大江千里のヒット作
『APOLLO』に垣間見る
現在の活動スタンスにも通じる
表現者の意思
現在はジャズミュージシャンとして活動
大江千里のデビューは1983年5月。シングル「ワラビーぬぎすてて」とアルバム『WAKU WAKU』の同時発売でそのキャリアをスタートさせた。デビューにあたって彼に付けられたキャッチフレーズが揮っていた。“私の玉子様、スーパースターがコトン”がそれ。その中身の是非はともかく、これは当時コピーライターであった林真理子氏が手掛けたもので、しかも、彼女のエッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』がベストセラーとなった翌年の仕事だったのだから、大江千里のデビューにあたって如何にスタッフの力が注がれていたのかが分かろうというものだろう。また、当時、彼はまだ関西在住の現役大学生で、仕事の度に上京していたので“日本一忙しい大学生”と言われていたともいう。そうした話題性も手伝ってか、デビュー時からその活動はかなり順風満帆だったと言っていい。デビューの翌年には本人も出演したCMで使われた6thシングル「十人十色」がヒットし、彼の名を全国区にしたと記憶している。
元祖“メガネ男子”として人気を博す
“メガネ男子”などという言葉はもちろん、その発想もなかった頃から、そうしたイメージをリスナーにもたらしたことに加えて、独特の揺らぎを持って発せられる彼の声が、その見た目の印象と重なったことも大きかったと思う。決してか弱いわけでないが、押しが強くもなく、フェイクやシャウトに逃げず、しっかりと歌詞を音符に乗せるという、ある意味で生真面目な歌唱は、そのルックスから大きくかけ離れたものではなかった。安心感…というのとは少し違うかもしれないが、少なくとも聴く人に変な緊張感を与えない声と歌唱だ。
歌詞の内容もしかりである。大江千里の書く歌詞はピュアなラブソングが多い印象がある。《君ひとりを抱きしめて/君ひとりに抱きしめられて》《ぼくの胸に横顔を/のせたまま眠る君の/やさしい息の数を/死ぬまで数えていたい》(2ndシングル「ガールフレンド」)や、《たまにしか逢えないけど/100年分も抱きしめる》《十人十色 僕を選んだことを後悔させない/十人十色 きっと世界一の幸せにさせる》(6thシングル「十人十色」)、《きみと出逢えてよかった 愛だけが今力になる/心に吹き荒れるよ 熱い風きみと集めた GLORY DAYS》(14thシングル「GLORY DAYS」)辺りが分かりやすいだろうか。毒気はまったくないが、少なくとも聴いていて悪い気はせず、効く人には効く薬となりそうな感じだ。当時、彼は圧倒的な女性人気を誇っていた記憶もあるが、今改めて歌詞を見てみると、そりゃそうだろうなと納得してしまうだけの内容でもある。これらを量産できたのだから、そのシンガーソングライターのスキルは職人技と呼ぶに相応しいものであったことは間違いない。
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