笑いも涙も予定調和なしのちばぎんラ
ストライブ。実人生を曝け出すバンド
、神聖かまってちゃんの本質

ここまで実人生を曝け出して表現しているライブを生まれて初めて見たかもしれない。それは結成当初のの子の過激なパフォーマンスとはまた別の、メジャーデビュー10年を超えた今の彼らのリアリティだ。このツアーファイナルをもって脱退するちばぎん(Ba/Cho)の脱退理由は結婚し、二児の父となった今、バンドでは家族を養っていくことに不安があり、34歳にして一念発起。バンドを脱退し社会人になるというものだ。今、バンドマンで生きていくことの厳しさを神聖かまってちゃんは隠さなかった。

Photography_真島洸
Interview&Text_Yuka Ishizumi
Edit_Mine.k

ラストはちばぎんと幼稚園からの幼なじみであるの子がこの日のライブを終わらせたくないのか延々引き延ばし、逆に送り出される立場であるちばぎんがの子を肩車して退場。いわば10代の終わりから30代の半ばまで続いた神聖かまってちゃんの長い第一章の完結。その完結のさせ方も本音を曝け出していたのがかまってちゃんらしい。筆者といえば(多くのオーディエンスがそうだったと思うが)、冒頭から演奏で泣き、発言でも泣き、同時に大笑いし、凄まじく心地よい疲労感に包まれた。久々に見て改めて神聖かまってちゃんというバンドの物語と特別さに打ちのめされた。

早々にクライマックスを明らかにしてしまったが、もう一つネタバレすると、この日のセットリストはちばぎん考案。1曲目においた「怒鳴るゆめ」はmonoがの子とバンドをやることになった際、ちばぎんがmonoから初めて聴かされた曲だと、最後のの子とのやりとりで明かされた。この「怒鳴るゆめ」のオープニングから4人の演奏が各々の人間から発信されていることがクリアに分かる音像で、“夕暮れの空の下 一人きりでも歌うんだ”の歌詞あたりで観客一同感極まり、フロアの前方はうねる一つの生き物のように、演奏との子の歌に全力で反応する。そして、新曲「るるちゃんの自殺配信」が早くも名曲感を醸し出していたのも圧巻だ。みさこの跳ねるドラミングもポップな楽曲であるぶん、スキルが光る。さらにアッパーな「ゆーれいみマン」ではずり落ちる眼鏡を何度も上げながら、ちばぎんが体をかがめながら渾身のプレイ。つくづくバラッバラな個性の4人がひとつの曲への愛を軸に、完璧ではないけれど、力強さを増し、緩むことのない緊張感で音を鳴らしていることが途轍もなく美しく感じられた。
涙を流しながら拳を上げ、ジャンプするというかまってちゃんのライブならではの魂の高歓もあれば、シーケンスの壮大さとエフェクトでの子のボーカルとコーラスがレイヤーを生み出し、文字通り神聖なムードをどんどん進化させてきた「夕暮れの鳥」で、ファンが聴き入るシーンも。さらに中盤に新作「児童カルテ」から披露した「おやすみ」は危なっかしいファルセット、淡々と刻まれるアコギ、荘厳なシーケンスと繰り返される“Libido”……。一体、の子は1曲の中で何役を担当しているのだ?――ある種の綻びもそのままに曲が誕生した時の彼の脳内を見ているようで圧巻だった。テクニックも必要だが、時にそれを超える人間のパワー、そういう意味で登場当時から現在まで、スローな楽曲での神聖かまってちゃんは特別な存在感を醸し出す。ザ・フレーミング・リップスの愛すべき神々しさや、syrup16gの闇が深いが故に浮き彫りになる透明感のようなものも共振する。扇情的なだけでも、メロディの良さだけでも、歌詞の美しさだけでもない、全てひっくるめた音楽性の高さが立ち上がるのだ。

真剣に聴き入った後はの子の「頭の上に夜空を作って行こう」の一声から頭上をレーザーが照らす、「夜空の虫とどこまでも」。視覚的にはシャープなレーザーだが、この曲と相まって、繭(コクーン)の中にいるような優しさを感じる。が、エレクトリックな「Girl2」、ポストパンク・テイストもある「バグったのーみそ」では、ハンドマイクで暴れるの子と、謎のダンスを繰り出すmonoがステージ上でカオスを作り、レーザーも凶暴な痛快さを演出していく。あとのMCでの子が「レーザー、160万かかったから全員から380円追加料金な」と、意識的でも期待通りのオチをつけてくれた。
1曲1曲、脱線せずに渾身の演奏でライブを展開してきた本編の大団円は名曲中の名曲「ぺんてる」。大人になっても居場所がない、もしくは自分でいられる場所に戻りたいーーだからなおさら、メンバーとともに大人と言われる年齢になったファンにはこの曲が響いたのではないだろうか。「あっという間に45歳、55歳、35歳かもしんない、なっちまうんだよ。明日死んじまうのは俺かもしれないし、お前らかもしれない。だから今しかねえだろ!」と、の子が叫ぶ。この日何度も「過去も未来もねえ、今しかねえだろ!お前らの衝動をくれよ!」と叫んでいた彼は煽るためだけにこの言葉を発していたわけじゃないのだ。ライブでファンを煽るのはどのバンドでもお馴染みの光景だが、の子の制御不能、ある意味ではクドく終わりのない叫びには計算も打算もない。「2年後、今の俺らを笑い飛ばそうぜ!」と、「2年」がラストにセットされた。ちばぎんがこのセトリを考えたことを思うと、切なさより前向きな気持ちが沸き起こる。

神聖かまってちゃんを止めたくない。その思いがちばぎんの今回の決断であることはファンも重々承知しているのだろう。フロアからちばぎんコールが不思議なチャントのような響きになって繰り返されていたのも、偶然とはいえ美しかった。ちばぎんに最後の一言を求めるファンに応えて、「最後に今までで一番いいライブができた」という意味の感想を話すちばぎんに「最後とか関係ねえ!」と、話をさせないの子。美しい幕切れとは言えないまま演奏に突入していく。だが、ダブルアンコールで、奇跡的にバンド結成からのちばぎんとの子の物語の伏線が回収されていったのだ。センターのお立ち台にちばぎんを呼び、の子がファイルらしきものを手にして、「ちばぎんから幼稚園の時にパクったキラカードを探したんだけど、なかったから代わりに」と、「23才の夏休み」をファンに歌わせながら、そのカードをちばぎんの背中に貼り付けたのだ。アンコール時にも涙声になっていたちばぎんはこの時、崩れ落ちて泣いていた。「お前もダイブしろよ!」と、率先しての子が背面ダイブすると、ちばぎんもダイブ。でもそこで泣かせて終わらないのがかまってちゃんというか、の子である。「怒鳴るゆめ」をフロアに歌わせ、前述の通り、いつまでもステージを後にする気配のないの子をちばぎんが肩車して退場するという、半ば強制終了で神聖かまってちゃんの第一章の幕は閉じたのだった。
<セットリスト>
1.怒鳴るゆめ
2.るるちゃんの自殺配信
3.ゆーれいみマン
4.日々カルチャア
5.夕暮れの鳥
6.映画
7.夕暮れメモライザ
8.毎日がニュース
9.レッツゴー武道館っ!
10.肉魔法
11.おやすみ
12.夜空の虫とどこまでも
13.Girl2
14.バグったのーみそ
15.塔を登るネコ
16.ぺんてる
17.2年

-アンコール-
1.天文学的なその数から
2.ロックンロールは鳴り止まないっ
3.フロントメモリー
W 23才の夏休み

笑いも涙も予定調和なしのちばぎんラストライブ。実人生を曝け出すバンド、神聖かまってちゃんの本質はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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