トリコロールケーキ今田健太郎&劇団
「地蔵中毒」大谷皿屋敷に聞く、『懺
悔室、充実の4LDK』ダブル本公演の作
り方

ナンセンスな笑いが好きな演劇ファンならば、トリコロールケーキと劇団「地蔵中毒」は見逃せない。その2劇団が、2019年2月2日、3日に浅草九劇にて合同公演を開催する。
この「合同公演」という言葉に、一抹の不安がよぎる小劇場ファンはいないだろうか。コラボという名の各劇団の短編集だったり、好きな劇団同士のコラボにお得感を期待して足を運んだものの、イベント感覚の内容で、振り返ってみれば、それぞれのカラーが薄まった物足りない仕上がりだったり。「やはり芝居を見るなら本公演だ」という方は、一定数いるように思う。
しかしトリコロールケーキと地蔵中毒の合同公演『懺悔室、充実の4LDK』は、両劇団の本公演だという。彼らは「ダブル本公演」と銘打ち、フライヤーには「トリコロールケーキ第11回公演」「劇団『地蔵中毒』無教訓意味なし演劇vol.9」とそれぞれの番号付け。脚本・演出は、トリコロールケーキ今田健太郎と、劇団「地蔵中毒」大谷皿屋敷の連名だ。
SPICEでは、ダブル本公演に至った経緯や上演作品の制作プロセスを、今田と大谷に聞いた。
創作のためなら拳も厭わない
——『懺悔室、充実の4LDK』は、どのような芝居になるのでしょうか。
今田 どんな話になるか、一言で伝える説明って僕ら自身まだ見つかっていないんですよね。
——チラシを拝見したところ、文字の量の割に頭に入ってくる情報がほとんどありませんでした。参考までに、どんな人と一緒に観るのがおすすめの作品になりそうですか?「ペア割」もあるようですし。
今田 ちょっと考えるので、大谷さん、先にお願いできますか?
大谷 あ、はい。友達になりかけの人と一緒にみていただき、その後、すれ違うたびに気まずくなってくれればいいなと思います。
今田 それです。
大谷 いいんですか?
(左から)トリコロールケーキ作・演出 今田健太郎、地蔵中毒主宰・作・演出 大谷皿屋敷
——作・演出とも連名ですが、執筆は順調ですか?
大谷 自分だけで書く時は、俺が書かないと何もないままじゃないですか。でも今回は、俺が何も書かなくてももう一人いる。そう思ったら。サボっちゃいますね。
今田 順調なのかどうか、分からないですね。僕は最近、執筆のペースが遅くなってきていて。トリコロの前々回の公演(『ヤシの木』2018年3月)までは、なんとか幕開けまでに書き終わりましたが、前回の公演(『金の犬』2018年12月)は、ついに書き終わりませんでした。だから本番前に、言葉で説明して。なんとかなるものですね。
——合作の場合、どのような手順で書くのでしょうか。
今田 どういう風に書いていく?という話をしながら、本番が終わるんだと思います。とりあえず今のところ(1月上旬時点)までは、大谷さんが8割書きだして、僕はその後ろから追いかけて書く。
大谷 書いたものを今田さんに直してもらっているのですが、一人だと直してもらうことがないから、面白いですね。
——具体的には、どのような直しが入るのでしょうか。
今田 まず横書きを、縦書きに。
大谷 ボタン一つでやってもらう。新鮮ですね。
——なるほど(笑)
今田 今のところ、僕がリライトをしているのですが、すでにどこを自分が書いてどこを大谷さんが書いたのか分からなくなっています。音響の方から「鐘の音というSEがありますけど」と確認された時も、どっちが書いたんだっけ?と。
大谷 その時は「じゃあ、僕なんですかね」ということになりました。
地蔵中毒 主宰・作・演出 大谷皿屋敷
——地蔵中毒は本公演は過激な内容、それ以外の公演ではTPOをわきまえた作品で、参加される印象があります。『懺悔室、充実の4LDK』は本公演でありながら合同公演ですね。
大谷 実際、抑えて書いていたんです。けれど鳥原さん(トリコロールケーキ主宰)に「抑えなくていいよ」と言われたので、ここから急に酷くなるんじゃないですかね。「抑えなくていいよ」って言われた日に書いたところから、ぐぐっと酷くなると思います。
今田 ただ、観る方に「ここは地蔵が書いているな」と思われたくないところもあるので、僕も下ネタを書くことになるでしょうね。
——では、今田さんが大谷さんに歩み寄る作風に?
大谷 僕もトリコロールケーキを意識して台本を書きました。ドトールで4時間くらい、今田さんのことだけを考えて書いたら、今までにないくらい「・・・」っていうのがあって。
今田 五反田団(主宰:前田司郎)くらいありましたね。
大谷 4時間、今田さんのことを考えた結果、俺の中の前田さんが……。
今田 ただ、それらの部分はこれから書き換えようと思っています。
大谷 (笑)
——2人での演出は、どのように?
大谷 お互い微妙に離れたところから見ていますね。
今田 見ちゃうんですよね。「へえ。そうやるんだ」とか「台本の最初3行をずっとやってるなんて」とか。自分の劇団以外の演出をみる機会がないので、珍しいものをみるような。
大谷 稽古場では、今田さんは、演出でウケるからいいなって思います。演出中に「こうしてください」と言ったところで笑いが起きるんです。
今田 大谷さんが書いたところに、僕がネタを足すみたいなことをしています。楽ですよ。でもこれから本番に向けて、その逆のことを大谷さんにもやってほしいです。
——稽古場で、今田さんの執筆パートをブラッシュアップしていく作業ですね。
大谷 あ、お家でゆっくり考えるのが得意なので、俺は。だから一度家に持って帰って考えます。
——脚本も演出も共同作業となると、意見が割れることもあるのではないでしょうか。
大谷 まだないです。今後、滅茶苦茶喧嘩するかもしれませんが。
今田 創作のためなら、拳も厭いません。
大谷 ふたりで大声を張り上げて、喧々囂々と作っていきたいと思います。
トリコロールケーキに、地蔵中毒のかたまりが
——合同公演のきっかけをお聞かせください。
大谷 僕はずっと前からトリコロールケーキを見ていたのですが、きっかけは去年の3月です。トリコロールケーキの公演(『ヤシの木』2018年3月)に、以前、地蔵中毒に出てくれた劇団ジェット花子(主宰:ぐみ沢)の女優・荒威ばるさんが出ていたので見にいきました。
今田 その日僕は、終演後に会場から出るのが少し遅れてしまったのですが、ロビーに出た時にはもう、鳥原さん(トリコロールケーキ主宰)から「地蔵中毒と一緒にやることになったから」って言われまして。
——話が早いですね。
大谷 他のメンバーもいたので。
今田 地蔵中毒は、かたまりで観にきていて。
大谷 僕たち、劇をまとまって観にいくことが多いんです。この時はたまたまですが。
今田 たまたまと言いますが、何かにつけて地蔵中毒は集団で行動している気がします。
——たしかに今日も。(※取材には、地蔵中毒より東野良平、立川がじら、かませけんたが大谷に同行)
今田 この公演をやると決めて「最初の打ち合わせを」と大谷さんに声をかけた時も、僕は、2人でお笑いについての熱い話をできるのかなと思ったのですが、地蔵中毒が10人来たんです。親睦会になってしまって。
大谷 僕ら、横長のテーブルの端と端で全然喋れませんでしたね(笑)。
——稽古をはじめてみて、お互いの劇団に、どのような印象を受けましたか?
今田 地蔵は仲がいいんです。それから、みんな大谷さんを信じてやっていますよね。
大谷 本当ですか。信じてますかね。
今田 はい。いや。数が多いだけか。「うちは地蔵ほど信じられていない」と言おうとしたんですが、数が倍違いますからね。
大谷 人数ですか。
——大谷さんはトリコロールケーキに対し、どんな印象を?
大谷 地蔵のメンバーともその話になったんですが、今田さんの台本を読むのが上手い。今田さんが書き足してくれたパートを、トリコロールの方がやるとちゃんと面白いんです。凄いなって思いました。
——今田さんは、地蔵中毒の作風をご存じでしたか?
今田 2018年1月のテアトロコント(ユーロライブが主催する、演劇とコントのライブイベント)で、短編をみていました。
——どのような感想をもちましたか?
今田 「一緒だな」と思いました。手にとるように、書いている人の気持ちが分かりました。それだけに、笑えなかったですね。ずっと真顔でみながら「そうだよね、そうするよね」って。先ほどのTPOの話ではありませんが、「笑いやすいやつを、笑いやすい順番でやってるな」というところまで分かりました。まだ本公演を観たこともなかったのに。
大谷 (笑)
今田 あとは、地蔵中毒は滅茶苦茶なことをすると評判を聞いていたので、想像よりも全然端正だなとも思いました。
——シュール、ナンセンス、コメディなどの共通点はわかるのですが、トリコロールケーキは、おしゃれなイメージを大切にされているのかと思ってました。エログロで笑いを取りにいく地蔵中毒との合同は、少し意外でした。
今田 おしゃれ…ですかね?「地蔵中毒と比べたら」じゃないですか?
大谷 ああー(笑)
今田 一応、衣装はきれいにしようとは考えています。劇団が2つあって、同じ面白さだとしたら、絶対におしゃれなほうが売れるだろうなと思うので、必死でがんばっています。
——大谷さんは以前から、トリコロールケーキをご存じだったんですね。
大谷 初めて観たのは、まだ地蔵中毒を始めるか始めないか。地蔵中毒のスタイルを模索している頃でした。自分がやりたいようなことをしている劇団というイメージでした。地蔵の第2回公演(無教訓意味なし演劇vol.2『僕の街に巨大日本人形が建った日』2015年7月)の頃には、「ロートーンでやってください」って演出してみたり。トリコロールに寄せようとして。でも地蔵のメンツは皆、声をはらないとやりづらそうだったので「うちは違うんだな」と思って徐々に……。
——大谷さんにとってトリコロールケーキは、大きな影響を受けた劇団のひとつなのですね。
大谷 そうですね。
今田 大人計画よりも?
大谷 それはちょっと申し訳ないんですけど。
今田 大丈夫。
大谷 ほんとちょっと申し訳ないん…
今田 大丈夫。
呼吸法と暗黒舞踏
——最後に2019年の抱負をお聞かせください。
今田 そろそろ売れないと死ぬので、今年は。公演は、年内にあと2回。それとは別にワークショップもやりたいです。トリコロの演技のメソッド化ができたので。
——トリコロ・メソッドが?
今田 呼吸法だったんです。
大谷 (爆笑)
今田 それを学べば、トリコロールケーキになれる。かつての大谷さんも、そのメソッド講座にきていれば、もしかしたら地蔵中毒も違うものになっていたかもしれない。あとは…、(声色が変わり)もっとたくさんの人の笑顔を見られる年にしたいなと思います。
——大谷さんはいかがでしょうか。
大谷 すみません、考える時間あったのに……、なんですかね。みんなで暗黒舞踏ですかね。そろそろ暗黒舞踏じゃないかなという感じですかね。今年は。
——ありがとうございました。
『懺悔室、充実の4LDK』は、浅草九劇にて2019年2月2日(土)、3日(日)の全4公演。
取材・文・写真撮影=塚田史香

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