eillが語るメジャー初アルバム『PAL
ETTE』に込めた想いーージャンルレス
な楽曲が生まれた意外な理由とは

アニメ『東京リベンジャーズ』(2021年/テレビ東京系)のエンディング主題歌「ここで息して」、月9のドラマ『ナイト・ドクター』(2021年/フジテレビ系)のオリジナルナンバー「hikari」、映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(2021年)の主題歌「プラスティック・ラブ」など、話題の映像作品に楽曲が次々と使用され、さらにファッションアイコンとしても活躍しているシンガーソングライター、eill。そんな彼女が、2月2日(水)に待望のメジャー1stアルバム『PALETTE』をリリースした。さらに同アルバムを引っさげた『BLUE ROSE TOUR 2022』を2月6日(日)に東京・豊洲PIT、11日(金)に大阪・なんばHatch、12日(土)に名古屋・DIAMOND HALLで開催する。そのアルバムタイトルが表すように、多彩な楽曲が並んだ今作について、eillに話を訊いた。

eill

●ジャンルレスな要因は「飽き性」
――多種多様な楽曲が集まっていて、『PALETTE』というタイトルがぴったりなアルバムでした。
シングル曲「23」を作り終えて、そろそろアルバム制作のことを考え始めた頃、「この1年に名前を付けるなら何だと思う?」と言われたんです。それが、『PALETTE』というタイトルのキッカケになりました。私の音楽人生もそうだし、アルバムを作り進めていくなかで「自分の曲にはいろんな色がある」と感じていて。さまざまな色を持っている自分自身を肯定したかった、という気持ちも込めています。
――「20」(2019年)のリリース時、「いろんな人たちから、ジャンルを定めた方が良いと言われていた。そこで自分が何者か分からなくなっていた」と各インタビューで答えていらっしゃいましたね。『PALETTE』というタイトルはそのアンサーな気がしました。
私の性格がもともと飽き性ということも要因としてあるかもしれません。だからジャンルをひとつに定められないんですよね。3分前まで「パスタを食べたい」と思っていても、なぜかラーメン屋さんにいるみたいな性格で。好きな人もコロコロと変わるし、ずっとそういう人生。だから「eillの曲はなぜジャンルレスなのか」と尋ねられたら、自分の本質がそうだからかもしれません。

eill

――飽き性な自分も肯定してあげるということですか。
そうなんです。きっと周りからすると、ものすごくわがままに映るかもしれません。だって、みなさんと楽曲のアレンジ作業をしているときも、急に眠くなって寝ちゃったりして、起きたら「お腹すいた」といった感じで。「じゃあ、ご飯を食べようか」というタイミングで、「やっぱり歌を録っても良いですか?」とか。そういうことが多い。周りを振り回してばかりで申し訳ないけど、でも「良い歌が歌えそう」というタイミングを逃したくなくて。みんなも呆れつつ、「分かった! じゃあこっちはメシを食っているけど、歌ってみよう」と(笑)。
――さまざまな色を持つ曲が揃っていますが、そのなかであえて一貫性があるとしたら、どういう部分だと思いますか。
インディーズのデビューミニアルバム『MAKUAKE』(2018年)のときから、「自分の人生を切り開くのは自分だ」というメッセージを貫いてきました。eillとして曲を歌っているときは強くなれるんですけど、そうじゃないときは、ちっぽけな自分にも出会うことがあります。ただ、そういうときこそ曲が書きたくなる。そうやって曲を作るなかで、「自分の人生は自分で決めるもの」という強い言葉が自然と並んでいくんです。
――逆に「ちっぽけな自分」の弱さというのは、どういうものですか。
自信がないところかな。自分で自分が許せない部分もずっとあったりする。ただ、それがなくなったら音楽を作る理由もなくなるんです。決して大きな悩みではないんですけど、eillとして曲を作る上ではそういう弱さも大切にしていきたいんです。
●「みんな自分のことを歌っているって気づかない」

eill

――リードトラック「いけないbaby」は、一度聴いたら口ずさめるような印象に残る楽曲でした。あと曲のなかで描かれている恋愛模様も、浮き沈みがあって引き込まれました。
友だちと過去の恋愛を振り返ることが最近多くて、その話のなかで「あ、それはいけないbabyだな」みたいな瞬間がたくさんあったんです。「いけないbaby」という言葉も、ふっと思いついたんですけど。みんな、なぜか分からないんですけど、「あの人には言わないでね」と秘密の恋愛話を私に打ち明けてくれる。そういう話を聞いて、自分の恋愛と重ね合わせていく。そして「こういう恋愛をしている人がいれば良いな」と発想を膨らませていって、曲として仕上げます。
――どんな恋愛話をいつもしているんですか。
たとえば現在進行形の恋人がいても、みんな「あの人の方が好きだった」とか、ついつい比べたりすることがあるんです。「今でもこの人のことを好きになれと言われたら、なれる」とか。「今、そばにいる人のことも好きだし、幸せ。それでも、いけないbabyに気持ちを伝えられたら、好きになっちゃうかも……」みたいな。
――結構、ぶっちゃけたトークをしているんですね(笑)。
うん、そんな話ばかり(笑)。でもそういう話をモチーフにして曲を作ったとき、みんな自分のことを歌っているとは気づかないんですよね。「良い曲だね」とか感想を送ってきてくれるから、「いやいや、あなたのことを歌っているんだよ!」と心の中でツッコミをいれたり。
●「理想としては、綺麗な世界をずっと見てたい」
eill
――『PALETTE』は「HARU」の<世界>、「hikari」の<地球>など、世の中を広く見渡した言葉が出てくる曲が多い気がします。
無意識に出てくる言葉なんですけど、でも以前から「みんな、明日が当たり前のようにあると思っているから、何も行動を起こさないんじゃないか。もし明日、世界が終わることになったら、急に何かを求め始めるはずなのに。後悔がないように毎日を生きていきたい」と考えたりしていました。そういうことを「hikari」では歌っていて。
――結構、皮肉的な曲ですよね。
でも一方で、「意外とピュアなところがある」と自覚するところもあって。「動物園でパンダが生まれた」というニュースを観たら、もうそれだけで泣いちゃったりする(笑)。理想としては、やっぱり綺麗な世界をずっと見ていたいし、人って綺麗だなと感じたい。
――確かに、生命にまつわる瞬間はグッとくるものがあります。
この前も、家でお母さんと老猿ホームに関するニュースを観ていて、スタッフの方たちがお猿さんの最期を看取る様子に号泣しちゃった。人間も、お猿さんも、「みんな頑張って生きているんだな」と思ったら、家から動けなくなってしまいました。で、そこに映っているすべてのものを肯定してあげたくなった。
eill
――そういう意味では、アルバムのなかで異彩を放っている曲「ただのギャル」も肯定感がありますね。
ハタチのときの自分は見た目がギャルっぽくて、よくナメられていたんです。「こんな髪型の人が自分で曲を書いているとか、本当なんですか?」とか。それで「ナメんなよ」という気持ちになった。私の素がもっとも出ている曲かもしれません。おっしゃるように、そういう自分をちゃんと肯定している内容ですね。
――「23」や「ただのギャル」もそうですし、「honey-cage」に出てくる<ストーリーズ>など、eillさんの楽曲には世代感覚や現年齢的な要素もよく登場しますよね。今の自分だから歌い表せるものがある、という意識を感じさせます。
確かにストーリーズは、10年後の若い人が聞いても分からないかもしれませんよね。私は、日常で喋っている感じで曲を書いているから、そういうワードが意識せずに出てきます。逆にそうやっていろいろ見つけてくれたり、考えてくれたりしながら歌詞を読んでくださると、「そういう聴き方もあるのか」と私自身も新しい発見がありますね。

eill

――2月の『BLUE ROSE TOUR 2022』では、『PALETTE』の収録曲を楽しみにしている方も多いはず。
人はそれぞれ、パレットを持っている。私はいつも、「そこにはどんな色があるんだろう」と考えています。私は、自分のなかにどんな色があるか気づいているんですけど、でもそれをはっきりと言うつもりはないんです。曲を聴いた人が感じてくれたら良いなと。そして、音楽を通してみなさんのなかにあるパレットの色を増やしていきたい。自分が自分であること、それがどれだけ素晴らしいことなのかを伝えたいです。
取材・文=田辺ユウキ 撮影=ハヤシマコ

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