The Songbardsの音と詞、歌の妙を新
曲「夏の重力」にみた【SPICE×SONA
R TRAXコラム vol.16】

夏という季節には、何か人を引きつける力が存在しているような気がする。青い海と白い砂浜に駆け出したくなるし、風の通る縁側で風鈴の音に耳を澄ますのも理想的だし、夜の公園のベンチでサイダーを飲みたくなる。汗を光らせながら仲間と泣き笑いする青春も、熱しやすく冷めやすい恋に浮かれては沈むのもいい。夏という季節を思い浮かべると、あれがやりたい、これがやりたいというイメージが湧いてくるし、その魔力は、人にとって抗いがたいものであるような気がする。
このご時世のため、今年の夏はきっと多くの人が“叶えられなかったこと”を抱えている。そしてだからこそ、特有の季節感を薫らせ、情緒を呼び起こしてくれる夏の歌がより強く求められているように思う。
The Songbardsの「夏の重力」も、多くの人に愛される曲になっていきそうだ。始まりは、コーラスによる美しいハーモニーと、呼吸を合わせ一緒に走り出すような2本のギター。ソングライターの上野皓平(Gt/Vo)と松原有志(Gt/Vo)がツインボーカルを務め(「夏の重力」のメインボーカルは上野)、リズム隊の柴田淳史(Ba/Cho)と岩田栄秀(Dr/Cho)もコーラスをするThe Songbardsは、全員が唄えるバンド。「夏の重力」は、彼らの持ち味の一つであるコーラスワークを存分に堪能できる曲だ。
シンセやストリングスなどを入れず、ギター、ベース、ドラムのシンプルな編成で清涼感あるサウンドを表現してみせた点からは、バンドのこだわり、バンドサウンドの可能性を信じる彼らなりのロマンが感じられる。2番ではBメロからすぐにはサビに行かず、ギターソロ、再びのBメロを挟んでいるのもよい。それにより、想像力がさらに掻き立てられる感じがある。
歌詞には、触覚や温度を具体的に想像させる描写も含まれているが、<輝きはここにあったのに>、<重なり合った記憶の隅に吸い込まれ/そこにはもう僕等いなかったんだ>といったフレーズから、ここで描かれているのは夏は現在進行形ではないのだと分かる。記憶の中のテラリウムを見つめる<僕ら>とは、五感で以って夏を謳歌できなくなった、コロナ禍における私たちか。それとも、何となく幼少期を懐かしんでしまう、昨年までと変わらない私たちか。現状と密接にリンクしながらも、それだけには留まらない普遍性を持つ夏の歌がここに生まれた。
「夏の重力」はMVが公開されているほか、異分野で活躍するクリエイターが、この曲を基に自由に表現をする企画『SONGWORKS』も始まった。The Songbardsの音楽には、聴き手の自発的な想像・解釈を促す余白が常に存在していて、それは、9月23日にリリースされる3rdミニアルバム『SOLITUDE』でも同様だ。それぞれが異なる色を持ち、しかし一つの作品内に収まることによって短編集のようにもなっている全5曲は、私たちにさらなる世界を見せてくれる。一方、音楽にできるのはそこまでであり、実際の世界で動き出すのはあなたの役目だと、歌詞の中で伝えてくれているのもこのバンドならではの特色。「最終的にはあなた次第」と書くとシビアに見えるかもしれないが、「あなた次第でどうにでもできる」という肯定は決して後ろ向きなものではない。
音楽には翼がある。だけど人間には翼がない。音楽にはロマンがある。だけど音楽を過信してはいけない。その両方を表現するのが彼らなりの誠実さだ。「夏の重力」を聴いてThe Songbardsのことが気になった人は、ぜひ『SOLITUDE』も聴いてみてみてほしい。

文=蜂須賀ちなみ

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