クラシック音楽シーンを縦横無尽に駆
け巡る鈴木優人に聞いた

指揮者、鍵盤楽器奏者、作曲家、演出家にプロデューサーと、多彩な才能を発揮し、日本のクラシックシーンを熱く盛り上げる鈴木優人。時代もジャンルも飛び越えて、八面六臂の活躍をする鈴木は、いつ、どのように勉強しているのだろうか。鈴木優人に、あんなコトやこんなコトを聞いてみた。 
―― マルチに各方面でご活躍ですね。鈴木さんの事をこんな方ですと一言で紹介できません。
おー、いいですね。簡単に割り切れないように、これからも頑張ります(笑)。感性の赴くままに、魂が喜ぶことをやりたいと、常々思っています。その結果、お客様にも喜んでいただけるのなら、それがいちばん良い事だと思っています。
感性の赴くままに、魂が喜ぶことをやりたいです  (c)H.isojima
―― 指揮者としては、バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)の首席指揮者としてのバッハ周辺の音楽から、読売日本交響楽団のクリエイティブパートナーとして、常に意識をしているコンテンポラリーな音楽へと、軽く300年から400年の時空を駆け巡って、プログラムやイベントの企画立案をやられています。多忙を極める鈴木さんの頭の中がどうなっているのか、不思議でなりません(笑)。
何かを知りたい!という気持ちに蓋をしないようにしています。知らない事にぶつかれば、速攻でググリます。好奇心があるうちに調べると、同じ勉強でも全く苦にならないです。また、色々な事を同時に行うタイプだと思います。意図的に、この期間はこれに集中しようと思わないようにしています。何かヒントが浮かんだ時に、今は考えないようにするということほど、無駄は無いですからね。お陰様で忙しく過ごしていますが、忙しいほうが物事の処理能力は断然上がります。

忙しい方が物事の処理能力は断然上がります!  (c)Marco Borggreve
―― 色々なプロジェクトに関わっておられるので、人と打ち合わせする機会が多いと思うのですが。

そうですね、ミーティングの濃さは本番のコンサートでの集中力と同じくらい大切だと思います。自分の色々な人のアイデアに対して、色々な方の考え方が聞けて参考になります。とても刺激的な時間です。
ミーティングは刺激的な時間です  (c)H.isojima
―― 先ほど、速攻でググると仰っていましたが、ネット上には便利なアプリなんかも沢山存在します。積極的にそういうものも活用されますか。
はい。昔のマエストロは、何でも知らないといけない存在だったのではないでしょうか。今は、モノ作りと情報のインプットが同時に進む時代です。知らない事は直ぐに調べれば良い。調べる手立てはいくらでもあります。以前のように、楽譜を発注して2か月後に届くのを待つ時代ではありません。ネット上に権利の切れた楽譜なら、いくらでも存在しますし、現代の作品なら作曲家にメッセージを送れば、すぐにPDFで届いたりもします。そういった新しいやり方も取り入れながらやっていくのが良いと思っています。
新しいやり方を取り入れながら活動しています  (c)Marco Borggreve
―― 鈴木さんは、やはり電子楽譜を使われているのでしょうか?
コンサート本番では、基本的には紙の楽譜を使っています。指揮台では見開きで楽譜を見たい方なので。「GVIDO」という見開きのハードもありますが、まだコンサートでは使っていません。しかし、電子楽譜は本当に便利です。メリットとデメリットなどは、紙の楽譜と比較して、一長一短では無いでしょうか。例えば歌手の方と、色々な曲を演奏するような時には、紙の楽譜だと散らかって収拾がつかなくなるので、電子楽譜を本番で使うケースもあります。
BCJの首席指揮者を務める鈴木優人   (c) Ayumi Kakamu

―― 3月に日本ジャズ界の巨匠、山下洋輔さんとピアノ2台のコンサートをされます。

山下洋輔さんは麻布学園の先輩です。指揮者とソリストとしては、何度もOBオーケストラと“ラプソディ・イン・ブルー”を共演し、昨年プロのオーケストラとしては初めて、読売日本交響楽団とやはり“ラプソディ・イン・ブルー”を共演しました。しかしピアノ2台で共演するのには、また違った楽しみが有ります。2017年に仙台で開催された「せんくら」のピアノ・サミットで、3曲共演しましたが、夢のような楽しい時間でした。
日本ジャズ界の巨匠 山下洋輔   (c)AkihikoSonoda
―― 鈴木さんと山下洋輔さんでは、演奏スタイルが違うように思えます。しかし一方で、ジャズもバロック音楽も即興性が必要という意味では、共通する部分もあるのかもしれません。山下さんは、どのようなピアニストですか?
洋輔さんといえば、肘打ち奏法や、ピアノ炎上といったエキセントリックな印象をお持ちかもしれませんが、実は音楽理論などにも精通した、正統派の尊敬すべきピアニストです。肘打ちに関しては、感情が高まって行き、フォルテからフォルティッシッシモ、もう後は肘で叩くくらいしか感情の持って行き所が無いという所で飛び出す奏法です。この音楽性に感動したので、実は私も肘打ち奏法に関しては、山下道場に入門しています(笑)。ピアノ炎上に関しては、廃棄されるピアノに最後の命を吹き込む、弔いの意味があると聞いています。誰もやらないパフォーマンスですよね。ピアノを愛する洋輔さんらしいです。
肘打ち奏法に関しては、山下道場に入門しています  (c)Marco Borggreve
―― どんな曲を演奏される予定でしょうか。
クラシックの曲としては、バッハやモーツァルトを演奏しますし、“枯葉”やビル・エヴァンスの“ワルツ・フォー・デビー”など、ジャズのナンバーも演奏します。もちろんジャズファンの皆さまお待ちかね、“エコー・オブ・グレイ”など洋輔さんのオリジナル曲もやりますが、今回取り上げる“竹雀”は、2台ピアノ版の世界初演となります。竹林で囀る雀の様を表現した洋輔さんの代表曲ですが、2台のピアノだとどうなるのか、ご期待ください。後半はジョージ・ガーシュインの特集です。2台ピアノで、皆さま大好きな“ラプソディ・イン・ブルー”を演奏します。私がオーケストラパートを、洋輔さんがソロパートを弾くところから始めますが、次第に入り乱れて行きます。洋輔さんと、師弟二人による肘打ち奏法は登場しますでしょうか(笑)。お楽しみになさってください。
このコンサート、山下さんと私がいちばん楽しみにしているかもしれませんね  (c)Marco Borggreve
―― どんなコンサートになりそうですか。

クラシック音楽とジャズの単純なコラボレーションに留まらず、新しい何かが生まれると思います。このコンサートに限っては、どんな準備をするよりも、心身共にベストな状態で当日会場に臨むことが大切だと思います。盛り上がる事は間違いありませんが、何が起こるかは正直わかりません(笑)。おそらく、洋輔さんと私がいちばん楽しみにしていると思います。ぜひお越しください。
―― ここに来て、コロナのオミクロン株の感染者が急増しています。鈴木さんはコロナで入国できない外国人指揮者の代役で、指揮台に立つことも多かったそうですね。コロナ明け第一弾の記念すべき演奏会を各地でやられたともお聞きしています。
そうなんです。コロナを明ける専門家のように(笑)、関西フィル、BCJ、九州交響楽団、読売日本交響楽団のコロナ明け最初のコンサートに携わるという偶然に恵まれました。生の演奏を心待ちにされていたお客様の温かい拍手はどこも同じで、大変感動しました。

コロナ明けのコンサートは、感動しました  (c)teamMiura
―― 年明けからびわ湖ホールで二日連続、日本センチュリー交響楽団を指揮するコンサートとチェンバロリサイタルを開催されました。指揮者、チェンバロ奏者としての実力はもちろん言うまでもありませんが、バッハのブランデンブルグ協奏曲とシューベルトの「グレイト」交響曲とを組み合わせたり、チェンバロでバッハから武満徹までの曲を演奏したりと、鈴木さんらしいプログラミングの妙にも舌を巻きました。

色々とプログラムには拘っていますし、考えるのは好きですね。洋輔さんが“ラプソディ・イン・ブルー”のピアノソロを演奏した読売日本交響楽団の定期演奏会のメイン曲は、ブルックナーの交響曲第4番でした。あまり見かけない組み合わせかもしれませんが、二つの世界が味わえて楽しいのではないかと組み合わせてみました。読売日本交響楽団では、クリエイティブパートナーというポジションに就いておりまして、まさにこう云ったプログラミングなども積極的に提案させて頂いています。

チェンバロの弾き振りはお手のモノ。BCJのコンサートから。   (c) Ayumi Kakamu
―― 今年の活動で、これというのがあればご紹介ください。そして最後にメッセージをお願いします。

今年行われる「第60回大阪国際フェスティバル」で、ジャズピアニストの小曽根真さんとモーツァルトの「2台ピアノのための協奏曲」をご一緒します。この演奏会では、私が大阪フィルを指揮して、ムソルグスキー(ラヴェル編曲)「展覧会の絵」とラヴェルの「ピアノ協奏曲」を演奏します。山下洋輔さんとはまた違った魅力のある、人気ジャズピアニスト小曽根真さんとの共演なので、本当に楽しみです。ファンの皆さまにも喜んで頂けると思います。これ以外にも色々なコンサートで、皆さまにお会いすると思います。ぜひ会場にお越しください。よろしくお願いします。
皆さま、コンサート会場にぜひお越しください!  (c)H.isojima
―― 鈴木優人さん、ありがとうございました。
取材・文=磯島浩彰

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