい!
瀬戸 その愛おしいキャラクターを、粟野さんがさらにチャーミングに演じられている気がします。
村井 ある意味、一番変化してるのは源次郎なのかなと思いますね。お父さんとか竹田さんは変わらないし、正一だって変わらないといえば、変わらない。でもこの間、栗山さんがおっしゃっていたんですが「これは、みさをの成長の過程の物語でもあるんだよ」って。
瀬戸 はい。みさをは劇中で、少女から母になっていきますし。
――それは大きい変化であり、成長でしょうね。
瀬戸 自分だけの人生ではなくなっていくわけですから。何かを背負うようになり、明らかに守るものができれば全然違う顔になるもので。義理のお母さんである、ふじさんとの関係性にしても最初は微妙に距離感があるんだけど、終盤にはぐっとその距離も縮まっていく。その瞬間というものも、大切にしたいなと考えています。
とはいえ一気に距離が詰められるわけでもなくて。「すぐに素直になれないみさをも、いるんじゃない?」と栗山さんにも言われて、ああそうだなって気づきました。ふじさんとの、この微妙な距離感に関しては、果たしてどうやって詰めていくのがいいかは演じる依都美さんともお話していて。そこは今回もやっぱり難しいな、と思っています。それにしても井上ひさしさんの作品って、途中で感情がバーン!って切り替わりませんか?
村井 はい。むちゃくちゃ切り替わりますね。
瀬戸 セリフを5つくらい飛ばして感情が動いているくらいに、起伏が激しいというか。
村井 確かに、激しい。
――その感情を、どうやって作っていくんですか。
村井・瀬戸 (同時に)どうやって作ってます?
村井 いやいや、二人して同じこと言ってますけど(笑)。
――すごいですね、見事にシンクロしていました。さすが兄妹(笑)。
村井 アハハハ。でもホント、どうやって作ればいいんでしょうね。その場で作るのでは、次のセリフに間に合わないことはわかっているんですよ。
瀬戸 そうなんです!
村井 だから既に、その感情を抱えている状態でいないといけないのかもしれない。
瀬戸 そう、それがすごく難しいんです。その前後で感情が繋がっていないといけないのに、パン!ってそこで切り替えないと成立しない。でも結局は台本に書かれてあることを、あまり考えすぎずに素直にやっていくのが一番いいような気がします。
村井 そうですね。それと、今回の正一には新しいというか細かい演出がついていまして。ちょっと岩手弁になっていたり、ちょっとチャイナ風になっていたり。
――実家に帰ってくるたびに?(笑)
村井 そう、ちょっとずつ変化があるんです。毎回、何かしらを抱えて帰ってくることが多いのですが、いろいろな想いがあってもいざ実家に帰ると一瞬その悩みごとを忘れて幸せな気持ちになって、みんなと楽しい時間を過ごすという流れって、すごくリアルだなと感じていて。あえてそういうやり方をしているのが意外と自然に思えるし、それもちょっと変化球を入れているところがすごく面白い。それこそ感情のアップダウンは激しいので、その点では繊細に丁寧に演じないといけないんですけど。特に正一の出る場面は、明るいシーンがあったら次はシリアスなシーンになる。必ずと言っていいくらいに落差が大きくあるんです。
瀬戸 ホント、そうですよね。
――その分、陰影を強く感じられて観る側の胸に響いてきます。そしてこの作品は、特に歌の場面も多いですよね。
瀬戸 それに関しては、兄さんがもう素晴らしいので!
村井 いやいやいや何をおっしゃる、全然そんなことないですよ。いまだに指揮をする場面でしょっちゅう間違えたりしていますから(笑)。あそこ、ホントにちゃんと練習しなければ!!
瀬戸 アハハハ、そうでしたね。指揮を指導してくださる先生が、少し離れたところから兄さんに向かって「こうです、こう!」と大きい振りでやってみせてくれていて。「あ、兄さん、間違ってるんだ」って思った(笑)。
村井 もうね、絶好調で間違えてます(笑)。いや、自分でもわかっているんですが……。
――難しいですか?
村井 単純にタイミングでちょっとズレてしまったみたいで。まだ、慣れないだけだとは思うんですけど。
――劇中歌は、いい曲ばかりですが特に好きな曲はありますか。
瀬戸 うわー、悩む!
村井 僕はやっぱり灰田勝彦の『燦めく星座』かな。タイトルにもなってますし。
瀬戸 いいですね。私もこの歌のシーン、好きです。
村井 正一的には、一番楽しく歌える場面だとも思うので。瀬戸さんは?
瀬戸 え~、ありすぎて選べないです。
村井 僕は『月光値千金』も、すごく好きですけどね。
瀬戸 幕が開いて最初の曲ですね。それぞれ、いいんですよ。『一杯のコーヒーから』も大好き。栗山さんが「コーヒーの香りがあり、みんなの雰囲気があり、それが音になり、音楽になっていく」というようなことをおっしゃっていて。これは前回の稽古の時にも言われていたことなんですけど。
村井 いや~、これが難しい!
瀬戸 でもそれが本当に音楽になると、とても素敵なんです。コーヒーの香りが音になって、みんながだんだん集まってきて、また違う音が生まれて、どんどん歌いたくなっていくと「すごい、小笠原家だなあ!」って思えるんです。
村井 あの、音楽に入っていく、最初のタイミングが一番難しいですね。
瀬戸 そうなんです! はぁ~っていう声とかため息が音になって、そこからだんだんみんなでその空間を共有していって、それがまた違う音になって音楽が盛り上がっていくので。
村井 やっていて楽しいですか、あそこのシーンは。
瀬戸 はい、すごく楽しいです!
――お芝居の中でナマの音楽に触れられる演劇だというのも、この作品の魅力のひとつですよね。
瀬戸 音楽があるだけで楽しくないですか?
村井 楽しいです。
瀬戸 稽古の時点から、音楽があるとテンションも自然と上がりませんか?
村井 上がりますね(笑)。
瀬戸 ガーン!とショックな場面でも、音楽によって救われることが多くて。私が特に救われるのは正一兄さんの『チャイナ・タンゴ』。
村井 ハハハ、そうなんですか。
瀬戸 ちょうどいいところで、全然違う空気をまとってパッと入ってきて。私たちは最初、ボーっとしてるんだけど兄さんが歌い始めるとだんだん楽しい気持ちになってくるんです。だいたい、ガーン!となると次の瞬間に兄さんが入ってくる感じですよね。
村井 うんうん、確かに。
瀬戸 そこで気持ちがパッと切り替えられて。決して問題が解決したわけではないんだけれど、暗くなりそうだった気持ちを音楽の力で盛り上げてもらえるから。おかげで私はすごく救われるんです。
村井 なるほど僕は、みさをを救うために入ってくるのか!
瀬戸 兄さん、きっとそうなんです(笑)。
村井 そうか。正一は妹思いなんで、絆がちゃんと繋がっているんでしょう。
瀬戸 ね。助けてくれるんですよ。
村井 その感覚は、今まであまり感じてなかったな(笑)。
――正一本人はわざわざ救おうと思って入ってくるわけではなく、軽い感じで入ってきていそうですしね。
村井 確かに、軽い人に出会うとある意味救われる時ってありません?
瀬戸 あるある、「ハハッ!」ってうっかり笑っちゃうみたいな。
村井 そうそうそう。
瀬戸 「今まで深刻に悩んでいたのはなんだったんだろう?」って、思わず笑っちゃうというか。そして、そこで笑えたことで自分の気持ちがいい方向に切り替わったりするんですよ。
村井 いや、嬉しいです。『チャイナ・タンゴ』にそんな作用があるとは。
瀬戸 そうですよ。兄さんはポンと、軽~く入ってきてください。
村井 無駄な動きとか、しながらね(笑)。
――では最後に、お客様へお誘いの言葉をそれぞれからいただけますか。
村井 物語は太平洋戦争の直前、1940年の秋からその翌年の12月までの約1年間にわたる話なんですが、ちょっとビックリするくらい現代にリンクする内容がたくさん出てくるんです。きっと観ていてハッとさせられるシーンや、今だからこそすごく胸に沁みる言葉やセリフがたくさんあって、とても共感しやすい作品になっています。かなり前から何度も上演されていますが、本当に新作なんじゃないかと思うくらい今の時代に合っていて。それでいて、すごく前向きにもなれる、非常に心に残る作品です。劇場で奏でられる音にもぜひ耳を傾けつつ、観ていただければと思います。
瀬戸 兄さんに全部、言われちゃいましたが(笑)。でも本当に、歴史というものを知るきっかけになったり、勉強するきっかけになってくれればいいなとも思っています。栗山さんもおっしゃっていたことなんですけど、大人になっても勉強をし続けること、学び続けることってやっぱり大切で。私も今回、改めて兄さんのセリフや竹田さんの言葉からも、やっぱり学び続けなきゃいけないなということをしみじみ感じました。そして、この先も残し続けていかなきゃいけない大事な作品だなということも、すごく思います。みさをも物語の途中から母となって、子供たちの未来を想って苦しんでいる。それでも今できることをしっかりやっていかなきゃいけないんだなと、この作品を演じることで私自身も改めて感じています。また、これは音楽の力や素晴らしさもたくさん詰まっている作品で。ここ数年のコロナ禍の最中でも、私たちは音楽から元気をもらえたりもしましたからね。ぜひぜひ若い方も大勢、観に来ていただけたら嬉しいです!
取材・文=田中里津子 撮影=福岡諒祠

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