名古屋の〈オレンヂスタ〉が、演劇や
ダンス、演芸など多彩な表現の短編8
作品によるアラカルト公演を開催

名古屋を拠点に活動する劇団〈オレンヂスタ〉が、演劇・ダンス・落語・漫才・歌・舞踏…と、多彩なジャンルの演目8作品を披露するアラカルト公演を計画。その名も『回転寿司 一皿目、何から食べる? ~私はクロカンブッシュ。~』と題して、2023年2月11日(土)と12日(日)の2日間に渡り名古屋・大須の「七ツ共同スタジオ」で上演する。
オレンヂスタ アラカルト公演『回転寿司 一皿目、何から食べる? 〜私はクロカンブッシュ。〜』チラシ表
〈オレンヂスタ〉の団員のみならず、ゲスト作家や演出家、振付家、出演者も多数招いて贈る今回の公演は、《がり組》と《さび組》の2組、各4演目ずつで構成されている。
まず《がり組》は、約10年ぶりの再演となる演劇作品『煉獄赤提灯午前三時』、落語家・登龍亭福三による新作落語を劇団員が演じる『落馬一座』、ダンサー・振付家の服部哲郎(afterimage/archaiclightbody)振付によるデュオダンス『青くなるセピア』、劇作家・演出家の斜田章大(廃墟文藝部)の書き下ろし脚本・演出による演劇『インフィニティ今津』を上演。
片や《さび組》は、バレエの名曲を舞踏に再構築した舞踏『ボレロ』、お笑い芸人としても活動する俳優・林優(劇団わに社)と劇団員・今津知也による漫才、過去作の劇中歌を歌う『ヂスタ名曲リサイタル』、2020年に製作し上演がわなかった人形劇をリクリエーションした演劇『「サトくん」のこと。』の4作を上演する。(《がり組》《さび組》各演目の詳細については、別記【上演ラインナップ】を参照)
前列左から・伊藤文乃、二瓶翔輔、今津知也、暁月セリナ 後列左から・菊池綾、未彩紀、林優、味潮浅利、大野ナツコ
総合演出は、〈オレンヂスタ〉の座付き作家・演出家で、『煉獄赤提灯午前三時』と『「サトくん」のこと。』の作・演出及び、「舞踏『ボレロ』」の構成・演出を手掛けるニノキノコスターが担当。尚、彼女は先日(2022年11月30日)当サイトでも紹介した『人形劇 寿歌』の演出で、〈日本演出者協会〉が主催する「若手演出家コンクール2022」の優秀賞を受賞。『「サトくん」のこと。』は、2023年3月の最終選考上演会に臨む演目で、今回がそのプレ上演となる要注目作品だ。
今公演の企画意図やラインナップ、また、「若手演出家コンクール2022」最優秀賞を目指して挑む『「サトくん」のこと。』などについて、ニノキノコスターと、〈オレンヂスタ〉主宰でプロデューサーの佐和ぐりこの両名に話を聞いた。
── 今回は、なぜこのようなアラカルト公演を企画されたのでしょうか。
佐和 うちの劇団はもともと本公演のスパンがそんなに早くはないんですけど、コロナの影響もあってなかなか上演する機会が無くなって。その間、劇団員はそれぞれ他のところに客演したりしていましたけど、年度末ぐらいにはやれそうだから何かやりたいね、ということになったんです。ただ、いつものボリュームの本公演として新作を上演したり、再演も考えたりしたんですが、それはちょっと難しそうだということで、じゃあこういう機会に短編で、劇団員がやりたい企画を持ち寄ってやってみましょうか、という形になりました。
── 落語あり、漫才あり、ダンスあり、歌ありと、とてもバラエティに富んでいますね。
佐和 そうなんです。企画が立ち上がった当初は「いっそ演劇じゃないことばっかりにしようか」と言っていたんです。でも劇団員がそれぞれやりたいことを持ち寄ろう、となった時に、やっぱり演劇もやりたくなっちゃった感じで(笑)。本公演ではわりと、ダンスとかお笑いとか落語とか人形劇とかいろんなジャンルも全部一緒くたにして一個の作品にしちゃうようなところがあるので、それをバラして一個一個やってみたらどうなるかな、みたいな思いもありました。
なので、いつも本公演でダンスの振付をお願いしたり、今津(知也)君がよく客演させていただいている服部哲郎さんの〈afterimage〉だったり、斜田章大さんの〈廃墟文藝部〉も(伊藤)文乃さんがよく客演させてもらっているので、そういう関係性の方々にも〈オレンヂスタ〉の公演として作品創りに参加してもらったらどうなるかな? ということでお声掛けした、という感じです。
── 外部の方にお願いする作品は、何か要望を伝えたりされたんですか?
ニノキノコスター(以下ニノ) ダンスは今津が、「とにかく踊りたい! 哲郎さんとやりたい!」と。斜田さんの作品も、文乃が「斜田さんとやりたい!」と。その上で、俳優陣を見て脚本を書いてくれました。
佐和 今津君のダンスについて補足すると、〈afterimage〉さんでは男性ばかりのところに客演しているので、「女性とデュオダンスを創りたいので哲郎さんに振付をしてほしい」というオーダーで、良いダンサーさんを紹介していただきました。
ニノ 〈afterimage〉だと元気いっぱい! みたいな風なので、ちょっとしっぽりしたことがやりたい、みたいな。今回は物語性がすごく強くて、この前見学に行ったら、哲郎さんが20分ぐらいずーっと設定を喋ってくれたんです。あらすじに書かれていることよりもすごく細かくて、なぜ世界が崩壊したか、みたいな話からありました(笑)。
《がり組》ダンス『青くなるセピア』稽古風景より
── その辺りはもう、服部さんや斜田さんに全面的にお任せされているんですね。
ニノ 漫才も、知也が「ちょっとじゃあ、友達の林君とやろうかな」って言って、林優さんが書いてくれました。《さび組》は2回上演があるんですけど、2回とも違うネタをかけるらしいです。
── 『「サトくん」のこと。』は、「若手演出家コンクール2022」の最優秀候補に残ったことで上演されることになったんでしょうか?
ニノ そうですね。もともとは別の海外作品を、最初から今回の企画でプレ上演して東京へ持ってこう、という想定で組んでいたんです。去年の夏から動いてはいたんですけど、著作権を取るのにどうしても半年以上かかるということで、今回の公演には間に合わないと。それで、2020年に上演が叶わなくて創り切っていなかった『光の園』という作品をリクリエーションすることにしました。客演の二瓶翔輔さんは、もとの海外作品の時点でお呼びしていて、『「サトくん」のこと。』になった時も、あの役を二瓶さんがやったら面白いんじゃないかな、と思って引き続きお願いしました。
── 稽古を拝見して、野菜を使った演出が妙に怖かったです。
ニノ あの辺は、『「サトくん」のこと。』(2016年に起きた「相模原障害者施設殺傷事件」を題材に、友人たちの思いを通して犯罪者の半生を描いた作品)のモチーフとはちょっと世代が違うんですけど、1997年に起きた「神戸連続児童殺傷事件」酒鬼薔薇聖斗の声明文「汚い野菜共には死の制裁を」から着想しています。実際の「サトくん」が「あいつらは人間じゃない」と言っていたから、人間を野菜とか果物に見立てたらどうなるかな、と。フルーツとか実際に包丁を入れると、マスク越しでもすごくいい香りがするんですよ。それもまたちょっと怖い。今回、『煉獄赤提灯午前三時』でも野菜をすごく使うんですね。消え物なので、稽古のあとは座組の皆さんにお配りして美味しくいただいています。コロナ禍じゃなかったら炊き出しが豪勢になるんですけど(笑)。
《さび組》演劇『「サトくん」のこと。』稽古風景より
── 『煉獄赤提灯午前三時』は2012年に初演された作品ということで、今回の上演にあたって手直しされた部分などはありますか?
ニノ 演出はそんなに変えてないです。煉獄に落ちた殺人鬼たちが労働をしながら飲み会をする話で、居酒屋のテレビで「殺人鬼ベスト・オブ・ザ・イヤー」を見るんですけど、そこで出てくる殺人鬼の名前が最近の人になったりとかはしてます。初演の時は、ちょうど「尼崎連続変死事件」の角田美代子が獄中死した頃なので、「今年のベスト・オブ・ザ・イヤーは美代子だね」みたいな話にしたんですけど、不謹慎極まりない話です(笑)。『「サトくん」のこと。』と『煉獄赤提灯午前三時』 は、“殺人犯と野菜”という共通項がありますけど、 『煉獄…』はコメディなので、2本観ると味わいが違うと思います。
── 『「サトくん」のこと。』という作品は、どういった経緯で発想されたんでしょうか。
佐和 もともとは2020年12月に「穂の国とよはし芸術劇場」で、横浜を拠点に活動する〈演劇ユニットnoyR〉さんと合同で上演しましょうという企画があって、それぞれ「人ノ形」をテーマに作品を創ったんですね。当時ニノさんが興味を持っていた人形劇を形式として取り入れたものを創ってみよう、ということになって。その後、あの題材にしたのはどうしてだっけ?
ニノキノコスター 「相模原障害者施設殺傷事件」が起きたのはちょっと前ですけど、事件を起こした植松聖についてはずっと、本当に変な人だな、と思っていたんです。動機が怨恨でもない、「秋葉原連続殺傷事件」みたいに無差別でもない。ちょっと調べていくと、スクールカーストの上の方の人だったのに、なんでこういう風になっていったんだろう? と興味を引かれていって、じゃあ「サトくん」で(植松の話を)創ってみるか、みたいな感じだったんです。
興味を引かれた理由としては、私の弟が中度の知的障害がある自閉症なんですよ。幼少から一緒に過ごす中で、やっぱり小学校とかでいじめられたりするし、健常者と障碍者の違いとか本当によくわからないな、普通って何だろう? みたいな思いがずっと根底にあって。植松の件に関しても、そういう環境にいるわけじゃないのに「ダメだよ」っていう人もいれば、「気持ちがわかる」みたいな人もいたり。ちょうどコロナ禍で参ってたのかなぁ。自己責任論が進み過ぎた先には本当に弱者の切り捨てしかなくて、あの頃は自分達も「芸術は不要だ」と言われ苦しんでいて。何か見えるものがないだろうか…みたいなところで書き始めたような気がしなくもないです。
佐和 ご兄弟のこともあって、ニノさんの処女作も障碍者殺人がモチーフですね。
ニノ 大学の時に書いたホン『ノーナイ・パンクス』ですね。
佐和 『煉獄…』も殺人鬼だったり、他の作品でも障碍者が出てきたり、なんだかんだ戻ってくるところというか、もう一回何か見つめ直そうかな、みたいなタイミングの時にはそういう題材に向き合うのかなと、側で見ていて思います。
ニノ 見つめ直す先が障碍者と殺人鬼って。もうちょい違うものを見つめたい(笑)。
《がり組》演劇『インフィニティ今津』稽古風景より
── 《がり組》と《さび組》に分けた演目の基準というのは何かあるんですか?
佐和 時間配分と、劇団員が結構作品を兼ねているので、物理的に可能なものと、もちろん漫才と落語は分けたいとか、舞踏とダンスは分けたいなぁみたいなことも考えつつ決めた感じです。結果的に《さび組》は、『「サトくん」のこと。』が一番上演時間が長い分、他がちょっと短めのものでまとまっていて、 《がり組》は一つひとつが全部20分~30分でガツガツガツという感じなので、ゲストさんに創ってもらう作品も2つありますし、 《がり組》の方がボリュームとしてはちょっと濃い感じで、《さび組》は短い作品で笑ったりしてもらいつつ、最後は『「サトくん」のこと。』を楽しんでもらう、みたいな構成になっていると思います。
── 公演全体の総合演出として、コンセプトや特にこだわった点などはあるのでしょうか。
ニノ 仕上がったそれぞれの作品を見たら、あんまり寿司屋っぽくし過ぎるのもなぁみたいなのがあったので、全体の演出として、そんなに手は入れられないなと。とはいえ、へい!寿司食いねぇ!みたいな雰囲気ではなく、回転寿司でもなく、全体の空気感としては創作和風居酒屋の、なんかちょっとジャズでも流れていそうな寿司屋みたいな雰囲気にします(笑)。
── “クロカンブッシュ”はどこから出てきたのかな? と(笑)。
ニノ これ、知也が言い出したんじゃないかなぁ。
佐和 いつもの本公演でやっていることの“全部盛り”みたいな演目で、なんでもかんでもあるものとして「回転寿司」のタイトルになったんですけど、ただの回転寿司だとなんか物足りないなぁと。もうちょっとなんか、変わり種とかが出てきそうな回転寿司感が出せないかなぁと言ったら、クロカンブッシュが出てきました(笑)。
── 今回のようなアラカルト公演は、今後も開催されていくご予定ですか?
ニノ 本公演の期間が基本的に今、2年に1回ぐらいなので、たぶん次が来年の3月ぐらいになると思うんですけど、昔は本公演と本公演の間に短編フェスに出たりしていて、年に1回はどこかで上演する機会があったのが最近はフェスに参加出来ていないんですよね。なので、自分もですけど、俳優の出演機会が定期的にないとやっぱり鈍っていっちゃったりするので、これは制作的な意味合いというよりは、団内の俳優の育成継続の意味合いで、本公演と本公演の間にこういうことをやってく可能性は無きにしもあらずかな、と思います。
佐和 やっぱり本公演は今後もニノさんの新作・演出になると思いますが、今回は作演の方などを外部からお招きしたことで、少なからず刺激もありました。劇団員の今津を題材にした作品など、短編だからこそ〈オレンヂスタ〉のカラーを打ち出してもらえたり、劇団員もいろいろ企画を持ち寄って公演を回していくということも一緒に考えてやってくれたので、またこういう公演がやれそうだな、やれると良いな、と思っています。
取材・文=望月勝美

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