白井晃&高田聖子に聞く~新国立劇場
『アンチポデス』に出演、「なかなか
出会うことのないお芝居を体験しに来
て」

新国立劇場によるシリーズ「声 議論, 正論, 極論, 批判, 対話…の物語」のVol.1となる『アンチポデス』が、2022年4月8日(金)~4月24日(日)に新国立劇場小劇場で上演される(当初予定されていた4月3日・4日のプレビュー公演は中止となった)。
これまでにない“物語”――それも“ヒットする物語”をつくろうと集まった男女8人が話し合いを続ける物語が『アンチポデス』である。ピューリッツァー賞受賞作家・アニー・ベイカーの作品だ。タイトルの意味は「地球の裏側」。いまいる自分たちの裏側に存在するまだ見ぬ物語を希求してひたすら話し合った末に何が見つかるのかーー。この作品こそ、これまでにない演劇である。会議のリーダー・サンディを演じる白井晃も、“人事部の圧力で送り込まれた”設定のエレノアを演じる高田聖子も口々にやり慣れない作品だと言う。演出家の小川絵梨子にとってもいままで手掛けたことのないタイプの作品らしい。それほどまでに新鮮な演劇に挑む心持ちを白井と高田に聞くと、未知なる世界のはじまりに心が弾んできた。
動画『アンチポデス』PV

――事前に公演オフィシャルサイトのおふたりのインタビューを拝読するとなかなか手ごわい作品のように感じました。稽古を重ね初日を間近にしたいまはどのように感じていますか。
高田 8人の俳優が円卓を囲んで会議をしているシチュエーションなので、共演者たちしか頼れる人がいない。だからこそ、あるときは共演者を頼り、あるときは自分が誰かの役に立つことができればいいなと思っているところです。
白井 会議だけやっている芝居といえば、レジナルド・ローズの『12人の怒れる男』や三谷幸喜さんの『12人の優しい日本人』などがありますが、僕はこういうシチュエーションの芝居に出た経験がなく、いまはとにかく必死です。会議のリーダーという役割にもかかわらずリーダーにはなれそうにない(笑)。
高田 そんなことないですよ。
白井 久しぶりにこんなたくさん台詞を話すので、覚えるのに必死なんですよ。
高田 白井さんが誰よりもたぶんたくさん台詞をしゃべっていますね。私、ずっと白井さんの話を聞いていますよ。
白井 出演のオファーを受けたとき、出番が少ないから!と言われ、いざ台本を見たら、けっこう出番あるじゃないか!と怯みました(笑)。でも、ほんとうに共演者の皆さんと共につくりあげている実感の強い現場です。演出の小川絵梨子さんがひとつひとつ丁寧に会話の裏側にある心象を説明してくれたことを、みんなで共有して、それがいま少しずつ形になっている実感はあります。
『アンチポデス』稽古場より (撮影:宮川舞子)

――8人が会議する物語で、台本には俳優ふたりが同時に話し出すような場面があったり、状況や時間の変化を俳優の仕草で見せるとト書きが書いてあったりします。
白井 ほんとにちょっとした仕草で時間の経過を表現できる面白さがあって、それを楽しんでいます。
高田 外側からもたらされるきっかけに合わせるのではなくて、俳優たちが息を合わせた瞬間に時間や状況が変わることは気持がいいです。ただ、それを観客のみなさんがどう観るか、まだ私達にはわからなくて……。円卓を囲んで客席に背を向けているから、どう見えているか想像し難いんです。
白井 客席はコの字の三方囲みで、青山円形劇場を思い出しますね。
高田 ああ、そうですね。
白井 俳優は内側を向いているけれど外を意識している。その感覚は、青山円形(劇場)に出たとき、円形のステージのど真ん中を正面と思って動いていたことに似ています。
高田 三方にお客さんがいるから、一方だけに背中を向けないように気を使うのですが、『アンチポデス』の場合、あんまり動くとわざとらしく見えそうで、それが気になっています(笑)。
白井 そうそうそう。三方からの視線を意識して前に出たり立ち上がったり体をひねったり動いてみるものの……。
高田 それってすごく芝居っぽいかなあとかね(笑)。とはいえ、自然体ふうにしているのも少し恥ずかしいし、いろんな考えが渦巻いてもやもやして……。思い切って動いちゃえばいいのでしょうけれど。
白井 作為的になるとお芝居くさく見えてしまいそうな心配がある(笑)。
高田 そうなんです。ほかの俳優との角度を気にしながら動くと、そこに焦点合わせたな、みたいになって。自然な会議を行っている再現性と演劇的な見せ方とのバランスが微妙なお芝居だと感じます。
白井 日本語に翻訳された台本がとても練られてナチュラルなしゃべり言葉になっているからこそ、動きもリアルでなければいけないのだろうけれど、三方のお客さんに観せることも考えなければいけない。その葛藤のなかで揺れてる感じが面白いですね。
『アンチポデス』稽古場より (撮影:宮川舞子)

――白井さんも高田さんもいわゆるナチュラルなリアリズムとは違う演劇をやって来た世代ですよね。
高田 今の若い世代の作っている自然な、ゆらゆらと流れるように場が動いていくものもとても面白いと思うし、すごいなあ、腕のある若い俳優が多いなあと感心します。でも、いま、私がそれを目指すのも変な感じがして。考えてみたら、私達――って、白井さんと私を一緒にするのもおこがましいですが……。
白井 いえいえ。僕らは演劇の表現とはこういうものだということを共有している同世代の表現者だと思いますよ。
高田 あえて一緒にさせてもらいますけれど、我々の考える“自然な会話”は、いま主流の流れるように自然な会話ではないんですよね。ふつうに話しているときでもたぶんもっとどこかが暴れているし、的確な一本の方向に流れずに、あっちこっちに向いていました。
白井 非日常的なアクションを行い非日常的な言葉を語る肉体を作り上げるという。いま、話を聞いて、同様のことを感じながらやっているのかなと思いました。たぶん、いまこういうふうに取材でしゃべっているような状態の再現だと観客には通じないのではないかと、大劇場も経験している僕たちにはそういう意識が植え付けられています。でも聖子さんとか僕とかは振り幅を持っているから。
高田 そうですね。
白井 僕は演出をするとき、いわゆる小劇場で静かな演劇といわれるようなものをやってきた俳優や、映像系の若い俳優たちに、大は小を兼ねるからとりあえず大きくやってみてって言うんです。お客さんが舞台を観察するような芝居と、俳優が客席に押し出すような芝居があって。その振れ幅のなかで僕らは大きな表現を作品に合わせてぎゅーーーと縮めて、そのなかでリアルを作っていけばいいということを長年の経験から体得しています。だから、今回の芝居で話すとき、声を大きくはっきり出し過ぎてはいないかと気になるけれど、あとで小さくはできるから気にしなくていいやと思って。
高田 私も、この「アンチポデス」での稽古では、終始会議の場面なので、最初、椅子から立ち上がることにすら勇気がいったんですよ。でも、稽古を続けるなかで、いわゆるナチュラルな芝居に囚われなくてもいいのかなと思うようになりました。私がこれまでやってきたことを今回の芝居でも役立てたいですね。
『アンチポデス』稽古場より (撮影:宮川舞子)

――『アンチポデス』のように、ものづくりで延々激論する体験はありますか。
高田 作家のかたに台本を一任するのではなく、カンパニーで話し合って、ひとつの物語をつくろうとしたことがあります。それはけっこう大変でした。それぞれの持ち寄ったアイデアがなかなかまとまらないうえ、あがってきたものを代表して文字に書く役割の人がチョイスしたものにまた様々な意見が出て……。誰もが納得するものにまとめることが難しかった思い出がありますね。
白井 まさに、僕が所属していた遊⦿機械/全自動シアターは特定の書き手のいない劇団でした。毎公演、3〜5ヶ月くらい激論を繰り返しながら台本を作る作業がとても大変でした。巧く引っ張っていくファシリテーターのような役割がいないと難しいものです。だから10年間それをやった後、やり方を切り替えたんですよ。やっぱり大変ですよ。みんなの意見をひとつにしていくって。
――『アンチポデス』の稽古場はどういうふうに進んでいますか。演出家がこういうふうにやってみてということが少なく、俳優が自由にやってそれを演出家がまとめるのでしょうか。
白井 今回、小川さんにとってもはじめてのタイプの芝居とおっしゃっていたから、そういうふうに役者が自由にできる空気を意識的につくってくれている気がします。僕や聖子さんが自由に動いたのを見て、それ!それがほしかったんですとチョイスしてくれています。
高田 こっちです、あっちですと指示するのではなく、すごくやさしく、遠隔操作で行くべき場所に誘導されてる感じがします。いまは「ダメ出し」とは言わないですけれど、ほかの俳優に言っていることも、私にも関係あることで、すべてが繋がっているんですよね。
――「ダメ出し」という言葉はいま、使わないのですか?
白井 「ダメ」という言葉に傷つく人がいるという配慮からいまは使わなくなっていますね。僕なんかは「ノート」と言うことが増えたかな。外国人の演出家につく助手のかたと一緒に芝居をやるときによく聞くので覚えました。
高田 うちの劇団はまだ「ダメ出し」と言ってます。芝居をいい方向に持っていくためであって個人が「ダメ」だと言っているわけではないから、私は別にいいと思っています。ただ、ほかの現場では、新しい言い方はないかと最近探しているカンパニーもあって、この前やった芝居では、良くなるチャンスだから「チャンスタイムです」って(手をあげながら)言ってました。「チャンス! チャンス!」って(笑)。ほかには「おれの気持言います」と言う人もいました。
白井 (笑)そういえば、「呼び出し」っていうのもありますね(笑)。
『アンチポデス』稽古場より (撮影:宮川舞子)

――多様性の時代を感じますね。では改めて『アンチポデス』の魅力をお話しください。
高田 会議のお話なので、ストーリーを追うよりも、会議に参加している気持で、私だったらどういう話をしようかなとかいろいろなことを考えながら観てみていただければと思います。
白井 会議室のなかの話ながら、その外の状態――つまり我々が住んでいる世界が透けて見えてくる。そういうことも感じてもらえたらいいなと思います。例えば、エレノアのようにチームのなかに女性がひとりだけいることも世相の現れのひとつではないでしょうか。“物語”というテーマについて言えば、僕たちが物語を商品のように生み出していくなかで、大切な個人の小さな物語を安売りしてしまっているかもしれないと感じます。それゆえ聖子さん演じるエレノアが最後に語る物語に僕は泣きそうになるんです。
高田 胸がキュッとして、希望があるような終わり方ですよね。
――お客様へのメッセージをお願いします。
高田 三方囲みの客席なので、観る場所を変えて何度か観てほしいです。カメラワークのように、アングルによって観えるものが違うと思います。話をしている人物に集中したり聞いてる人の表情を観たり、いろいろと楽しめると思います。
白井 こういう作品は新国立劇場でしかできないと思います。なかなか出会うことのないお芝居を体験しに来ていただければ嬉しいです。
取材・文=木俣冬

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