上記作品 ポスター

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27本目・『最も危険な遊戯』:杉作J太
郎のDVDレンタル屋の棚に残したい10
0本の映画…連載53

杉作J太郎の

DVDレンタル屋の棚に残したい100本の映画
27本目・『最も危険な遊戯』 女子プロレスのスーパースター、ビューティ・ペアのヒット曲に乗せて娯楽の殿堂・東映だから作れた最高にたのしくリラックスできる映画。稲川淳二さんの「こわたのしい(こわい+たのしい)」に乗っかって言うならば「リラたのしい」映画だ。
 まずは映画の長さがいい。
 一時間ない。56分40秒ぐらい。
 テレビドラマの一話よりは長いがふつうの映画一本よりは短い。ま、ふつうの映画という定義も実はないのだがふだんみんなが見ている映画は90分から120分がほとんどである。
 長いものになると150分ぐらいになり短いものだと70分というのも珍しくはない。それだと最初から70分から150分と書けばよかったのかもしれないがやはり90分から120分が圧倒的に多い。
 ま、この先はわからない。ネットで短い動画に慣れた人々に90分から120分というのはあまりに長い。いまはその長さに慣れた親といっしょに映画館に行ってるちびっ子たちもはたして親といっしょでないときに120分の映画を見るだろうか。
 と、こんなことから記していたら新書一冊の長さになってしまう。
 先を進めよう。
 とにかく、現時点で考えればこの映画はあまりにも短い。
 とはいえ、中味はどうかというと信じられないぐらいギッシリしている。ギューギュー詰めだ。ビューティ・ペアはたっぷり登場する。ヒット曲も二曲、しっかり聴ける。プロレス好きには試合もたっぷり収録されている。三本勝負が二試合。ダイジェストみたいな感じはしない。かなりリアルでプロレスのドキュメント映画と言ってもいいぐらいだ。途中に展開される全日本女子プロレス道場での練習風景もリアル。東映の誇るプロ中のプロスタッフがリアルな動画と音声を収録している。が、そこにいるコーチ、トレーナーは佐藤允。岡本喜八監督の数多くの映画で展開した雄姿は不滅。東宝映画での活躍は大人気となり筆者の子供時代はビールのテレビコマーシャルで「オバケのQ太郎」「怪物くん」「ゲゲゲの鬼太郎」に負けない大人気だった。いま見ればどう見ても本格的な大人の魅力なのだがダイナミックな笑顔とパワフルな笑い声がまだ物の道理すらわからぬちびっ子(私)のハートを鷲掴みにしたのだ。
 つまりは「オバケのQ太郎」「怪物くん」「ゲゲゲの鬼太郎」ばりの並外れた、ふつうそのあたりにはいない魅力に満ちている。
 また、このサイズの、56分40秒の作品には出ない大物スターであった。その佐藤允さんが出演しているということはもしかしたら佐藤允さんがプロレスファンだったのかもしれない。生前、佐藤允さんに映画館の壇上でじっくり、一時間はあったと思う、お話を伺ったことがある。もう30年ぐらい前ではないかと思うがそのときのうれしさといったらなかった。お会いしてわかったが、数々の映画やテレビ、コマーシャルで見た佐藤允さんはそのまま生身の佐藤允さんだった。
 佐藤允さんがそこにいるだけで、もう芸術になる。動画だったら映画になる。お金を払ってもいいものになる。
 この映画は基本、女子プロレスのスーパースターであったビューティ・ペアの魅力をしっかり記録している。当時の東映の映画館に来ていたのは本物のやくざかやくざ予備軍、そしてやくざファン、そしてやくざはともかく人生なんかどうにでもなれという破滅型芸術家体質の人々で構成されていた(現代では考えられないだろうし私の表現をおおげさと感じるかもしれないが決しておおげさではない)。女性の観客は冗談抜きで一割いなかった。5%ぐらいはいたかもしれないがその女性たちも大人の女性であった。私の感覚では一回の上映にひとりいればいいほうだった。ちなみに私の育った松山ではそのひとりが現在、私がディスクジョッキーをしている放送局のアナウンサーだった。そのアナウンサーの番組に呼ばれてしゃべったのが人生初の放送局体験である。失礼しました。余談である。
 だが。この映画『ビューティ・ペア 真っ赤な青春』を彼女たちのファンは見に行く。たとえやくざ、やくざ予備軍、やくざファンが大集合している暗がりでも行かずにはおれない。大好きなビューティ・ペアの初主演映画を見に行かないわけがない。自分の住んでるところから遠く離れた町へでもプロレスは見に行くだろう。だがこの映画は全国津々浦々の東映直営館で見ることができるのだ。
 おそらく中学生や高校生の女子もたくさん来る。やくざムード満載の映画館に勇気をふりしぼって来る。
 もちろん親には言えない。
 親にも内緒で暴力の巣に足を踏み入れる。
 その子たちの期待や夢を壊すわけには行かない。
 監督の内藤誠さんとはかなり親しくさせていただいているが本当にやさしくて穏やかな、あたたかい人だ。撮影現場では厳しい部分も瞬間にはあるかもしれないがすぐおだやかになる。こんなおだやかで、あたたかい人がなぜ東映の監督なのか、「不良番長」や「番格ロック」を撮ったのか。不良映画、暴走族映画を撮ったのか。
 それはそれぞれの映画をよく見ればわかる。内藤誠監督の映画はどんな恐怖な題材にもあたたかさがある。そこがおもしろいのだ。そこが映画なのだ。こわいだけとか、物騒なだけなら私もここまで映画にはまらなかった。映画というのは多層的なのだ。デザートだと思ったら主食だったり、遊園地だと思ってたら荒野だったり、凶暴なやくざだと思ったら純朴な少年だったり、淫らで多情な女だと思ったら清純な乙女だったり。だから映画なのだ。
 話が長くなりすぎたのでこの先は次回に続く。トレーナー役の佐藤允さんの話のつづきから。

『ビューティ・ペア 真っ赤な青春』(1977年・東映京都)
出演/ジャッキー佐藤、マキ上田、赤城マリ子、池下ユミ、阿蘇しのぶ、ナンシー久美、小宮山忠子、ビクトリア富士美、松永俊国、相沢健一、ジミー加山、小貫千恵子、小栗正史、益田哲夫、酒井努、高橋利通、大倉晶、大森不二香、町田政則、河合絃司、内田勝正、石井富子、近藤宏、岡田裕介、佐藤允
企画/吉峰甲子夫、松永高司
撮影/花沢鎮男
録音/宗方弘好
照明/大野忠三郎
編集/鈴木宏始
助監督/渡辺寿
進行主任/瀬戸恒夫
協力/全日本女子プロレス興業
主題歌/「真っ赤な青春」ビューティ・ペア
挿入歌/「かけめぐる青春」ビューティ・ペア
音楽/八木正生とエレクトリック・ファミリー
脚本/中島信昭
監督/内藤誠

<隔週金曜日掲載>
画像:上記作品 ポスター
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杉作J太郎(杉作J太狼XE) twitterアカウント
https://twitter.com/otokonohakaba杉作J太狼XE監督作品 映画「チョコレートデリンジャー」twitterアカウント
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・雑誌、実話BUNKA超タブー(隔月刊/偶数月2日発売)でコラム「熱盛サウナおやじの伝言」連載中!

【プロフィール】
杉作J太郎(すぎさく・じぇいたろう)
漫画家。愛媛県松山市出身。自身が局長を務める(男の墓場改め)狼の墓場プロダクション発行のメルマガ、現代芸術マガジンは週2回更新中。著書に『応答せよ巨大ロボット、ジェノバ』『杉作J太郎が考えたこと』など。

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