舞台『室温』主演の古川雄輝、役を死
なせないためにかかえる俳優としての
苦しみ「自分にとってこの仕事は楽し
さが2割くらい」

ケラリーノ・サンドロヴィッチが2001年に作、演出を手がけた同名舞台が、河原雅彦の演出でよみがえる――。12年前に集団暴行の末に殺害された女性の命日にあつまった人々の奇妙な関係性を描くホラー・コメディ『室温~夜の音楽~』。6月25日(土)から世田谷パブリックシアター、7月22日(金)から兵庫県立芸術文化センターにて上演される同作で、加害少年のひとりである主人公の間宮を演じるのが、古川雄輝だ。2022年に入ってテレビドラマ『liar』(MBS)、『ねこ物件』(テレビ神奈川)、『嫌われ監察官 音無一六』(テレビ東京系)、映画『劇場版 ねこ物件』(8月公開予定)など出演作が相次いでいる。舞台は、『神の子どもたちはみな踊るafter the quake』(2019)以来、3年ぶり。今回はそんな古川に、芝居との向き合い方について話を訊いた。
古川雄輝
――間宮は狂気性を秘めたキャラクターとのことですが、古川さんはそういった一面を持っていたりしますか。
狂気的と言い表せるのかは分かりませんが、役柄について「こうだ」と思ったら譲れないところはあります。譲った方が物事はうまくいくかもしれないけど、役者は良くも悪くも自分の役以外のことはよく見ていないところもあるので、その分、こだわりが強くなります。「こういう台詞を言う人物とは、どういう人間なんだろう」と、かなり考えて役を作るんです。映像作品の場合は、衣装合わせの段階ですべての台詞やキャラクター像を頭に入れるようにし、その段階で監督とかなり話し合える状態へ持っていきます。
――舞台はその工程がちょっと違ってくるわけですね。
舞台は約1ヶ月間の稽古の時間が与えられ、日を追うごとに役として「自分はこういう人間なんだ」と答えられるものが増えていく。さらに共演者さん、演出家さんと話しながら「そういう意図があるのか」と台本を紐解く作業もじっくりおこなうことができます。でもドラマはスピード勝負。衣装合わせの段階でやっておかないと、スムーズさに欠けて現場で迷惑をかけてしまいます。衣装合わせまでに台本を読み込んでおいて、そこで監督に質問したり、質問し返されてもなんでも答えられる状態を作っておきたいんです。
――なるほど。
あと、役が自分のなかにちゃんと入っているときはちょっとしたことも気になってしまいます。「ここにコップを置くのはこのキャラクターらしくない」とか。でもそこまでできていると、誰かに何かを言われても台詞が自然と口から出るし、その役としてほかの役者さんとコミュニケーションもとれるんです。
古川雄輝
――逆に映像作品の場合、そこまで固めながらアテが外れると修正が利かないことがあるんじゃないですか。監督から「古川さん、それちょっとずれています」と。
それでも役柄についてはこちらも相当把握しているので、「こうじゃないですか」と一度提示します。その上で「違う」と言われたら、まず半分くらいは飲み込むようにします。そして理由をうかがって、すべてを飲み込むんです。
――つまり役作りに関してはきっちり話したい、と。
映像であれば編集の都合もあると思うんです。でも、まずはシンプルに「役の立場としてその仕草はどうなのかな」と考えをぶつけます。たとえば「まず相手役を見て、このセリフを言い終わったら、次は下を見てください」と指示をされて、でもそういう演出は演劇的には理にかなっていないと自分は考えています。相手が喋ったのを見て、何かが気になったから下を向く……だったら分かるんです。つまり「なぜ相手を見るのか」、「なぜ喋るのか」、「なぜ下を向くのか」をきちんとやらないと、その役が死んでしまいます。ドラマはそこまで話し込める時間が少ないから難しいです。舞台は、疑問があれば深くまで話せますね。
――そこが舞台のおもしろさにつながるわけですね。
いえ、「おもしろい」と感じられるのはきっと芝居が上手い人だけですね。自分はもう、いつも大変です(笑)。うまくいかないことが多くて「どうしよう」と必死です。自分にとってこの仕事は、楽しさは2割くらいだと感じていて。
古川雄輝
――かなり苦しんでいますね。
ここまでのお話を聞いていて理解していただけるかもしれませんが、自分は「対作品」ではなく、「人との向き合い方」で苦しむんですよね(笑)。
――なんとなく分かります(笑)。
俳優さんのなかには、言われた通りに演じられる方もいらっしゃると思います。それも能力ですよね。作り手によってはその方が使いやすいかもしれません。でも自分は真逆というか。ただ、これはどの俳優にも当てはまるはずですが、自分のなかの譲れない部分と、言われた通りにやる部分の間をとるというか、うまいバランス感覚でやっていけたら良いですよね。自分はいつも「お芝居以上にそのバランスが難しいな」となります。
――でも監督や演出家としては「そこまで役のことを考えてくれてありがとう」となるんじゃないですか。
そういう自分を受け入れてくださる監督さん、演出家さんもいらっしゃって、「だったら自分も本音で話すから」としっかり向き合ってくださいます。
古川雄輝
――ただ役を固めても、舞台はお客さんの前に立つまではどうなるか見えませんよね。
稽古ではウケていたのに、本番ではシーンとすることもあります。リアルな反応が返ってくる。ウケているときは本当におもしろいから笑っているし。ただ、そういうリアルな反応があると、役者としてはグッと気持ちがのるんです。だから、ご覧になる方には感情をどんどんあらわにしてもらいたいんです。
――3年ぶりの主演舞台ということですし、緊張感も高まりそうですね。
ただ自分自身は主役という感覚ではないというか。そういう肩書きはいらないかなと。みんなで作り上げるものですし、自分の立場をあまり気にしたくないんです。たとえば映画、舞台などのホン読みのときも「この席が監督」、「この席が主役、ここが準主役」と割り振られたり。主役だから楽屋が広いとか、そうじゃない人は大部屋とか。気遣いはもちろんありがたいのですが、でももっと伸びのびと自由な態度でやって良いんじゃないかな。その方がより芝居のことだけを考えられる気がするんです。どうしても今は、芝居以外の気遣いが過度になる場合があります。だから今後は、自分なりに、俳優みんなが芝居のことだけを追求できる環境を作っていきたいです。
古川雄輝
取材・文=田辺ユウキ 撮影=福家信哉

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