大阪交響楽団 常任指揮者 山下一史
、2023年度シーズンについて大いに語

「マエストロ、笑顔でお願いします!」の声に、素敵な笑顔で写真撮影に応えてくれるのは、大阪交響楽団の常任指揮者就任1年目を終え、2年目のシーズンに向かう指揮者 山下一史。エンタメ特化型情報メディア「SPICE」だけに、熱い思いを語ってくれた。
―― 常任指揮者就任から1年が経とうとしています。1年目のシーズンを振り返ってみて如何でしたか。
定期演奏会が2回と名曲コンサートが1回、そして私がポジションを持っている3つのオーケストラ(大阪交響楽団、千葉交響楽団、愛知室内オーケストラ)の合同演奏会を指揮しました。それらのコンサートを通してメンバーとの相互理解が深まったように思います。

大阪交響楽団、千葉交響楽団、愛知室内オーケストラ合同演奏会(2022.7.29愛知県芸術劇場コンサートホール)

―― 3月の定期演奏会、シューマンとメンデルスゾーンを取り上げたロマン派プログラムを聴かせて頂きましたが、非常に喜びに溢れた演奏会でした。シューマンのピアノ協奏曲を弾いた河村尚子さんの存在が大きかったと感じました。技術的なことはもちろんですが、彼女の笑顔は奏者も聴衆も、周囲の人を幸せにする力がありますね。
おっしゃる通りです。先日、テレビで河村さんが弾くラフマニノフの2番の演奏が放送されていて、見入ってしまいました。とても魅力的な演奏だったのですが、彼女の本当の良さが出るのは、私はドイツロマン派の音楽だと思っています。以前、仙台フィルの定期演奏会でシューマンのコンチェルトをご一緒して、その時の演奏があまりに素晴らしかったので、今回もシューマンをお願いしたのです。彼女のアンコール曲、シューマン=リストの「献呈」を聴くお客様の表情を拝見していて、喜んで頂けたことがわかり、嬉しかったです。前半がシューマン、後半がメンデルスゾーンと同じ時代を生きながらも、個性も作風も対照的な二人の作品を並べました。
ピアニスト河村尚子、常任指揮者山下一史   写真提供:大阪交響楽団
―― 二人の作風の違いを、大変興味深く聴かせて頂きました。来年度も定期演奏会を2回、名曲コンサートを1回指揮されますが、他に「フェニーチェ堺名曲シリーズ」が新たに加わりました。フェニーチェ堺を会場にした主催公演は特別な意味を持つコンサートだと思います。
大阪交響楽団は堺市に本拠地を置くオーケストラで、堺市民が誇りに思って貰えるようなオーケストラを目指しています。そのためには、地元堺でのコンサートが大切となります。フェニーチェ堺が開館4周年を迎える今年、ようやく念願がってフェニーチェ堺での自主公演が決まりました。定期演奏会ではなく、もう少し気軽に来ていただきたいという思いを込めて「フェニーチェ堺名曲シリーズ」としました。
「堺に本拠地を置くオーケストラとして、堺市民が誇りに思える存在にならなくては」   (c)H.isojima
―― それがこちらのコンサートですね。サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番とベルリオーズの幻想交響曲ですか。
「幻想交響曲」は、87年にドイツから日本に戻って来て、岩城宏之さんに声をかけて頂いて札幌交響楽団を指揮した思い出の作品です。交響曲のお手本のようなベートーヴェンとほぼ同じ時代を生きたベルリオーズの代表作ですが、国が違うだけでこれだけ違うテイストの曲が出来るのは興味深いですね。一言では語り尽くせない聴きどころ満載の曲ですので、一本の映画を見るような感じでお聴き頂きたいです。
―― サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番を弾くのは南紫音さんです。
最初の名曲コンサートですが、メンデルスゾーンやチャイコフスキーではないところがポイントです(笑)。しかしこの曲はとても格好良い曲なので、この機会にぜひ皆様に聴いて頂きたい曲です。南紫音さんとは久しぶりの共演ですが、人気と実力を併せ持った素敵なヴァイオリニストです。皆様もきっと気に入って頂けるはず。
ヴァイオリニスト 南紫音   (c)Shuichi Tsunoda
―― 堺市と大阪市内はとても近いのですが、大阪交響楽団が本拠地堺市にこだわるのは何故ですか。
地元にプロのオーケストラが在るのは素晴らしい事です。貿易の門戸を開くことで始まった自由都市堺に、フルオーケストラが存在することは誇らしい事です。現在、千葉交響楽団の音楽監督に就いて7年目となります。千葉の隣は、東京。もちろん通勤圏内です。東京にはプロのオーケストラが沢山あります。千葉響の音楽監督就任当時から、千葉でオーケストラ活動をやる意味を随分考えました。今では野球やサッカーだけでなく、バスケットボールもバレーボールなどスポーツ全般が地元との結びつきを大切にしています。ヨーロッパはもっと顕著で、私がいたドイツには、ベルリンやミュンヘンに優秀なオーケストラが在る事はもちろんみんな知っていますが、普段足を運ぶのは地元のオーケストラです。そういう文化が出来上がっているので、行政も安心してそのオーケストラにお金を出してくれる。千葉と千葉響も7年かけてようやく素敵な関係が出来てきました。千葉でのノウハウを持って、堺市と大阪交響楽団の関係づくりを私も先頭に立って作っていく覚悟です。

大阪交響楽団   (c)飯島隆

―― その為に、このシリーズにお客様を呼び込みたいという事ですね。このプログラムなら魅力的なので、ザ・シンフォニーホールに通っている音楽ファンの方も来られるのではないでしょうか。
それは嬉しい事ですが、それに加え、新たに堺市民の方にもお越しいただきたいですね。堺名曲コンサートは、堺市民でチケットがソールドアウトというのが理想です。新しいシーズンは、堺市民に大阪響を知ってもらう、そんな細かな動きもしていきたいです。
「今年から始まるフェニーチェ堺名曲シリーズは、成功させなければなりません」   (c)H.isojima
―― その新たなシーズンですが、定期演奏会は2回ともドイツロマン派プログラムですね。簡単に聴きどころを教えてください。
シーズン最初と最後の定期演奏会を指揮させて頂きます。シーズン開幕の5月定期は、前半がリヒャルト・シュトラウスで、晩年の作品と、青年時代の作品を続けてお届けします。「メタモルフォーゼン」は、23の独奏弦楽器のための習作という副題がついている通り、23人弦楽器奏者でお届けします。ヴァイオリンが10、ヴィオラ5、チェロ5、コントラバス3の23人です。全員が違う旋律を弾くのでアンサンブル的には難しい曲ですが、定期演奏会で取り上げるに相応しい曲だと思います。「ブルレスケ」は単独楽章のソナタ形式のピアノ協奏曲で、後半のカデンツァが若きR.シュトラウスの熱い気持ちを表しているようです。ドイツで研鑽を積んだ津田裕也さんのピアノでお聴きください。そしてメインはブラームスの交響曲第4番。ブラームス自身が最高傑作と語っている名曲を、皆様にお聴き頂きます。
大阪交響楽団を指揮する常任指揮者 山下一史   (c)飯島隆

ピアニスト 津田裕也   (c)Christine Fiedler
―― そして、シーズン締め括りの演奏会も、ブラームスです。山下さん、ブラームスはお好き、ですね。

ブラームスは私のレパートリーの中でも、大切な作曲家です。この定期演奏会は、まずピアニストの清水和音さんと一緒にやりたいという所から決まりました。現在、反田恭平さんや藤田真央さんなど若手の素晴らしいピアニストが沢山出て来ていますが、やはり技術と共に、経験というのは何にも代えられないモノです。そういう意味で、清水和音さんは今最も聴きたいピアニストではないでしょうか。もちろん技術的にも申し分なく、スケールの大きな音楽は魅力的です。実は同じ桐朋学園の出身で、歳は清水さんが一つ上だと思います。「清水和音の十八番は?」と、クラシック音楽ファンに尋ねると、大多数が「ラフマニノフ!」と言われると思いますが、本人は「ブラームスが弾きたい。出来れば2番!」という事だったので、決めました。ブラームスのピアノ協奏曲第2番は、もはや壮大な交響曲なのでメインで取り上げて、前半は「セレナード第1番」をお聴き頂きます。交響曲という制約がない分、ブラームスが自由に書いたオーケストラ曲の隠れた名曲です。交響曲第1番を作る18年も前の若書きの曲ですが、とてもチャーミングな曲。しかし、全6楽章50分近い立派な曲です。ブラームスの交響曲が好きな方でも、意外とご存知ない方も多いのではないでしょうか。ぜひこの機会にお聴き頂きたいです。
ピアニスト 清水和音   撮影:堀衛
―― 9月の名曲コンサートは、菊池洋子さんのピアノでベートーヴェンの協奏曲チクルスのVol.1ですか。大阪交響楽団と菊池さんと言えば2021年の「第115回名曲コンサート」、弾き振りによるモーツァルトのコンチェルトがとても印象に残っています。
モーツァルト弾きのイメージが強い菊池洋子さんですが、このところ、ベートーヴェンのソナタをリサイタルなどでも数多く取り上げておられます。色々と話し合って、ベートーヴェンのピアノ協奏曲の全曲演奏会をやる事になりました。そしてその演奏を録音して販売する計画です。チクルス第1弾は、第3番と第4番という人気の曲を2曲、出し惜しみ無く演奏します。考えてみれば、定期演奏会と名曲コンサート、全てにタイプの違うピアニストに出演していただきます。ピアニストの奏でる音色の違いと、ピアノによって微妙に変化するオーケストラのサウンドの違いをぜひお聴きください。
ピアニスト 菊池洋子   (c)Yuji Hori

―― 「春の4オケ祭り」には、山下さんが満を持して初出演されます。9年目となる今年は、「4オケの4大シンフォニー」と称してブラームスの4つの交響曲を、大阪の4つのオーケストラによる連続演奏会です。

昨年は外山先生が指揮されましたが、今年は私が参加します。うちのオケは先頭打者として、交響曲第3番を演奏します。こんな絵に描いたような壮大な企画が実現する大阪は凄いですね(笑)。結果として2か月続けて、大好きなブラームスの交響曲を指揮します。
「4オケの4大シンフォニー」では、トップバッターでブラームス交響曲第3番を演奏します   (c)H.isojima
―― 山下さん、満員のフェスティバルホールの天井から降る拍手をぜひ堪能してください(笑)。来年も楽しみなシーズンになりそうですね。
実は今年の2月定期演奏会、ドヴォルザークの歌劇「ルサルカ」を、ザ・シンフォニーホールの客席で聴きました。客席もコロナがウソのように満員札止めでしたし、柴田真郁さんの指揮に見事応えたオーケストラも素晴らしかった。歌手も実力派が揃っていて、コンチェルタンテの良さが十分に発揮された素晴らしいステージでした。大阪交響楽団はこれだけのことが出来るオーケストラなんだって、とても嬉しく、とても誇らしく感じました。メンバーは、あの時自分たちで奏でた音楽と、ステージから見た超満員の客席の景色、そして温かいお客様の拍手を忘れずに、全ての演奏会をしっかり務めて欲しいです。私も目標を高く持ち、大阪響ならではのサウンドを妥協せず追及していこうと思いました。
大阪交響楽団をよろしくお願いします   (c)飯島隆

―― 確かに歌劇「ルサルカ」はちょっと驚きました。何というか、会場中がゾーンに入っていたとでも言いましょうか、ちょっと特別な雰囲気がホールを支配していましたね。客席の反応も凄かったですし、私も大阪交響楽団の可能性がグーンと広がった感じがしました。最後に、「SPICE」の読者に向けて、メッセージをお願いします。
満開の桜と共に、新しいシーズンが始まります。世の中もようやく落ち着きを取り戻し、コンサートホールにはお客様も戻りつつあります。気持ちのいい春の風を感じながら、コンサートホールにお越しください。そして、歌心溢れる大阪交響楽団をどうぞよろしくお願いします。

大阪交響楽団のコンサートにお越しください。お待ちしています。   (c)H.isojima
取材・文=磯島浩彰

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