『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』で
読む、ラップの正しい聴き方

日本初の日本語ラップ紹介漫画『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』が面白い。かねてよりSNSで話題を呼び、同人誌としてM3などのイベントで売られていたので見たことがある人も多いかもしれないが、今年9月に宝島社より単行本化されている。帯にはなんと、フリースタイルダンジョンのラスボスとしても有名な般若から「美ー子、君がラスボスだ」というコメントが。般若が認めるんだから、このモンスター、相当強いに違いない。

『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』

本書は、日本語ラップが大好きな女の子・美ー子(びーこ)ちゃんが、数々の日本語ラップによる名盤や名曲などをわかりやすく紹介していく漫画。

いとうせいこうやスチャダラパー、ライムスター、キングギドラなどのクラシックから、KOHHCreepy NutsBAD HOPといった最新のヒップホップ、水曜日のカンパネラDJみそしるとMCごはんちゃんみな、『HIGH & LOW THE MOVIE』オリジナルベストアルバムなど他ジャンルとの複合ラップ、さらにはヤング・ハッスルやMC松島などの「おもしろ」ラップなど、かなり幅広く紹介されている。

冒頭に”いわゆる「日本語ラップ名盤ランキング」のようなタイプのガイドブックではございません”と注意書きが入っているが、これ1冊読めば、日本語ラップについてかなり詳しくなれるだろう。美ー子ちゃんの言葉を借りれば、これを読めば「知ったふり」ができる。予備知識ゼロでも大丈夫。ギャグ要素もあり楽しく読め、その上でマニアックなネタにまで詳しくなることができる。

ヒップホップへの偏見を壊す

さらに、ヒップホップの背景にある歴史や文化、他のカルチャーとの繋がりなどもおぼろげに見えてくるのがこの本の素晴らしいところだ。読んでいると、無意識のうちにヒップホップに対する認識が変わっていく。ギャグ要素は高いが、実は日本語ラップに対する誤解や偏見と戦っている本でもある。

フリースタイルバトルは文化としてかなり根付いてきた感があるし、音楽としてのラップも近年急速に浸透しつつあるが、まだまだ誤解もある。正しい聴き方のひとつをエンターテインメントの形に落とし込んで提示することは、社会にとって有益だ。

とは言え、そんなカタイことは考えず楽しんで読むのがこの漫画の楽しみ方としては正解。時々美ー子ちゃんが見せる無茶苦茶な振る舞いや毒舌にはクスッと笑ってしまう。日本語ラップへの敬意を示しつつ、ニワカや偏見だらけのへイターをぶった切る様は痛快。

たとえば、このように。
(『日ポン語ラップの美ー子ちゃん:ガラパゴス編』。出典:pixiv)

プロセスもヒップホップ

作者は『テラフォーマーズ』のスピンオフ漫画『今日のテラフォーマーズはお休みです。』などの服部昇大。学文社によるボールペン習字講座の広告漫画『日ペンの美子ちゃん』の6代目作画担当をつとめる。

もうお気づきだろうが、『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』は『日ペンの美子ちゃん』をパロったもの。1972年から続くこの漫画のキャラクターを、いわば「サンプリング」して日本語ラップを紹介したのが本作だ。6代目の描き手を探していた学文社サイドが、『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』をネットで見つけ、気に入ったことから正式に6代目をオファーすることになったのだそう。

「サンプリングする側が本家になってしまう」というサクセスストーリーは、まるでKOHHがカニエ・ウェストの『All Day』をビートジャックした『毎日だな』をライムスター・宇多丸が絶賛し、それがきっかけでスターの階段を駆け上がって行った過程を連想させる。コンセプトもプロセスも実にヒップホップ的だ。本書『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』はこれが第1巻ということなので、続編にも期待。
(KOHH『毎日だな』MV)
Kanye West『All Day』)


さて、ここからは、クリティカル必至な美ー子ちゃんによるパンチライン集をどうぞ。

にわかのお客様は帰っていただけますか

くそださいわよね

いいことばっかり歌ってる売れ線Jポッ
プの弊害だわ!

しかしあるんですねこれが

日本人のラップに「黒人の物真似」とか
ってディスってくる割に黒人が何をラッ
プしてるのかは知らない(興味もない)
連中にもおすすめね!

最近の日本語ラップが失った物

どれも味わい深いですね……。
書籍情報
タイトル:日ポン語ラップの美ー子ちゃん
作者:服部昇大
定価: 740円(税別)
Amazonページはこちら

服部昇大Twitter


Text_Sotaro Yamada

『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』で読む、ラップの正しい聴き方はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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