世界で絶賛されたSFストップモーショ
ンアニメ『JUNK HEAD』堀貴秀監督の
狂気の才能と情熱を聞く

海外の映画祭で激賞された、長編SFストップモーション・アニメーション映画『JUNK HEAD』が3月26日から公開される。
本作は、監督の堀貴秀氏が全編をほぼ一人で、約7年間かけて作り上げた作品だ。個人制作としては異例の大掛かりなセットを使用し、誰も観たことのない独創的な世界を作り上げた。
アニメーションの制作方法自体も独学で習得したという堀監督だが、この驚異的な作品を生み出した情熱はどこから生まれ、どのような想像力を発揮して本作を構想したのか、インタビューしてその創作の秘密をうかがった。
<あらすじ>
環境破壊が止まらず、地上が汚染された未来。地下開発に乗り出した人類は、労働力として人工生命体マリガンを創造する。しかし、自我を持ったマリガンは人類に叛乱し地下世界を乗っ取る。それから1600年が経過し、地上は新種のウイルスが蔓延して人工の30%が失われると、人類は滅亡から逃れるために、地下で独自の進化を遂げていたマリガンの調査を開始する。生徒が激減していたダンス講師の主人公はその調査に応募し、地下へと潜入。人類再生の鍵を探すため、様々なマリガンたちと協力して、広大な地下世界を冒険する。

■新海誠に触発され、一人で映画が作れると思った
――大変独特な世界観の本作ですが、発想の原点は何なのでしょうか。
『不思議惑星キン・ザ・ザ』が昔から一番好きな映画だったので、似ているとこがあると思います。他にも好きな映画『エイリアン』や『ヘル・レイザー』とか、漫画だと弐瓶勉さんの作品も好きなので、そういう影響もあると思います。
――確かに『不思議惑星キン・ザ・ザ』はどこか通じるものを感じます。そもそも、アニメーションを作ろうと思ったのはどうしてだったのですか。
映画が好きでひたすら見ていた時期があるのですが、自分で作れるとは全く考えていませんでした。でも、新海誠さんなどが個人で映画を作ったなんて話を聞いて、一人で作れるものなんだと思ったんです。それまで映画作りの勉強は全くしたことがなかったのに、なぜか自分も作れると思ってしまったんです(笑)。
――独学でアニメーション制作をどのように学んだのですか。
基本的にネットですが、本を買って読んだりもしました。人形を動かすにしても、結局フォトショップやアフターエフェクトが必要になりますから、そういうソフトも都度本で学んでいきました。
――元々、内装やアートワークのお仕事をされていたと資料にありました。
そうですね。壁画の絵を描いたりしていて、ディズニーランドとか、そういう雰囲気のものを専門で作っていました。使い込んだ雰囲気を出すとか、そういう技術はアニメーション作りと共通している部分もあって、仕事で培った技術もこの作品に反映されています。
■6分の1スケールのセットで撮影
――アニメーションにもいろんな手法がありますが、なぜストップモーションを選んだのですか。
この映画を作る前から、美術家志向で絵や彫刻を作っていました。操り人形を作っていたこともあるので、そういう人形を動かせば映画を作れるんじゃないかという軽い感じで最初は始めたんです。CGを使うのは僕には無理だし、コマ撮りならパラパラ漫画の要領でいけるだろうと。実際には色々なことを覚える必要があって大変でした。
――キャラクターの素材は何を使っているのでしょうか。
基本はプラスチック素材と、フォームラテックスという天然ゴムで熱すると固まるスポンジのような素材を使っています。
――そういった素材の使い方も独学ですか。
はい。海外では割とよく使われる素材なんですが、日本語の情報がなかなかなくて、調合の方法を調べるのに苦労しました。
――本作を作るにあたって参考にした作品はあったのですか。
特にないです。僕はコマ撮りが好きだったわけではなく、どれだけ実写に近いスタイルで作れるかを考えていたので、コマ撮り用に小さくしたカメラスタンドを作って、実写のようなアングルを狙って作っていました。
――なるほど。実写映画を意識しているのですね。本作を観て、ストップモーション作品でこれだけカメラが動かせるのかと驚いたんですが、広いスタジオで制作したのですか。
スケールとして6分の1スケールです。自分の事業で工場を持っていまして、そこで制作しました。全部で200坪くらいの土地でその半分くらいを使っています。
――個人制作としてはかなり大きいですね。それだけ大きなセットにしたのは、やはり実写映画のような迫真性のある映像を作りたかったからということですか。
そうですね。日本の作品は狭い場所で作っているものが多いと思いますけど、6分の1は海外ではポピュラーなスケールなんです。狭い場所で作ると、いかにもお人形が動いているという風に見えがちだと思いますけど、僕の頭の中にはハリウッド大作のような映像のイメージしかなくて、それをいかに再現するかを考えて作業していました。
――アニメーションで動きを生み出すのは簡単なことではないですが、何か工夫はあったのでしょうか。
一度自分で演技したものを撮影して、それをソフト上で薄くはめ込んで、それに合わせて人形を動かしました。
――絵のアニメーションのロトスコープのような感じですね。(注、実写をトレースしてアニメーションにする技法のこと)
そうですね。
■声優を雇えないので独自言語を作った
――作品内容についてもお伺いします。作中のセリフはオリジナルの言語ですが、どうやって作ったのですか。
あの言語は、色々な言語を混ぜて、どこの国の言葉にも聞こえないものを目指しました。声優さんも雇えませんから、自分で演じるしか選択肢がなかったのですが、僕には演技のスキルもないので、喋っている言葉の意味を音で伝えて表現することを目指しました。いろんな言葉遊びも入れています。某有名遊園地のキャラクター名を連呼している言葉とか(笑)。
――ご自身で全て演じる必要があったので、ある程度演技力を誤魔化すためにああいう言語を考えたということでしょうか。しかし、それが独特の雰囲気を盛り上げていますね。
そうですね。意外とそれが楽しめるようにもなっていると思います。
――マリガンの住む地下に、異業種の化け物のようなものが出てきますが、あれもマリガンの一種ということなんでしょうか。
そうです。昔起きた事故のせいで、遺伝子が不安定になっていろんな因子が生まれているんです。色々な設定があって、マリガンは元々60体ほどしか作られなかったんですが、ある事件が起こったんです。実は『JUNK HEAD』は3部作の構想で、続編は1000年前のその事件を描く予定です。
――すでに続編の構想もあるのですか。
はい。3部作の最後は1作目と2作目のキャラクターが合わさって、ある方向に向かうという壮大なイメージを思い描いています。絵コンテもすでに出来上がっているので、この作品が当たれば作れると思います。
――それはぜひ観たいので、当たって欲しいですね。またほぼ全ての作業をご自分でやられるのでしょうか。
いえ、次はできれば一人でやりたくないです(笑)。
――続編の構想の他、実写映画を作ってみたいという目標もあるのでしょうか。
当然あります。あらすじは4つほどできていますし、原作もので一つ狙っているものもあって、その作者の方とも映画にしたいとお話させていただいたこともあります。やはり、実写にしかできないものってあると思いますし、役者さんが動いてくれるから楽ですし(笑)。
撮影:池上夢貢
■最後までやりきることだけは決めて制作を始めた
――一人でこれだけのものを作るのは本当にすごい情熱だと思いますが、制作の過程で止めようかと思った瞬間はなかったのですか。
やめたらおしまいだと思っていたので、とりあえず必ずやりきると決めていました。今まで色々なジャンルに手を出しては、全て中途半端に終わっていたんです。どのジャンルにもすごい人がたくさんいるのに、今さら自分が頑張ったところでしょうがないと考えてしまっていたんです。でも、今までやってきた色々な経験を組み合わせれば、映画を作れるんじゃないかと思い、これを実現できれば、誰も真似できないものを生み出せるかもしれないと信じて、なんとか頑張りました。一作目で高く評価されたのでホッとしています。
――海外の映画祭などで評価された時、どんなことを感じましたか。
自分では一番面白い作品だと思って作っていますから、自信はあったんですけど、やはり信じられない気分でした。今はコアな方々に届いて、好きと言ってもらえている段階ですが、これから一般公開して、どういう反応になるのか楽しみでもあり、怖くもあります。やはり、映画作りはお金がかかるので、お客さんにお金を払って観たいと思ってもらえないとプロとは言えないですから、今が勝負の時だと思っています。
コマ撮りで長編SFのストップモーション作品は、世界的にも珍しいですし、未体験の映像体験ができると思いますから、ぜひ観ていただきたいです。
インタビュー・文:杉本穂高 撮影:池上夢貢

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