シシド・カフカ主宰、芳垣安洋、ACI
DMAN・浦山、SPYAIR・KENTAら出演の
即興パーカッション・ライブ『el te
mpo』を観た

SHISHIDO KAVKA presents el tempo ~LIVE LOVERS ONLINE SHOW~ 2020.8.1
シシド・カフカが南米アルゼンチンのライブにインスパイアされ、主宰するようになったというライブイベントシリーズ『el tempo』が、初めて配信で行われた。『el tempo』はパーカッショニストたちによって全編セッション形式で行われるライブで、シシド・カフカ自身は楽器を演奏することなくコンダクターのような役目を負い、さまざまなハンドサインを用いて指揮することで、演奏をループさせたり展開させたり強弱をコントールしたりと全体を導いていく。
……と書くと、打楽器版のオーケストラのようなイメージかもしれないが、クラシック音楽のそれとは決定的に異なる点が、この『el tempo』は全てが即興によるものだということ。原曲や楽譜もなければ、あらかじめ想定する着地点もない。各プレイヤーとシシド・カフカのインスピレーションが相互作用を生むことで、毎度一度限りの演奏が繰り広げられていくわけだ。
打楽器の放つビートはもっともプリミティヴな音楽の形であり、トーンも響きも違う単音同士が重なり合うことで生まれていくグルーヴは聞き手の本能に作用し、DNAレベルで高揚を誘ってくるような心地よさがある。とはいえ、低音の打撃が発する、文字通り空気を震わせる振動を物理的に体感することのできないオンライン環境では、一体どのようなライブ、空間が生まれていくのかは未知数。興味と期待を抱きながらPCのスクリーンに対峙した。
光量を抑えたステージ上に並ぶ様々な打楽器と、その奏者たち――IZPON、伊藤大地、岩原大輔(旅猫油団,小沼ようすけtrio)、浦山一悟(ACIDMAN)、KENTA(SPYAIR)、はたけやま裕、MASUO(BACK DROP BOMB, PONTIACS, J)、芳垣安洋(ROVO, Orquesta Libre, Orquesta Nudge! Nudge! etc.)。一歩下がった位置にベーシストとしてケイタイモ(WUJA BIN BIN etc.)がスタンバイ。彼らと向き合うように立つシシド・カフカの合図で演奏がスタートする。
本来であれば、客席の方向を向いたプレイヤーたちと対峙する彼女が何をしているのか、観客たちがはっきり視認することは難しいが、今回の配信では演奏カットと同じくらい、シシド・カフカの送るハンドサインや表情、視線の向く先までもが映し出されていた。目の前で生まれていく未知の音楽にどう反応し、どう全体を動かしコントロールしていっているのか。それを各自がどう受け止め、どんなプレイとフレーズで返すのか。まるで当事者になったような臨場感を味わうことができる。
また、それぞれのプレイヤーの手元や楽器の姿形も、リアルライブの環境よりもはっきりと視認できるため、普段目にする機会の多くないそれぞれのパーカッションがどんな音色を出し、どんな特性を有しているのかといった見方でも楽しむことが可能に。彼らの発する音が合わさって生まれる、静と動が交錯しながら、ブレイクビーツやアフロビート、ラテンミュージックなど様々な要素が顔を覗かせるインプロビゼーションの応酬は非常にスリリングで、「お、そう展開するのか」「みんなテンションが上がってきたな」「そのリズムの変化はどうやって合わせたんだろう」などと、自然と見入ってしまう。配信だろうが見応えも聴き応えも十分である。
後半にかけては、背景のスクリーンに映像が映し出されていたが、もともと完成形が決まっていない音楽に乗せるわけだから、映像もおそらくVJが演奏に反応しながら即興で流しているのだろう。このあたりからはパーカッションだけでなくドラムセットの演奏も交えたりと(各人が入れ替わりながら担当)、より開放的でラウドな瞬間が続き、一気にラストまで走りきる。手応えからだろうか、シシド・カフカにもパーカッショニスト陣にも笑顔が増えていた。
ライブはおよそ1時間。歌もMCも無く音のみで会話していく内容だったが、エンドロール後に配信ライブならではの楽しいオマケ付き。誇張なしにあっという間だった気がする。未知の魅力と興奮を味わえるこの試み、今からでもアーカイヴ視聴が可能なので、ラテンやダンスミュージック、ポストロック等が好きな方はぜひトライしてみてほしい。特にスクエアプッシャーあたりのファンにはぶっ刺さるんじゃないだろうか。

取材・文=風間大洋  撮影=木原隆裕

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