ブルー&スカイ、市川訓睦、中村たか
しのスペシャル座談会~フロム・ニュ
ーヨークが新作『こまかいのの貸し借
り』を上演

「フロム・ニューヨークの次が気になる」。そんな言葉を耳にする人は、確実に熱心な演劇ファンだ。しかも、宮沢章夫やケラリーノ・サンドロヴィッチのようなナンセンス劇を愛する人に違いない。下北沢OFF・OFFシアターで繰り広げられるブルー&スカイの世界を、今年の冬も堪能できる幸福に浸りたい。2020年12月4日(水)より新作『こまかいのの貸し借り』の上演を控えるなか、ブルー&スカイ、市川訓睦、中村たかしの3人に話を聞いた。
◆内容を聞かれても答えられないものをつくる
――常打ち劇場と化している下北沢OFF・OFFシアターはみなさんにとってどんな小屋でしょうか。
ブルー&スカイ(以降、ブルー) OFF・OFFシアターは、3人でやるということにはちょうどいい場所です。なるべくセットにお金をかけないで、素舞台に近い状態でやりたいんですけど、そうするにはあまり広くない劇場がいいと思うので。楽屋も3席しかないですし。
市川訓睦(以降、市川) OFF・OFFシアターの楽屋は、本当に幕1枚で隠されているだけなので……。静かな芝居の人は大変かもしれません。
――楽屋では息をひそめていないとならないのですか?
中村たかし(以降、中村) だいたい3人で舞台に出ているので、楽屋で待っていることがほとんどないです。
――稽古はどのように進めるのですか?
ブルー すごく大雑把なものを書いて、稽古場でやってみて直して、一度ゼロにして、書き直してという流れです。「内容は?」と言われても答えられるものをやっていないということもありますけど(笑)。
市川 ブルーさんが持ってきたものから、膨らむ要素があるかを稽古場で試して、コントになるかどうかを探っている感じです。
ブルー 前回(編注:『サソリ退治に使う棒』。2018年2月、駅前劇場にて上演)は、一本もの演劇公演でした。3人だけでやるのは『そろそろセカンドバッグ』以来だから……。
中村 2年半くらい空いていますね。
ブルー 相当久しぶりで、どんなふうに作っていたか忘れている部分があります。ただ単純に時間が空いちゃったということなんですが……。
左から中村たかし、市川訓睦、ブルー&スカイ
◆こまかくないものも貸し借り
――いつもタイトルワークが秀逸です。
ブルー タイトルに内容を合わせようと思ってはいますけど、あまりそれに縛られて不自由になるのもいけないですから……。結局タイトルに沿ったことはやっていません。
中村 こまかいというのは小銭のことなんですよね。
ブルー 小銭のやり取りを見せても仕方ないんですけど(笑)。
市川 でも、僕たち3人のあいだで小銭の貸し借りはないですね。いい歳をした男たちが小銭を貸し借りするってのはバカバカしい感じがするので、それをお芝居の雰囲気に残すというか……。
ブルー 小銭の貸し借りのシーンを見せたいわけではないので(笑)。
中村 そんなシーンがあったら、お客さんが「ここを見せたいのか」って納得するかもしれませんけど(笑)。
――小銭の貸し借りって、忘れてしまうこともありますね。
中村 僕はあり過ぎて思い出さないように過ごしています。
市川 僕は、基本的にお金の貸し借りをしないです。
ブルー ずいぶん前からのことですけど、決して細かくない金額を貸してくれている人がいまして、そのお金をまだ返していません。一気に借りたわけじゃないんだけど、ちょこちょこ借りて、50万円くらいになっています。
市川 それは細かくないですね(笑)。
中村 お金じゃないけど、借りたまましばらくたった物は捨てますね。
市川 えっ? 人の持ち物を?
中村 洋服とか、借りたまま返す機会がもうないなと思ったら捨てます。ずっと持っているとこっちのプレッシャーになるじゃないですか(笑)。自分の判断ですけど、必要じゃないなと思ったらそうします。
ブルー ちゃんと返しなよ(笑)。
中村 貸した側も、返されたところで困ると思うから。宇宙レコードの小林顕作さんから、衣装の靴を借りたんですよ。返したほうがいいかなって加藤啓さんに相談したら、絶対返さなくていいと言ってくれました。
――実際言ってこなかったなら、中村さんの判断は正解ということなんですかね?
中村 間違いないということです(笑)。
ブルー CDやDVDを誰に貸したのか忘れていることもありました。僕が借りっぱなしになっているものもありますね。
中村 僕が貸したものは絶対に忘れないです。友だちに、自販機で何か買いたいから10円借りてくるヤツがいるんですけど、そういうヤツは許せないなと(笑)。
市川 それはひどくない? 借りたものを捨てる人が(笑)。
中村 いや、それなら「ちょうだい」と言ってほしいんですよ。
市川 でも、CDや本なら貸しっぱなしや借りっぱなしもありますね。返してって言うことすらめんどくさいから、必要に応じて買い直したりしています。
――こういう日常の会話が、たとえば作品に反映されることはありますか?
ブルー たまにありますね。前回だと、客演してくれた吉増(裕士)さんと飲んだときの話が少し入っています。男女共用のトイレがある飲み屋で、きれいな女性が入ったとき、その便座について話したときのことが作品の一部に加わりました。
市川 本当にくだらないですね(笑)。便座に顔をこすりつけるとか、そういう話でしたよね(笑)。
左から中村たかし、市川訓睦、ブルー&スカイ
◆バカバカしいものであることは変わらない
――みなさん、よく飲みに出かけているということですが、普段はどうやって集まっているんですか?
ブルー たいてい僕が誘います。それで、たいてい断られるという(笑)。
市川 当日誘ってくるんですよ。電話で何かしらやり取りをしていて、「ところで、今日はどう?」っていうのがブルーさんのパターンで、空いていれば付き合いますけど、予定があれば断るしかないですね。
中村 僕はブルーさんに誘われたら、9割以上断ります(笑)。
ブルー よっぽど何か話したいことがある人とは予定してから会いますけど。単純に飲みたい気分になったから誘っているんですよ。でも、いきなり当日に誘える人は限られているので、全員に断られたら、わりとすぐにあきらめています。
――ところで、市川さんと中村さんにお聞きしたいんですが、ブルー&スカイさんの台本に対してどういう思いがありますか? 台詞を入れるのが難しいとか、身体に染み込ませるために必要な作業があるだとか……。
市川 確かに独特のズレだとか、際立った感性がある台本だと思いますけど、特にブルーさんの本だからこうする、という特別な方法はないかもしれないですね。
中村 以前、モッカモッカというところに出ていたとき、ブルーさんが台本提供してくれていたんですよ。演出には入っていないので、僕たちで「こんな感じかな」を思って作ったものをブルーさんが観たら、全然違うと言うんです。そのとき、ブルーさんの本って、むずかしいんだと思いました。
ブルー 脚本提供のときのほうが、読んだだけだと分からないことを多少控えている部分はあるんですけど、自分も稽古場にいるときはもっとぼんやりさせているかもしれません。ただ、いずれにしたってバカバカしいものであることは何も変わらないと思っています。
撮影・取材・文/田中大介

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