【INORAN インタビュー】
“伝えたい、共鳴したい”
という想いが大事なんじゃないかな
INORAN
ピアノと弦楽器で大胆にアレンジを施したアコースティックセッションをBillboard Live YOKOHAMAにて一発録りでライヴレコーディングしたという、ソロ25周年を祝したセルフカバーアルバム『IN MY OASIS Billboard Session』。INORANの内にある歌への想い、25年の心の変化とは?
Billboardでの空気感を
パッケージしたかった
今作は葉山拓亮さん(Pf)、Yuiさん(Vn)、島津由美さん(Cello)とBillboard Live YOKOHAMAでライヴレコーディングされたそうですね。通常のスタジオ収録とは空気感が違ったでしょうね。
全然違いましたね。実際にライヴをするのと同じかたちで、PAを通して、照明も作り込んで、2時間ぐらいで一発録りをしました。これまでにBillboard Liveでライヴを何度もやらせてもらっていて、やればやるほど自分の中で大事な時間、場所になってきていて。このアルバムを作るきっかけとなった場所だし、その空気感をパッケージしたかった。そういう時期が来たということですね。
メインビジュアルのアーティスト写真も同じ場所で撮影されたそうで。
アーティスト写真だけでなく、MVも同じ日に撮りました。アルバムを作る中で、いつもならレコーディングはレコーディングスタッフと、アー写やジャケット写真を撮るのはビジュアルスタッフ、MVは映像制作のスタッフというように、全部セパレートされているんですよね。でも、今回はその空気の中でクリエイター、スタッフがみんな集まってやろうという企画で。だから、例えばMVのスタッフもその時に“音を録っている”ことを意識しているし、本当の意味でひとつのものを作っているというか。同じ時間を共有することができて、なかなか素敵な時間でした。
仕上がりから濃密な時間だったことがうかがえます。INORANさんのアコースティック編成のライヴは、Billboard Liveで継続的に公演を実施し、Billboardという場所との関係性を築き上げ、進化を遂げてこられていて。今このタイミングで集大成的に作品としてパッケージしようと思われたのは、なぜだったんでしょうか?
まずは新しいアルバム、新しい曲、新しい音楽を最低でも一年に一枚は作りたいという想いがあって。そうしないと会えない人もたくさんいるしね。“ソロ25周はどうしよう?”と考える段階の前からBillboardとの話があったので、タイミング的にもすごくいいなと思って始めたのがきっかけですね。
Billboardのライヴでの定番曲もありますが、新曲やカバー曲も収録されていて。選曲はどのように絞り込み、アレンジはどう組み立てていかれたのですか?
最近のBillboardでやっている曲が中心ですね。弦やピアノのアレンジはだいたい葉山くんにお願いしていて、曲全体のムードや雰囲気は僕も一緒に考えています。
1曲目の「raize」はバッハの「無伴奏チェロ組曲」とのマッシュアップとでも呼びたくなる大胆なアレンジで、INORANさんらしいヒップホップを踏まえた発想、DJ的な手法が活かされていると感じました。
「raize」は特にそうですけど、そういう思考はあるので、自然と出るんでしょうね。基本的に“アレンジを考える”というよりも“これをやったら面白いんじゃないの?”というアイディアから始まるので、やってみて“あっ、意外に合うね”とか、そういう感じですね。
「千年花」の前半は長いSEのような、一度全てを解体した上で再構築したようなアンビエントなアレンジで。これはどのように生まれたのですか?
あのムードから「千年花」に入ったらいいよね、というシンプルな発想でしたね。
「Rise Again」はジプシーのパーティーのみたいな、開放的な情景が浮かんできました。子供たちの合唱が入っているように聴こえたんですが。
あれはレコード会社のスタッフですね。子供の心を持った素敵な人たちだから(笑)。コロナ禍になる前は、ライヴでファンのみんなが歌えたけど、今は歌えない。でも、この曲でこのコーラスは鳴っていてほしいという想いがありました。
今回、R&Bヴォーカリストの傳田真央さんが3曲にゲスト参加されています。どんな経緯があったんですか?
きっかけはスタッフからの提案でした。僕がこれまで自分の曲でチョイスしてきた声のキャラクターとは違うので、いい意味でなかなか思いどおりにはいかないからこそ、すごく面白かったです。自分のチョイスするものだと、始めからだいたい絵が見えているけど、彼女はもっとそれ以上に飛び出ている人だからね。
傳田さんとコラボレーションされたうちの一曲「Glorious Sky(feat.Mao Denda)」は今作のための書き下ろしで、光に満ちたイメージの非常に美しいミディアムナンバーですが、これはいつ頃作られたのですか?
今作はセルフカバーアルバムで、もちろんリアレンジの作品が古いというわけではないんだけど…やっぱりその先に行く、自分が2022年に作った証としては、そこには新しい曲があるべきだと思ったし。だから、レコーディングに向かう道の中で作った一曲ですね。
軽やかに空を舞う2羽の鳥、あるいは機体が上に下にと行き交いながら、光の軌跡を織り成していくような、あの絡み合う自由で伸びやかなヴォーカルラインは、どのように紡がれたのでしょうか?
ふたりで歌うというのは、僕の中で大前提としてあったんですよ。これまでにも「Wherever I go」(2016年8月発表のアルバム『Thank you』収録曲)とか「Sakura」(2014年3月発表のミニアルバム『Somewhere』収録曲)とか、Tourbillonの「kagari-bi feat May J.」(2015年11月発表のアルバム『The Decade - 10th Anniversary Best』収録曲)とか、そういうデュエットっぽい歌がたくさんあって、ああいう世界観が好きなんですよね。そこを広げていきたかったし、真央ちゃんに歌ってもらったらもっと広がって。声の出し方もちょっとゴスペルっぽくて面白いと思いましたね。
INORANさんが日本語で歌われるバラードは久しぶりじゃないですか?
めちゃめちゃ久しぶりだと思いますよ。10年近くなかったんじゃないかな?
今回はストレートにやってみようというモードだったんですか?
そうですね。やっぱり言葉というのは時代で変わっていくから…とはいえ、言葉を紡いだり、メロディーに乗せて歌ったりすることに対して、自分の中で進化も成長もしているし、とらえ方も強くやさしくなっていると思うから。不思議な体験だよね。タイムマシーンでここまで来たようで、ちゃんと飛び越えた時代のことも分かっていて。まぁ、この歌詞は葉山くんが書いたんですけども。
葉山さんに対して、こんな情景を描きたいとか、キーワード的なものは何かお渡しになっていたんですか?
キーワードはありましたけど、比較的感じたままに書いてもらいました。たぶん僕は、日本語の歌詞は当分書けないかなと思っていて…
えっ、そうなんですか!? それはなぜですか?
やっぱり書き続けていないと、チョイスする言葉にリアリティーがないから。今の時代をとらえる言葉を書こうとするとね。最近は英詞ばかりで、メロディーに乗せる日本語の言葉をずっと書いていなかったから。だからと言って、書くのをやめているわけではないけど。ここからまた途切れた時間を少し縮めていく作業というか、ひとつ先を見た言葉のチョイスが始まっていくんだろうな…なんて思いながら歌っていましたね。
そうだったんですね。英詞も素敵なんですけども、INORANさんが日本語で歌うことに対して今一度歩みを進めようとされていると分かっただけでも幸せです。
うん、そうですね。
実際に日本語詞で歌ってみて、何か発見はありましたか? 例えば“やっぱり母国語だと気持ちを込めやすいな”とか。
う~ん…どっちも面白いし、どっちも果てしないし、どっちも嫌だなって思うし(笑)。
嫌という気持ちもあるんですね。照れ臭いというのもあるんですか?
照れ臭いは別にないですよ。照れ臭かったらあんなにLUNA SEAで歌わないですよ(笑)。 もうその次元じゃないです(笑)。でも、この先に楽しいBillboardでのライヴがあって、そこに向けていい曲ができたなとは思っていましたけどね。
改めて、今作にも収録されている「I swear」や「千年花」といった日本語詞の過去の名曲群を歌ってみると、どういうお気持ちになりますか?
時代によって言葉の彩りが変わってくるから不思議だなぁって。音楽って面白いと思う。例えば、ボブ・ディランの「風に吹かれて」も、当時は戦争のことを歌った曲なのに、今歌うとまた全然違って聴こえるし、ボブ・マーリーやU2の曲もそうだし。だから、おこがましいかもしれないけど、自分の曲でも、“これが音楽のすごいところなんだな”と思いますね、歌詞ひとつとっても。
当時込めた気持ちが蘇ってきつつ、今の気持ちや時代とも重なるという感じなのでしょうか?
うん。でも、やっぱり“今に映す”というほうが強いかもしれないですね。
なるほど。また、INORANさんの歌唱がオリジナル音源の時と比べて進化されていて、フレーズごとに細かくさまざまな感情を込め、丁寧に歌われているように聴こえたのですが。
Billboardでライヴをしている時も一緒なんですけど、丁寧というよりは…何て言うのかな? ただ歌を歌う、言葉をメロディーに乗せるのではなくて、やっぱり“伝えたい”という想いが大事なんだと思っていて。例えば、カラオケでみんなと一緒にいるんだけど、歌詞で特定の誰かを口説く、想いを伝えるみたいなのが、昔はあったじゃないですか(笑)。
はい(笑)。
あれってやっぱり“通じ合いたい”ということだし、プロもアマも関係なく、歌ってそれが大事だと思うんですよ。だから、丁寧というよりも、“伝えたい、共鳴したい”とかが大事なんじゃないかなって。なんて歌いながら思っていますけどね。
“想い”が大事ということでしょうか?
想いと…ニュアンスが分かりづらいかもしれないですけど、振動というか。
共鳴、共振ですかね。それは生身の存在、人間同士じゃないと起きないことですもんね。
そうですね。そこの大事さというのは、幸か不幸かこの何年かで学んだことじゃないかな?
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