レキシならではの作品づくりの悩みと
こだわり、両A面シングル「S & G」完
成までの道のり

フジテレビ系TVアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』エンディング主題歌「GET A NOTE」(読み:ゲタノオト)、レキシが一人四役のストーリーテラーとなる「BANASHI」、NHK大河ドラマ『西郷どん』のパワープッシュソング「SEGODON」という3トラックを収録したレキシの両A面シングル「S & G」がリリースされた。その制作過程で直面したレキシならではの悩みと作品づくりのこだわり、そして現在鋭意制作中だというニューアルバムと、そのアルバムに伴う全国ツアーについて、レキシこと池田貴史に訊いた。
好きすぎるが故に“鬼太郎を題材に書けるかな……”ってちょっと悩んだんだよね。妖怪と鬼太郎、そして歴史に共通するものは……“下駄かな”って。
――ニューシングル「S & G」の1曲目「GET A NOTE」は、現在放送中のアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』のエンディングテーマになってますね。
もともと、原作も含めて『ゲゲゲの鬼太郎』は大好きだったから、スゴく嬉しい話だったんだけど、好きすぎるが故に“鬼太郎を題材に書けるかな……”ってちょっと悩んだんだよね。
――テーマが“歴史”とは少し違いますしね。
でも先方から「歴史の、レキシの曲でお願いします」って言われて、こっちが逆に「いや、妖怪と鬼太郎を要素に入れますから!」って(笑)。そこで、妖怪と鬼太郎、そして歴史に共通するものは……“下駄かな”って。
――やや強引な気もしますが(笑)。
世代的にアニメでリアルタイムなのは、吉幾三さんがテーマ曲を歌った80年代の鬼太郎なんだけど、一番思い入れがあるのは、70年代の鬼太郎なんだよね。(出身地の)福井では再放送でよく流れてて、それが強烈に印象に残ってる。
―― エンディングテーマですよね。
そうそう。今回「GET A NOTE」のテーマを下駄にしたのも、今までの流れを汲んでる部分もある。それに、ちょっとおどろおどろしい雰囲気があるじゃない? 「GET A NOTE」にも、そういう不気味さみたいな部分は入れたかったね。ただそうなると、どんどん鬼太郎先行になるから、2番では“お城”っていうワードを入れたり。
――“お城”の登場は急ですよね。池田さんが提供したNegicco「ねぇバーディア」の<床の間に飾った愛の兜>っていう歌詞ぐらい急なカットインで(笑)。
言うな! そういう事!(笑) でも、そのイメージ源は、土佐藩士だった吉田東洋が、お城から帰る途中に土佐勤王党に暗殺されるシーンなんだよね。土佐は武士の中で上士と下士って身分の違いがあって、吉田東洋は上士だったから、下駄を履いていて。
――草鞋ではなく下駄だったと。
この曲を書くために調べたんだけど、西郷隆盛は薩摩の武士の中で家禄が低かったから、やっぱり裸足みたいなボロボロの草鞋を履いていたらしい。でも、位の高い武士や公家は、普段から、天気が悪くて道が泥濘んでる時にも下駄を履いていて。吉田東洋が暗殺された時も、夜で雨が降っていたっていうから、それで暗殺っていう物騒な話かもしれないけど、下駄で、暗闇で、不気味な、というイメージに、その城下での暗殺シーンを使ったんだよね。あと、影法師の“法師”も歴史っぽいかなって。
――兼好法師とか喜撰法師とか。
ほら~。歴史に出てくるじゃん(笑)。
――ドラムのリムショットの部分も、下駄を感じさせる音ですね。
だから、下駄って打楽器イメージなんだよね。
――今回の「GET A NOTE」というタイトルは、“下駄の音”をもじった“空耳アワー”的なタイトル付けですね。
<下駄の音がしたんだ>も“Get up, Stand Up”からきてるんだよ。
――ボブ・マーリーですか! それは気が付かなった(笑)。
サウンド的にもテンポは早いけれども、ビートの打ち方としてはレゲエっぽい感じを意識してるんだよね。
――ドラムの打ち方が裏拍と倍速が強くて、レゲエの影響を感じますね。また、今回は音の配置がすごく細かくて、鳴りの部分も印象に残りました。
今回はエンジニアに「注文がうるさいっすね」って言われた(笑)。でも今回のシングル、それからいま制作しているアルバムでも、音数を絞ってるんだよね。普段のライブでバンドで完成出来るぐらいの音数で作っていて。
――だから、逆に音の配置がしっかり聴こえるんですね。それが新鮮でした。
自分の中の洋楽っぽさがそういう感じなんだよね。それをなぞろうって言うんじゃなくて、今の自分の音楽や気分には、そういうアプローチが相応しいと思って。
――楽曲の構成としてもシンプルで、子供にも届きやすそうですね。
子供の頃に口ずさんでいたポップソングがそうだったと思うし、子供が喜んでくれたら嬉しいからね。それに、今回はそういう“初期衝動”みたいな部分を大事にしたかな。やっぱりピコ太郎さんの「PPAP」で、音楽が人に衝撃を与えるっていうのはこういうことなんだなって思ったんだよね。
――直球で届くものというか。
今までいろんな人が“海外のリスナーに”“海外マーケットに”とか考えてたけど、そういうのをすっ飛ばして、変な服を着て、面白い曲で踊って、っていう直球の内容で一気に届いちゃった(笑)。あれを見て、平歌とかサビっていう構造ももちろん大事だけど、シンプルに届く初期衝動も本当に大事だなと思ったんだよね。それに、今のビルボードチャートのトップの曲も、“HEY! YO! MEN!”で作ってる曲も多いでしょ(笑)。
――確かに、MigosやLil Uzi Vertなど、TRAPミュージックでスターダムに上がってるアーティストの作品はそう感じる部分もありますね。
そういうノリでもいいのかな。俺も“HEY! YO! MEN!”で作るよ(笑)。
自分の中でも西郷さんのイメージが固まりきらなかったんだけど、鈴木亮平くんが演じる事で、この曲の中の西郷隆盛が確立した感じがあるんだよね。
――そして二曲目の「BANASHI」は衝撃の一曲ですね。
これは発明ですよ(笑)。これからシングルのC/Wは「BANASHI part2」とか、連作にしていこうかなって。
――The Isley Brothersの「That Lady Part 1 & 2」みたいな(笑)。
ここに客演を呼びたいぐらい。
――本物の市原悦子さんとか。
しっ!(口に指を当てる)。バレる!
――本気だったんですか(笑)。
これは方法によっては無限に作れるからね。9枚目ぐらいのアルバムは「BANASHI」でまとめた作品になるかも知れない(笑)。「BANASHI」は話もBGMも書き下ろし。ライブ用に作ったSEを広げたり、イベントで使ったりしたけど、流通したり音源になっていないものを、再構成したりもしてる。
――物語としては『鶴の恩返し』や、イザナミ・イザナギの『黄泉の国』の話にみられるような、“見るなのタブー”を元にしていて、神話の類型にも忠実ですね。
しかも誰も不幸にならないっていうね。だって、この物語の親子は真面目だし、仕方ない事情でお地蔵様に祈るしかなかったんだから、そんな人は不幸にできないでしょ。世の中には悪い人も確かにいるけども、でも大半は悪い人じゃないよっていう、そういうメッセージでもあるよね。あと、「BANASHI」の読み方はチャラくして欲しい。“BANASHI~↑”って語尾を上げて欲しいね(笑)。
――「SEGODON」はNHK大河ドラマ『西郷どん』のパワープッシュソングとして断片的に放送されていましたが、それが今回ついに完成しました。
それもあって、この曲は西郷隆盛という偉人そのままっていうよりも、今回の大河ドラマの西郷どん、鈴木亮平くんのイメージだよね。亮平くんがジャンプしているポスターのイメージ。その爽快感が曲にも繋がっていって。NHKで使われた告知映像でも話したけど、今までも西郷さんの曲は作ろうと思ってたんだよね。だけどどうしても形に出来なくて。
――西郷隆盛は非常に多面的な人物だから、一曲でまとめるのは難しいですよね。
だから、自分の中でも西郷さんのイメージが固まりきらなかったんだけど、今回の西郷隆盛を鈴木亮平くんがやる事で、この曲の中の西郷隆盛が確立した感じがあるんだよね。だから本当に亮平くんには背中押してもらったね。
――映画『海街Diary』での共演がこの形で繋がるのは面白いですね。
本当に是枝監督様様ですよ。俺からもパルムドールをあげたい、「カンヌ西郷どん賞」(笑)。
――「SEGODON」は80'sチックなアレンジも印象的ですが、それは「KATOKU」からの流れですか?
最初に<西郷どん>っていうサビが生まれて、拳を上げて歌ってるイメージがあったから、その流れで自然にアレンジしていったら、今回の形になって。だから「KATOKU」からの流れはあんまり意識してないんだよね。
――そして今回の初回盤には昨年10月に行われた、大阪城西の丸庭園での野外単独公演『お城でライブができる喜びを皆で分かちあおう~あれ?大阪、いつの陣?~』のドキュメント「ライブドキュメンタリーすんのか~い、せんのか~い」のDVDが封入されますね。
もうレキシのドキュメントというより、吉本新喜劇の映像ですよ(笑)。あの人たちがいかにスゴいか!
――あのクオリティで練習を1回しかしていないのは驚きましたね。
現場でのリハはやってないし、ライブ開始の時は、劇場でのステージがあったから出番のギリギリに登場して、しかも出番が終わったらまた劇場に帰っていったんだから、ホントにプロだよね。
レキシ『お城でライブができる喜びを皆で分かちあおう〜あれ?大阪、いつの陣?〜』 撮影=田中聖太郎
自分が飽きないようにしてるっていうのが一番大きいかな。シェイプアップして、またそれに飽きて余計な事が増えていく……っていう感じだよね。
――この大阪ライブも即日ソールドアウトだったように、いまレキシのチケットはかなり争奪戦になっていますね。
何言ってんの。取れますよ。取れないって聞くのは関東と大きなイベントだけ(笑)。あとは大体大丈夫だから。それに会場の規模にもよるしね。
――とはいえ、ツアーの規模も、会場の規模も年々大きくなっていますね。
例えば、一昨年のツアーは、バンドのみんなと一休さんの格好をしたんだけど、それは量販店で買ってきたパーティグッズみたいな既成品だったから、メンバーによっては服のサイズも合わなかったし、かつらもズレたりして。そうするとやっぱりテンションが上がりきらない訳ですよ。その教訓を活かして、去年のツアーではバンドメンバーそれぞれの採寸をしっかりした特注の全身タイツを作って。そうすると気持ちの入りようと動きのキレが違った(笑)。そういう部分の精度を上げたいがために、規模を大きくしてきてるっていうのはあるね。
――規模が大きくなれば、予算も増えますからね。
そうそう。だから、よりやりたい事が出来るようにするために規模を大きくしてる部分もある。
――レキシのライブはツアーであっても、同じ内容になりませんね。それは曲の展開や、ライブがDVDに出来づらい要因となっている“サンプリング”“オマージュ”、そして池田さんの“悪ふざけ”も含めて。
自分が飽きないようにしてるっていうのが一番大きいかな。セットリストは同じだとしても、展開を変えるし、色んな部分で毎回少しづつ違ったライブを見せられていると思うね。だって、同じ事をやってたら、初日と二日目で飽きちゃうもん(笑)。今回のような全国ツアーだと、軌道に乗り出すと地方でライブするのが楽しくなる、それによってボリュームが増えてライブが長くなる……今回だと中盤あたりの広島がそうなるかな(笑)。それで舞台監督や社長に怒られたりして、シェイプアップして、またそれに飽きて余計な事が増えていく……っていう感じだよね。だから今回のポイントは、最終日の千葉だね。今回のツアーが天国だったのか、地獄だったのか、ここで判明する(笑)。
――ツアーが始まる前からそんな予想が。
だって、レキシはセットリストとか色んな事をネタバレしたところで、想像通りの事はやらないから。だってセトリに「涙のリクエスト」って入ってたら、“なに!?”って思うでしょ?(笑)。
――“え! チェッカーズ再結成?”って(笑)。
それも、今までのライブを見てるファンだったら“またあの流れあるんだ”って楽しみにしてくれると思うし、初めての人は、なにが起こるんだろうって楽しみになるでしょ。レキシのライブはそっちの方がワクワクさせられるのかなって、最近思うんだよね。あと「きらきら武士」と「狩りから稲作へ」! 結局それが見たいんでしょ!
――なんちゅう開き直りですか!
そして「GET A NOTE」! 今回のツアーはそれです。もうツアータイトルに『ゲゲゲの』って付くかも知れない(笑)。
――乗っかる気満々で(笑)。そして、アルバムも鋭意制作中との事ですね。
今回は「SEGODON」の流れもあって、テーマとしては幕末が少し多くなるかな。それから『レシキ』(2014年6月発売4thアルバム)ぐらいから出てきた、“もう内容、歴史関係ないじゃん!”っていうのもちょっとあると思うんで(笑)、期待して欲しいね。
取材・文=高木 "JET" 晋一郎

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