森崎ウィン「覚悟はもうちゃんとでき
ている」~ブロードウェイミュージカ
ル『ピピン』インタビュー

2019年に初演されたブロードウェイミュージカル『ピピン』日本版が、主演ピピン役に新たに森崎ウィンを迎え、2022年8月から9月にかけて東京・大阪にて再演される。
ボブ・フォッシー(ミュージカル『シカゴ』、映画版『キャバレー』)による演出と振付で1972年に初演された本作は、紀元8世紀後半のローマ帝国を舞台に、若き王子ピピンが「特別な何か」を探し求めて旅に出る物語。
この日本版でも演出を手掛けるダイアン・パウルスによって、ボブ・フォッシーのスタイルを踏襲したダンスと、シルク・ドゥ・ソレイユ出身のアーティストが手掛けたサーカスアクロバットが加わった斬新な新演出版が、2013年に上演され、トニー賞でミュージカル部門最優秀リバイバル賞ほか4部門を受賞した。
今回ピピンを演じる森崎ウィンに話を聞いた。
『ピピン』を観たら、世界が変わります!
ーーピピンに出演が決まったときはどう思われましたか?
『ピピン』という作品に出合ったのは、深夜に見たCMでした。僕はブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』Season2(2020年)が控えていたので、ミュージカルのことを知りたいなと思っていたんですけど、そのCMを見て、面白そうだなと思って、自分でチケットを買って観に行きました。そしたら受けた衝撃が大きすぎて! 「こんなに素敵な作品がなぜ深夜のCMなんだ!?」と思ったくらい。
ーー(笑)。
Crystal Kayさんも、(日本初演でピピン役を演じた)城田優さんも、みなさん本当に素敵で。作品と、そのエンターテインメント性に心が全部持っていかれました。その後自分が出演することが決定したので、「そんなことってある!?」と思いつつ「ぜひやらせてください!」と。それから『SHOWTIME』(2021年)で(城田)優くんとご一緒して。「けっこう大変だからがんばって。でもウィンウィン(森崎)なら大丈夫だよ」と言ってくださいました。ビビッてはいるのですが、ここまできてますし、作品が素敵なので、自分がやれることをとことんやっていこうと思っています。
ーーピピン役を演じるにあたって、どうしたいと思われていますか?
僕にとってすごくチャレンジングな作品ですし、これをやり切ったらきっと無敵……とまでは言いませんが、大きく成長できる作品になるんじゃないかなと思います。成長するときって大体へし折られることが多いんですけど、そういうときは僕、これ語弊があるかもしれませんが、けっこうMなんですよね(笑)。とはいえ壁にぶち当たることはわかっているので、そのための精神力も体力も肉体的なものも含め準備したい。だからつまり『ピピン』が決まった日から、やらなきゃいけないことはもう始まっていた気がします。そういう意味では、決まった頃よりも今のほうがよっぽど落ち着いているというか。覚悟がもうちゃんとできているし現実味がある、という感覚です。
ーー多くの方が日本初演からの続投キャストですが、再演から参加することはどんなふうに感じていらっしゃいますか?
正直怖いです。ただ、『ピピン』の場合はそんなこと言っている暇はないとも思います。それに、カンパニーにとっては新しい人が入ることでの刺激も生まれると思う。だから……楽しみです!(笑)
ーー城田さんと共演した『SHOWTIME』では、『ピピン』の楽曲「コーナー・オブ・ザ・スカイ」の歌唱もありましたが、どんなお気持ちでしたか?
楽しかったです。作品としてはそのためにやっているわけじゃないのですが、僕の中ではバトンを渡されたみたいな気持ちにもなりました。でも楽曲以前に、『SHOWTIME』という作品は、城田さんが演出も手掛けていらっしゃるので、城田さんがどうつくって、どんな気持ちを持って、どんな趣で立っていらっしゃるのかを間近で勉強できて、そこで得られたものが大きかったです。エンターテイナーとして本当に素敵な方で、稽古場の居方も、みんなのモチベーションの上げ方も、この方がセンターに立って座長としてやられるってこういうことなんだな、ということをすごく感じたんですね。あのとき、『SHOWTIME』に出られたことには感謝しています。
ーー『ピピン』についてはお話しされましたか?
具体的にお話しする機会はなかったんですけど、「稽古に入ってやばかったら電話して!」と言ってくださいました(笑)。
森崎ウィン・城田優(初代ピピン役)歌唱映像 コーナー・オブ・ザ・スカイ(2021年「SHOWTIME」より)
>(NEXT)“役者としての森崎ウィン”はピピンと通ずる部分がある
ーーピピンという役に共感することや、現段階でどう捉えているかをお聞かせください。
実は正式な台本は先ほどいただいたので、具体的なことはこれからですが、現段階で僕が感じていることは、ピピンが「本当の幸せ」や「特別な何か」を探し求めるところ、現状に満足せずに行くところは、僕の人生にも近いものがあるのかなということです。僕の仕事は、出会いと別れの連続で。ある作品に出合って、そこで刺激をもらって、また次の作品に出合って、なにかが変わって。いつも「その次」「その次」と探しながら生きていると思うから。そういう“役者としての森崎ウィン”はピピンと通ずる部分があるんじゃないかなとすごく思います。
ーーミュージカルならではの向き合い方はありますか?
例えば、いくらいい芝居をしていても、そこに照明が当たっていなければ意味がない。演劇ってすべてが大事な総合芸術ですよね。そういう意味で僕がミュージカルに感じる難しさは、やっぱり「歌」なので。感情だけが先行してピッチがはずれてはいけない。ワーッと叫んだ後でもきれいに歌えなければいけないですし。気持ちが高まりすぎても歌えないので、そこをコントロールしながら歌わなければいけない。そこはまだ自分の課題のひとつです。それと今回はシングルキャストですし、1日2公演ある日の体力の使い方含め、やらなければいけないことはいろいろあるなと思っています。
ーー『ピピン』のお話の中でも戦争が出てきます。いま、この作品を上演することにどうお感じですか?
もちろん、だからこそいま上演すべきとも思うのですが、ただ、それ以前に僕らの世界では常にいろんなことが起きているということも忘れてはいけないと思っています。僕らは水を飲みたいと思ったらすぐ飲めるし、電気があって、暑ければクーラーもありますよね。でも、いつもどこかではそうじゃない人がいることは忘れちゃいけないし、忘れないでほしい。ということは、僕が人生を通して伝えたいメッセージのひとつでもあります。
ーー森崎さんは『ピピン』からどんな影響を受けましたか?
本当に時間を忘れたんですよ。ひとりで観に行ったんですけど、観終わってすぐ、誰かに電話しないとダメだと思いました。「こんなにいい作品があるから観てほしい!」って。そういう気持ちに駆られるっていうか。これぞエンターテインメントだと思います。入り込んで、すべてを忘れさせてくれる。物語の世界を僕らも一緒に旅している感覚になれる。純粋に時を忘れました。観ているときは、仕事としての目線は一回どうでもよくなっちゃって。「やばい! たのしい!」みたいな。子供になりましたね。だから今回も、ミュージカルを観たことのない方にもオススメしたいです。この作品を観たら世界が変わります!
ーーそれをつくる側になりますが。
いまは敢えてちょっと目を瞑っています(笑)。すごく正直なことを言うと、優くんの次にやるのも僕にとっては相当なプレッシャーです。怖い。だって本当にいい作品だったから。ずっと怖いと思っているんですけど、でも、この作品とはご縁をとても感じています。実はいろんなことが繋がっているので。……あれ、もしかして僕、劇場で魔法にかけられたのかな?
ヘアメイク=KEIKO
スタイリスト=森田晃嘉
取材・文=中川實穗 撮影=嶋野 旭

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