「永世乙女の戦い方」の撮影。カメラマン:飯本貴子

「永世乙女の戦い方」の撮影。カメラマン:飯本貴子

【まなおのアニメ感想戦!】第9回 
「この世界の片隅に」へ~将棋界の片
隅から

「永世乙女の戦い方」の撮影。カメラマン:飯本貴子◆「この世界の片隅に」

 先日、「この世界の片隅に」が初の地上波放映だったので、久々にテレビにかじりついて観てしまいました。封切りされてすぐのときに劇場で観て以来でしたが、この8月に観ると、また違った感慨があり、思わず筆を執っています。
◆すずさん
 物語は、広島・呉市へ嫁ぐ、ちょっとぼうっとしている女性・すずさんを軸に描かれます。紙や映像のうえでしか戦争を知らない私からすると、これまで時間も距離も遠い遠い世界の出来事のように思えていました。
 でも、のんさん演じる素朴な声色を聴くと、いま私たちが懸命に現代にしがみついているように、すずさんも確かに生きていたことが感じられます。最も大変な時代に、「(すずは)たまげるくらい普通じゃのう」などと声をかけられるほど穏やかな心で生きる姿が、愛しくて仕方ありませんでした。失われる前触れゆえの口惜しさではなく、懸命に生きた証がいま手元に届いた喜び、といったほうが近いかもしれません。
ひだまりのような
 今まで「戦争映画」と聞くと、悲惨さ、悲痛さが目に余って、目を逸らしてはいけないと思いと、やはり目を逸らしたくなる恐怖とで、自分の未熟さを痛感してしまっていたものです。当然、当時の資料も教科書も世の中に必要なものです。ただ、日常を通して戦時を伝える切り口の本作は、今後も特別な立ち位置にあり続けるのではないでしょうか。
 将棋界でのこうした例は「3月のライオン」が思い浮かびます。これまでの将棋マンガと異なり、棋士・桐山零の身の回りには将棋が全くわからない川本3姉妹がいて、その関係を厚く描くことで、これまで将棋作品には芽生えなかったぬくもりが芽生え、多くの方に手に取られる作品となりました。
 二つの作品の共通点は、表情が描かれなかった世界を、豊かな表情で彩っている点のように思います。もちろん、戦争の過酷さは何とも比べられるものではありません。鑑賞中、空襲のリアルさ、死の近さに息が詰まることが何度もありました。
 それでも、たとえば「なんでも使うて暮らし続けるのがうちらの戦いですけえ」と優しい笑顔で話す様をみればみるほど、「この片隅」を見届けて、いろいろ胸に刻みたいと思えたのです。
◆さらに続いていく作品
 「片隅」という名の、尊くて大きな世界がひろがっていました。こんな作品があるのかとただ驚いた初見のとき、もう一つハッとさせられたのはエンドロールの長さです。優しいピアノのメロディと共に、クラウドファンディング支援者の方々の名前がズラリと並ぶのを見て、たくさんの思いと共に続いていく、続くべき物語であることを改めて噛みしめました。先日達成された連続上映1000日は大変な記録だと思います(おめでとうございます!)。
 戦争は、当然繰り返してはいけないものです。しかし、こうして描かれた作品は、戒めというだけではなくて、多くの方が観るべきだと思えます。12月には約30分の新規シーンを追加収録した「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」が公開予定ですが、いわゆる完全版ではなく、違った角度からのお話になるそう。これまでと違った「片隅」が観られるのが待ち遠しいですね。

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