静かに共振するOGRE YOU ASSHOLEとD
.A.N.、没入感に満ちた2マン

OGRE YOU ASSHOLED.A.N. TOUR「Optimo」 2017.9.22 SHIBUYA CLUB QUATTRO
ミニマムな音の抜き差しと駆け引きで、体験する者を忘我の境地に誘い放つバンド同士の最高峰、2マンツアー・ファイナルである東京公演。大阪、名古屋を経て、さらに意気投合したOGRE YOU ASSHOLEとD.A.N.の競演は、音響的に最良なセンター少し後方からフロアが埋まっていく。ソールドアウトし、満杯にも関わらず、後方でもセンターに人が多いのは、いかにもこの2マンらしい光景である。また、両者のPAをサカナクションなどを手掛ける佐々木幸生が務めていることも特筆すべき点だろう。
D.A.N.
先行のD.A.N.がサポートメンバーの小林うてな(Syn、スチールパン)とともに登場すると、各楽器が鳴らすロングトーンがどこか儀式めいたニュアンスを醸し出し、いきなり長尺のエキスペリメンタルな「Tempest」が船のように動きだす。市川仁也(Ba)の五弦ベースも川上輝(Dr)のスネアも、小林のスチールパンもミニマムなリフをループさせ、そこに桜木大悟(Gt、Vo、Syn)のファルセットが乗ると呪術的な感覚に囚われる。一時期は強く歌う傾向も見せた桜木のボーカルが、平熱の狂気めいた艶やかさを増していたのが印象に残る。長い旅路のような1曲を丁寧に終えると、おなじみのアレン・ギンズバーグの朗読サンプリングが流れ、グッとポップでアッパーな空気が流れるのが面白い。
D.A.N.
D.A.N.
「Ghana」はこの2マンでも踊れるアップチューンとして機能している。しかし当初からどんどんアレンジも音色も変化しており、よりフィジカルに訴えるグルーヴの深さが増した。演奏中はストイックなイメージのあるD.A.N.だが、この日の桜木はOGREとのツアーが相当楽しかったらしく、感謝の言葉も明るい。メロディアスなベースが牽引し、上物は浮遊感たっぷりの「SSWB」でオーディエンスの腰を揺らし、歌メロもクリーンなギターフレーズもメランコリアを増幅する「Navy」、人力テクノなビートの「Dive」、気だるいスローチューン「Time Machine」のエロティシズムは、映画を見ているような情景喚起力を増し、これら1stアルバム『D.A.N.』の楽曲群もさらにライブで鳴らす音を精査・更新されているようだった。
D.A.N.
D.A.N.
ほぼ6曲ノンストップで演奏し、手応えを感じた桜木は「新曲やります!」と、その名も「Chance」という、彼らにしては意外なタイトルのナンバーを投入。エキゾチックでラテンフレーバー、ビザールではあるけれど比較的AOR。第一、歌詞の一人称が“俺”ということに驚いた。早く音源で聴いてみたい。新しい気配の尻尾を掴みかけたところで、再び腰が揺れステップを踏みたくなり、スパン!と響くドラムパッドの音に鼓舞される「Native Dancer」がラストを彩る。シンセもベースもシュアなドラミングすらも蠢くように曲を構成する。4人それぞれの位置から曲を独自のクリーチャーのように成立させていくD.A.N.の演奏は、快楽と荘厳さ、都市とプリミティヴな荒野といった一見、相反する要素を同時に立ち上げてみせる。OGREとのツアーで受けた刺激もきっと音に現れていたはずだ。
OGRE YOU ASSHOLE 
後攻めのOGRE YOU ASSHOLEが薄暗がりのステージに登場すると、全ての楽器がノイズ一歩手前のロングトーンを奏で、オープナー「黒い窓」を演奏し始める。今夏、土砂降りのフジロックでも1曲目にセットされたこのナンバーの2017年式再構築は、やはりこの日も一言でサイケデリックというよりは、馬渕啓(Gt)のフレージングに少しブルージィな匂いを嗅ぎ取れた。そして続く「タニシ」でも感じられた出戸学(Gt、Vo)の抑揚あるボーカル表現が新鮮だ。意味や温度感を剥奪されたような、空間に投げ出された歌――というイメージがここ数年の出戸の歌にはあったが、それがいい意味で感情の色がうかがえる歌唱となっているのが、ここ最近の変化なのではないだろうか。スライドバーがとろんとした音をミニマムに鳴らし、他の楽器も広大な土地にポツポツと点在する足跡のように音数の少ない、荒涼とした「頭の体操」の音像の中でも、出戸の歌は立っていた。
OGRE YOU ASSHOLE 
すでに忘我の境地に達したクアトロ全体がゆらゆらし、時空が歪んでいるような感覚になってきたところで、勝浦隆嗣(Dr)がリズムボックスとシンセを操るミニマム・バージョンの「ロープ」が聴き手の全神経を集中させ、次なる「フラッグ」はイントロのギターリフで男性客の大きな歓声が上がる。初期のナンバーだが、土俗的なグルーヴの色を濃くした今の演奏で、OGREの音楽の多くが何度でも今ジャストなアレンジで再構築のタイミングを迎えることを知る。ジャムバンド的な間奏のギター・アンサンブルが愉快に感じられるぐらい、他の演奏は予想不可能で緊張感があるとも言えるのだが。
OGRE YOU ASSHOLE 
再び淡々とした「見えないルール」では、反復する清水隆史(Ba)ビートと音の壁の圧、馬渕のカオティックなプレイが巨大な束になってピークを迎えたエンディングで、もはや歓声とは呼べないぐらい、思わず漏れる叫びがそこここで上がった。そして殺人的な轟音、スネアとともに鳴らされる金属的な打音がインダストリアル・ノイズのような「素敵な予感 Alt.ver」は、彼らのライブの怜悧な部分を全開にしていた。
これでもかというほどの狂気に触れたあとは、出戸と馬渕のギターが呼応し、シュアなビートが歩くテンポを刻み、ドリーミーな展開を迎える「ワイパー」。ついさっきまでとは打って変わって、今は白昼夢を見ているかのよう。それぐらい曲ごとに立ち上がる景色が違う。没入感はあるけれど、必ずポップな側面がある、それがOGRE YOU ASSHOLEを高次元のライブバンドたらしめている。その音楽への率直なレスポンスとして鳴り止まない拍手、そして様々な世代のファンの笑顔を見ると、また感銘を受けてしまうのだ。
OGRE YOU ASSHOLE 
アンコールでは「これを聴かないと帰れない」ファンも多い「ロープ」のロングバージョンが、これまた少しずつリビルドされたアレンジでこの日も披露され、メインリフに戻るタイミングの直前に叫ぶファンがいるほど、積み重なる反復はかくもプリミティヴな衝動を揺り起こすことを証明していた。
好評を博したこの2マン、WWW Xでの追加公演もすでにソールドアウト。お互いを刺激するいい関係を絶妙な距離で保ちながら、近い将来、新しいセットリストで再び競演してほしい。ちなみにD.A.N.は11月から全国7ヶ所、OGRE YOU ASSHOLEは12月に3ヶ所でワンマンツアーを開催する。

取材・文=石角友香
OGRE YOU ASSHOLE 
D.A.N情報

D.A.N. ONE MAN TOUR“4231”
11/17(金)仙台 Darwin
open18:30 / start19:00
11/19(日)京都 MUSE ※SOLD OUT
open17:30 / start18:00
12/01(金)静岡 FORCE
open18:30 / start19:00
12/08(金)福岡 Beatstation
open18:30 / start19:00
12/09(土)岡山 YEBISU YA PRO
open18:30 / start19:00
12/14(木)札幌 KRAPS HALL
open19:00 / start19:30
12/22(金)東京 LIQUIDROOM ※SOLD OUT
open18:00 / start19:00
一般発売中
チケット料金 前売 \3,500 / 当日 \4,000
 
OGRE YOU ASSHOLE情報

OGRE YOU ASSHOLE tour2017
12/8 名古屋・伏見 JAMMIN'
open18:30 / start19:00
12/17 東京・恵比寿LIQUIDROOM
open17:00 / start18:00
12/22 大阪・Shangri-La
open18:30 / start19:00
チケット:前売¥4000
一般発売:10/14~
 

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