ビールの味で見えてくる大人の裏側、
河口恭吾「どこにもいない」

疲れた体にしみわたる感じがたまらない。そんな時、ふと思うのが大人になったんだなということ。子供の時は苦いだけだった味が好きになるように、今まで理解できなかった大人にぐっと近づいたような気分になる。
実は音楽にも、そんな瞬間がある。
河口恭吾2ndアルバム「日々燦々」に収録された楽曲『どこにもいない』もその1つだ。代表曲「桜」に比べれば、どこかしんみりとしているし、歌詞内容も別れた彼女を忘れられない気持ちを歌っていて明るくもない。実際、その頃中学生だった私も引きずる想いがさっぱり胸に響かず、スルーしていた楽曲だ。
しかし、ビールの味を知った今は聴くだけで主人公の落ち込みようが目に浮かぶ。まるで計算されたようにしか思えない楽曲なのだ。
河口恭吾「どこにもいない」
――――
君のかわりなんてどこにもいないのに
君によく似た人をいつも探してしまう
誰かに一から話すのも面倒で
普通の顔してすましてる
見た目よりも実は凹んでる
がんばってしまう淋しい日々よ
――――
河口恭吾の楽曲の特徴は極力英詩を入れないことである。この楽曲でもその特徴が活かされており、詩的でもあるので全体的にシンプルな構成。シンプルな分、言葉1つ1つが状況や心理を細かく表しており、失恋した主人公を想像しやすい。
“紛らわす為の夜はうわの空で”
“誘っておいてシラケてる”
“ぬるいビールは鉛の味がした”
“もうすぐ君の誕生日なのに”
誘った相手に悪いと思っていながら彼女のことを考えてしまう現状に、気持ちが吹っ切れていないのが伝わる。そして、居酒屋で頼めばわかるのだが通常、ビールはキンキンに冷えているのが当たり前である。出された時に飲んでいればぬるいはずがないのだ。ここで、飲む前に温度が変わってしまうくらいぼんやりしていたことが見てとれる。まさに、これはビールの味を知った大人じゃないとわからない歌詞だ。
大人は特に子供の前では、強くあろうとする。カッコ悪いところを見せないというのか、隙がない感じだ。年をとるほど気持ちの割り切り方が上手くなる大人のイメージと、この楽曲の主人公は違いすぎる。大人の味がわからない子供には、この楽曲を聞いても共感できないのはその為なのだ。
“君のかわりなんてどこにもいないのに”
“君によく似た人をいつも探してしまう”
大人に一歩近付いた時、きっとこの言葉に込められた悲しみに気付くだろう。表面上は取り繕ってても、心の中では泣いている。
大人の淋しい裏側を。
TEXT:空屋まひろ

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