(C)2020「おらおらでひとりいぐも」製作委員会

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【映画コラム】ヒロインを中心とした
ユニークな群像劇『おらおらでひとり
いぐも』と『ホテルローヤル』

 ヒロインを中心としたユニークな群像劇が相次いで公開された。沖田修一監督の『おらおらでひとりいぐも』と武正晴監督の『ホテルローヤル』だ。
 『おらおらでひとりいぐも』の原作は、芥川賞を受賞した若竹千佐子の同名小説。タイトルは宮沢賢治の「永訣の朝」の一節から取られ、「私は私らしく一人で生きていく」という意味があるという。
 75歳の桃子(田中裕子)は、夫の周造(東出昌大)に先立たれ、子どもたちとも疎遠な生活を送っている。そんな中、桃子は、脳内で若き自分(蒼井優)や、自分の心の声と会話をするようになる。
 「独りだけれど独りじゃない」。これは孤独の先で自由を得た老女・桃子の進化の物語だ。心の声、妄想、若き日の自分や死者との対話…。まさに桃子の脳内は小宇宙。「今のおらは怖いものなし」という彼女の声が聞こえてくる。
 老人が主人公の映画は暗くなることが多いが、沖田監督の場合は『滝を見にいく』(14)も『モリのいる場所』(18)も、ほのぼのと明るい。それはこの映画も同様だった。
 また、沖田監督の映画は、総じてシュールで、不思議なユーモアが漂い、現実とファンタジーの境目を描いているのだが、何でもありの今回はその集大成の感もある。そして“沖田ワールド”とも呼ぶべき独特の間や緩いテンポは今回も健在だった。その中で、東北弁のせりふも含め、不思議さとかわいらしさを併せ持った田中の個性が見事に生かされている。 
 さらに、沖田映画のもう一つの共通点は、特殊な状況下でのコミカルな群像劇であることだ。今回は、寂しさ1(濱田岳)、寂しさ2(青木崇高)、寂しさ3(宮藤官九郎)、どうせ(六角精児)は、桃子の心の声だから実は同一人物なのだが、彼らに、亡くなった夫の周造(東出が好演)や祖母、現実の娘(田畑智子)と孫、何かと桃子に誘いをかける図書館の司書(鷲尾真知子)、気のいい自動車のセールスマン(岡山天音)、知り合いの警官(沖田映画常連の黒田大輔)、医者(山中崇)たちを加えると、桃子を中心としたにぎやかな群像劇になる。
 そう考えると、この映画は今までの沖田映画の延長線上にあり、一貫性を感じる。彼の映画を見ると必ず思うのは「やっぱり沖田修一はただ者ではない」ということ。今回も見事にやられた。
 桜木紫乃の直木賞受賞作を映画化した『ホテルローヤル』は、北海道、釧路湿原を望む高台にあるラブホテルを舞台に、ホテルの経営者(安田顕)の一人娘・雅代(波瑠)が、非日常を求めてやって来る人々の切ない人間模様を見つめる話。
 そんな本作は、原作者の桜木の実家だったラブホテルを舞台にした連作小説を、現代と過去を交錯させながら一つの話として描いているのだが、父の後を継いでホテルを切り盛りすることになった雅代は、当然、さまざまな客の赤裸々な性行為や恥ずかしい姿を垣間見ることになる。
 だから、彼女はずっと観客の興味を代弁するような傍観者なのだが、最後はちゃんと“主人公”になるという構成が面白い。
 これは、作り手たちが、全ての登場人物を大事に描いた結果でもある。だから、決して幸せではない登場人物一人一人の悲喜劇を見ているうちに、彼らがいとおしくなってくるし、彼らと関わることで雅代の心境が変化していく様子もすんなりと受け入れられるのだ。
 そんなこの映画には、1970年代のアメリカのニューシネマのような雰囲気があると思ったら、ラストとそれに続くカーテンコールに、78年の名曲「白いページの中に」が流れた。一体誰がこんな選曲をしたのかと思ったら、武監督とのこと。ハマり過ぎていささかずるい気もしたが、これには見事に一本取られた。
 さて、武監督作品と言えば、11月27日公開の『アンダードッグ』よりも、この映画の方に引かれる。どちらも性の問題を大きく扱っているが、それを見ていて嫌な気分になるかならないか、あるいは雑多な登場人物たちの描き方、というところで差がついた。
 これは、もちろん原作物とオリジナルという違いはあるが、多分、脚本家(本作の清水友佳子と『アンダードッグ』の足立紳)の持っている資質や品性の違いが大きく影響していると思われる。(田中雄二)

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