『気づかいルーシー』で、みたび王子
様役に挑む栗原類を独占インタビュー

松尾スズキの絵本を原作に、劇団はえぎわ主宰のノゾエ征爾が脚本・演出を手がけた、こどもも大人も一緒になって楽しめる舞台、『気づかいルーシー』。2015年に初演後、2017年に再演もされたこの作品が、2022年夏、5年ぶりに帰ってくる! 初演、再演と同じく<ルーシー>役には、まさにハマリ役と絶賛された岸井ゆきの、その彼女と恋に落ちる<王子様>役には唯一無二の空気感を纏う個性派・栗原類、ルーシーの<おじいさん>役にはパフォーマーで振付家でもある小野寺修二が扮するほか、前回に引き続きノゾエも役者として登場、はえぎわメンバーの川上友里、山口航太と共にこの不可思議な作品世界を盤石に構成。さらに<馬>役として今回から大鶴佐助が初参加し、新たな風を吹き込む。前回公演から5年という月日が経つ上、新たな演者が加わることもあり、新生『ルーシー』の誕生に期待は高まるばかりだ。
これで3回目の王子様役に挑む栗原類に、作品への想いを語ってもらった。
ーー『気づかいルーシー』再々演のお話を聞いた時、率直なご感想としてはいかがでしたか。
純粋に嬉しかったです。早い段階で再々演の予定があることは耳にしていたのですが、その後コロナ禍がありましたし、キャストもスタッフも本当に忙しい方々ばかりなのでスケジュールを合わせるのがなかなか難しかったりして。でも、こうして無事になんとか2022年に行うことができそうで何より、という気持ちです。
栗原類
ーーほぼオリジナルメンバーが揃うというのは、奇跡的なことですよね。
そうですね。そして、今の時代だからこそ、この舞台は必要だと思いますし、そんな今の時代に合わせてノゾエさんがどういう演出を考えているのか。このインタビューを受けている時点では僕らはまだ稽古に入っていない状態なので、この先の稽古でノゾエさんがどのように舞台を作りあげていくのかを僕自身も楽しみにしています。とはいえ今回が三度目の作品ですのでお話の内容はもちろん、自分のセリフ、ほかのみんなのセリフもひととおり頭の中に入っていますから。だからといって決してそれに慢心はせず、新作のつもりでまたイチから再構築して挑みたいと思っています。
ーー前回からどのくらい変わるのかは、やはりノゾエさん次第でしょうか。
今までずっと山中崇さんが演じていた<馬>役が今回は大鶴佐助さんに変わるわけなので。たとえ同じ戯曲で、ほとんどのキャストは同じ人間たちが揃っていたとしても、演者がひとりでも変われば作品としてはもう完全に新作、初演の気持ちになると僕は思うんです。具体的に今回どんな変化が起きるかはまだわかりませんが、自分としてはとてもワクワクしております。
ーーこの作品の中で<王子様>役を演じるにあたって、一番にどんなことを意識されていましたか。
演出のノゾエさんからは「優しさを意識してほしい」と言われていましたので、自分なりに声質を変えたり、多少の爽やかさというものに取り組んでみたりしていました。
ーー演じている時は楽しかったですか、それとも難しかったですか?
難しいと思うこともありましたが演じることが楽しいという気持ちがわかった気がします。ノゾエさんは、僕ら演者から出て来る芝居を受け入れてくださる演出家なんです。それプラス、今回も<おじいさん>役で出演されている小野寺修二さんが振付、ステージングにも関わってくださっているのですが、小野寺さんもやはり僕たちが出した動きを「こういう風にすればいいと思うよ」とアジャストしてくださるんです。初演、再演ともに、みんながお互いを「大好き!」と言えるような、温かい気持ちに包まれたカンパニーだったので、今回もたぶんそうなると思いますね。新たに入る佐助さんも、ノゾエさん演出の舞台に出られていたりするので、その点でも顔見知りだらけでアットホームな現場になるだろうと思っています。
栗原類
ーーノゾエさんの演出を受けてみて、いかがでしたか。面白い注文とかありましたでしょうか。
特に、僕の場合は注文をされたことはなかったと思いますが、ノゾエさん自身はとにかく本当に優しい人で。もともと松尾スズキさんのもとで勉強していらしたこともあり、演出の方法であるとか、書かれた戯曲や構成台本のセリフなど、作品の端々から“松尾スズキイズム”というものをすごく感じました。これまでも、いろいろな方々が松尾さんのもとで勉強されたリ、影響を受けたりした方も大勢いらっしゃると思いますが、特にノゾエさんからは、かなり松尾さんに近しいものを勝手ながら僕は感じていて。そこも、とても好きです。
ーー栗原さんは、松尾さんの舞台や映像作品にも出演されていますから、感じる部分が多いかもしれませんね。
そうですね。それこそ、『気づかいルーシー』の初演も再演も松尾さんは観に来てくださったんですが、初演時に、僕がやった動きを松尾さんが「俺に似てた」とおっしゃってくださって。それは本当に嬉しい言葉で、自分の演劇人生において一生大事にしたい宝のような言葉だったなと思っています。大人計画の他の役者さんたちも「動きが松尾さんみたいだったよ」と言ってくださったので、それも嬉しかったですね。
ーー栗原さんは、松尾さんの世界がお好きなんですか。
自分はお芝居を始めるにあたって、大人計画の松尾スズキさん、宮藤官九郎さんにすごく影響を受けているんです。こども時代から、松尾さんや宮藤さんの作られた映画やドラマなどをとても楽しみに見て、育ってきた人間なので。だから、映画『108~海馬五郎の復讐と冒険~』に出させていただいたり、舞台『フリムンシスターズ』で直接松尾さんの演出を受けることができたことは、僕にとってかけがえのない歴史の一部だと思っています。
ーー<ルーシー>役の岸井ゆきのさんについては、共演者としてどう感じていますか。
「このルーシー役を演じられる人は岸井さんしかいない」と思ってしまうほどに、原作の再現度が非常に高いと言いますか。本当に、絵本から飛び出してきたようなルーシーなんです。彼女自身は初演、再演ともに座長という立ち位置としてからも、気づいたらみんなをまとめてくれていたりもしましたし、それと同時に、個人的にも芝居には嘘がなく、とても透明感がある人で。横で見ていて、自分にとって刺激的でもありましたね。
ーー<馬>役の佐助さんとは初共演となりますが。
仕事でご一緒したことはないのですが、コロナ禍前に一度、お話したことがありますし、共通の知り合いも多かったりするんですよ。でもがっつり、佐助さんとご一緒できるのは初めてですから、彼の人間性とかも含めて、いろいろと覗き見ができたらいいなと思っています(笑)。佐助さんが出演されていた『ボクの穴、彼の穴。』をノゾエさんが演出されていた関係もあり、ノゾエさんからの信頼も厚い方ですしね。しかも同世代でもありますから、共演できるのは本当に楽しみです。
栗原類
ーー栗原さんはここ数年、舞台の仕事がとても多い印象がありますが、それは演劇がお好きだからですか。
役者を続けていく上では、舞台が一番自分の肉となり、財産となる気がするんです。そういう意味でも、舞台のお仕事は大切にしていきたいなと思っています。
ーーお好きだった松尾さんの作品にも出演できて、着実に夢はっているわけですね。
はい、目標のひとつは叶いました。でも僕としては、やっぱりもっともっと松尾さんの演出を受けたいですし、さらには、この『気づかいルーシー』という作品でしかノゾエさんの演出を受けていないので、ぜひはえぎわ(ノゾエ主宰の劇団)の舞台でノゾエさんの演出を受けてみたいという野望を抱いています。
ーーはえぎわへの客演が、次なる野望なんですね。
はい。ノゾエさんは、今後の演劇界を背負っていくような方のひとりだと思っていますので。それもあって、今回の新たな『気づかいルーシー』でノゾエさんがどういう構成にし、演出をどのように変えて来るか、出演者でありながらもとても楽しみなんです。
ーーそして『ルーシー』といえば音楽劇としての面白さも満載です。生演奏ですし、みなさん、たっぷり歌いますしね。
そうですよね。たとえば、この舞台を象徴する曲でもある「気づかいのうた」、あれは初演と再演で振付がちょっと違うんです。小野寺さんのことですから今回も、ベースはそれほど変えないとしても、より、ご覧になるお子さんたちにも踊りやすい振付をと考えられると思うんです。演奏を担当される田中馨さんと森ゆにさんの奏でる曲も面白い曲ばかりですし。みんなで歌うことは難しいかもしれませんが、軽くハミングだけとか、せめて心の中でとか、ぜひ一緒に歌いながら観てくださるといいなと思っております。
栗原類
ーーではお客様に向けて、お誘いメッセージをいただけますか。
初演、再演をご覧になったみなさまは物語はわかっているかもしれませんが、演者がひとりでも変わればまったく違う演出になると思いますから、完全な新作として楽しんでいただけると思います。そもそも、初演と再演もかなり異なりましたからね。それも踏まえて、この三回目の上演がどんなふうに変化するかを観に来る価値はあるのではないかと思っています。そして、今回初めて観に来てくださる方々には、まだ上演時間がどのくらいになるかはわかりませんが、これまでの経験上は、そこまでめちゃくちゃ長いわけではないので。
ーー過去の舞台では、90分くらいでしたでしょうか?
舞台自体を観たことがない方にも足を踏み入れやすい作品かと思います。やはり「今の時代だからこその“気づかい”ってなんなのか」ということも、改めて考えられるような舞台になるのではないかと思っています。
ーー栗原さんにとって、“気づかい”とは。
うーん、難しいんですが、要は人に対する優しさなのかなと思います。自分がちゃんと人に対して優しくいられるかということに関しての、鍵のひとつみたいなものかもしれませんね。
栗原類
取材・文=田中里津子    撮影=池上夢貢 

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