【いきものがかり インタビュー】
ツアーができない今だからこそ、
できたアルバムだと思う
L→R ⽔野良樹(Gu)、吉岡聖恵(Vo)、⼭下穂尊(Gu&Harmonica)
昨年リリースした「生きる」や映画『100日間生きたワニ』主題歌に決まった新曲「TSUZUKU」の他、ファンの間で音源化が熱望されていた「からくり」など、今だからこそ作られた意味があり、今だからこそ歌われる価値がある全9曲を収録するニューアルバム『WHO?』。その制作過程をメンバーに振り返ってもらった。
まさかアルバムをこんなに早く
出すとは思ってなかった
『WHO?』の収録曲ではインディーズ時代の楽曲のリアレンジである「からくり」を除いて、『100日後に死ぬワニ』のテーマソングである「生きる」がもっとも古い時期に作られた楽曲だと思いますが、この「生きる」から『WHO?』の制作が始まった感じですか?
⽔野
まさにそうですね。昨年、いきものがかりはツアーを春と秋に2本用意していて、本当ならば、とにかく旅に出る一年と決めていたんですよ。なので、制作をするつもりはあんまりなくて。ポイントポイントでシングルになるような曲を作っていこうかというくらいな感じだったから、まさかアルバムをこんなに早く出すとは思ってなかったんです。で、「生きる」を出したあと、昨年の春頃からどんどん厳しい状況になってきて、春のツアーがやれないらしいとなり、いよいよ秋もダメになりそうだとなった時に、“だったら制作をもうちょっとしっかりやろうか。何ならアルバムを出しちゃおう”という感じになって、本格的に“収録曲はどうしよう?”みたいになったんです。
やはりコロナ禍はアルバム制作にも大きく影響を及ぼしましたか。
⼭下
かなり影響がありましたね。昨年一年間は翻弄されたというか。
⽔野
レコーディングするにも最初はスタジオに入れない時期もあったので、“どのくらいまでできるのかな?”という不安もあったし、ちょっとはそういう影があるのかもしれない。
吉岡
うん。「生きる」は『100日後に死ぬワニ』のテーマソングではあったんですけど、テレビで発表した時も新型コロナウイルスと結びつけてとらえてくださる方がいたりして。アルバムの最初の「TSUZUKU」と最後の「生きる」は『100日後に死ぬワニ』の曲で、両方とも生き死ににかかわった曲だから、作者もこの一年を感じ取っていたんじゃないかなって思ったりしていますね。タイトルの“WHO?”にしても、こういう時期だからこそ、いろんな判断を求められる厳しい状況の中で、“自分はどう考えるんだろう?”とか“本当の自分はどんな人間なんだろう?”とかを考えることが多いと思うし、そういうところでつけたものでもあるし。やっぱりツアーができない今だからこそ、できたアルバムだと思います。
これまで以上に深く考える機会が多かったこそ生まれたアルバムとも言えるでしょうか?
吉岡
“今、何ができるか?”とか“どういうふうなスケジュールでやっていこうか?”って、ずっとコミュニケーションを取ってましたね。
⽔野
そうだね。たまたま昨年の春に事務所を独立して、自分たちで今までよりも範囲を広くグループの活動を見てコントロールするようになった時期だったんで、ほんと毎週のようにリモート会議をしてて(笑)。曲だけのことじゃなくて、“あの引き継ぎはどうなってたっけ?”みたいな細かいことまで話していたから、緊急事態の実感はみんなで共有してたと思います。
「生きる」からスタートしたからなのか、コロナ禍が影響したのか、『WHO?』収録曲には「生きる」以外でも“生きる”という言葉が出てきますよね。「BAKU」も「きらきらにひかる」にしても、『100日後に死ぬワニ』とは別のタイアップ作品なのですが、いずれも生が前向きに描かれています。この辺は作者である水野さんとしてはどう振り返りますか?
⽔野
「生きる」について言えば、この曲を提出したのがクルーズ船で感染者が出ちゃって“これから市中感染することになるのかな?”と、まだ恐怖感がそんなにはっきりしない頃だったから“生きる”ということをコロナとはあんまり結びつけてなくて。作った時は『100日後に死ぬワニ』の結末も知らなかったんですよ。
あっ、完結する前だったんですね。
⽔野
教えていただけなかったんです。それはすごく素晴らしいと思って。ああいうかたちですごい話題になってしまったんですけど、きくちゆうきさんはラストシーンだけは誰にも動かさせたくないから見せないと言っていて、その信頼関係の中での曲作りだったので、“見ることができないラストシーンに対してちゃんと合わせられるだろうか?”ということばかりを考えてましたね。自分の近くに若くして死んだ知り合いもいるし、すごいお世話になった方がお見舞いに行ったあとで亡くなったこともあって、そういう別れが僕らの周りでもいくつかあったから。で、いざ出してみたら、そのあとコロナでこういう状況になり、今までとは違って緊張感もあって、“曲ってこんなふうに思ってもいないかたちで響くことがあるんだな”と思ってたんです。「きらきらにひかる」の時はもう完璧にコロナ禍の中にいたし、ドラマ(テレビ朝日系木曜ドラマ『未解決の女 警視庁文書捜査官』)のスタッフの方とも一度もお会いしなくてずっとリモートで“こういう作品です”という話を聞いていて、そういう時にいくつか悲しい事件があったし、悲しい決断をされる方が何人かいらっしゃって、それらを前にして“うわっ!”となったり。何かこう…つらい感情を吐露しにくいというか、誰かに助けを求めにくいのかなと僕なりに思って、“助けを呼ぶことも勇気なんじゃないか?”みたいなことを考えてそれを書いていった感じですかね。だから、「きらきらにひかる」のほうが《笑顔じゃなくていい/幸せじゃなくていい》というフレーズもあったりして、ちょっと重いというか、少しトーンが暗い。でも、これはいつものことなんですけど、そういった重いとか暗いトーンのフレーズも吉岡が歌ってくれると少しフラットになるんですよ。それが予想できていたのでそういうふうに書いていきましたね。
なるほど。『WHO?』収録曲の至るところで確認することができる“生きる”は、当初は『100日後に死ぬワニ』のテーマから抽出されたものではあるけれども、図らずも時勢がコロナ禍になっていったことで“生きる”にフォーカスを当てざるを得ない状況が続き、以後作る曲にも欠かせない要素となった…という感じでしょうかね。
⽔野
状況が変わっていったから図らずも…というところは確かにありますね。
そうですか。水野さんは「きらきらにひかる」は少しトーンが暗いとおっしゃいましたが、バンドサウンドが生々しく、まさにテーマに直結している印象で、個人的にはそれほど暗く受け止めなかったですよ。すごくロックを感じます。
⽔野
そうですね。これはアレンジャーの島田昌典さんのサウンドなんですが、最初に自分が作ったデモではストリングスを前面に出してて、島田さんには“The Beatlesの「Eleanor Rigby」みたいなことをやりたい”と言ったんですよ(笑)。
あぁ、それは分かります(笑)。
⽔野
それを具現化してもらったんですけど、ストリングスもちょっと変な録り方をして、各セクションでひとりずつマイクを立ててエグめに録ってもらったんです。
吉岡さん的には「きらきらにひかる」はどんな印象なんですか?
吉岡
アレンジの部分で言うと、落ちサビの《愛につながれて/生まれてきたのに/どうして僕らは/離れていくのか》がストリングスと歌だけで、暗いトーンの曲ではあるんですけど、そこが気持ち良くはありましたね。あと、私はやっぱり“リーダー(水野)がここまで言ってくれるんだ!?”と感動して。《笑顔じゃなくていい/幸せじゃなくていい/生きていくことは/あなただけのもの》。いきものがかりのイメージは前向きであって、常にポジティブを求めていて、そこに縛られていると感じることもあるんです。
明朗なイメージにとらわれているような?
吉岡
そうですね。ポジティブさというか、明るさが肝というか。でも、“この曲は《笑顔じゃなくていい/幸せじゃなくていい》って言ってくれるんだ!?”っていう(笑)。そこに救いがあるし。あと、《あやまちだって人間の輝きで》という言葉も新しい。いきものがかりの中で《あやまち》って言葉はなかなか出てこないと思うし、やっぱり救われたんですよね。このアルバムは先ほどおっしゃられた通り、「TSUZUKU」であったり「生きる」であったり、コロナ禍にすごく当てはまっていると思うんですけど、不思議と自分自身の全然個人的な体験とかも曲に結びついていくような感覚が一歌い手としてはあって、すごい不思議だなと。ちょっと話は変わっちゃうんですけど、物語としての魅力もあるけど、ひとりの人間に差し迫って来るものがあるなと感じて。特に2番の感じは刺さると思って歌ってました。
作り手としては今までにない臨み方をしたんでしょうか。
⽔野
意識して変えようとしたところはないですけど、吉岡が言うように自分の考えが少し素直に出ているというか。なので、今までの経験だと“リーダー、ここまで書くんだなぁ”みたいなことを思ったと思います。
吉岡
これまではもうちょっとベールに包んだやさしさ…ベールに包んだ明るさとか。でも、「きらきらにひかる」は尖ってるんだけどそれが救いになるというか。
なるほど。山下さんはいかがですか?
⼭下
年齢感はあるのかもしれませんね。20代のデビューして何年か経った頃に書けるものではないし、30代後半になったタイミングで出るものなのかなとは思いましたね。いろんな経験をしてきたことで、今まで踏み込まなかったところへ踏み込んだというか。
アーティスト
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