「半沢直樹」俳優として大ブレイクし
た佃典彦が、長年にわたり指導・演出
する市民劇団〈座☆NAGAKUTE〉公演が
まもなく「長久手市文化の家」で

2020年夏にTBSの日曜劇場「半沢直樹」に曾根崎雄也役で出演し、土下座での後ずさりやインパクトある表情など巧みな演技力を披露して注目を集めた、劇作家・演出家・俳優の佃典彦。昨年は俳優として大きくクローズアップされた佃が、20年の長きに渡って演技の指南役兼演出家として携わっているのが、愛知県長久手市の市民劇団〈座☆NAGAKUTE〉だ。
10代~70代まで老若男女の個性豊かな面々で構成される〈座☆NAGAKUTE〉は、既存の台本を用いて佃が演出を手掛け、年に一度、この時期に本公演を行ってきた。2010年からは劇団員全員で上演したい台本を相談して選ぶという自主性を重視している点も特色で、これまで別役実、如月小春、横内謙介らの作品に加え、第30回公演では講師の佃作品にも挑んでいる。
そして今回、2021年3月20日(土)・21日(日)に上演する『アトムへの伝言』は、元々は昨春上演する予定だったが新型コロナウイルスの影響で1年延期となったもので、『アゲイン 怪人二十面相の優しい夜』(2017年上演)に続く、横内謙介作品だ。横内が主宰する〈扉座〉本公演のため2005年に書かれたこの戯曲は、同年に愛知で開催された【愛・地球博】で、「あるパビリオンの演し物を創っていた時、会場のアチコチで働くロボットを眺めていて思いついた作品である」(扉座公式サイトでの横内の記載より)という、当地にゆかりのある作品でもある。
座☆NAGAKUTE『アトムへの伝言』チラシ表
人を笑顔にする世界初のコメディアン・ヒューマノイド開発を巡る物語で、“AIロボット”と“お笑い”の2大要素を融合させるという難題に挑む今回。果たしてどのように作品創りに取り組んでいるのか、稽古場を訪れ、演出を手掛ける佃典彦に話を聞いた。
── 〈座☆NAGAKUTE〉で横内作品を演出されるのは2回目ですが、「僕は横内さんの戯曲を読む度に《キチンと出来上がった遊園地》といった感じがして、演出の際にいつも「よぉ~し、思い切り遊ぶぞぉ」って感覚になるのです」と、チラシに書かれていますね。
ほんと、そこに書いた通り《キチンと出来上がった遊園地》という感じで、その中に用意されているアトラクションでちゃんと遊ぶことが出来たら作品が完成する、っていうイメージを横内さんの作品には感じますね。「これはメリーゴーランドですよ」「これはジェットコースターですよ」「これはビックリハウスですよ」みたいなことが、やる側もそうだし観てる方もきちんと共有できるように書かれてる。ただ、その裏側にちょっと毒があるというか、そのメリーゴーランドを動かす係の人がニヤニヤしてる、みたいな。なんかいちいち、ちょっとあるんですよ。そこが面白いところかなぁと。そこを拾い上げられると、ただのエンターテイメントだけにならずに創れるし、ただのエンターテイメントとして創っても面白い、っていうところが、やっぱり巧いなぁって思う。
── 横内さんの書かれる作品は、瞬時にその世界に引き込まれるような感覚もあって、たしかに遊園地っぽいイメージもありますね。
そうそう。台本の導入部分が潔いんですよ。例えば、マキノノゾミさんのホンとか時代モノだったりして、いきなりその時代の話になるじゃない、世界が。だけどそういう潔さじゃなくて、『アゲイン…』にしろ、『アトムへの伝言』にしろ、潔いんだけど、常に現実とか、今の空気感だったり時代感だったりっていうものとのパイプはちゃんとありつつ設定されてるのが巧いなぁって思う。
僕なんかだと、〈文学座〉に書いた『一銭陶貨 ~七億分の一の奇跡~』(2019年上演)という戦時中の話とか、今度やる『まるは食堂』(愛知県南知多町で人気を博す活魚料理店を昭和25年に創業した、相川うめの一代記を描いた作品。2020年5月に名古屋と東京で上演予定だったが延期、2021年に上演予定)もそうなんだけど、昔の話ってあんまり書かないじゃない、僕。そうすると、その時代へ持っていくのに、やっぱり現在からどうしても入っちゃうんだよね。
稽古風景より
── その時代から始まるのではなく?
のがね、照れくさいんですよね。今とつなぐパイプが見つからないと、それが無くていきなり「ここは鹿鳴館です」みたいなことにするのは照れくさい。
── それは、その時代の世界観に観客がすぐに入り込めないのではないか? という思いからですか?
いや、もう全く個人的な感覚で。だって、僕がマキノさんの芝居とか観に行って、いきなり「野口英世の時代の時代劇です」って始まっても、照れくさくもなんともないもん。自分がいざ書くとなると、なんか抵抗感があるんだよね。たぶんその抵抗感みたいなものが、横内さんもある感じがするの。ただ、僕みたいな姑息な手を使わなくてもダイレクトにそこの世界をいきなり書くんだけど、そのパイプの突っ込み具合を心得ているので照れくさくなくその世界にいきなり行ってるんだよ。だけど、どこか現在を感じる。その辺が、やっぱり巧いなぁって思う。
── 佃さんとしては、横内さんの戯曲は演出しやすい、という感じですか。
演出しやすいかどうかわからないけど、創ってて楽しいですね。
── ここはどうしようかな? とか、どう捉えたらいいかな? とか、あまり迷ったりすることもない?
さっきも言った「これはメリーゴーランド」っていう提示の仕方がわかりやすいから、そこで迷うことはない。それはたぶん、横内さんのホンをやる演出家の誰しもが。ポイントは、その機械を動かしてる人の“へへっ”ていう裏の顔だったり、企みをチョイスできるかどうか、っていうところが問題だなぁとは思ってる。
稽古風景より
── 今回の作品は、“お笑い”を扱っているというのが難しそうですね。
そうなんですよ。難しいよ、コントとか漫才とか(笑)。〈扉座〉ではラッパ(お笑いの師匠で、AIロボットのカッパとコンビを組む)の役を六角(精児)さんがやってるから、それは面白いだろう、って思うの。Mー1に出たっていいところまで行くんじゃないの?っていうぐらいはやりそうだもん。それを今回こっちは素人の女性2人でやるから、コントとか漫才の部分は「とにかくよく稽古しましたね」っていうことが見えればいいな、とは思ってる。
── テンポとか、間合いの感覚を掴むのが大変そうですね。
そうそう。ツッコミのタイミングとかね。
── 昨年の公演は延期になってしまったわけですが、この一年の〈座☆NAGAKUTE〉の活動としては、どんな感じだったんですか?
夏過ぎまでは、結局出来なかったもんね、何にも。だから正味、稽古をやり始めたのは去年の9月。だから思ったよりも時間がなかった。
── その前の年から稽古されていた分というのは。
あるけど、半年も経ったらみんな忘れてるし抜けてるし。最初の1~2ヶ月は、どういう風だっけ?って。僕も他でも作品創ってたりしてるから、シーンがどうだったか思い出すのに時間が掛かりました。
── では、全く一から創り直した感じなんですね。今回、特に苦労された点などは?
通し稽古もなかなか出来なくて、この前ようやく出来たんですよ。緊急事態宣言発令中は(愛知は2月28日に解除)稽古場の閉館が20時だったから。いつもはもうちょっと前に出来るんだけど。
稽古風景より
── 演出面でのポイントは、どんな点でしょうか。
ひとつは冒頭のシーンかな。〈扉座〉の上演を観てないからどういう風にやってたのかわからないけど、(お笑いロボットの開発を行う)研究所で最初にカッパが登場するシーンはちょっとね、工夫しました(笑)。(数式や理論は巧みに駆使しても、お笑いの世界は今ひとつ理解できていない研究者たちが)この空気感でお笑いロボットを生み出すのは無理でしょ、っていうことを考えて。それと、シーンの転換が多いので、6つの机をいろいろ組み替えることでステージを作ったりしてます。
── あらすじによると、開発されたロボットに重大な欠陥が判明する、とか。
ツッコミが出来ないんですよ。ロボット工学の博士が昔作ったロボットは、戦争で人を殺したというトラウマがあって、それを払拭するために「コメディアン・ヒューマノイドを作るぞ」ということで作られたロボットなので、人をバーンと叩いたり、「死ね」とか「クソが」とかそういう汚い言葉が言えない、ツッコミが出来ない、ということになってる。それで、「おいおい、そんなのが出来なきゃコンビ組めねぇじゃないか」という話になって、リミッターを解除してツッコミが出来るようにするんだけど、そこから事件が起こるんです。
── 結末は、なかなかブラックな展開になっていますね。
終わらせ方がちょっと難しかったけど、(扉座版より)かなり悲しくなってると思う(笑)。僕のイメージの中では、よりスカッとしない終わり方になってます。
佃はチラシの文面で、「この《遊園地》には楽しいだけでなく、切なさや痛みといった苦痛にも近い感情さえも味わえるアトラクションが満載です」とも記している。ロボットを主題に、コメディをベースとしながらも、人の心に湧き上がり渦巻くさまざまな感情を描き出す本作。劇場からの帰り道、衝撃的なラストと、そこへ至る人間模様を振り返りながら、いろいろと想いを巡らせたくなる作品になりそうだ。
取材・文=望月勝美

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