野宮真貴の
圧倒的な存在感とニューウェイブの
猛者たちとの邂逅から生まれた
『ピンクの心』

実験性を帯びたパンク以降の音楽

さて、ここからは『ピンクの心』収録曲を見ていこう。M1「女ともだち」はCMソングに起用されただけあってキャッチーでさわやかな歌メロが印象的なナンバー。アルバムのオープニングとして相応しいように思う。ただ、そのサウンドは一筋縄ではいかない。イントロからちょこちょこと入ってくる電子音はテクノポップ調で如何にも…といった様子だが、やはりバンドアンサンブルが面白い。歌メロと展開はわりとロック的ではあるが、あえてダイナミズムを削除しているような印象もある。ギターのカッティングは躍動感たっぷりだし、ベースラインもところどころで派手な動きを見せる。しかしながら、淡々と…というと語弊があるかもしれないが、全体の聴き応えはアッパーになり過ぎない。これぞ、ニューウェイブの匂いだ。

M2「モーター・ハミング」は『ハルメンズの近代体操』収録曲のカバーである。ニューウェイブ≒ポストパンクとはよく言ったもので、曲のベーシックは3ピースバンドでも十分にアレンジが効きそうなタイプ。それを変則的なリズム、デジタル的な処理、他ではほとんど見かけない(少なくとも当時はそうだったであろう)比類なき歌詞によって、アフターパンクの新種のロックに仕上げていたと見て取れる。

M3「フラフープ・ルンバ」はそう謳ってるだけあって、リズムはちゃんと(?)ルンバ。バイオリンも聴こえくるし、どことなくマカロニウエスタンっぽさを感じるパートもある。ただ、これもまた、事はそう単純ではない。スパイ映画の劇伴調のスリリングさが随所にあるし、Bメロはツートーンになったり、間奏ではヨーデルが入っていたり、ハワイアンのようなギターが聴こえてきたり、完全に無国籍。いい意味で何かヘンテコだ。アウトロ近くの男性コーラス(?)はヘンテコの極みではないかと思う。

M4「シャンプー」は幻想的なナンバーで、音数もそれほど多くなく、テンポがミドル~スローということもあって、アイドルのアルバムに1曲くらいはありそうなタイプではある。その意味では変に驚くこともないのだが、そこから一転、M5「原爆ロック」はタイトルからして“!?”である。アップテンポで、M2同様、ギターサウンド仕立てにしていないだけで、パンクと言えばパンクに分類されるナンバーではある。メロディーはポップであるものの、ところどころで不穏なサウンドが鳴っていたり、不協っぽいアンサンブルも聴こえてきたりする。その意味ではタイトルに偽りなしではあろう。これを当時まだ20歳を少し超えたばかりの女性シンガー、しかもアイドルと言ってもいい雰囲気を持つ女性シンガーに歌わせたというのが何ともすごい。もっと言えば、これがデビュー作である。いろんな意味で勇気があったと言わざるを得ない。それはスタッフもそうだし、彼女自身もそうである。太田啓一の作詞、上野耕路の作編曲ということで、ゲルニカのプロトタイプだったという話もある。ゲルニカファンが聴けば納得の一曲ではなかろうか。

サウンドにリバーブをかけてダブっぽく仕上げているM6「船乗りジャンノ」もなかなか面白い。これもまたメロディーとその展開だけで見たらスタンダードなポップスナンバーとなりそうだが、それだけに飽き足らず、一度仕上げた楽曲をリミックスしたような印象だ。バックで鳴っているノイジーなギターはオルタナっぽいし、パンク以降の音楽に対する実験性があったことも垣間見える。

M7「17才の口紅」はタイトルからしても、これも化粧品のCMタイアップ向けに作られたのではないかという気がしないでもない。実際にはどうだったのだろうか? ドゥワップ的というか、ハーモニックなコーラスも絡んで、ちょっとThe Beach Boys的な匂いも感じる。かと思えば、(極めて個人的な感想ではあるが)間奏でLed ZeppelinっぽいドラミングにThe Doorsっぽいキーボードを重ねたような印象も受ける。ロックへのオマージュを濃いめに感じたところではある。それにしても偏狭さはないように思うし、十分にポップで楽しく聴けるところはポイントだろう。アナログ盤はここでA面が終了。

OKMusic編集部

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