【Plastic Tree ライヴレポート】
『結成25周年“樹念”
Plastic Tree Symphonic Concert
at 東京芸術劇場』
2019年7月20日 at 東京芸術劇場
7月20日 at 東京芸術劇場
美しい曲線を描く世界最大級のパイプオルガン(“モダンタイプ”と言うんだそう)が設置されたステージに、まずは総勢51名の東京ニューシティ管弦楽団と本公演の編曲・指揮・ピアノを担当する大嵜慶子が登場。パイプオルガンの神聖な音色が響く中、フォーマルな黒服に身を包んだメンバーが登場すると拍手はさらに大きくなった。1曲目「眠れる森」での圧倒的な演奏に続き、「リプレイ」では竜太郎もギターを手に、メリハリの利いた演奏を。A・Bメロ部分はバンドの音を前面に配し、サビでは弦パートが一斉に入るコントラスト。ダイナミズムが半端ない。
この日は全員着席で、海月(ファンの呼称)もいつになくお行儀がいい。曲が終わる時の拍手もちょっとためらいがちだったりしたのだが、そこへ有村竜太朗(Vo)がいつもと同じく“やぁやぁ”と挨拶すると、安心したような笑いが起きる。そして、“今日が特別な夜になるといいなと楽しみにしてました。なんか発表会みたいでそわそわしてます。結成25周年のプラ、始まり始まり〜”と開会を告げた。
ひと口に“オーケストラアレンジ”と言っても曲によって観せ方はさまざまで、ピアノと弦によるハーモニーが軽やかな「蒼い鳥」や、4人の演奏+ピアノとバイオリンのシンプルな音数で聴かせた「ガーベラ」、いろいろな楽器の音を隠し味的に散りばめたものなど、変化の付け方が面白い。特にストリングスのアンサンブルをフルに生かした「ツメタイヒカリ」はコード進行の美しさに胸がいっぱいになった。Plastic Treeの楽曲の流麗さとその魅力に改めて気付かされる。
オーケストラではお約束、15分の休憩を挟み、第二部の2曲目に演奏された「メルト」は厚みのあるホーンセクションでスタート。ブラスロック的なアレンジを施されたこの曲ではリズムとシンクロして照明が明滅したり、この日一番の派手な演出。ギターソロも速弾き、長谷川正(Ba)はヘドバンしながらの演奏、竜太朗もラストで絶叫と、彼らのロック寄りなパッションが炸裂した場面となった。長谷川の“曲も今日はちょっとおめかししてる感じ。いつもとちょっと違った表情を楽しんでいただけたら嬉しいです”というMCを挟み、本編後半で演奏された「『雪蛍』」はピアノのリフと弦のピチカートによるイントロが小粋な雰囲気。エモーショナルな歌も印象的で、ファルセットで歌い切った最後の部分は、言葉のひとつひとつが突き刺さってくるようだった。
なんと言っても圧巻だったのは、本編ラストの「記憶行き」。ピアノと歌で静かに始まり、いろいろな楽器が徐々に増えていく。優美なハープの音色、どこか郷愁を誘うクラリネットの響き、そこへ佐藤ケンケンのドラムも重なる。アウトロのブレイク後には、ナカヤマアキラのディストーションギターにホーン、パイプオルガンなどなど全ての迫力ある音がそれはもう力強く鳴り響いて、すごい開放感だった。惜しみない拍手に包まれて、そこは誰もが多幸感に満たされた空間となったのだった。
アンコール「スピカ」ではナカヤマがアコギを弾き、ストリングスとホーンが切な寂しい楽曲の世界観を増幅するという温かみ成分多めな演奏。オケが退場し4人だけがステージに残ると、彼らは東京ニューシティ管弦楽団へ、大嵜慶子へ、来てくれた観客への感謝の気持ちを表現した。“自分たちの曲がこんなふうにアレンジされて…。作ってた時の自分たちに聴かせてあげたいですね。こういうことができるのって、俺たちの曲を大事に思ってくれてるみんながいるからです”(竜太朗)、“一曲一曲を噛み締めながらやりました。さんざんやってきた曲の新しい表情を見れたり、単純に音楽っていいな、バンドっていいなと思えたり。これからもいい音楽をお届けできるように頑張ります”(長谷川)。昔から演奏してきた曲たちの新たな価値を再発見する機会というのは、生みの親として大きな喜びなのだろうと思う。そして、そんな曲たちが時の流れに埋もれてしまうことなく輝き続けているのも、四半世紀の活動歴にして初の試みにトライできるのも、竜太朗の言う通り、聴いてくれるみんながいるから。このライヴで得た気持ちを活力に、これから先も彼らはまだ見ぬ景色を見せてくれそうだ。
取材:舟見佳子
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