新国立劇場バレエ団が世界初演『マク
ベス』のリハーサルを公開~名作『夏
の夜の夢』との二本立て「シェイクス
ピア・ダブルビル」を上演

新国立劇場バレエ団がウィリアム・シェイクスピア(1564‐1616)の戯曲を原作にした作品を二本立てで上演する。2023年4月29日(土)~5月6日(土)新国立劇場オペラパレスにて催される「シェイクスピア・ダブルビル」では、英国バレエの礎を築いたフレデリック・アシュトンの『夏の夜の夢』<新制作>に加えて、ウィル・タケット振付『マクベス』<新国立劇場バレエ団委嘱作品・世界初演>を披露。3月23日(木)『マクベス』の公開リハーサルが行われた。

■名匠ウィル・タケットを迎え『マクベス』のバレエ化、着々と進行中!
【ものがたり】
スコットランドの将軍マクベスとバンクォーは荒野で3人の魔女たちから、マクベスは王になる、バンクォーはその子孫が王位に就くと予言される。野心に燃える妻にそそのかされ、王を刺殺したマクベスは王位を手にするが、バンクォーへの予言が疑心を呼び起こし、バンクォー親子の殺害も企む。死者の幻影に苛まれ錯乱するマクベスはさらに殺人を重ねていく。

『マクベス』の振付を手がけるタケットは、英国ロイヤル・オペラ・ハウスをはじめ世界中で活躍し、英国最高峰の舞台芸術賞であるローレンス・オリヴィエ賞を受賞している。バレエ、オペラ、演劇、ミュージカルなど幅広い分野で手腕を発揮する才人として知られ、日本でも『兵士の物語』や『ピサロ』といった話題作が上演されているので、ご存知の方も多いだろう。音楽はスコットランド出身の音楽家ジェラルディン・ミュシャ(1917-2012)が遺した同名作品で、それを名指揮者でもあるマーティン・イェーツが編曲する。
『マクベス』チラシビジュアル
公開リハーサルでは、「マクベス夫人のソロ」とそれに続く「マクベスとマクベス夫人のパ・ド・ドゥ」を披露。戦争から帰還したマクベスをマクベス夫人が迎える場面である。登壇者は、タケット、マクベス役の福岡雄大、マクベス夫人役の米沢唯、魔女の精霊役の清水裕三郎だった(交替出演で、マクベス:奥村康祐、マクベス夫人:小野絢子の回も)。
『マクベス』<新制作>公開リハーサル (左から)ウィル・タケット、米沢唯 撮影:阿部章仁
マクベス夫人のソロは、神秘的な響きにのせて踊られる。米沢の足さばきは細やかで、上体の用い方ものびやか。タケットの指導はとても紳士的で、まずダンサーを褒める。米沢に対して「とてもよかった」と称えて感謝しつつ「もう少し動きを大きく」と伝え、手を下げる動きや体をクロスさせる箇所などについて具体的に提案していく。振付家と演者が丁寧なコミュニケーションを取りながらクリエーションを進めていることが見てとれた。
『マクベス』<新制作>公開リハーサル (左から)米沢唯、福岡雄大 撮影:阿部章仁
マクベスとマクベス夫人のパ・ド・ドゥでは、まず両者の再会の喜びが踊られる。福岡と米沢の、ゆったりとしたテンポで繰り広げられるリフトも含めた踊りは情感豊かだ。そこへ「ロマンティックになり過ぎないように」「フォーマル過ぎるので、お互いが求めている感じを」とすかさずタケットのチェックが入る。「動きを滑らかに」といった指摘もあり、それを受けて細かな調整を行うことによってリフトの流れがスムーズになり、色っぽい雰囲気も増していく。
『マクベス』<新制作>公開リハーサル (左から)米沢唯、清水裕三郎、福岡雄大 撮影:阿部章仁
次いで、魔女の精霊役の清水が王冠を手に現れる。タケットいわく「物語のシーンを伝えるのを少し手助けするため」に登場する役どころだ。夫人は王冠を手に持ち、マクベス対して王位を狙うように仕向ける。勇壮な将軍も剛毅な夫人の前では従順で、ひざまずき、やがて二人は愛撫する。官能的でスリリング、一瞬たりとも目が離せないパ・ド・ドゥが展開された。
『マクベス』<新制作>公開リハーサル (左から)福岡雄大、米沢唯 撮影:阿部章仁

■「名誉ある作品で踊ること自体がチャレンジ」(福岡)「人生を賭けて演じたい」(米沢)
質疑応答の際、タケットは英国で『マクベス』のバレエ化は聞いた限りはないと話した。男性の登場人物が多く、伝統的に女性が多いバレエの演目になり難かったのが一因でないかと推測する。今回は原作から長い会話の場面などバレエに向かないシーンをカットすると同時に、付け足した場面や動きもあるとのこと。「今日お見せしたマクベス夫人のソロは、彼女を知ってもらうためのシーンで、そういう編集というか自分の中での作り変えはしています」と明かす。
タケットはマクベス夫妻の夫婦関係について「明らかにヒエラルキーがあって、夫人の方が生まれながらの階級は上」と解説する。そして『ロミオとジュリエット』の10代の主役男女とは異なり「夫婦として肉体関係もあった上で惹かれ合っている」と説明。「マクベスが戦いから戻り夫婦が再会するシーンで、夫人にはマクベスがとてもセクシーで魅力的に見えていると思います。そういった緊張感をパワフルに描きたい」と述べ、「そのような肉体関係がシェクスピア作品で描かれることはほとんどないので、珍しい演出が付けられるのではないか」と意気込む。
ウィル・タケット 撮影:阿部章仁
タイトルロールを堂々務める福岡は新国立劇場バレエ団ダンサーの大黒柱的存在で、先だって令和4年度(第73回)芸術選奨文部科学大臣賞(舞踊部門)を受賞し勢いづく。「今回のチャレンジは何か?」と問われると、「『マクベス』をバレエにすること自体が凄くて、新しい作品を生み出すのは劇場の歴史の一頁を刻む作業になります。名誉ある作品でマクベスを踊ること自体がチャレンジです」と誇らし気に胸を張る。
福岡雄大 撮影:阿部章仁
米沢は看板バレリーナの一人として大車輪の活躍をみせ、バレエ界の各賞を総なめにしている。今回の挑戦について、こう話す。「先ほど言われた「ロマンティックにならないように」というのが大きな課題です。恋する少女や夢見る女の子(の役を)をかなりやってきましたが、セクシュアルな生身の女性、大人の女性をしっかり演じるのは、私にとってとてもチャレンジです。人生を賭けて演じたいと思います」。言葉の端々から尋常ならぬ意欲が伝わってきた。
米沢唯 撮影:阿部章仁

■珠玉の名作『夏の夜の夢』との好対照な二本立て~「二作品が一つの大きな演劇体験としてお客様に届いてほしい」(タケット)
今回の『マクベス』の見どころを問われたタケットは、『夏の夜の夢』(音楽:フェリックス・メンデルスゾーン)との二本立てを喜ぶ。「『夏の夜の夢』の振付は素晴らしい。とても美しくて軽やかさもある、親しみやすい作品です。妖精のような、魔法のような雰囲気をまとっている」と評する。いっぽうの『マクベス』は「その正反対に位置する」が、「バレエに対して、おとぎ話のようなイメージを持っている方が多いとすれば、そのイメージを壊す作品になれるのではないか。私の仕事は『マクベス』のストーリーをなるべく分かりやすく、誰にでも伝わるようにすることです。この二作品が一つの大きな演劇体験としてお客様に届いてほしい」と願う。
『夏の夜の夢』チラシビジュアル
福岡は「表現をする上でプレイヤー(役者・俳優)である要素が凄く強い作品です。バレエを知らない方でも、芝居が好きな方でも観に来ていただけるのではないか」とアピール。米沢は『マクベス』で描かれる人間模様について「人間の一つの真実」と語る。「いつの時代にも殺し合いもあるし、男女の関係も変わらないと思います。どなたにも共感して観ていただけるのではないか、どの人にも刺さる何かがあるのではないか。そういう舞台になれば」と抱負を述べた。
新国立劇場バレエ団「シェイクスピア・ダブルビル」スチール撮影のメイキング映像
吉田都 新国立劇場舞踊芸術監督は、英国の二つのロイヤル・バレエ団で22年間プリンシパル(最高位ダンサー)を務めた。2020年9月の就任以来、新国立劇場バレエ団はピーター・ライト振付・演出『白鳥の湖』、吉田監督自身の演出による『ジゼル』を新制作し、古典バレエをドラマティックに魅せる好舞台を生んでいるのは周知のとおりだ。今回の『夏の夜の夢』『マクベス』によるダブルビルにおいて、新旧の英国の演劇的バレエに挑み、さらなる新境地をみせるはず。新国立劇場発、舞台好きにとって興趣の尽きない新プロダクションの開幕が待ち遠しい。
取材・文=高橋森彦

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