唯一無二のカンパニー力が創り上げた
異色のシェイクスピア劇~『5 Guys
Shakespeare Act1:[HAMLET]』ゲネプ
ロレポート

2020年11月19日(木)、品川プリンスホテル ステラボールにて幕を開けた、『5 Guys Shakespeare Act1:[HAMLET]』。ノンストップで繰り広げられる5人の俳優による悲劇の世界。そのソリッドにして瑞々しい“演劇の余韻”をレポートする。
オールメールで上演されるシェイクスピア作品は多いが、今回舞台に上がるのはたったの5人。まさにタイトル通り、5人の野郎たちが全力で語りあげる異色のシェイクスピアとなった。
撮影:小境勝巳
デンマークの若き王・ハムレットを演じるのは岡宮来夢。ミュージカル『刀剣乱舞』の鶴丸国永役で一躍注目を集め、本作が舞台初主演。そしてハムレット以外の登場人物を演じるのは立花裕大、橋本真一、法月康平、中村誠治郎──だが、その配役が面白い。誰が誰を演じるのかを固定させるのではなく、シーンによって同じ役を違う俳優が担当するのだ。
撮影:小境勝巳

撮影:小境勝巳
撮影:小境勝巳
先ほどまでオフィーリアだったのに、今はホレイショー? クローディアスは計何名が演じているの?? と、自在に役をスイッチしていく4人。彼らにはステージ上にそれぞれの“ドレッシングスペース”が与えられ、ハンガーやトルソーに準備された衣裳をサッと付け替えて都度、役を演じ分けていく。袖には一度もハケず、始まりから終わりまでの一切を舞台上で過ごすわけだ。もちろんハムレットも同じ。出番のない場面ではステージ奥中央の椅子で待機、水分補給も流れのひとつに溶け込む仕草である。
撮影:小境勝巳
撮影:小境勝巳
ハムレットによる父親である亡き王暗殺の復讐劇、そのスリリングな物語がセットチェンジも暗転も休憩もなし、全てが観客の目にさらされたままノンストップで進んでいくとあって、劇場内に漂う緊張感は大きい。5人はそのヒリヒリとした空気を存分に感じながら、ひとつも臆することなく全てをプラスのエネルギーに代えていく。悲劇に没入すればするほどに、彼らが演じる喜びを噛み締めているのがわかる。なにかひとつでも狂えばこの物語が崩れてしまう緻密に編まれた“彼らの『HAMLET』”は、5人の素晴らしいチームワークと集中力で、見事な高まりを見せていた。
撮影:小境勝巳
撮影:小境勝巳
脱ぎ捨てられていく衣裳が悲劇の中で積み重なっていく亡骸のイメージと重なる演出も美しく、また、朗々とした長台詞で叩きつけられるのではなく、音楽に乗せて発せられる名台詞の数々も彼ららしい表現。歌えるメンツが揃っていることもあり、心地よく耳へと流れ込んでくる。キレのある体捌きが生み出すスタイリッシュなビジュアルも福眼。綺麗であるがゆえに、残酷さや哀しさも際立つというものだ。
撮影:小境勝巳
撮影:小境勝巳
撮影:小境勝巳
全体を通して感じられたのは、演出の松崎史也の“演劇愛”。古典劇が持つ重厚さに敬意を表しつつ、若き俳優たちへ愛情たっぷりに数多くのミッションを与え、舞台で生きることの“本当”を劇場にいる全員と分かちあおうと力の限りを尽くす、誠実な思いだ。そして、若さと情熱を頼りにまっすぐハムレットを生きる岡宮と、野心とプライドを抱いてそれぞれの役目を果たす立花、橋本、法月、中村の力強さが確実に演出家の思いへと応えていく。そんな、唯一無二のカンパニー力が創り上げた瑞々しくもソリッドな本作。ぜひ劇場で、配信で、細部に至るまで鑑賞し尽くして欲しい。

撮影:小境勝巳
撮影:小境勝巳
出演者コメント
岡宮来夢:無事幕が開くことが本当に嬉しいです。これまで支えてくださった全ての皆様に感謝です。見どころは全部です! お芝居も歌も殺陣もその他の演出も全て凄いです。僕がハムレットでいるために、先輩方がそれぞれ任されている「役目」にも注目していただきたいです。本当に支えていただいています。400年前に作られたこのハムレットはたくさんの解釈がある作品です。これが僕たちのハムレットだと自信を持って皆様にお届けします。それがどう届くのか楽しみだし凄くドキドキしています。熱く繊細に演じます。上演をお楽しみにお待ちください!
立花裕大:まずは無事に公演できることを心から嬉しく思います。こんな素敵なキャスト、スタッフさん達に囲まれて本当に毎日楽しく勉強になる稽古でした。我々が作ってきたハムレットという作品のお芝居、解釈、舞台上で起きる様々な出来事を是非皆さんに観ていただきたいです! 見どころとしては 5 人で奏でるクインテット。ハムレット以外は役を交換しながら進んでいく様子。どのように役を渡し、引き継ぐのか、内容以外にもそんなところも注目していただけると嬉しいです。それではぜひお楽しみに! よろしくお願いします!
橋本真一:とても緻密に、そして繊細に一つひとつを積み重ねて完成させる作品。稽古を終えて、僕がこの作品に抱く印象です。役と役者。板の上と板の下。芸術。哲学。いろんな要素や世界が混じり合っているからこそ、少しでも何かを掛け違えると壊れてしまう。そんな作品です。出演者全員が 1 秒足りとも集中を切らせない時間/空間という、とても張り詰めた緊張感の中に居る事は、俳優として怖さと楽しさが共存する不思議な感覚です。お客様もきっと、その感覚に近い何かを感じてくださるのではないかと思います。5G HAMLETの世界を僕達俳優と一緒に体感し、楽しんでいただければと思います。
法月康平:5人だけで全ての役を演じ紡いでいく今回ですが、ここまで己の技量を発揮できる舞台もなかなかありません。色とりどりな衣装や、光と闇を表現した楽曲や振付、見どころは様々です。何より 5 人が一度も舞台上からはけず、ハムレットの苦悩を舞台上でずっと見続けます。皆様もその 1 人になるわけです。共に、僕らが出した一つの物語を見届けてください。"5G HAMLET"いよいよ幕が開きます!ご来場お待ちしております。
中村誠治郎:台本を初めて見た時、衝撃と同時に不安がありました。稽古をするまでは具体的な想像すらできなかったからです。しかし稽古を重ねる度にそれがおもしろさに変わり、唯一無二の自信の持てる新しい作品になりました。演出の松崎さんを信じてきてよかったなと心から思っていますし、役者としても新しい景色を見させてくださいました。そして今回殺陣振付もさせていただいておりますので、殺陣シーンがやはり自分的には 見所の一つだと思います。一瞬一瞬を大切に全力で生きて、板の上には5人しかいませんが、スタッフさんたちと全員で力を合わせて頑張りたいと思いますので、ご声援の程よろしくお願いいたします。
撮影:小境勝巳
取材・文=横澤 由香

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