朗読劇「タチヨミ」主催・演出・出演
の声優・松野太紀が語る「声優の技術
のすごさをシンプルに伝えたい」

声優・松野太紀が主催し、自ら演出・出演も行う舞台、朗読劇「タチヨミ」の第7巻が9月17日(木)より開催となる。朗読劇ブームの昨今で「タチヨミ」は声優の朗読劇の先駆けとも言える舞台として、唯一無二の存在感を見せている。文字通り、他にはないオリジナリティを存分に発揮して、観客を惹きつける「タチヨミ」の魅力に迫るべく、ステージ構成、脚本、キャストに至るまで全てをプロデュースする松野に舞台づくりのこだわりについてたっぷりと語ってもらった。

――9月の公演が第7巻、第0巻からスタートしているので8回目の開催となります。まずはこの企画が始まった経緯を教えてください。
立ち上げを手伝っていたある大学の声優コースで学生を募集したときに、予想をはるかに超える応募がきたことが、そもそものきかっけでした。アフレコの勉強をするスタジオの設備が不十分だったので、「卒業するまでに何か、アフレコの体験ができるような場所を提供してあげたい」と考え、僕の仲間でやる朗読劇に学生たちを参加させることを思いつきました。それが第0巻で授業の一部として作った機会だったこともあり、まさかこんなに続くとは思っていなかったです。
――1回で終わらなかったのは何か理由があるのですか?
楽しくなっちゃったんですよね(笑)。新人で勉強する場所を求めている人たちも参加できるシステムを作りたくなって。そこでスキルアップのための勉強会「タチヨミ倶楽部」を作りました。週に1回、約9ヶ月でひとまわりする勉強会なのですが、劇団でも養成所でもなく、スキルアップしたい人たちが通える場所になっています。中には、養成所に入りつつ参加している人もいれば、ちょっとやってみたいなというノリで参加している人もいます。プロアマ問わず、年齢も下は高校生、上は55歳くらいまでいるんですよ。
――ちょっとやってみたいなスタンスでもウェルカムなんですか?
全然O Kです。「タチヨミ倶楽部公演」を卒公のような扱いにしていて、9ヶ月ほどのコースが終わっても、そのまま続ける人もいれば、古巣に戻ったり、1回休んで翌年のコースから参加したりと、本当にいろいろでみんな楽しくワイワイやっています。
――お試しのような感覚で参加できるっておっしゃっていますが、入ったら厳しいとかないですか?
うふふふ(笑)。間口が広いと見せかけて、実は厳しいってみんなに言われています。本公演となる「タチヨミ」にはキャラクターがいっぱい出てくる作品も多く、日によって出演する人数も違います。実力がある人は、キャストが足りていないときに、「タチヨミ」に出演させたりもしています。そこでいろんなことを感じ取ってスキルアップに繋げてもらえたらという狙いです。
――勉強会に参加している方たちも、プロの方同様に当日に役をふられるというシステムなのですか?
はい、そうです(ニッコリ)。どの役をいつふられてもいいように、ずっと勉強し続けなきゃいけない。もし、最初からこの役だけって割り振ってしまうと、それだけやっていればいい、ってなっちゃいますよね。声優の仕事って、いろんな役を瞬時にこなしていく瞬発力も大事になので、そういう意味では、急に何役をふられてもできるというスタンスを身につけられるかなと。
――笑顔でおっしゃっていますが、やっぱり内容は厳しいですね。
役をふられてできなかったら、次の子にチャンスが行っちゃうよっていう、ちょっとガラスの仮面チックな感じでやっています。僕は、古いタイプの人間なので、J.Y.Parkのような優しいプロデューサーのようにはできないんです(笑)
――舞台裏はドラマチックな展開になっているのですね。聞いているだけでドキドキしちゃいます。当日役を伝えるときも笑顔なのですか?
そうですね。早く役を決めてくれってみんなに言われます。でも、配役の発表が唯一の楽しみなんです。みんながわちゃわちゃするのを見て笑っています。
――プロデューサーの醍醐味ですね。
その通りです(笑)
撮影:大塚正明
――でもその笑顔の裏には、すべてをプロデュースしているということで、相当なこだわりや苦労もありそうです。脚本づくりはどのように進めているのですか?
脚本については、放送作家さんや小劇場の舞台で脚本を書いている作家さんにお願いしています。小劇場の舞台に携わっているときに「おもしろい本を書くのに、なかなか世に出てこないな」と思う人をたくさん見て来ました。本がおもしろいことが前提ですが、世にでるきっかけになればとも思い、お声がけしているんです。
――どんなふうに発注するのですか?
好きなように書いてくださいってお願いしています。ただ、時間だけは決めてという感じで発注しますね。オムニバスなので1本は5分から長くても15分程度になります。特にジャンルの指定もしないので、例えば誰かがコメディで本を作って来たら、「コメディは売り切れました」とお伝えし、そのほかのジャンルでの提出をお願いしています。つまり早い者勝ちなんです。そうすると、みなさん、早く書いてくれるんですよ。
――またうれしそうな笑顔になっていますね。
うふふふ。だってそうしないと本ってずっと出来上がってこないし、催促するのもかわいそうだから、そうやっていろいろと裏工作をして、競争させて、早く仕上げてもらうようにしています。お互いに手の内をわかっている間柄の作家さんばかりなので、そういう意味でもすごくおもしろいですよ。
――上手にコントロールしていますね。プロデュース力発揮という印象です。
ジャンルは指定しないといいつつ、前回コメディを書いた方には、今回はシリアスでとか社会派でといったジャンル指定をすることはあります。そのほかの設定などは本当におまかせです。
――出来上がったものに対して追加リクエストをすることもないのですか?
話が長い場合は調整をお願いしますね。「素敵なんだけど、こうじゃないんだよね」って全とっかえしてもらうこと……、あ、ありますね(笑)
――またその笑顔でおっしゃるのですね(笑)。では、ステージ構成についてのこだわりを教えてください。
僕自身、あまり朗読劇の経験がないんです。出演するほうでも、鑑賞するほうでも。声優の朗読劇って心地よくなるし、静かな空間での演出だったりしたら、ぜったい眠くなっちゃうでしょ? だからこそ、いろいろな切り口、ジャンルでお届けしたいと思っています。ある程度キャリアを重ねると、固定された役回りになることも少なくありません。実力がある方たちには、新たなチャレンジをしてほしいって思っているんです。例えば、少年役をやったら、次はおじいちゃん、なんだったらおばあちゃんもやっちゃいなよ! みたいに。ここでしかできない作品を並べて、お客さんが飽きないように5分から15分程度のお話をオムニバス方式でやっています。
――いろいろな仕掛けや演出が多い朗読劇がたくさん登場していて、目を閉じてどっぷり声だけを楽しむということができなくなっています。
「タチヨミ」でも時にはアンサンブルといって音の舞台を演出してみたり、生のピアノ演奏を取り入れたり、歌を一つの物語と捉えて演じるという試みもしていますが、そういうものは6、7本のお話の中で1本程度。あとは、声優の素晴らしさを伝えたいという気持ちから、シンプルな構成にしています。最近、アイドルのような活動をされている声優も多くいて、それはそれでもちろん素晴らしいことと思っています。僕も叶うなら、やりたいくらいですから……。
――ハイ(笑)。
あははは。目が笑ってないよ(笑)。真面目な話、声だけじゃない活動ももちろん素敵だと思うし、才能も必要で大変だと思います。でも、そうではないところで勝負している素晴らしい先輩方もたくさんいるんです。声優の仕事って古典芸能のひとつといってもいいくらい、すごい技術が必要なんです。大げさかもしれないけれど、マイク1本あれば動いていないのに、どこの世界でも連れて行ってくれる。まるでそこの世界に入り込んだかのような体験ができる。SEなんかプラスされれば、もっとすごいことになる。声優のなせる技って、本当にすごいって改めて思う機会は、この年齢になってもまだまだたくさんあります。
――画がなくても声だけで世界観を作れますしね。
ほんと、そういう意味では技術職だなって思うんです。だからこそ、そこを目指している若い人たちには、本当の声優を目指すためにたくさん勉強してほしいって思うんです。
撮影:大塚正明
――育成にも力を入れている松野さんが考える、声優にとって一番大事なことを教えて下さい。
心がある芝居ができることだと思います。かっこいい声、かわいい声じゃないとダメって思う子たちが増えている印象はあります。でも、そうじゃないんですよね。街を歩いていても同じ顔の人はいないのだから、声だって自分らしさがあっていいんです。例えば「かわいい」と書かれている譜面を渡されたら、そこに書いてある譜面通りの「かわいい」を言えばいいと思っている。かわいいを表現するのでも、白紙の五線譜の中に、自分なりの「かわいい」の音符を書いていけるようになってほしいと思っています。素敵だなと思う人のマネをするのもいいけれど、マネで終わらずに、自分のフィルターを通してマネすることで個性に繋がっていくんじゃないかな。
――基本通りのことができて、プラスアルファがあれば、残っていけるということですね。
そうそう。だからこそ、経験も大事だし、とにかく先輩の芝居を見るようにすすめています。例えば、養成所とかだと自分の番が来るときに「うまくやらなきゃ」という気持ちがあるから、人が演じているところを見ていないことが多いんです。じっと台本を見つめているんですね。テストだって、本番前に教科書読んだところで、良い点は取れないでしょ? それと一緒で、せっかく人の演技を見るチャンスなのだから、もっと見てほしいって思うんです。そうすれば何か感じるものがあると思うし、もし何も感じなかったら、なんで感じなかったのかと理由を考える。それも大切なことなんです。心の振り幅がある人って、本当にうまいなって思う演技をするんです。年齢問わずね。そして、そういう人たちが生き残っているのを見て来ているので。振り幅が狭い、と思った人はやっぱり残ってないもんね、ってなんてこと言うんだ(笑)
――厳しい世界ですからね。次はキャスティングについて伺います。
それこそ、僕の中で上手だな、素敵だなと思う人にお願いしています。あとは、出演者の数も多く、狭い楽屋にいたりもするので、輪を乱さない人というのも基準になっています。
――出演された方の反響などはいかがでしたか?
直接は訊いたことはないけれど、「次もお願いできますか?」「OK」となったら、楽しんでもらえたんだなって思うようにしています(笑)。やったことないタイプの役をふったりするので、キャリアを重ねた方でも「わっ」と思うことはあるみたいですけれどね。配役は毎回変わるので、同じ組みわせは2回出てきません。キャスティングがぐるぐる変わるので「レ・ミゼラブル方式」って呼んでいます。同じものが2回なければ、お客さんも何度も足を運んでくれるでしょ? リピーターを増やそうとしっかりと考えているんですよ。
――1月の公演と、GWの自粛期間中のSNSで話題になった「あの音(ね)。」はシュールすぎてびっくりしました。音を声で表現するのかとおもったら、まさかの音で……。
おもしろいでしょ。だから、朗読実験劇場って呼んでいるんです。声も音のひとつという捉え方をして、最近流行っている「ASMR」要素も取り入れてみました。ここでも「音」と言われて、自分はどう表現するだろうという個性を出してもらえればいいかなと思っています。
――実験はいつまで続くのでしょうか?
とりあえず、9月公演は予告しているのでやる予定でいます(笑)
――出演したい!と声優さんが立候補することはあるのでしょうか? 何をやらされるのかドキドキして出たいけど、どうしようという気持ちにもなりそうですが。
これまで立候補はないけれど、これから回を重ねていく中で、「タチヨミ」に声をかけられるように頑張りたいって思えてもらえたらいいですよね。特に若い人たちに!
撮影:大塚正明
――コロナ禍には、プロデューサーとして考えることがたくさんありすぎるのではないでしょうか?
ふーーー、(大きいため息)本当に。せっかく今回は劇場も大きくなるので、いろいろな演出を考えていたんです。小劇場でやったものを大きなホールでやったらどうなるのか、違いを楽しんでもらいたかったけれど、ギリギリまで演出などは調整する必要があるかもしれませんね。少しでも不安材料があるような状態では来ていただくお客さんに申し訳ないですから。
――そんな中でも、今回の注目ポイント、見どころはどこになりますか?
いつもは小劇場なのでピアノ演奏という演出も電子ピアノになってしまいます。それはそれでおもしろいのですが、なんと今回はグランドピアノでの生演奏になります。お願いしているピアニストさんも、今回すごくうれしい!って、よろこんでくれました。なので、生のグランドピアノの演奏を最大限に活かす演出を考えようと、毎日毎日夢に出てくるくらい悩みまくっています。
――せっかくの草月ホールでの公演ですから、いつもと違った演出はやりたいところですよね。
と言いつつも、やっぱりそもそものコンセプト通りに、シンプルに見せたい。語るだけでいろいろな世界に連れて行くという感じになればいいなって思います。こんな状況でなければ、笑って泣いて大はしゃぎしてほしいですけどね。
――こんな状況ですが、限られた状況の中で最大限の楽しみを提供してくれると期待しています!
なんとかそうしたいですよね。がんばります!
撮影:大塚正明
取材・文:タナカシノブ 撮影:大塚正明

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