俳優・千葉哲也が演出する二人芝居『
A WALK IN THE WOODS ―森の中で―』
〜TCアルプの近藤隼、草光純太へ「優
しさはいらない、互いに叩き潰せ。真
剣にやるほどお互いが離れがたい関係
になる」

2019年夏、串田和美が率いる演劇集団TCアルプの俳優、近藤隼と草光純太が軽井沢にある信濃追分文化磁場「油や」が初めて実施した演劇版のアーティスト・イン・レジデンスなどを経てつくり上げた二人芝居、リー・ブレッシング作『A WALK IN THE WOODS ―森の中で―』。1950年から1990年まで続いたアメリカとソ連(現ロシア)の冷戦時代に、歯止めの効かない軍備拡張合戦の中、中立国スイスの森で平和交渉を担うそれぞれの国の交渉人が、決して交わることのない会話を紡ぎ続ける。初演は俳優二人でつくり上げたが、今回は俳優・千葉哲也を演出に招き、まつもと市民芸術館のメインロビーで上演する。身体二つがあれば上演できる芝居は、夢の全国ツアーに向けてさらなるグレードアップを目指す!!
――千葉さんは演出もされるようになって、俳優としてご自身の変化を感じることはありますか?
千葉 個人の役では脚本を読まなくなりました。「この作品をどうしようか」「自分がどのパーツになるんだろう」という視点で考え、演じるようになりましたね。若いころはガンガン我を出していく部分がありましたけれど、今はどうやって相手を立てるかばかりを考えています。
千葉哲也
――『A WALK IN THE WOODS ―森の中で―』の演出を依頼された経緯を教えてください。
千葉 コンちゃん(近藤)とは一度だけ共演していて、その後も俺が担当しているワークショップ、芝居の稽古場にも遊びにきてくれていたんです。昨年のワークショップにも参加してくれたんですけど、最終日に脚本を押し付けて帰っていったんですよ。それで後日連絡を取ったら芝居を見てほしいと。2週間しか稽古期間もないし「アドバイスするくらいでいい?」と聞いたら「いいです」と言うので引き受けました。でもこちらに来ていざ始めたら、そうもいかなくなってしまうんですよね。
近藤 お願いするのに本当に勇気が要ったんです。千葉さんは大好きな俳優さんであり演出家さんなんですよ。ワークショップには5日間ほど参加させていただいたんですけど、なかなか大先輩に脚本をお渡しすることができず。バレンタインに本命の男の子にチョコレートを渡せなくて、最後に勇気を振り絞って押し付けて走り去っていく女の子のようでした。
近藤隼
千葉 バタバタしているときのどさくさで置いていったよね。
近藤 そうでした。僕もいろいろ経験を積んだおかげか、自分から動かないと何も始まらないという思いがあって、結果はわからないけど、千葉さんにお願いしたいと考えたんです。お忙しいことはわかっていたので断られることが前提でした。
草光 僕は全部を任せていたので、脚本を渡したと聞いてはいましたが、まさかご一緒していただけるとは思っていませんでした。別の稽古をしているときにコンちゃんが「千葉さんからオッケーが来た」と上気しているので思わず「本当に?」と聞き返しました。
草光純太
千葉 この歳になると砂時計の砂もだいぶ落ちているから、やりたいことをやるのよ。お金じゃなく。お金に困ってないわけじゃないけどさ(笑)。蕎麦好きなので松本で稽古というのも楽しみでした。キャリアを積むとなんとなく決まったレールばかりになりますから、若い人から一緒にやってくださいと言ってもらえるのはすごくうれしいです。
――脚本をお読みになられていかがでしたか?
千葉 面白く描かれていると思いました。これをどうやるかを二人と考え始めたんです。コロナ禍の当初、「演劇なんていらない」と言われましたでしょ? それがすごくショックで、俺も芝居に対する考え方が変わったんですよ。演出をやらせていただくようになって、芸術の方向に傾いている自分がいたんですけど、「観にこなければ絶対に損するぞ」という作品をつくろうという娯楽精神がすごく湧いてきまして。この本を読んでいても面白くてしょうがないんです。内容は核軍縮の交渉をするというシビアな話ですが、交渉人たちが滑稽ですから。その滑稽さと語られる内容のバランスがうまく取れたらいい作品になると思います。
――まじめすぎる二人なので、前回は米ソの関係そのままの固い芝居になっているような気がするんですよ、見てはいないけれど(笑)、なんとなく想像がつくんです。
千葉 怖い話を怖く語らなくてもいいですよね。まず俺は二人に生き生きやってもらいたい。だから「そこ、子どもみたいにやってくれる?」と無茶ぶりもしています。ロビーという環境でやるので、エンタメとまでは言わないですけど、二人の世界観と面白さが出ればいいと思うんです。そのために仕掛けをつくらなければいけない。劇場の照明が入った中ならば、二人がベンチに座ったままの芝居でも集中できるんですけど、ロビーというのは開放的になってしまうんで、チャラ、チャラつくりましょうということですね。
近藤隼
――二人は千葉さんの演出を受けていていかがですか?
近藤 とにかく楽しいです。自分たちだけでつくっていてモヤモヤしていた部分、こうしたいなと思っても答えが出なかったところがあるんですけど、それが千葉さんとお話ししたり3人で考えていくと、こんなふうにできるんだと発見できるんです。
草光 立ち位置だけで二人の関係が明確になるようにつくってくださるので、僕らはそこに芝居を乗っけていけばいいんです。前回はセリフだけで関係性の行ったり来たりを表現しようとしていたんですけど、なかなか明確にならなかった。
千葉 それはよっぽどここ(腕)がないとね。翻訳劇は日本語の芝居とやっぱり違う。たとえ話が出てきたり、感覚的な話が出てきたりするし、言葉数も多いから何をしゃべっているのかお客さんがわからなくなることがある。立ち位置と関係性さえわかれば、ロビーで声が響いても、お客さんに楽しんでいただくことはできるはずです。
――二人は役者としてどうですか?
千葉 先ほども言いましたけど、うまい芝居より、二人の魅力が見せたいですね。だからこのトーンで、こういう音でしゃべってくださいみたいな無理はさせていません。こういう時に普段はどう思う?とやりとりしたことがそのまま演技に生きてくればいいんです。もうちょっと稽古時間が長かったら、途中でひっくり返すこともできますけど、2週間ではざっくりです。二人がどういう言葉を持っているかを探すだけで2週間かかっちゃいますから。本当なら1カ月は付き合いたいですけどね。
草光純太
――お二人に初演はこういう役だったんだけど、今回はこうなっているみたいな感じで役について語っていただきたいと思います。
草光 僕が演じるのはアメリカの交渉人ジョン・ハニーマン。ソ連の外交官アンドレイ・ボトヴィニックがふざけたタヌキ親父なのに対し、ハニーマンは生真面目で正義感に燃えているんです。前回はその枠から出ないように芝居をしていたところがあるんですけど、交渉人だからって常にきちっとしているわけではありませんし、外国人だったら上司の前でも足を組む。そんなふうに千葉さんが自由度を上げたり、突破口をいろいろ開けくださっているので前回よりアクティブになっています。
千葉 もっとアクティブでくだらない感じでいいと思うよ。
近藤 千葉さんが演出してくださったことで、ボトヴィニックとハニーマンの差がすごく明確になってきたと思います。でもそれは鏡みたいなもので、違えば違うほどお互いの同じ部分がふっと見えたり、やっぱり違うなという部分が見えたりするのが楽しいです。
千葉 友情の話なので、どうしても芝居でも友情をつくろうとしちゃうんですね。でも端から見たときにそう見えればいいわけで、基本的にアメリカの代表、ソ連の代表としてぶつかり合ってほしい。どんどん本気でぶつかっていけば、それが友情になっていくんですよ。優しさはいらない、互いに叩き潰してくれ、だけどそれを真剣にやるほどお互いが離れがたい関係になっていく、そういうことだと思うんです。
千葉哲也
――プロレスで敵対するもの同士が、全力で戦ったからこそ、分かり合えるみたいな感じですね。
千葉 そうです、リングなんですよ。純ちゃん(草光)ももっとハジけて自分の美意識のリミッターを外してくれればと思います。二枚目は二枚目でもいいんだけど、こっちがおかしくて仕方がないというくらいまで振り切ればいいんです。コンちゃんは根が優しいんですよ。俺なんか人を傷つける役が多いんですけど、人を傷つけることが台本に書かれていたらそれをしっかりやらないと作品が成立しない。そういった意味でサディスティックな部分を出してほしいですね。二人は交渉人でありながら、争いに関する狂気みたいなものが体に染み込んでしまっている人たちだから、ぶっ飛び方、残酷さがもっと出てきてもいいなと。それが今後の課題ですね。
取材・文:いまいこういち

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