野宮真貴の
圧倒的な存在感とニューウェイブの
猛者たちとの邂逅から生まれた
『ピンクの心』
ビギニング・オブ・PORTABLE ROCK
“もともとニューウェイブってポストパンク的な感じで出てきたんですよね。(中略)パンクが終わって“この次に何をやろうかな?”と思った時に、音色がちょっと変わっているとか、曲調がちょっとアマチュアっぽいとか、そういう雰囲気がニューウェイブというものを形作らせて、そこで発生してきたような気がしますね”。
ニューウェイブ。直訳すれば“新しい波”。Wikipediaによれば以下のように位置付けられるようだが、こちらは分かったような分からないような感じである。
[ニューウェイブは、パンク・ムーブメントによってロック音楽を取り巻く状況が激変したイギリスにおいて、ポストパンクやディスコ、ワールド・ミュージック、現代音楽や電子音楽といったさまざまな影響によって成立した。ただし、すべての分野における「新しい波」ではなく、1970年代後半から1980年代前半という特定の時期のロックおよび、その周辺ジャンルに限定して適用される音楽用語である]([]はWikipediaからの引用)。
具体的なアーティスト名として、XTCやスクイーズ、ブライアン・イーノ、米国ではブロンディ、トーキング・ヘッズ、B-52's、日本ではLIZARD、S-KENなどのバンドが挙がっていて、それを聞けば何となく納得させられた気にもなるけれど、それらの音楽性はだいぶ幅があるので何かモヤモヤとしていた筆者であった。それが件の台詞ですっきりした。ニューウェイブとはパンク以後の音楽で、音色が変わっていたり、曲調が凝ってなかったりするもの。この定義は分かりやすい。その観点で聴くと“なるほど”とうなずける楽曲も多い。ことPORTABLE ROCKに関して言えば、メンバーにドラマーがおらず、“ドラムがいなくても打ち込みを流しながらライヴできる”≒“3人で持ち運びできるロック”ということで、鈴木慶一氏が命名したものだという。今となってはドラムレスのバンドも珍しくなくなったけれど、当時は相当に革新的だったに違いない。その形態もまさにニューウェイブなのであった。
そんなPORTABLE ROCKは、野宮真貴のソロワークからの流れで結成されたバンド。その経緯についてはOKMusicのインタビューをご覧いただきたいが、PORTABLE ROCKは野宮真貴のソロとかなり密接な関係があって、アルバム『ピンクの心』がなければPORTABLE ROCKもなかった…と言っても大きな間違いはないようである。物語的に言えば、プリクエルと言おうか、ビギニングと言おうか、そういう作品である。PORTABLE ROCKは一時期“幻のニューウェイブバンド”と呼ばれていたとも聞くが、野宮真貴『ピンクの心』はその“幻”を産み出した日本のニューウェイブのキーポイントと言っていい作品であろう。
参加している参加しているスタッフの顔触れだけ見てもそれが分かる。プロデュースとアレンジを手掛けたのはmoonridersの鈴木慶一と岡田 徹。作家陣はふたりの他、佐伯健三、比賀江隆男、石原智広、上野耕路と、のちのパール兄弟やヤプーズへと繋がるハルメンズのメンバーがずらり。作詞には、PORTABLE ROCKでも歌詞を手掛けることになる高橋修、太田蛍一も参加しており、本作がプリクエル、ビギニングであったことを裏付けている。上野と太田は戸川 純とともにバンド、ゲルニカを結成したメンバーでもあって、この辺からも『ピンクの心』が日本のニューウェイブ、その渦中の作品であったこともうかがえるだろう(『ピンクの心』のリリースとゲルニカの結成は共に1981年)。また、伊藤アキラや佐藤奈々子の作詞、松尾清憲の作曲の他、見逃せないのはM8「恋は水玉」を作曲している中村治雄。頭脳警察のPANTAである。PANTA & HALを鈴木慶一がプロデュースした縁があってのことだろうし、氏が女性シンガーの楽曲を手掛けること自体はそれほど珍しいというものではないそうだが、PANTAが『ピンクの心』に参加していたという事実からは、ニューウェイブがテクノの亜流ではなく、パンクロックからの流れ──ポストパンクであったことを雄弁に語っているように思う。
https://okmusic.jp/news/474908
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