【水樹奈々 インタビュー】
人それぞれに考え方が違って
十人十色、それでいい
水樹奈々
本人出演のTVアニメ『でこぼこ魔女の親子事情』のオープニングテーマとなっている配信シングル「Sugar Doughnuts」。一聴すると可愛らしいポップな楽曲ではあるが、実はでこぼこ感や多様性をテーマに制作した、ひと筋縄ではいかない水樹らしさが詰まった楽曲だ。先日終えたばかりのツアーの感想とともに、同曲にまつわる話を訊いた。
コロナ禍からみんなで立ち上がっていく
ストーリーをステージで表現した
まず先日終えられたツアー『NANA MIZUKI LIVE PARADE 2023』についてうかがわせてください。ファイナルは東京・有明アリーナの3デイズだったのですが、最終日のMCでは“4デイズでも全然できる!”とおっしゃっていましたね。
真夏の三連戦は初めてで、猛暑の中ツアーの各地で蓄積された疲労がありつつ、さらに声出し解禁ということで、攻めに攻めたセットリストになっていて体力勝負のステージでした。本当にいいコンディションでなければ乗り越えられない、大変な構成だったので、三日間ともベストのコンディションに持っていくことができるかが課題でしたし、コロナ禍の落ち着かない状況も続いていたので、全ての公演を開催できるかという緊張感もありました。でも、3日目のファイナルを無事迎えてステージに立った時は、本当に嬉しくて、解き放たれたような感覚でリラックスして思いっきり楽しむことができました。自分が望んでいた良いコンディションでファイナルに辿り着けたので、体がとても軽くて、4日目…いや、7日目までいけるんじゃないかと思ったほどです(笑)。
さすがです(笑)。構成も魅せて聴かせて一緒に楽しめる内容でしたね。
今回は“パレード”がテーマだったので、パレードと言えば華やかなダンサーさんのイメージがあって、水樹のライヴには珍しく、ダンス曲が多かったのもポイントでした。リハーサルの時は“結構ハードかもしれない”と思っていましたけど、ひとたびステージに上がってみんなの声を聞いたら、もう“無双モード”になって夢中で歌って踊っていました(笑)。“キツいなぁ”と思った瞬間もまったくなく! ツアーを通して自分の体がより仕上がっていきましたし、みんなからもらうエネルギーによってどんどん元気になって、最終日は本当に“頭からもう1回できる!”と思うくらいでした(笑)。
ライヴにはストーリーがあって、コロナ禍をみんなと一緒に乗り越えてきたんだと感じさせるような物語でしたね。
選曲も歌詞が現状とリンクする曲を選んでいて、ミュージカルのように歌がつながっていくようなイメージでセットリストを組み、コロナ禍からみんなで立ち上がっていくストーリーをステージで表現しました。世界中の人が苦境に立たされ、いろいろなものがストップしてしまうという前代未聞の出来事から、改めて自身と向き合い、“手探りながらも少しずつ前に進み、そこで感じたことや得たもの、学んだことをかたちにしたいと思ったんです。どんな時でも歌が側にあって、みなさんが求めてくれる声があったから、私も前に進むことができて…、みなさんへの感謝とこれからもお互いを鼓舞し合っていきたいという想いを込めてパフォーマンスしました。
2022年1月にさいたまスーパーアリーナで開催した『LIVE RUNNER』から四部作だったとのことですが、最初から構想していたのですか?
『LIVE RUNNER』の時はまったく想定していなくて。自然とテーマがつながっていきました。大きかったのは『LIVE RUNNER』のあとにアルバム『DELIGHTED REVIVER』(2022年7月発表)をリリースして、『LIVE HOME』(2022年7〜8月開催)というツアーにつながった時に、全てが一本の線でつながっているように感じたことです。この流れでその先のステージも構成したいと思って作ったのが『LIVE HEROES』(2023年1月開催)で、自分の中ではそこで完結する予定でした。でも、今回の4年振りの声出し解禁ライヴが決まり、自分たちにとって必要不可欠である“声”が戻ってきてこそ、本当の完結なんじゃないかと思い、四部作というかたちになりました。
そのツアーの愛知公演で初披露されたのが、今回の新曲「Sugar Doughnuts」です。TVアニメ『でこぼこ魔女の親子事情』のオープニングテーマということで、原作マンガを読みましたが、ドタバタだけどほっこりとして温かくなれる作品だと思いました
そうなんです! 笑いどころ満載で、肩の力を抜いてご覧いただける作品です。私は主人公・アリッサの娘のビオラの役で出演させていただいているのですが、収録は本当に楽しくて! 伸び伸びとやらせていただきました。
水樹さんが演じるビオラは16歳なんですよね。
16歳ですが見た目はセクシーな大人なんです。お母さんは200歳を越えているのに見た目は子供という、見た目と関係性のでこぼこ感が巻き起こすコメディですが、親子の愛や絆も描かれたハートフルなシーンもあり、お互いを思い合うシーンは本当に微笑ましいです。アフレコ現場でも毎回癒やされていました。
アリッサとビオラの周りにいる人たちも個性的で、雑貨屋のリラさんが下町のおかん風で最高でした。
そうなんですよ。すごくカッコ良くて! リラさん夫婦もでこぼこで、リラさんが男前なのに対して旦那さんが乙女なんです。アリッサとビオラだけではなく、周りの登場人物もどこかでこぼこしていて、軸はコメディですが、実は多様性や枠にとらわれない考え方や生き方をテーマにしている作品なんです。一見ほんわかしているけどその根底にはとても深いテーマが流れているという、ここもでこぼこのひとつですね。深いテーマを扱っていると重くなったり、お説教のように聞こえてしまうことがありますが、笑っているうちに自然と考えてもらえるような作品になっていると思います。そのオープニングテーマである「Sugar Doughnuts」も、まさにそこをコンセプトに制作しました。
「Sugar Doughnuts」はとても愛に満ちあふれた楽曲だと思いました。
ありがとうございます。“Sugar Doughnuts”というタイトルだけを聞くと、甘くてフワフワした、乙女チックで可愛い世界観といった印象が先行すると思いますが、実はこれも多様性を表現しています。人はそれぞれ考え方が違って十人十色、でもそれでいいんだと。例え他の人と違ったとしても、そんな自分を受け入れ、それを受け入れてくれる人たちに愛を還元していくことで、その愛がつながって、まさに “Sugar Doughnuts”のように甘くて素敵な輪になるといいな…という想いを込めて作りました。
愛の循環をドーナッツに例えているわけですね。
はい。人と違うことをすると“自分は変なのかな?”とか“何か言われちゃうんじゃないかな?”とか、周りの目が気になってしまうことがあると思いますがそれを受け入れてくれる懐の深さが、この世界にはあります。だから、それぞれが自分らしくいるということが、とても大事だというメッセージを込めました。
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