【amazarashi】『あまざらし 千分の
一夜物語 スターライト』2014年9月
9日 at TOKYO DOME CITY HALL

撮影:高岡 弘/取材:宮本英夫

 水道橋の駅を降りるとビルの向こうに昇ったばかりのスーパームーン。“あまざらし”名義を復活させた一夜限りのライヴは、彼方に巨大な月の存在を感じながら静かに始まった。

 童謡「星めぐりの歌」と星座の中を銀河鉄道が走るアニメーション。暗がりの中でおもむろに秋田ひろむ(Vo&Gu)が朗読し始めたのはオフィシャルサイトで公開されている「スターライト」の物語だ。「光、再考」と2曲目「ムカデ」はあまざらし時代の楽曲で、弦楽四重奏を加えた演奏は原曲とはがらりとムードを変えたクラシカルなアコースティックバージョンになっている。「スターライト」の物語は、現代版『銀河鉄道の夜』の趣で、主人公のトマーゾとヨハンがさまざまな星のさまざまな風景を巡る旅は一見ファンタジーだが、どの星も深刻な問題を抱え、ダークなイメージの中で過去と未来の時間が激しく交錯する。「隅田川」「さくら」「ドブネズミ」など古いメロディーを秋田はアコギを爪弾きながら凛とした立ち姿で歌い切る。楽曲のバックでは一切映像を使わずに朗読の文字だけを映し出す演出は、淡々としているからこそ心に染みて、楽曲と朗読とが交互に展開される中で大きな物語が次第に現実に向けて収束してゆくのに胸が高鳴る。友人に向けて歌う10曲目「ひろ」は注目すべき新曲だ。

 そして、未だウェブにアップされていなかった物語の最終章が希望を示唆する言葉で結ばれた直後に高らかに演奏された新曲「スターライト」。この日唯一のアップテンポで力強い光あふれる楽曲に、このライヴが懐古ではなく前進だと気付いた。外に出ると月はもう空高く昇って白く輝いていた。



セットリスト

  1. 光、再考
  2. ムカデ
  3. 空っぽの空に潰される
  4. 隅田川
  5. さくら
  6. ドブネズミ
  7. つじつま合わせに生まれた僕等
  8. 古いSF映画
  9. カルマ
  10. ひろ
  11. 夏を待っていました
  12. 美しき思い出
  13. スターライト

amazarashi

アマザラシ: 青森県在住の秋田ひろむを中心としたバンド。2010年のデビュー以来、一切本人のメディア露出がないながらも、絶望の中から希望を見出すズバ抜けて強烈な詩世界が口コミで広まり、瞬く間にリリースされたアルバム全てがロングセールスを続けている。ライヴではステージの前にスクリーンが貼られタイポグラフィーなどを使用した映像が投影されて行なわれるスタイルで独自の世界観を演出し、3DCGアニメーションを使ったMVは文化庁メディア芸術祭で優秀賞を受賞するなど国内外で高く評価されている。

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