【インタビュー】岸本勇太、音楽と演
技という2つのクリエイティブ面で確
かな足跡を刻み始めた信念

ダンスボーカルグループ「龍雅-Ryoga-」のメインボーカルとしてメジャーデビューを果たし、活動休止後はソロ・アーティストとしてのキャリアをスタートさせた岸本勇太。音楽活動と並行し、初舞台となった2017年の「B-PROJECT on STAGE『OVER the WAVE!』」では金城剛士役を好演。最近では数々の舞台やミュージカルで大役に抜擢されるなど、役者としても注目を集めている。そんな岸本勇太が、今年の6月から6週連続でソロ音源の配信を行ってきた。懐かしさとスタイリッシュな感性が混ざり合うサウンドトラックを軽やかなボーカルで彩り、切なさや温もり、限りある瞬間のきらめきなどが丁寧に表現された楽曲ばかりだ。音楽と演技、2つのクリエイティブ面で確かな足跡を刻み始めた彼の信念とは。

■楽しんでやらないと意味がない
■それだけは忘れずにやりました

――6月の頭から、6週連続で音源が配信になりました。ソロ・アーティストとして作品を発表するにあたっては、どんなお気持ちでしたか?

岸本勇太(以下、岸本):今は舞台やミュージカルなど役者の仕事もやらせていただいていますが、もともと音楽でこの世界に入ったので、こうして形にして残せたのは僕自身も嬉しかったですし、音楽活動を応援してくださっている方々にも、何かひとつお返しのようなことができたんじゃないかなと思っています。

――6週間、ずっとワクワクされていたんじゃないですか?

岸本:そうですね。嬉しくもあり、ちょっと不思議な感覚でもあったというか。今まではグループでの活動でしたから、配信サイトなどで検索した時に自分の名前で出てくるのがちょっと不思議だったんです。だから、今回は思わずスクリーンショットしたりしちゃいました(笑)。

――でも毎週リリースするということは、制作がかなり大変だったのでは?

岸本:舞台をやらせていただいている時期でもあったので、正直大変な部分もありました。でも僕自身、その大変さも込みで音楽と向き合っていきたいという気持ちで始めたことだったんです。待ってくれている人がいることが僕の原動力ではありましたが、きっとみんなはみんなで「あれ?勇太くん舞台ずっとやってるけど大丈夫?」って思っているんだろうなっていうことも感じていたから(笑)、スケジュールの合間を縫って頑張りました。

――頭の切り替えなどもきっと大変ですよね。

岸本:舞台は舞台、音楽は音楽でやっていることが違うから、その点は大丈夫というか。僕、いつも思っていることがあるんです。それは「楽しんでやらないと意味がない」っていうこと。それだけは忘れずにやりました。

――制作に関してはどんな風に進めてきたんですか?

岸本:実は、6週連続でのリリースが決まる前から出来ていた曲もあるんですよ。第1弾として配信された「東京 Night Flight」と第3弾の「こぼれ落ちるモノ」がそうです。2017年の大晦日まではグループとしての活動に集中し、そこから翌年の5月に行うイベントまでの間に曲を作らなきゃいけなかったから、まずはライブのために曲を作るっていうスタートだったんです。

――ソロとしての活動の第1歩となった「東京 Night Flight」。イントロからとてもテンションが上がりました。

岸本:ソロでやっていくにあたってはグループの時から携わってくださる方もいて、僕の歌い方や特徴、どういう人なのかっていうことも含めてすごくよく見てくださっているんですね。グループにはグループのやり方の良さがありましたが、ソロはソロで、よりミニマムな距離感で話ができるので、僕のことをすごく汲み取ってもらえた結果がこういうスタイルになったんだろうなと思います。かっこいいなと思えるものの感覚が、すごく近いんですよね。だからこの曲のデモ音源を聴いた時、僕もすごくワクワクしました。
▲配信第1弾「東京Night Flight」

――何か共通するイメージとか、キーワードみたいなものは共有されていたんですか?

岸本:オシャレ感みたいなところですね。音楽の面でもビジュアル面でも、僕が活動していくにあたってはオシャレなものを提示したいと伝えました。

――オシャレといってもたぶん解釈は人それぞれだと思いますので、勇太さんが思う「オシャレ感」を少し解説していただけますか?

岸本:すごく感覚的なところではありますが、年齢を重ねるにつれて、どんどんシンプルになっている気がします。以前は、足せばいいと思っていたんですよ。足してもっとよくしようというか、アクセサリーも付けまくればいいと思っていた(笑)。たくさんある方がかっこいい、ギラギラしているものがかっこいいって。でも最近は、少しだけ輝いているものに惹かれたりするんですよね。あとは一筋縄ではいかないとか、ひと言で語れないものにも魅力を感じます。考えさせられるものが、よく目に止まるんですよ。

――なるほど。

岸本:ファッションにしてもそう。パッと見るとすごくシンプルなんだけど、なぜか立ち止まりたくなるような雰囲気を持っているものや、よく見るとすごくこだわりがあるもののほうがかっこいいなと思うし、そういうものにオシャレを感じていますね。

――音楽にもその感覚が貫かれているということですね。わかりやすさも大切な要素だけど、よく聴くとわかる音のこだわりや言葉の奥にある感情のようなものもしっかり刻まれています。

岸本:そうなんですよね。わかりやすい音楽を作るって、ある意味大事なことだと思うんです。例えばライブで、わかりやすくお客さんと一緒に盛り上がれるとか。正直、そういう曲を増やしていけばライブも楽だと思うんですよ。でも、そうしてしまうと“らしさ”みたいなものがどんどん欠けていく気がして。だから、そのバランスなんですよね。

――確かにそうですね。

岸本:最初は、そこまで考えられなかったんです。でも対バンイベントに出させていただいたり、いろんな人のライブを見たりしながら、「この人は何がすごいんだろう?」「俺には何が足りないんだろう?」って思うようになったんですよ。あとは「なんでこんなにオシャレなのに盛り上がれるんだろう?」とか。こういう曲をやればこう盛り上がるだろうではなく、やってみて初めてわかったことや、自分がお客さんの立場になってみて感じたことなど、だんだん気付けたことがたくさんあったんですよね。
――それをまた、チームで共有すると。

岸本:はい。もっとこうしたほうが伝わるかもしれないとか、今やっているこの部分がやりづらいですとか、自分が感じたことをスタッフさんに伝えて、僕らしさを失わないギリギリのラインを大切にしながら汲み取ってもらっています。でも、みんなそうですよね。最初から全部決めてその通りにやるのがベストとは限らないし、いろんなことを試したり、いろんな意見を取り入れたりしながら、より良いものを作っていっていると思うんです。料理もそうじゃないですか。頭で考えるだけじゃなくて、いろんなもの試食したり、調味料を試したりしながらより美味しいものを作るわけで。

――そうやって舌も肥えていきますしね。

岸本:僕、普段から「これでいいや」とか「これくらいやれていれば大丈夫でしょ」とか、そんな風に思えないんです。同じ事柄に向き合うにしても、これを足したらどうなるかな?ってやってみるのが楽しいなと思う。意外と、思ってもみなかったことが生まれたりするんですよね。その感覚はお芝居をさせていただくようになって気づいたことでもありますし、音楽にも返せていることじゃないかなと思うんです。常に現状に満足しないっていう性格が、良い方に生かせている気がします。

――じゃあきっと「こぼれ落ちるモノ」という楽曲で作詞に挑戦されたのも、勇太さんの中では自然なことだったんでしょうね。

岸本:歌詞って、人それぞれだと思うんですよ。カフェで考えて書く人、電車の中で思いついちゃう人とか。たぶんこれは初めてお話しすることなんですが、僕の場合、雑貨店のLoftに行った時にたまたま目に入った砂時計がきっかけだったんです。何故なのかはわからなかったけど、「これって何かありそう」と思って、すぐにスタッフさんにアイデアを送りました。この感覚、見逃しちゃだめだってすごく思ったんですよね。

――そういうところからの発想だったんですね。ちなみにその砂時計は買ったんですか?

岸本:買いました(笑)。ちゃんと飾ってあります。足を運べば運ぶほど、そこでしか見られない景色やそこでしか感じることのできない感覚があるんですよね。だからあの時、Loftに行って本当に良かったなって思いました(笑)。

――でなければ、この歌詞は生まれていなかったわけですからね。

岸本:はい。歌を歌ったり、何かを表現する人はなおさらいろんなものを見たほうがいいし、いろんなものを吸収したほうがいいよって。いつどこでどんなチャンスが自分の中に落ちてくるかわからないからねって言われたその言葉の意味が、わかった瞬間でもあったんです。
■今しかないものを伝えていかないとって思っているから
■作品全体の印象として出来上がっていったんだろうなと思います

――この曲の砂時計もそうですが、今回の6曲には腕時計が出てきたり、“今”を生きたいという歌詞があったり、夕陽、夜、星など時の流れを表現するワードが散りばめてあって、すごく印象に残りました。そのあたりは何かもともと意識されているところだったんですか?

岸本:確かに、今回は時間の流れみたいな部分を意識していました。これはスタッフさんにも常々言っていることなんですが、いろんな物事は無限じゃないと思っているんです。どんなことにも限りは有る。これは今しかない瞬間なんだって、ソロになってより思うようになったんですよね。人生いろんなことが起きるけど、人生も限りあるものだからこそ、今何をしなきゃいけないんだろうなってすごく考えるんです。グループの時は正直そこまで考えられなかったけど、経験なのか、それこそ時が経ったからなのかもわからないですけど、すごく思うんですよね。

――なるほど。

岸本:だからもっと言うと、この仕事だっていつまでやれるんだろうとも思うんです。そういう世界じゃないですか。もちろんいつまでもいられたらいいなと思うけど、いつまでいられるかわからないからこそ楽しめているんですよね。これが逆に、「いつまでもやれるんだよ」なんて言われるような世界だったら、あまり魅力を感じないんだろうなと思う。ちょっとスリルと隣り合わせというか、いつ何時どうなるかわからないっていうほうが楽しい。ぬるま湯に浸かっているのは得意じゃないですから。

――今という瞬間、過ぎ行く時をそんな風に捉えていらっしゃるんですね。

岸本:時間こそ限りがある。今しかないものを伝えていかないとって思っているから、それが曲を書いてくださる方やスタッフさんにも届いて、作品全体のイメージというか、印象として出来上がっていったんだろうなと思います。
▲配信第6弾「It’s Only Summer Love」

――そんな風にきちんと共有できているのは、それこそさっきおっしゃっていた、ミニマムな環境でやれているからこそなのかもしれないですね。

岸本:そうだと思います。しっかりと向き合って、削ぎ落とした感覚みたいなところを伝えたり汲み取ってもらったりしながら作れた6曲だと思っています。

――その6週連続の最後に配信になったのが「It’s Only Summer Love」ですが、MVも素晴らしかったですね。まさに時の流れを捉えたかのような1カメの長回しで、シンプルな画なんだけど、タイミングや表情などで一筋縄ではいかないものが表現されています。

岸本:あの最後の表情のアイデアは、カメラマンさんからいただいたんです。この曲には、ただ夏だからこうとか、ただ切ないからこうとかではない、いろんな要素が混ざっているんですよ。夏らしさと、ちょっと危険な大人っぽさ、セクシーさみたいなものがあって、そこに切なさが見え隠れしている。僕自身もソロになって初めてのMVだから色々考えて行ったんですが、その場の空気を感じて、カメラマンさんにもらったひと言を生かそうって思いながら、撮影に臨みました。

――最後の表情ですごく惑わされました。もちろんいい意味で。それこそ先ほどの話じゃないですが、個人的には、2人の関係って永遠じゃないんだって表情で気付かされたというか。

岸本:こじらせてますよね(笑)。「なんでそんな切ない表情した!?」みたいな(笑)。僕、わからないことをそのままにしておくのは苦手なので、何かアイデアをいただいた時も、わからなかったらちゃんと「どうしてそうするんですか?」って聞くほうなんですよ。だけどこれは、そうか、僕がやろうとしているのはこういうことかって腑に落ちたんですよね。説明も何もなかったけど、ストン…と。

――すでにたくさんの方がご覧になっていると思いますが、今の勇太さんのお話を踏まえて、ぜひもう一度チェックしていただきたいですね。

岸本:夏は自分が生まれた季節でもあるから大好きなんですが、そういう時期にこの曲を配信できて、初めてのMVも撮らせてもらいました。僕自身もすごく気に入っている作品になったので、ぜひ見てみてください。

――こうして配信された全6曲を聴いていると、このままライブができるんじゃないかなと思えるくらいでした。

岸本:確かに、それぞれの色やメッセージを持った曲ですからね。これはやはりスタッフさんも含めたみんなが常に探求しているからであって、芯はあるけど、幅の広さを持ったものになったんだなと思っています。曲を増やしていけば今よりもっと色んな顔が見えてくると思うんですが、現状見せられる顔はしっかり見せられたなと感じています。

――今後は楽器などにも挑戦したいとおっしゃっていましたね。

岸本:はい。でも常々感じているんですが、僕は「やらなきゃいけない」と思っているうちは何も出来ない人間なんですよ。今のライブの話もそうですけど、この曲をアコースティックでやりたいと思ったら、そこから逆算して練習を始めるタイミングが来る。そういうタイプなんですよね。
――ということは逆に「出来ない」とか「無理」もないんでしょうね。勇太さんにとっては、そんな風に今決めることではないというか。

岸本:あまりしないようにはしています。物理的に無理なこと以外は、やったほうがいいよなって考えるようになりました。グループの時よりも。正直厳しい時はあったんですよ。「やべぇ、俺に出来るのか!?」って思ったこともあったけど、結局はやるんです。だって自分で決めたじゃん、決めたことはやろうよって思うから。でもそれは自分の意地とかだけじゃなくて、みんなが動いているこの状況とか色んな環境が、そう思わせてくれているんだなって思います。

――背中を押してくれているのかもしれないですね。

岸本:はい。関わっている人達が見せてくれているというか、教えられているところもあるから、なるべく物事に対して目をつむらないでいようとは思っています。

――すごくしっかりした考えをお持ちだなということがとてもよく伝わってきました。そんな勇太さんに、一番影響を与えた方ってどなたなんですか?

岸本:一番!?それは難しいですね…。うわぁ、考えたことなかった(笑)。

――では尊敬しているとか、憧れているとか、解釈を広げていただいてもいいんですが。

岸本:それぞれでいるんですよ。グループでやっていた時は初めての芸能界で色々教えてくれたメンバーだったりするし、舞台では僕に演じることの楽しさを教えてくれた人。立ち居振る舞いを教えてくれたのはこの人だしってそれぞれにいるし、逆に二番もいないから、一番は難しいですね(笑)。僕、本当に何も知らなかったから、色んな人に色んなことを教わりながらここまでやってこれたんですよ。美容師をやっている時に背中を押してくれた方もそうだし、ひとつのことをやり遂げるっていう精神を叩き込んでくれたのは部活の先生ですしね。やり抜くことや成し遂げることの素晴らしさを教えてくれたのは、間違いなくそこでしたから。

――そうやってたくさんの方への尊敬や感謝の気持ちを、今も忘れずに持ち続けていらっしゃるんですね。そのお話が聞けただけで充分です。

岸本:みんな、それぞれでした。なんだかすみません(笑)。そうやって僕は色んな人に色んなことを教わってきたんですが、先輩にこれを教えてもらったからこそ俺は絶対にここで成長してやろうっていう風に考えるんですね。すると狙ったわけでもなく、新たなオファーをいただけたり、新しい繋がりができたりするんですよ。今は舞台の方にかける時間が多くなっているんですが、そういう先輩方にも常に「追い越せよ」と言われています。

――それが、教えてくださった方への恩返しにもなるわけですからね。

岸本:はい。だから、自分も与えられるものは与えたいなって思うようになりました。そういうことも、外に出たからこそ気付けたことなんですよね。グループの時はグループでしか見えないものを見ていたし、今は今しか見えないものをしっかり見ることができているんじゃないかなと思います。これからもさらに、自分らしく外に向けて発信していけたらなと思っています。

取材・文●山田邦子
リリース情報

<2019年夏、ソロ音源リリース>
6/7 第1弾「東京 Night Flight」
6/14 第2弾「Make It SPECIAL」
6/21 第3弾「こぼれ落ちるモノ」
6/28 第4弾「Take It Off」
7/5 第5弾「Untitled」
7/12 第6弾「It’s Only Summer Love」

関連リンク

BARKS

BARKSは2001年から15年以上にわたり旬の音楽情報を届けてきた日本最大級の音楽情報サイトです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着