「1964年の東京」と「2016年の東京」
を写真で対比 レイモン ドゥパルド
ン写真展『DEPARDON / TOKYO 1964-2
016』をレポート

シャネル・ネクサス・ホールは2017年度のプログラムの最後を飾る企画展としてレイモン ドゥパルドン写真展『DEPARDON / TOKYO 1964-2016』を2017年9月1日(金)〜10月1日(日)の期間中、開催している。
世界最高の写真家集団として知られるマグナム・フォトに所属し、ピューリッツァー賞を受賞した苛烈なチャド内戦のルポタージュをはじめ、とりわけ20世紀報道写真史に大きな足跡を残してきた、レイモン ドゥパルドン。
そんな彼が初めて日本を訪れたのは1964年、東京オリンピックを取材するためだった。当時のドゥパルドンは写真家としてのキャリアをスタートさせたばかりの22歳の駆け出しであったが、その初々しい視点と新鮮な情熱で2000点以上に及ぶ写真を撮影。そしてその後もメキシコ、ミュンヘン、モントリオールと歴代オリンピックのようすを次々と写真に収め、その地位を着実に築き上げていった。そして彼の報道的かつ人間味あふれる一連の写真は、今もなお高く評価されている。
若き写真家がキャリア初期に捉えた、"1964年の東京"
内覧会のオープニングでは、本展のキュレーターを務めたマリー=クリスティーヌ ドゥ ナヴァセル氏が登場し、1979年にパリのポンピドゥーセンターで行われたフィルムフェスティバルでドゥパルドンとの初めての出会い振り返りながら、こう語った。
「彼から1964年の写真を初めて見せてもらった時の新鮮な感動は、今でも忘れません。なぜならそこには、私の全く知らない日本があったからです。私が仕事で日本に来たのは82年のことでしたが、写真に残されていた東京オリンピックとその周辺の記録は当時私が目にしていた日本の風景とも違っていました。そして親しい友人たちにドゥパルトンの写真を見せると、彼らは口を揃えてこう言ったのです。非常に美しい、『ノスタルジック=郷愁』である、と。1964年の日本といえばちょうど戦後の復興期で、まさに日本が世界に開き始めていた時期でした。だからこそドゥパルトンの捉えた世界は私たちにとって興味深く、未だ見ぬ日本を再発見するような喜びを与えてくれたのです」。
本展のキュレーターを務める、マリー=クリスティーヌ ドゥ ナヴァセル氏
続いて登場したドゥパルドンは、本展の開幕に立ち会えた喜びを表した上で「当時の私の写真を見てノスタルジーを感じるという方も、確かにいらっしゃるでしょう。しかし私にとってはノスタルジーなどではなく、これはやはり一つの国との出会い、日本という未知の国との遭遇だったのです。とくに1964年というのは日本にとってエポックメイキングな年であり、まさに復興期にあった日本が世界に向けて“平和なグローバリゼーション”を表明した最初の出来事、平和を象徴するマニュフェストとしての意味合いを持っていました。ですからこれらの記録はそのような重要な年をあらわす、報道受けの写真なのです」と、当時心にあった明確な意図を語った。
レイモン ドゥパルドン氏

1964年東京オリンピックをご覧になる、天皇皇后両陛下

ドゥパルドンも自らの写真をこう評しているように、1964年の写真は「一瞬たりともこの歴史的事実を逃すまい」という報道写真家としての事実の捕獲欲求や、被写体に対する澄んだまなざし、さらにある種の緊張感がまっすぐに伝わってくる。
1964年東京オリンピック開催時の写真

1964年東京オリンピック開催時の写真
1964年東京オリンピック開催時の写真

また競技場は世界各国の選手団をはじめ多くの観客たちであふれていたうえに、複数の競技が同時進行で行なわれたため、「一枚の写真を撮るのがやっとだった」という。しかしそのような状況においても驚くほど冷静に、全体を俯瞰する視点がすでに備わっていたことが、これらの写真からも十分に見て取れる。若干22歳の若きホープがレンズを通して捉えた世界は、そうした重要な痕跡と彼の報道写真家としての才覚をはっきりと伝えている。
何気ない風景や日常に対する、表現者としてのまなざし
また1985年〜2008年撮影の写真を展示したセクションでは報道写真家としてのドゥパルドンではなく、一人の表現者として、あるいは一人の人間として、彼の別の側面をかいま見せてくれるような写真作品に出会うことができる。
1985年〜2008年に日本で撮影された写真
ドゥパルトンは1964年に初来日した際、彼の心を最も捉えたものとして「路上やふつうの町の風景」などを挙げているが、こちらの空間にはそうした何気ない風景やごくありふれた日常の一部が、静かな表情でひっそりと佇んでいる。
1985年〜2008年に日本で撮影された写真
1985年〜2008年に日本で撮影された写真
これはつい先日、日本で刊行されたばかりの彼の著書『さすらい』にも書かれていることではあるが、たとえ報道的立場や意図にコミットしていなくとも、“さすらい”の途上で彼の前にふと立ち現れ、潜在的な記憶を呼び覚ますあらゆる事象が、彼にとっていかに重要な意味があったかということをこの写真群はよく伝えてくれる。
2017年8月、日本でも刊行されたドゥパルトンの著書『Errance(さすらい)』
「ものの見方という署名は内面の問題である」という一文から始まる著書のなかで彼は“さすらい”の定義を、身体的な徘徊でもなければ単にあてどなくさまよう旅でもなく「なんとか折り合いをつけられる場所を見つけることである」と表現している。このように報道写真とは対極であるかに見える目的のない写真表現のあり方は、彼自身の内面とも深く結びついた現実世界の投影であったに違いない。
オリンピックを3年後に控えた、東京の今
もう一つは昨年・2016年に撮影された東京の街の風景を映し出したカラー写真の数々である。こちらのセクションでは前の2つの年代とは対照的に、鮮やかな色の世界が一面に広がっており、過去から現在へと一気に引き戻されるようなリアリティを感じることができるだろう。またこちらでは東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を3年後に控えた東京の今を封じ込めた記録という意味でも、ぜひしっかりと目に焼き付けておきたい。
2016年に撮影された写真

1964年に撮影された写真について語る、ドゥパルトン。「本作は競技写真ではないが、フレーム外の光景を映した一枚。いろんな国の選手を見たい、という日本の人々の好奇心が伝わってくる素晴らしい写真だ」と語った。

さて本展では1964年の東京オリンピック開催時の写真を中心に、1985年〜2008年、そして2016年に撮影された写真の三部構成となっており、それぞれの時代や写真家としてのドゥパルドンの歴史を知る上での重要な手がかりが随所に散りばめられている。たしかに彼の膨大な作品数とこれまでの功績を振り返れば、これらはそれらのごく一部に過ぎないかも知れない。しかしドゥパルドンのキャリアの出発点に目撃した世界との新鮮な出会いがここ日本であり、貴重な刻印を今このタイミングで鑑賞できることは、おそらく素晴らしい幸運であるに違いない。ぜひドゥパルドンの稀有なまなざしを追体験するような気持ちで、世界を旅するように一点一点の写真をじっくりと味わってみてほしい。
イベント情報
レイモン ドゥパルドン写真展『DEPARDON / TOKYO 1964-2016』
日時:2017年9月1日(金)〜10月1日(日)12:00~20:00 入場無料・無休
会場:シャネル・ネクサス・ホール 中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F
お問い合わせ:シャネル・ネクサス・ホール事務局 03-3779-4001
http://chanelnexushall.jp

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